きょうのコラム「時鐘」 2010年11月16日

 紅葉が見ごろの兼六園に出掛けた。鮮やかな赤や黄が木々を包み、地面に広がり、池にも映える。お見事、と声を掛けたくなる

雪づりも進み、居合わせた人が親切にも自慢の冬の風物詩を説明してくれた。雪が降ると風情は増すが、大雪は名木を傷める。名園と雪との相性は微妙で、「ありがたくもあり、ありがたくもなし」と言う。ごもっともである

どこかで聞いた文句でもある。門松を冥土(めいど)の旅の一里塚と見立てて、「めでたくもあり、めでたくもなし」と、一休さんは歌ったそうな。そんなことは、案外多い。今度の映像流出の一件も、海保職員の振る舞いに対し、賛否の声が騒々しいが、それとは別に、「褒めたくもあり、褒めたくもなし」という微妙な気分も漂っている。捜査当局も「捕まえたくもあり、捕まえたくもなし」の中ぶらりんを続ける気配である

暖冬の予想でも、北陸では雪づりを怠らない。心もとないのは大事な情報に対する支えである。今度の一件を褒める人も褒めない人も、どちらかと迷う人の耳にも、国家の誇りや威信という枝がボキボキと折れる嫌な音は届いただろう。