◇大相撲九州場所<2日目>
(15日・福岡国際センター)
横綱白鵬=宮城野部屋=が、ついに負けた。東前頭筆頭の稀勢の里=鳴戸部屋=に寄り切られ、今年の初場所14日目から続いていた連勝が「63」でストップした。初日の前日に白星発進し、江戸時代の横綱谷風に並ぶ歴代2位タイの連勝記録としていたが、2日目にしてまさかの展開。双葉山の持つ歴代最多の「69」連勝には並べなかった。
館内が、驚き、どよめき、そして大歓声で、揺れた。テレビを見ていた日本中のファンも“歴史的な瞬間”に、衝撃と歓喜が入り交じったことだろう。296日間、土俵に君臨し続けた横綱が、ついに崩れ落ちた。稀勢の里に圧倒され、土俵下に落とされる完敗。砂かぶり席であおむけになった白鵬は沸き返る館内を見渡すと、首をかしげ、笑みを浮かべた。
「まあ、これが負けかな、と」。悔しさを一瞬照れ笑いに変え、立ち上がると淡々とした表情で敗戦を受け入れた。だが花道を引き揚げる時に、スタンディングオベーションで稀勢の里をたたえる観客を見上げ、やはり受け入れられない現実のように、もう一度首をかしげた。
「もうちょっと(連勝を)行きたかった。でもこれはこれで仕方ないんじゃないか」。いつもより長い約20分の風呂の後、絞り出すように敗戦を振り返った。序盤は有利だった。張ってもろ差しになり一気に寄った。だが突き落としで体が離れ、突き合いになり逆に土俵際に詰まって上手をがっちり握られた。苦し紛れのすくい投げや内掛けで必死の抵抗を試みたが、負けた。
「途中から勝ちに行って慌てたところがあった。今まで63の白星があって、もう1つ伸ばしてやるというスキがあったと思う」。63連勝で、江戸時代に活躍した4代目横綱谷風と並んだ。勝てば正真正銘、双葉山と2人の世界に入る。その欲が心に入り込んだ。「心技体のうち心の部分が一番難しい」。番付発表の言葉が現実になった。
昨年の秋場所中。「双葉山関の相撲は相手に当たらせてジワジワと相手を持って行く相撲。自分から当たって勝ちに行く相撲じゃない。それができれば、100連勝もできるようになるかな」。白鵬は夢見るように話していた。それからわずか1年半。双葉山にあと一歩まで迫ったが、歴史は変えられなかった。
「今日1日ゆっくり考えます。まだまだ13日ありますから」。最後は優勝へ視点を切り替えた。序盤に連勝を止められた双葉山、大鵬は直後に調子を崩し、優勝を逃している。反動は気にかかるが、白鵬は必死に前を向いた。(田中一正)
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