2009年1月15日木曜日

モンブラン デュマ 2

○デュマの位置付けとは何か?

 ヘミングウェイは半世紀前のフラッグシップ・139を、現代の149の技術で復刻させた作品だ。両端の角張った処理、インク窓、蛇型クリップ形状などは139をかなりの程度踏襲する。質実剛健であり、実用美を見せる。
 しかも、黒色ではなく赤色の胴軸の色はヘミングウェイにカリスマ性を付与した。現物を見たとき、手にとったとき、掌にのせたとき、その密度・質感・意外な重さに、多くの人がきっと「おおーっ」という感嘆、歓声を思わずもらすのではないだろうか。

 一方、デュマはキャップトップ、尻軸のへりは面取りされて、ヘミングウェイよりもややボテッと丸みを帯びて処理されている。ボテッ、コロッとしたスタイルは、ユーモラスですらある。ヘミングウェイよりも遊び心を感じるところである。
 樹脂の茶色や胴軸を囲む上下の金環とそれを支える3本のバーなどからは「樽」を連想させる。デュマの体型?あるいは3本のバーは「三銃士」との連想か?でも、そうすると、ダルタニャンはどこかな?
 
 デュマは、139の復刻から1歩進めた、139ベースの創作ペンと考えたい。華美な装飾は冒険的というか、試験的要素が強いと思われる。また、機構にも試験的要素が感じられる。しかし、残念ながらその冒険は手間、コストの割に採算があわず、また細部のつめが甘く、ファンの評価が低く、デュマを最後、149(139)タイプの作家シリーズ限定ペンは製作されなくなったのではないだろうか。(作家シリーズとは価格が1桁違う、「スペシャル・テーマ・エディション」は除く。)

○デュマの思い出

 ある年の瀬、デュマを持ってモンブラン・ブティックへ行った。地下1階に修理ブースがあった。
幸い他の客もおらず、その技術者は比較的余裕をもって対応してくださった。そして、デュマを挟んだやり取りが始まった。
 僕の書き方を見て、ざっと、研磨やペン先の寄せ、などの作業をしてくださった。そして、ペンにロイヤルブルーを入れてくれ、「しばらく、ペン先をいじめてください」と、ペーパーを差し出し、一旦、奥の作業部屋へ引っ込んだ。僕は、縦横無尽に試し書きした。
 しばらくして、その技術者は「いかがですか?」と聞いてきたので、「この方向だけ、書き出しがかすれます」と僕。
 「では、もう一皮むいてみましょう」と技術者が、作業部屋に。ふたたび「どうですか?」と差し出されたペン。「また、いじめてみてください。」
 また、ひと時、ひとりでグルグル書いたり、住所氏名を書いたり…。
 「いかがですか?」
 「いいですね!とてもいいです。」
 「かなり、攻めてみました。使い始める状態としては、いい所までいっていると思います。インクの追従性もいいし、インクの出も良過ぎるぐらいです。

 こんな感じで、まるでペンクリのように1対1でじっくりとデュマを調整してくださったのだ。

 そうした心ある、モンブランジャパンの技術者との思い出がこのデュマには詰まっている。これが、僕が「この」デュマにこだわる大きな理由の1つである。ファンの間では評価がいまひとつで、欠点も大いにあるとしても、それを超越する貴重なものが込められているのである。他人がどう言おうが構わない。
 このデュマを、彼への尊敬を込めて「○○(彼の苗字)スペシャル」と、自分勝手に名づけている。その、技術者は、モンブラン社にもういない。そして、舞台となったブティックも移転してしまった。そう、彼に調整してもらうことはもうできない。だから、僕がペンを「大事にしつつ」「大いにいじめて」自分仕様に馴染ませることが、僕の使命となったのである。

 次回は、主にヘミングウェイとの比較から、デュマの長所・短所を遠慮なく述べたいと思う。