2010年11月15日
アトピー性皮膚炎の患者は、厚生労働省の2008年患者調査によれば全国に約35万人いる。年代別では10歳未満が全体の3割と多いが、20代以上も6割を占めている。
アトピーは、生まれ持った体質や環境要因などが合わさり、肌のバリアーとしての機能が弱まって起こる。九州大の古江増隆(ふるえますたか)教授(皮膚科)は「発症には受験や就職活動、仕事などのストレスも影響している」と話す。
バリアーが弱まった状態で刺激が体内に入ると、肌の内側に炎症を起こす司令塔役の細胞が集まって周囲に指令を出し、かゆみや腫れなどにつながると考えられている。
治療の基本は保湿だ。症状は、軽ければ保湿剤などを塗ってバリアーを回復させると治まる。だが、司令塔細胞が結集する段階まで進むと、保湿だけでは太刀打ちできない。ステロイドやタクロリムスの塗り薬は、この司令塔の働きを抑えることが確認されている。
ステロイドはホルモンの一種で、誰もが体内に持っている。治療ではこの成分を外から補う。塗り薬は強さが5段階あり、症状や部位に合わせて使い分ける。強い薬から徐々にランクを落とし、塗る頻度を減らしていく。
適度な強さの薬を、適量、適切な期間使うことが大切だ。塗ってもよくならない場合は、薬の強さが合っていない、塗る量が足りないといった理由が考えられる。
かゆみが治まっても皮膚が黒ずむ、厚くゴワゴワする場合は、炎症が続いている可能性がある。司令塔役をしっかり抑え込まないと、少しの刺激で炎症がまた強まる。東京逓信病院の江藤隆史医師は「ステロイドをきちんと使えば、ほとんどの人が保湿だけでよい状態の肌を保てるようになります」と話す。
肌からしみ込んだステロイド薬は皮膚内の分解酵素で代謝され、血液中にはほとんど移行せず、皮下にたまることもないという。ただ、まれに塗った場所が多毛になったり、皮膚が薄くなったりすることがある。これらはいずれも薬をやめれば治まる。
タクロリムス軟膏(なんこう)は、ステロイドに比べて副作用の心配が少ないとされる。顔などに使うが、塗ったときにヒリヒリと灼熱(しゃくねつ)感を覚えることがある。強さは1段階だけだ。
自身も患者という日本アレルギー友の会の丸山恵理事務局長(50)は「医師の助言を理解して治療を進めるために患者も正しい知識を持つことが大切」と話す。(鈴木彩子)
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