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[24372] 【化物語】こよみマニアック
Name: 不全◆37ff3463 ID:f1bc8b43
Date: 2010/11/17 16:51
「阿良々木君、私達……もう終わりにしましょう……」

僕の彼女、戦場ヶ原ひたぎは、そう言い放った。
何の躊躇いもなく、きっぱりと。むしろ清々した感じなのが腹立つ程に。
彼氏である僕、阿良々木暦に別れを告げた。

「……」

僕は無言のまま、音楽プレーヤーのスイッチを押す。
『みんなが大好きっ!! 延々続行 ルララ Miracle Sing Time 』
今年流行ったアニメ『けいおん』の神曲が、僕の停止した思考をいやしてくれる。
唯にゃんの歌声のおかげでいくらか落ち着いたが、問題が解決したわけではない。

――突然の、男女交際契約の破棄に、僕の思考はメチャクチャだった。
何の冗談だ……これは。
だってだって、さっきまで僕と戦場ヶ原は、結構いい雰囲気だったはず。
学校からの帰り道だって、付き合ってるカップルよろしく、僕の家まで二人並んで下校してきたのだ。
今だって、僕の自室で二人っきりで過ごすという、むつまじき仲だというのに。

――だんっ! と、突然の破壊音。
戦場ヶ原に殴られた音楽プレーヤーがひしゃげて停止してしていた。
残念だ……彼女にはこの神曲の良さがわからなかったらしい。

それはともかく……男の子の部屋に、男女二人きり、だ。
僕達カップルの事を見ているのは、整然と立ち並ぶ美少女フィギュアくらいだ。
二頭身の可愛いねんどろいど型フィギュアから、おっぱいぼろりのエロフィギュアまで、様々な女の子達が並ぶこの部屋で……戦場ヶ原とさらにお近づきになれるなら、それは何と幸せな事だろうか。
僕は……この偶然降って湧いたチャンスに、当然期待もしていた。

そりゃあ僕はへたれだ。自分から戦場ヶ原を誘う勇気なんざない。
強引に迫ればこちらの貞操のだって危ない(切断的な意味で)以上、これ以上親密にはなりようがなかった。
だが、今日のチャンスは戦場ヶ原自身が持ってきてくれた。
戦場ヶ原の方から、話がある、と真面目な顔で切り出してきたのだ。
僕は思った。
……やれるっ! と。
エロゲ―で培った知識を役に立てる時がくる、そう思うとわくわくした。

待ちに待った、大人への階段。
うきうきしながら僕は、自室に戦場ヶ原を招き入れ、
僕の影に潜んだ忍にDS本体とラブプラスを渡し、
これでしばらく遊んでなさいと厄介払いした。
そして、僕の部屋で二人きりになった戦場ヶ原が、まずとった行動は……。

僕を正座させる事だった。

「何で……だよ、別れるって……そんな、いきなり……!」

僕の胸の内を支配した感情は、怒りだった。
唐突な別れを許容出来ない僕は、側にあった抱き枕をあてつけに叩く。
ああ……抱き枕の低反発な感触が、僕の怒りを包んでくれるようだ……。

「…………阿良々木君、まさか、怒ってるの……?」

戦場ヶ原がお茶をゆっくりとすする。
至極落ち着いた様子で。もう終わった問題だ、といわんばかりの静けさで。

「……まあ、突然そんな風に別れを告げられたら、怒るのも無理ないわね。なら、選択肢を用意してあげる」
「なんだよ、その選択肢ってのは……」

僕は真剣に聞き入る。だって、まだ別れたくないから。
元々向こうから告白してきたのが付き合うきっかけだったとはいえ、僕だって戦場ヶ原の事が……真面目に好きなのだ。
彼女との交際を続けるためなら、どんな妥協だって……。

「この、部屋中を占拠するきもいグッズ……」

戦場ヶ原の指が、僕の部屋に並ぶグッズ類をぐるりと指し示す。
グッズ。僕の大切な、命より大事な、漫画アニメDVD抱き枕、フィギュア等々。

「このオタク臭い物を残らず捨てるなら、私は」
「断る――!!」

交渉は決裂した。

「そう、ならば仕方ないわね……」

あっさりと身を引く。
何の未練もなく、僕との関係をすっぱり切断した。

「阿良々木君がオタク趣味を捨てて、もう一度私を選んでくれるというのなら、よりを戻しても良かったのだけれど……仕方がないわ」

戦場ヶ原は恐らく腹いせだろう、僕の大事なオタグッズ、美少女柄の抱き枕をハサミでジョキジョキと裁断しながら、

「別れましょう。後腐れなく、恨みっこなしで」
「おいいいぃぃ!? 切ってる切ってる! 恨みありありじゃねぇか!?」
「あら、これは恨んでいるわけではないのよ。ただの落とし前。私よりも、こんなオタク趣味を選んだ暴挙への、落とし前……っ」
「それどう見ても恨みによる行動だろうがっ! ……もおおぉぉ~~! その抱き枕、一万二千円もしたんだぞぉ!!」
「それはそれは……アタリを引いたみたいね」
「それ、限定品の希少なグッズなんだぞ……もう二度と手に入らないのにぃ……」

僕が頭を抱えて苦しむ姿を見て、戦場ヶ原は楽しそうに微笑む。
こいつ……真性のサディズムだ。

「っていうか……戦場ヶ原、お前はそれでいいのかよ……っ。お前、僕の事、好きって言ってただろうがっ」
「そうね。今でも好きよ。阿良々木君は、私の中で抱かれたい男NO1ね」

僕は慌てて股間を隠すように押さえる。
高校生の僕には、その台詞は刺激が強すぎるぞ……!

「じゃあ……いいじゃないかっ」
「……何が」
「好きなら……いいじゃないか! 許してもっ! 彼氏がちょっとオタク趣味に走ろうが、寛大に許してくれよ!!」
「無理ね。キモイもの」
「キモイっていうな! 直球過ぎるだろうっ!? 趣味が合わないとか、方向性の違いとか……お茶を濁してくれよっ!?」
「オタクとか死ねばいいと思ってるもの」
「生存権すら無いのっ!?」

戦場ヶ原はかたくなだった。
まあ、わからなくもないけど。
彼氏が突然、キモイの代名詞であるオタクに変貌して、美少女グッズを買いあさり始めたら……そりゃあ引くだろう。

変貌。以前の僕とは違う僕に。生まれ変わった。すり替わった。
たかが趣味が変わった程度で、生活サイクル、はたまた彼女との折り合いまで変貌してしまった。
僕が変わったという事は、変わる前の僕がいた、という事だ。

オタク趣味なぞにうつつをぬかさない、健全に、三次元の美少女の裸体に興奮する、三次元の幼女の裸体に興奮する、普通の男子高校生だった僕。
実の妹の乳を容赦無く揉み、友達の、制服に隠れた巨乳を……いつかはっ、と狙う、健全だった僕は、もういない。

今の僕は、不健全だった。
実写のエロを拒みエロゲ―を求め、歌手のポスターを破り捨ててアニメ絵のフィギュアを陳列する。
彼女にオタクを辞めろと脅されても屈しない、二次元に強い忠誠を誓った、不健全な僕。

……いつからだ?
いつから僕は、こんなにも不健全な……オタクに成り下がった?


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