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<上>「絶対解決」胸に現場百回10月中旬、島根、広島両県警の合同捜査本部の捜査員たちは、香川県坂出市に足を運んでいた。瀬戸内海を渡るのはもう何度目か。広島県北広島町の臥龍(がりゅう)山で遺体の一部が発見された県立大1年生の平岡都さん(当時19歳)が生まれ育った街だ。 「現場百回」は捜査の基本だ。5月初旬には、約10人で臥龍山に登った。ジャージーに運動靴。漂う緊張感は登山客たちと明らかに違う。茂みに入ったり、山頂に登ったりしながら、バラバラにされた頭部や胴体の発見場所の違いを目で追う。犯人はどんな心理でそれぞれの場所を選んだのか――。 「絶対に解決しなければならない事件。状況が物語るわずかなヒントから、犯人に迫る手がかりをつかみたい」。そんな思いで、捜査員たちは今も、歩き続けている。 ◆ 「1年は大きな節目。ご遺族の無念を晴らすことができなかったという思いだ」。捜査本部長の岩田晴雄・県警刑事部長は、今月13日の記者会見で、悔しさをにじませた。 平岡さんは昨年10月26日、浜田市内のアルバイト先から帰宅途中、行方不明になり、11月6日、臥龍山で遺体の一部が発見された。県警は、全職員約1470人のうち、140人を捜査に投入。6月1日には100人に縮小したが、それでも、過去最大規模だ。 物証や目撃証言が乏しい中、捜査項目を地道につぶす作業が続く。連日の聞き込み。性犯罪の前歴者の洗い出し。4月中旬には、切断された女性の遺体写真をホームページに掲載していた広島市内の男の自宅の家宅捜索に踏み切った。 しかし、有力な手がかりは得られず、県警本部庁舎では、キャッチフレーズだった「日本一治安のよい島根」のポスターが、いつの頃からか取り外された。 ◆ 「あの時、こうしていれば、という後悔はない。一生懸命、精魂込めて、みんなでやった」。3月に定年退職した前刑事部長の雪野博氏は、捜査本部長として捜査指揮を執った約5か月間を、そう振り返る。 退職時、「余計なことする暇があれば、捜査にあたれ」と、送別会は一切、断った。捜査員たちは、花束の代わりに「一日も早く、犯人を検挙しますけん」と送り出してくれた。 待ちわびる〈容疑者逮捕〉の報は、まだ届かない。初期捜査に問題はなかったかと、自問自答を繰り返すようになった。気づくと今も事件のことを考えている。「犯人は、身近なところにおるんだろうか」「そこにたどり着くには、どうすりゃええんか」。 1年を前にした今月13日、平岡さんの両親はコメントを発表した。 「深い喪失感と、都のあふれる思い出が、季節とともに駆け巡り、ただ、時間だけが過ぎた気がします。悲しみは、膨らむばかりで、一番辛(つら)い季節を迎えました。何も話せる心境ではありませんが、これまで多くの皆様のお陰で、普通の生活が少しでも過ごせるようになった事に深く感謝致しております。今は、とにかく一刻も早い解決を願っています」 ◆ 平岡さんが行方不明になって26日で1年。事件解決に執念を燃やす捜査員、悲しみから立ち上がろうとする県立大生、安全、安心な街を取り戻すため動き出した市民。それぞれの〈あの日から〉をたどる。 (2010年10月24日 読売新聞)
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