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きょうの社説 2010年11月16日
◎鳥獣被害の拡大 保護法の柔軟運用が課題に
鳥獣被害が拡大するなか、狩猟が解禁された。石川県は、生息域の拡大で農林被害が増
大しているイノシシについて、狩猟期間の延長措置をとった。猟期の延長は、鳥獣保護法の規定に基づくものだが、クマ被害が深刻な富山県は先ごろ、夜間も猟銃で捕殺できるよう鳥獣保護法の規制緩和を政府に要望した。イノシシやシカによる農林被害を防ぐため、構造改革特区で鳥獣保護法の規制緩和を提 案する自治体も出ている。住民に対する危害も含めて深刻化する鳥獣被害の実態が、鳥獣保護法の柔軟な運用を迫っているともいえる。政府はこうした地域の切実な訴えを重く受け止めてもらいたい。 農林水産省の調査によると、鳥獣による農産物被害総額は2008年度で約198億8 千万円(富山県1億4千万円、石川県7千万円)に上る。03年度に比べると、イノシシとシカの被害が大幅に増加している。北陸はイノシシの被害が目立ち、被害額は富山県が約100万円から2800万円に、石川県は約650万円から2700万円に急増している。 このため、石川県は09年11月から12年3月末までのイノシシ保護管理計画で、原 則3カ月の猟期を1カ月間延長する措置を決め、農林被害額を07年度の80%に抑える目標を掲げている。 また、今秋は人里へのクマの出没が多く、富山県内の駆除頭数は既に、県の保護管理計 画で定めた年間の捕獲上限(88頭)を大幅に上回る150頭余に上っている。鳥獣保護法では、夜間や市街地での銃猟は禁止されているが、住民保護の緊急避難対応として、夜間にクマを射殺するケースもあった。 こうした状況を受けて富山県が環境省に要望した鳥獣保護法の規制緩和案は、人や財産 に危害が及ぶ恐れがある場合、知事や市町村長の指示で猟銃の使用を可能にすという内容である。 夜間や市街地での猟銃使用は安全性に問題があるとして、規制緩和に反対の意見が根強 いが、同様の要望は北海道などからも出されている。人命、生活の保護の優先を求める住民の危機感の高まりを政府は認識してほしい。
◎事業再仕分け 抜け道防ぐ丁寧な議論を
政府の行政刷新会議が始めた過去の事業仕分けの検証作業は、霞が関の体質を変えると
いう点でも重要な取り組みである。「廃止」「縮小」判定にもかかわらず、来年度予算概算要求では、名前を変えて存続さ せる「看板掛け替え」や別事業と統合して残す「付け替え」、判定を都合よく解釈する「読み替え」などで復活させる例がみられた。これらが意図的な仕分け逃れなら、制度の実効性、信頼性が問われる事態である。必要性の乏しい事業でもさまざまな手法で存続を狙うのは霞が関の悪しき体質といえ、そこに厳しく切り込まねば予算の無駄を生む構造は是正できない。 4日間にわたる事業再仕分けの初日は、過去の判定の徹底を求める場面が目立ったが、 昨秋から3回を重ねた事業仕分けは、科学技術分野をはじめ、判定結果が必ずしも現場の実情を反映していないとの指摘も相次いだ。 今後も事業仕分けを継続するのであれば、巧妙な仕分け逃れなのか、本来なら予算を必 要とする事業なのか、冷静に見極めるとともに、場合によっては過去の判定結果が妥当だったのか再検討する謙虚さもいる。抜け道をふさぐためにも、パフォーマンスに偏らず、丁寧な議論が必要である。 再仕分けの対象は、11府省の112事業に上る。疑問に思うのは、来年度予算の概算 要求は各省の政務三役が立案にかかわり、承認したはずなのに、事業仕分けの結果が反映されていない点である。 政務三役がその結果に責任を担っていれば、たとえ制度に法的強制力がなくても、ここ まで多くの仕分け逃れは起きなかったのではないか。この一点をみても、民主党政権の政治主導が機能していないことがうかがえる。 事業仕分けは、予算編成過程を国民に見えるようにした点で意義が見いだせる一方、予 算の組み替えや財源捻出では限界も見え始めた。再仕分けの事例をみても実効性の確保は容易でない。会計検査院の機能強化と併せ、行政の非効率をただし、無駄を削減する仕組みをどのように構築するか今後の大きな課題である。
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