男性2人殺害などで強盗殺人など9罪に問われた住所不定の無職、池田容之(ひろゆき)被告(32)に対し、横浜地裁の朝山芳史裁判長は16日、死刑を言い渡して「重大な判断になったので控訴を勧めたい」と付け加えた。裁判員裁判初の死刑判決は、裁判長の「異例の説諭」で締めくくられたが、究極の選択を迫られた裁判員6人への「配慮」との見方が強い。
判決後、ただ一人会見した50代男性裁判員は「被告に一言伝えるとしたら」と問われ10秒余り沈黙した。そして「裁判長が最後に言った『控訴してください』。そういうふうになると思います」と打ち明け、6人の意向を酌んだ裁判長の説諭だとにじませた。
元東京高裁判事の門野博・法政大法科大学院教授も「死刑に反対や慎重な意見が出たため配慮したのではないか」と分析し「裁判員にかかる心理的負担も考慮したとも推測できる」とも語った。
裁判員裁判初の死刑求刑だった耳かきエステ店員ら殺害事件の東京地裁判決でも、裁判員は「判決に不服なら控訴できる」と裁判所側に説明され「ありがたかった」と振り返った。ただ、個々の裁判員の意見などは裁判員法で守秘義務が課されている。仮に死刑反対の「少数意見」があっても明らかにされない。また控訴がなければ1審で死刑が確定する。「裁判員に『自分たちだけで決めた』と思わせない配慮では」と検察幹部も理解を示した。
「プロ」だけの裁判でも死刑宣告は重圧がかかり、被告に控訴を勧める説諭はあった。女性2人殺害事件の判決で宮崎地裁の小松平内裁判長(当時)は01年、涙ながらに主文を告げた後「控訴し、別の裁判所の判断を仰ぐことを勧める」と述べ、「死刑を言い渡したくないのは誰も同じだ」との批判を招いた。今回も池田被告の弁護団は「悩みが伝わってくるような感じもするし、評価しようがない」とし、控訴は被告の意向を聞いたうえで判断するという。別の検察幹部は「被告の心情を乱す。単なる自己満足」と批判した。
一方、判決自体は従来の永山基準に沿った判断だった。「あまりにも残虐で非人間的」と殺害方法の残虐性や動機の悪質さを重視。弁護側は公判で反省を示したことなどから極刑回避を訴えたが、判決は「内面の変化がうかがえる」と述べつつも「失っていた人間性をようやく回復したに過ぎない」と一蹴(いっしゅう)した。
判決について「判例上、死刑が相当」(あるベテラン裁判官)、「妥当な判決」(検察幹部)などと、裁判員が加わっていなくても同じ結論だったとの見方が支配的だ。【中島和哉、松倉佑輔】
==============
■判決の認定内容■
池田被告は、東京・歌舞伎町のマージャン店の元経営者である近藤剛郎容疑者(26)=強盗殺人容疑などで国際手配=と覚せい剤密輸を通じて知り合い、店の経営権などを巡り近藤容疑者ともめていた経営者(当時28歳)と会社員(同36歳)の監禁などを依頼され▽09年6月、経営者ら2人を千葉県のホテルに監禁=逮捕監禁罪▽経営者の婚約者らに計約1340万円を持参させて奪った上、首を果物ナイフや電動のこぎりで切断し経営者ら2人を殺害=強盗殺人、殺人罪▽遺体を切断し横浜市の海などに捨てた=死体損壊、死体遺棄罪▽福島、新千歳両空港で09年、覚せい剤計約7.6キロを密輸=覚せい剤取締法違反、関税法違反▽今年2月、神奈川県警の留置場で暴れ、警察官にけがをさせた=公務執行妨害、傷害罪
毎日新聞 2010年11月17日 東京朝刊