【萬物相】外国人エイズ患者追放

 1988年、ソウル・オリンピックのダイビング競技に出場した、グレッグ・ルガニスが3メートルのスプリングボードから飛び降りた際、飛び込み台に頭をぶつけた。ルガニスは頭が血まみれになったまま水中に落ちた。ルガニスは大会参加直前、エイズ(AIDS=後天性免疫不全症候群)との診断を受けていた。観衆はルガニスを心配したが、ルガニスは「自分の血でほかの選手がエイズに感染しないか心配になり、パニック状態だった」と自叙伝に書いた。

 エイズに感染した米国プロバスケットボール界のスター、マジック・ジョンソンに対し、記者が「エイズが人生をどのように変えたか」と尋ねた。ジョンソンは「ただ普通の生活をしている。普通に外出し、ダンスもする。薬を飲むこと以外、変わったことは何もない」と話した。ジョンソンは91年にエイズに感染したことが分かり、コートを去った後、「マジック・ジョンソン慈善財団」を設立し、活動している。

 2007年、ある中国朝鮮族が、韓国国籍を取得した母親と一緒に暮らそうとソウルに来たところ、エイズとの診断を受けた。当局は、この人物を出入国管理事務所の独房に隔離し、「1週間以内に出国する」という覚え書きを書かせて解放した。この人物は、「追放されないようにしてほしい」と訴訟を起こした。裁判所は「伝染病予防という公益を盾に、家族と共に暮らす権利を奪ってはいけない」という判決でこの人物を救った。

 先日韓国入りした国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長が、金滉植(キム・ファンシク)首相との会談の中で、「法で外国人エイズ患者を規制するのは、人権を尊重する国、主要20カ国・地域(G20)会議の議長国を務めた国として、恥ずかしいことだ」と話し、韓国政府による外国人エイズ患者規制の廃止を要請したという。エイズ予防法令と出入国管理法令は、就業などの目的でビザを受けて入国する外国人に対する強制的なエイズ検査、エイズ感染者の入国拒否や追放を規定している。人権侵害という批判が起こる中、法務部(省に相当)は今年初め、可能な限り、このような措置を廃止するとした。しかし、学校で児童・生徒に英語を教える外国人講師は、今後も義務的にエイズ検査を受けなければならない。児童・生徒の健康を心配する教育科学技術部と学校保護者団体の要求があったためだ。

 一時、エイズは「不治の天罰」と呼ばれた。しかし、今は高血圧や糖尿病のように、管理さえ怠らなければ日常生活に全く支障がない病気とされている。性交渉や輸血、注射針などにより感染するが、握手や抱擁などの身体接触では感染しない。韓国のように外国人エイズ患者を厳しく規制している国は、国連加盟国のうち11カ国ほどだという。人権と平等があり、偏見や差別のない世の中、このような普遍的な価値と、国民の健康を求める権利が生み出す摩擦が、国際的な関心を集めている。

申孝燮(シン・ヒョソプ)論説委員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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