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[16132] 【習作】money is bond(現実→H×H オリ主) 第6話投稿
Name: 妄黙認◆8ac1f065 ID:d88a192d
Date: 2010/11/14 16:08
 本作は実験作なため、かなりはっちゃけていくつもり。
小説書きの練習であるため、ぶっちゃけ出来は良くないかも。
ORISYUキャラが主人公です。
正直、自分でもどうなるか分からない。不完全なプロット(穴だらけ)。
批判はどしどし来てもOK、けどKOされて戦闘不能(という名の放置)になるかもしれませんので丁寧かつ柔らかな言葉づかいでお願いしたい。
以上(異常)でよければどうぞ。

長らく申し訳ありません。いろいろ忙しく、また設定的に不備があったことから
全面的に書き換えることにしました。

本当は裏設定にするはずだったもので、納得できない人もいるかもしれませんが、
ご容赦ください。
また、微妙に物品だけ多重クロスする可能性が設定上入ります。
どのあたりまでなら許容できるか、どのような品を出したら嬉しいか感想に書いてもらえると有り難いです。





[16132] プロローグ
Name: 妄黙認◆8ac1f065 ID:b12d23c4
Date: 2010/11/10 15:23
小学校の帰り道、夕日が照らす下り道、幼なじみと歩くいつもと同じ光景。
金城銀路かなしろ ぎんじ三御理御さんみ りおんはその日も何気ない会話を繰り返していた。

「ねえ、明日は空手の大会なんだよね?」
「そうだよ。まあ、体をきたえるのは嫌いじゃないけど」
「人を傷つけるのは嫌いなんだよね」
「……うん。だから、この大会が終わったら空手はやめるつもり」

- 平穏な日常-

「じゃあ、これからは毎日遊べるね」

-当たり前な生活-

「えっと、さすがに恥ず」「遊べるよね!」
「あの」「きっと遊べるよね!」
「そ」「………遊べ…ないの?」
「……うん、遊べるよ」

 少女の眼尻に浮かぶ水滴に、銀路は敗北した。

―ずっと続くと根拠もなく、信じていた―

「やった~!それじゃあね、それじゃあね……」
「明日の大会が終わってから、だよ」
「うん!」

―信じて……いた―

 銀路は自分がどれだけ恵まれていたか、理解していなかった。幼い少年には自分の周りが全てであり、
周りや……自分がその立場にならなければ理解できはしない。
そして理解した時には全てが遅く……日常がどれほど簡単に壊れてしまうものなのかを知る。

 ぼくの家は日本のありきたりな家庭の一つ。特に貧しいわけでもなく、
かと言って富んでるわけでもない、そんな家庭だった。
精々、お父さんが古今東西の貨幣や紙幣のコレクターだったくらいしか特色はなかった。
その影響もあり、将来は貨幣をデザインするとか紙幣の原版を彫ってみたいと漠然と思っていた。
そんなありふれた自分の家はその日……たった一枚の紙切れによって覆された。

「どうして……こんな……」

 連帯保証人、友人の裏切り、払いきれない借金。
催促の電話、夜中に響く怒声、灯の消えた家、貼られていく札。
その日から当たり前な日常など、もはや……どこにもなかった。
そして……、
「なん、で……?」
赤に染まった部屋、倒れているお母さんからドクドクと……川のように鮮烈な赤が流れている。
非現実的なその光景に頭が追いつかない。真紅に染まったお父さんがそれをさらに引き立てる。
血走ったお父さんの目、紅く濡れた包丁、震える切っ先。

「……すま…ない。もう……ダメなんだ、明日なんて、ないんだ」

 振り下ろされるソレを他人事のように僕は見つめていた。
理解することを否定してしまった。そして……その代償は、
「……え?」
首から■を噴き出す、理御だった。

「■■■■■」

 その光景に我を忘れたぼくが何を言っていたかは分からない。
ただ……、
「あ」
自分もすぐにその後を負わされたという事実があるだけだった。
薄れゆく意識の中、ただ巻き込まれえしまった理御を想い続けていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 黄昏の川辺、ローブを羽織った男が儀式をしていた。

「流れ来たれ、薙がれ鬼たれ、凪がれ着たれ」

 十分前までありきたりだった川は、まるで血のように深紅に染まっている。
川から吹く風は生臭く、死に満ちていた。
この世界には独自の力がある。“念”。それは生命エネルギー“オーラ”を操り様々な効果を発揮する。

境界たる冥府の川サンズリバー

 強化、放出、操作、特質、具現化、変化の六種類に系統づけられた念。
その中の放出系は“空間移動”のような移動の特性も持つ。
男の放出系念能力は疑似的な異界を作ることによって“異世界の壊れたモノ”を引き寄せる。
制約は川がないと使えない事、独自の儀式を行うこと、黄昏でないと使えないこと。
そして……壊れかけたモノしか引き寄せられないこと。

「む?」

 いつものように使用した念、しかし流れ着いたのは……、
「ちっ!外れか」
死にかけの少年、少女。珍しい、貴重な品を求めている男にしてみれば紛れもなく外れ。
これが大人だったら“知識”を期待できるが、子供では期待できない。

「……まあ、顔は悪くないようだし……売るか」

 それでも消費したオーラの元手は取りたいと、外道なことを考えた。
男は自分の利のためにもう一つの念を使用する。

冥府の理を破るものアビスブレイカー

 壊れかけたモノを直す念。
それは死にかけた二人を直した。

「さて……」

 懐から携帯を取り出した男は冥府から引き揚げた二人を、
「もしもし、俺だが……この値段で買わないか?」
地獄に落とす。

 この世界に……モラルなど……期待すべからず。





境界たる冥府の川サンズリバー” 放出系

 異世界よりモノを召喚する。

誓約・制約 疑似的な異界を作成する。
      異界を作るには儀式が必要。
場所は川辺でなければならない。
      黄昏時でなければならない。
      召喚できるのは“壊れかけたもの”限定。
      大きさは二立法メートル、重量は二百キロまで
      何が召喚できるかは完全にランダム。

冥府の理を破るものアビスブレイカー” 強化・放出系

 壊れかけたモノを修復する。また、その使用方法を理解できる。

誓約・制約 壊れきる寸前のモノしか修復出来ない。
      壊れる前がイメージ出来ないものは修復出来ない。
      直接壊れたモノに触らなければならない。



[16132] 第1話:Bond
Name: 妄黙認◆8ac1f065 ID:b12d23c4
Date: 2010/11/10 15:27
 銀路は、ふと目覚めた。
目の前には健康そうな頬っぺた。見慣れた緩みきった寝顔。
靄のようなものに包まれて、理御は眠っていた。
ぼんやりと立ち上がろうとして……惨劇を思い出した。

「理御!!」

 わけが分からなかった。理御は首筋を切られた。自分も胸を刺された。
覚えている。あの激痛を。あの光景を。血を流し、死にかけているお母さんと理御の姿を!!

「うにゅ?」

 生きている!それだけで、涙が出そうになる。
 銀路はそれを無理矢理抑え、理御を揺さぶった。行動しないと泣き崩れてしまいそうに思われたのだ。

「う、銀ちゃん?」
「理御……理御……」

 まだ意識がはっきりしないのか、ぼんやりしている理御を銀路は力一杯抱きしめている。

「えっと、銀ちゃん……放して……欲しいんだけど」

 顔をリンゴのようにしながら、理御が呟くも興奮状態の銀路には聞こえない。

「だから……その……、ああもう銀ちゃんのバカー!!」
「へぶしッ!?」

 密着状態からのボディーブロー。
本来ならダメージなど対してない……はずなのだが、
「うぐぅ……げほごほっ……り、りおん、こ、これはひどいよ」
「え、ええっと……そんなに痛いなんて……!?」
理御自身が混乱するほどの威力を発揮した。

 混乱している理御を後目に呼吸を整えると、銀路は改めて理御を抱きしめた。

「良かった……!!本当に生きてる!!」
「……え?……そうだ…わたし、おじさんに……」
「けど、どうしてあの場にいたの?……ぼくを……かばったの?」
「いたのは、銀ちゃんに会いたかったからだよ。かばったのは、銀ちゃんだからだよ」

 それが呼吸と同じくらい当然のこととして理御は答えた。

「……ぼくは……ぼくは……そんなことして欲しくなかった!!」
「うん」
「ぼくは理御に死んでほしくないよ!!」
「うん」
「ぼくは……ぼくは……!!」

 涙を浮かべながら叫ぶ銀路を今度は理御が抱きしめた。

「けど、銀ちゃんも同じでしょ?」
「……え?」
「きっと銀ちゃんも“私”を助けようとするよ……だから、“私”も曲げられない」
「……理御」
「ごめんね、銀ちゃん。だから、ゆるさなくて……いいよ?」

 その言葉を聞いて銀路は黙り込み……そして呟いた。

「……ずるいよ」
「うん」
「……反則だよ」
「うん」
「そんなこと言われたら……言い返せないよ」
「女はみんなずるいものってお母さんが言ってたよ」
「そうなんだ……けど、一番ズルイのは……」

 銀路は涙を拭きながら笑顔を浮かべた。

「そんな理御がぜんぜん嫌いになれないことだよ」
「うん。ごめんね」

 二人は互いを抱きしめながら、お互いが生きていることを喜んだ。
……乱入者が……来るまでは。

 ガシャン音を立て、部屋の戸が開いた。
入ってきたのは……下衆な笑いを浮かべた一人の男。

「こっちこい」
「……え……きゃっ!?」
「なにを……!?」

 無理やり手を引っ張られる理御の姿を見て、銀路は立ち上がり、……男に殴られた。
吹き飛ぶ体は壁に叩きつけられ、床に崩れ落ちた。

「銀ちゃ「さっさとしやがれ」離して……離してよ!銀ちゃん!銀ちゃん!!」

 途切れゆく意識の中、銀路は自らの無力さに……絶望を感じた。


――――――――――――――――――――

 その日から二人の地獄は始まった。
下衆な男たちによる筆舌に出来ない仕打ち。欲望のはけ口にされ続けた。
おおよそ人間の闇という闇を見せられ続けた。
二人は死にたかった。しかし、死ねなかった。
なぜなら……お互いが人質だったから。反抗すれば大切な人が死ぬ。
だから、耐え続けた。そうして一月が過ぎた。
その結果、二人が知ったのは……ここがH×Hの世界であること。
そして……金で売られたこと。

「……お金……またお金なの!?お金がそんなに大切なの!?」
「……」
「そんなモノのためにぼくたちは……!!」
「お金さえあれば、わたしたちこんなことにはならなかったのかな?」
「吐き気がするほど認めたくないよ……。事実はそうだと思うけど」
「なら……もし生まれかわれたら、お金持ちになりたいね」
「あの下衆たちみたいな!?絶対にいやだよ」

 ここに来る金持ちはそれなりにいるが、どれも最低な者達ばかりで、銀路としてみれば殲滅したくてたまらなかった。

「ううん。違うよ」

 それは理御にしてみても同じだった。

「お金は“手段”なんだよ。良くも悪くも。だから、たくさんのお金を持っていて、
正しいことにお金を使い、わたし達みたいな子供を助けられるような、そんなお金持ちになりたいな」
「……なれるさ。きっとなれるさ!だから……あきらめないよ」
 「……うん。なれるよ、銀ちゃんなら」

 そう。希望はある。それは……“念”。
ここがH×Hの世界だと知って、まず考えたのがそれだった。
念の力は様々な効果があり、上手く使えばここを脱出できる能力も作れるはず。
幸いなことに念をしようするための前提である精孔しょうこうはすでに開いていた。
 二人が知るよしもないが、念に目覚めた理由、それは、境界たる冥府の川サンズリバーに影響された結果だった。
 さらに部屋の隅に置かれた雨洩りを受ける盥があった。
鉄格子の窓から入ってくる落ち葉があった。
水見式。その人間の念系統を調べる方法が使えた。
放出系なら、瞬間移動などで脱出できるかもしれない。
そう考えていたのだけど……。

「……葉っぱが動くから操作系、か」
残念なことに操作系。上手く誰かを操れば脱出は可能かもしれない。
けど……。
この屋敷には複数の念能力者がいる。
念能力に目覚めていることは“まだ”ばれていない。
そう、現在の状況では念の訓練などまどもに出来る環境ではない。
さらに度重なる地獄にぼくたちは確実に疲弊していく。
時間が……あまりにもなかった。

「……」
「理御?」

 理御の水見式、そこにはただ“緑色の水”があった。

「色が変わる……放出系!!これなら」
「……うん。きっと銀ちゃん、外へ脱出できるよ」

 いつもと変わらない笑顔がそこにあった。
……なのに酷く胸騒ぎがした。けど、きっと興奮しすぎているせいだと思った。

―僕はこの胸騒ぎを軽視した付けを払うことになる―

「そうだ、これ」

 理御が取りだしたのは五ジェニー硬貨。

「どうしたの、これ?」
「ちょっとね」

 その表情で察しがついた。そして、自己嫌悪で死にたくなった。

「大丈夫だよ、銀ちゃん。これ、お守りがわりにあげるね。ご縁がありますようにって」
「“円”じゃなくてジェニーだけどね」
「それは言わない約束だよ」


 
 私の人生の大半はありきたりな不幸で構成されていた。
お母さんは私が生まれた時に死に、父は私を見ようともしない。
育てているのは遠い親戚で、父からお金をもらって渋々やっている。
口癖は“人様に迷惑をかけるな”。“自分たちに”と表情が物語っている。
この広い日本を探せばそれなりにある不幸だと思う。
ただ……私は早熟すぎた。期待など持てる要素などどこにもないと物心ついた時には理解してしまっていた。
だから、諦めて……惰性で生きていた。
いつも笑顔で周りに合わせ、バカを演じた。
適度に空気を読み、適度に間違え、適度に怒る。
惰性で時を消費していた。

 それが変わったのは、
「どうして、つまらないのに笑っているの?」
彼と出会ってからだろう。

 初対面でいきなり仮面に気づき、尋ねてきた。

「えーたのしんでるよー」

 それでも何かの間違いだろうと、仮面を外さなかった。

「ほんっとーに?」
「そうだよー」
「そうかな?」
「そうだよー」
「そっかー」

 これで去るだろうと思っていた。
けど、思っていたより彼はしたたかだった。

「それじゃあ、はい!」

 いきなり手渡してきたのは……クレープ。
すぐそこの売店で売っているものだった。口もつけていないようだ。

「まちがえちゃったおわびにあげるよ」
「えっと、しらないひとからもらっちゃいけないって」

 ありきたりな子供向けの注意で誤魔化すが、
「ぼくは、かなしろ ぎんじ」
「え?」
「これで“しらないひと”じゃないよね?」
うまくいかなかった。

 これ以上の誤魔化しは不自然と判断して受け取ることにした。

「はむはむ」

 クレープは別に嫌いではないし、小腹も空いている。
だから、貰っても問題ないと自分に言い訳して食べた。
食べながら、眼の前の男の子をどう対処するか、久しぶりに真剣に悩んだ。

「んー、ちょっと考えていたのとちがうけど、いいかな」
「なんのことー?」
「あまいものをたべればよろこぶなんて、かんがえがあまかったみたいだ。
けど、つまらなくはないみたいだから、いいかなって」

 どうやら思っていたより難敵だと気付いた。
それでも私は仮面を被り続けた。

「ずっとつまらなくないよー?」
「そうだね、いまもつまらないわけじゃないもんね」

 どうやら仮面が通じないようだった。
この時は知らなかったが、彼は観察眼が鋭く、些細な表情から相手の感情を理解していた。もっとも、本人はまったく自覚しておらず、なんとなく分かると思っているようだが。

「うん。それじゃあ、さよーなら」

 仮面が通じなかったが、それでも演じて去ることにした。
なんとなく癪に障った。今なら分かるけど、
ようするに“負けず嫌い”の一言に尽きる。
そんな去ろうとする私を、
「ちがうよ」
彼は止めた。

「え?」
「“またね”」

 今度は彼から去っていった。
これが私たちの始まりだった。
幾度となく私たちは出会い、私は仮面をかぶり、演じ続けた。
もはや意地だった。それでも彼には通じず、悔しくて、さらに努力した。
そうしていく内に、努力していることを楽しんでいる自分に気づき、愕然とした。
そして……初めて本当に笑った。
結局、いくら捻くれていても、子供は子供だったということに気付いた。
そうして、今も全く通じていない演技を続けている。
演技に混じる真実にアタフタする様が気に入っているから。
もはや、自分でもどこからどこまで演技かわからないほど。
そう、私は今を“生きている”。
銀ちゃんと会うまで私は呼吸しているだけで生きていなかった。
人間は“死んでいない=生きている”ではないと知った。
演技を続ければ本当の“三御理御”を知るのは銀ちゃんだけかもしれない。
それでもいい。
銀ちゃんのいない世界に存在しても“生きる”とは思えないから。
私にとって銀ちゃんが家族であり、本当に大切な……愛しい人だ。
だから、あの時私は銀ちゃんを庇った。
だから……口にするのも嫌なことも耐えられる。
私は……迷わない。曲がらない。



三御理御は持てる全力で“生きる”覚悟をこの日決めた。

 



[16132] 第2話:Leave
Name: 妄黙認◆8ac1f065 ID:b12d23c4
Date: 2010/11/10 15:36
 希望。パンドラの箱に一つだけ残っていたモノ。
それをある人は“最後の災厄”だと言う。何故なら……。

   
        その希望が絶望を深くするから、と。


 ぼく達は絶望の中をあがいていた。たった一つの希望。
幽かで頼りない、けど確かに存在する脱出の可能性。
ぼくはそれが出来ると信じていた。“二人”で脱出できると信じていた。
 その日も銀路は手の中のソレを操作していた。
誰にも見られないように両手の隙間の中で。
硬貨は回る。くるくると。ぐるぐると。
込められたオーラは拙いもの。それでも確かに望んだとおりに動いていた。
本来なら基本から学ぶべき所を、脱出のための即戦力にするために無視して。
時間がなかった。すでに体はボロボロで、長くは持たない。
役に立たない商品は“廃棄処分”される。
そのことを……銀路は薄々気づいていた。
それでも。

「……銀ちゃん、もう時間切れみたい」

まだ、時間が僅かにでも残っていると思い込んでいた。
間に合うと、根拠もなく信じていた。
けれど、現実はいつだって残酷に出来ている。

「え?」
「……明日、『バラシテ売る』って」
「!?」

 あまりに直接過ぎる言葉。
絶望的な意味。ぼくらの念は……間に合わなかった。
まだ形にすら出来ていないのだから。
それでも、最後まであがこうと思って、
「銀ちゃん、約束して欲しいな」
理御の目に映る覚悟を見逃してしまった。

「……何を?」
「“生き抜く”って」

 当然のことを聞いてくる理御を不思議に思いながらも返答した。
 
「……分かった。だから、りおむぐっ!?」

 突然のキス。何がなんだか分からなかった。
次の瞬間、流れ込むオーラが混乱に拍車をかけた。

「り、理御!!何を!?」
「ごめんね、銀ちゃん。わたし、うそついてたんだ」
「え?」
「わたしは……“特質系”なの」

 一瞬、思考が止まった。それでも疑問は口に出た。

「だって、色が変わって……」
「わたしの念で葉が溶けて、緑色に染まったんだよ。だから性質は“譲渡”。
“何かを何かに託す念”。だから、決めてたんだ。間に合わなかった時のこと」

 その瞳に映る強い決意、それが信じたくない現実を突き付ける。

「けど、それだけじゃ足りないから“準備”していたの。
制約の条件は死ぬほどいやだったけど、
だから効果があるよ。あいつら、全員がわたしを“けがした”という条件が」

 流れ込み続けるオーラ。どう考えても人、一人分では納まらない。
ここを警備している念能力者は四人。そして、流れ込みつつあるオーラはおおよそ“五人分”。
 明らかに……みるみる内に……理御のオーラが減少していく。
それが……あの時の死にゆく理御を……連想させる。

「……やめて」
「だめ」
「……いやだ」
「だめ」
「……また、なの」
「あの時、言ったよね?曲げないって」
「だったら!ぼくも言ったよ。死んでほしくないって!!」

 銀路の言葉に理御は笑みを浮かべた。
その笑みが……銀路をさらに不安にさせた。

「死なないよ」
「え?」
「死ぬわけじゃないよ」

 そして続く言葉は銀路には信じられなかった。

「消えるだけだから」

 世界が凍りついた。ぼくの世界はその瞬間、間違いなく凍りついた。

「………うそ……だよ、ね?」
「世界から、痕跡一つ残さず……銀ちゃんの……記憶……からも」
「そ……そんな……!!」
「だから、悲しまなくていいの。きっと銀ちゃんは生きていける。
ここにいる念能力者はもうみんなオーラに分解されて銀ちゃんに吸収されたから、逃げるのは楽だよ」
「そんなこと、どうでもいい!!生きてよ!!」

 いやだった。最悪だった。ぼくにとって絶対に認められない現実が迫りつつあった。

「“私”にとって“生きる”って銀ちゃんを“想う”こと。
だから、最後まで“私”を貫き通して“最後”まで“全力で生き抜く”よ。
……燃え尽きるまで」

 薄れゆく理御の体、薄れゆく僕の記憶。かけがいのない、僕の想い。
それでも否定したくって、ボクは感情を叫ぶ。

「いやだいやだいやだいやだみとめないいやだゆるさないわすれたくないいやだやめてよ
だめだよいやだいやだいやだいやだいやだああああああああああ!!!!!!」

 銀路は足掻く。無様なほどに、滑稽なほどに、愚かなほどに。
 そうしている間にも理御は消えていく。

「ごめんね、銀ちゃん。けど“託す最後の落日ラストサン”は止まらないよ」
「……だったら……だったら“覆す”!!」

 ずっと思っていた!理不尽な現実を変えたくて、“それ”さえあったらと思っていた。
それはかつてぼくが好きだったもので、
それで家族はぼろぼろになり、今、大切なものを失おうとしている原因。
お金。それは象徴。“運命そのもの”とそれを覆せるという“願いの象徴”。
念はイメージ。イメージするのは“絶対”。
だから、今の現実があり、だから、それを覆せるという“絶対の理”。

「な、なにしてるの!?」
「……」

 手の中の五ジェニー硬貨を力いっぱい握りしめた。
それは“本当に価値のあるお金”。世界に一つだけの、ぼくと理御の“絆の形”。

「だめだよ!それじゃあ銀ちゃんは……!!」
「……ぼくも……曲げない!!ぼくの“生きる”ことだって理御を“想う”ことなんだから!!!」

 思い出す。きっかけを。始まりを。全てを奪った“絶対の運命”の象徴を。
目に焼き付いている!脳裏から消えず、離れなかった!毎夜悪夢に見た!
書かれた文字を、絶対の綴りを!
 銀路の手にそれが具現化される。皮肉なことに本来なら現在の銀路では不可能な具現化の力。
しかし、託す最後の落日ラストサンによって計六人分のメモリーと全属性の習得率420%という異常な状態にある。
だからこそ、それは必然。

「そんな……!!」

 手にしたのは誓約書!
それでも“綴る”事が出来ない!まだ足りない!
ならば、オーラを変化させる!メモリーなんていくら使っても良い!!
今、必要なのだから!
乱雑に指が動き、その下に文字が残る。
契約には“お金”が必要!そしてそれはここにある!
この世で最も価値のある五ジェニーで“日を覆す”。

「この五ジェニーに誓ってぼくは忘れない。三御 理御を決して忘れやしない!!!
金の力は日も覆すトレードマスター”!!!」

 手の五ジェニー硬貨からオーラが抜けていく。
それを呆然としながら見つめながら消えつつある理御。
そして、涙を流しながら理御を睨む銀路。

「……ばかだよ、銀ちゃん。ばかだよ……!!」
「うん。ばかだ。大バカだ。世界の誇るバカだ!だからどうした!!
常識?良識?その方が楽?悲しまない?そんなのどうでもいい!!
ぼくは!そんなことより!理御が良いに決まってるだろ!!」

 互いに涙を流しながら、叫びあう。

「報われないんだよ」「いいや!報われ、違う、報わせる!!」
「消えちゃうんだよ!!」「きっと“覆す”!!」
「楽しい事もみな潰れるんだよ!?」「理御を想うことがぼくの楽しみだ!!」
「わたしが望まないんだよ!!!」「かまわない!!!ぼくが望む!!!」
「誰も許さないことだよ!?」「この世の全てが敵でもいい!!!それでもぼくは……」

 銀路はここに叫ぶ。

「理御を選ぶ!!!」

 その言葉に理御は諦めのため息をついた。

「ほんっとーに……バカだよ」
「ああ。なにせ“バカップル”なもので」
「そうだね。わたしも……バカだもんね」

 互いに笑う。これが最後でないと信じて。

「“さよなら”は言わないよ。“またね”、銀ちゃん」
「うん。“またね”、理御」

 目の前から理御が消える。そして銀路は……行動を開始する。
戸をぶち破り、回廊を駆け、階段を下る。涙を流し続けながら、銀路は止まらない。
途中で会った者を出会いがしらに殴り殺し、金を奪う。
全く割に合わないが地獄を味わった対価代わりに。

「“この世の全ては金で廻るゴールドラッシュ”!!!」

 奪った現金が武器となる。
そもそも操作系の念修行において、操作できるものなど五ジェニー硬貨しかなかったのだ。
故に現状において最も頼りになる武器。貨幣が踊る。それは決して精密などとは呼べない操作。
それでも、充分過ぎる威力で、大量に、高速で空を舞う。銃弾は紙幣の壁に遮られ届かない。
念能力者はもうこの屋敷にいない。だから、ここにあるのは一方的な虐殺だった。
しかも銀路には屋敷の経路は分かっていた。
託す最後の落日ラストサン”で流れ込んだのはオーラだけでなく知識や身体能力、技術までも流れこんだのだ。
 制約のせいかおそらく四人の顔も存在もぼくは“知らない”。
ただ、流れ込んだ“理御の記憶”からそいつ等がいたことを間接的に知っただけだ。
それにしても怒りが抑えられない。
少女が黙っていた少女の地獄。それを流れ込んだ記憶が告げていたから。
 そして屋敷の支配者はいなくなった。



「……これは想定外だよ」

 そして、現在目の前には一人の少女。理御と同じ様に地獄を見たであろう少女。
他の者達はみなすでにバラされていた。故に放っておくわけにも任せる人間もいない。

「………」
「君の名前は?」
「……あまりあ」

 まるで人形のような少女の姿。フラッシュバックする理御の地獄。
放っておけなかった。

「……あなたは?」

 ぼくは答えようとして……、考えた。
ぼくの命はぼく一人のものではなく、理御のものでもある。
そして……理御に対する誓いを込めて、理御が望んだ金持ちに、
“真の金持ち”になることを誓って“金城銀路”の名を封印する。理御みたいに仮面を被って演じよう。
それを誓約の一つとしよう。理御をこの世に戻すための誓約に。
だから、ぼく……いや“俺様”の名は……。

名前ネーム……“サンミリオン”」



 こうしてネーム・サンミリオンは初めて世界に名を刻んだ。






 “託す最後の落日ラストサン” 特質系

 自分、及び条件を満たしたものの全オーラと“人格以外の全ての能力(固有の念能力は除く)”
を金城 銀路に移譲する。なお、肉体そのものは移譲せずその腕力や肺活量といった性能を金城銀路に加算する。

誓約・制約 使用できるのは一回限り、金城 銀路にのみ移譲できる。
      自分以外を託すためには“肉体的な重度の接触”が必要とする。
      また、念能力者でなければならない。
      託した場合、その“存在”が消滅する。また、痕跡、及び人の記憶からも消滅する。
      発動したら停止することは出来ない。



[16132] 第3話:Pledge 
Name: 妄黙認◆8ac1f065 ID:b12d23c4
Date: 2010/11/12 06:35
契約せいやく、それは約束。
契約せいやく、それは束縛。
契約せいやく、それは強固な運命。だから……。

 
         ……契約はいつだって重い。


「……両親は?」
「もう、いない」
「済まない。無神経だった」

 殺された、か。もはや人の死に何も感じないことが少し哀しかった。

「どうやって、ここに」
「アイツらは全部片付けた。ここから出ようか」

 ……これは、ある意味代償行為なのかもしれない。
それを理解していても、やはり止める気にはならなかった。

「………わたしのまえで、とうさん、とおかあさんを、ほうむってくれる、なら」
「いいだろう」

 とりあえず……火葬がいいか。それならバラバラなのも関係ない。

「やくそく、して」

 その目に灯る光が気になったが、
「ああ。約束だ」
俺様は誓った。ただ、それだけのこと。

 その後、二人は屋敷の有り金を全て頂いてヨークシンシティを目指してる。
使用しているのは無駄に高級そうなリムジン。遠くで燃え盛る炎を背景に疾走する。
……見る者全てが不安を抱く軌跡を描きながら。

「どうにかなら、ない?」
「済まないが……無理だ!!」

 小学校卒業前の少年が運転しているリムジン。
当人は運転する前は大丈夫だと考えていた。ただ、彼は当たり前の事実を忘れていた。
―――――――――身長が足りないという当たり前の事実を。
身長が足りないせいで座席にまともに座れず、ハンドル越しに前を見る。
まして、サイドミラーなど確認できるはずがない。
この道が交通量皆無な広い直線の私道でなければ、大惨事確定だったろう。
もっとも、乗っている乗客からすれば戴して救いにはならないが。

「………きもち、わるい」
「ご、ゴミ箱に!!」

 その後、日が暮れるまでその軌跡が止まることはなかった。



 現在、俺様たちが食べているのは屋敷から持ち出した保存食。
本来ならとてもじゃないが、美味いとは思わない味だ。
本来なら。

「……おい、しい」
「そうだな。あそこで出されたのに比べれば、な」

 そう、今まで監禁されていた時に出たモノは最悪だった。
家畜でさえもっと良いものを食べているとさえ思ったほどだ。

「……どうして、たすけてくれた、の?」

 その言葉に動きが一瞬止まった。
そして、答えた。

「……俺様がそうしたかったからだ」
「……どう、して?」
「……自分の気持ちに嘘を吐きたくなかった、からだな」

 偽善でも構わない。俺様が見殺すのが嫌だった。
ソレだけの話。

「………そ…で…」
「何か言ったか?」
「……なんでも、ない」

 アマリアはそっぽを向いて、リムジンに入っていった。

 夕食後、積んであった物品を使ってリムジンを改造した。
と、言っても足りない身長の分を埋めるだけの単純なことだったが。
それにしても……託す最後の落日ラストサンの恩恵は大きい。
本来なら小学生の知識で生きていけるほど甘くはない。
都市で生活するなら相応の社会知識が、森などで生活するならサバイバル知識が必要になる。
だが……今の俺様には“三流ハンター三人分”の知識と身体能力がある。
例えば、習っていない義務教育の範囲から大学レベルまでの知識。
更にはサバイバル知識、H×Hの地理や文字、歴史など手に取るように分かる。
体は信じられないほど力に溢れ、今回のように運転技術まで使える。
“三流”とは漫画に出てくるハンター達と比べてであって、それでもハンターには違いない。
ハンターとはそう簡単になれる職業ではないのだから。
“人格”や“人間性”は考慮されていないが。
ただ、見過ごせない問題がある。それはそれらが“他人の経験”に基づいているということ。
例えば、相手と戦闘になったとして、大人と子供ではリーチも体格も全く違う。
ようするに、多かれ少なかれズレが生じているということ。
言わば、規格の合わないデータをパソコンにインストールしたようなものだ。
おかげで普通に運転しようとして、あの結果だ。
それでも、ただ生きていくだけなら十分過ぎる。……が、俺様としては全く納得出来ない。
……いや、どんな力が手に入っても……理御と引き換えで納得できるわけがない。
クーリング・オフをしたいくらいだ。本当に。
そう、認められない。だからこその金の力は日も覆すトレードマスターだ。
 金の力は日も覆すトレードマスターは全系統の能力を必要とする念能力である。
貨幣による契約で契約者を絶対遵守の“操作”をする念能力。
この契約は契約相手、もしくはネーム自身を強制的に操作する。
まず、お金に念を込める。溜めておくために長期間手元から離れるため“放出”の力がいる。
次に契約書を“具現化”する必要性がある。
さらに、文章を書くのにオーラを“変化”させた特殊インクが必要となる。
契約が成立した時点でお金に溜めこまれた念が契約者に“特質系”能力によって譲渡され、
さらにオーラが契約者を“強化”する。そうして初めて契約内容が実行させる。
見合った量のオーラと全系統の能力を一時的に操作対象が使用できる状態にすることで、
操作対象者が普段できないような限界を超えた内容でもを契約を実行させるのだ。
これは普通の念能力者ではまずメモリー的にも相性的にも不可能な念である。
全系統に対し等しく凄まじい習得率を得ていること、
そして……三御理御の“譲渡”能力があって初めて成立する。
だが……ネームが望むのは不可能なことを実現させる“念”である。
それには……まだ足りない。曖昧すぎる。だから、彼は制約をつける。
 ネームは手に具現化した契約書に制約を書き記す。
 
――使用者は“ネーム・サンミリオン”でなければならない。
使用するいかなる名義も“ネーム・サンミリオン”でなければならず、偽名を使用してはならない。
名を尋ねられたら自分の“本名”を答えねばならない。
故に俺様は“金城銀路”の名を“この世”から“消去”し、以後は本名を“ネーム・サンミリオン”とする――

 この制約により例え目的を果たせても「銀ちゃん」と理御に呼ばれることはもうない。
それは自分にとって……重い。だからこそ、充分なバネになる。

――契約者は契約の内容を聞かなければならない――

 理不尽な契約など認めない。騙されて、絶望したお父さんの最後を思えば当然のこと。
また、難易度も上がり効果も上がる。

――相手が“契約の貨幣”を受け取ること。
なお、そのつもりがなくとも返却を要請しても返さなければ受け取ったものとする――

 操作のためにも、実行させるためにも、貨幣に込められた自分のオーラを契約者に与える必要がある。

――契約内容に見合った金額(値段は契約者の能力やネーム自身の力から自動的に計算され、
書面に浮かびあがる)をネーム・サンミリオンに支払わなければならない。
例え死亡しようとも支払い終わるまで支払うための活動(違法行為は除く)を取り続ける。
この時の契約者に契約内容が特殊でもない限り自分の意識は存在しない。その行動をネーム・サンミリオンは制御出来ない。
ネーム・サンミリオン自分が契約者になった場合は見合った金額が消滅する。
このため、契約に必要な金額を所持していなけらば発動出来ない――

 契約は明確に、そして見合ったものであるべきだ。

――なんらかの事情で契約が破綻した場合、国際法に則って出来る限り契約を続行しなければならない――

 少ないとはいえ、この世には念を解除する“除念”が存在する以上は対処法も必要だろう。

――死者蘇生のような不可能な願いや契約者及びネームの力を上回る場合はオーラだけではなく、
金銭も消失する(上回る場合は差額分の消失)――

 物質を全てオーラエネルギーに変えることで、足りない分を補強する。
さらに、苦労して集めたであろうお金を消費する“覚悟”がさらに効果を高めてくれるはずだ。

――不正な手段で手に入れた金銭は使えない。
ただし、他者による自身の受けた災厄、あるいは相手が労働の結果を払わない場合は除く――

 悪事で得た金は使用しない。これでお金の入手はさらに難しくなる。当然、効果も高まるだろう。
ただし、今回のような例外は除いていいだろう。

――ネーム・サンミリオンは約束を違えることを決して許されない。例え、口約束であろうとも――

 これは諸刃の剣。契約を無視できないということは“行動”を縛られることになる。
騙された時のリスクは……極めて高い。

――保有する全ての貨幣を失った場合……即死する――

 最後の覚悟。死という最後のバネ。
絶対に手の中の“五ジェニー硬貨りおんとのきずな”を無くさないという決意。
貨幣に込められるオーラはその貨幣の価値に見合った量が込められる。
しかし、この“五ジェニー硬貨りおんとのきずな”は違う。
込められるオーラに上限がない。それは自分の価値観に他ならない。
これ以上価値のある貨幣は存在しないという想いの現れ。
 ネームの手から契約書が消え、制約は成立した。
それを確認すると背もたれに体重をかけながらこれからのことを考えつづけた。
 まずは、戸籍がいる。非合法になるが売買している者の知識もある。それから“ズレ”の調整。
後はアマリアを預けられる孤児院も探さないと。
 


 翌日、車を走らせていたネームを想定外のアクシデントが襲った。
事故?パンク?ガス欠?そんなちゃちなモノではない。

「あー、もうしつこすぎる!!」

 漆黒の高級車を先頭に大量の白い特殊車両が列をなす。
要するに、国家権力けいさつが相手だった。
ある意味当然のこと。子供が車を使うのを見つければ止めようとするだろう。
その上、ナンバーを確認すれば盗難車だとわかるのに時間はかからない。
傷害、殺人、死体遺棄、器物損壊、盗難、放火と続いたネームの犯罪歴に交通違反というまた一つ新たなページを加えながら耐久カーチェイスは始まった。

「もっとはやくなら、ない?」
「無理だ!!」

 顔色の悪いアマリアには悪いが車のスペックには限界がある。
金の力は日も覆すトレードマスターを使えば出来るが、契約書を用意している間に捕まってしまう。

「……そう、なんだ」

 居心地悪そうなアマリアを助手席に乗せたまま、限界速度を出し続ける。
高速カーチェイスは終わらない。

「まったく、どうしてこんなとこだけ現実と同じなんだ!?
しかも!追ってくるのがなんで念能力者なんだ!?」
 

 A.犯罪者(すでに消滅した念能力者三流ハンター)を追っていた警察内念能力者の能力です。


警察からは逃げられないチートチェイサー” 操作・強化系

 発見した犯罪者を逃がさず追い続ける能力。
専用特殊無線を使用しすることで、相手がどれだけの速度を出そうと“警察官”を同じ速度で追い続けさせることができる。
更に彼らは一時的に念への耐性を得る。
ただし、対象者及び使用者が半径五百メートルにいなければならない。
この念は“警察の備品”にも適応され、更に疑似的な周の状態になる。



『あーそこの車、止まりなさい!すでに出口は封鎖された!もはや逃げ道はないぞ!』

 どうやら普通の手段での逃走は無理そうだ。
いっそ……だめだな。アマリアを巻き込むことになる。
それに“ズレ”がある内は念能力者との戦闘は避けたい。

 リムジンはゆっくりと動きを止め、周りをパトカーが包囲していく。

『両手を上げて出てきなさい。さも……』

 最後まで言い切る前にリムジンが輝くや――――凄まじい炎をあげて爆砕した。
響く轟音に呆気にとられたが、彼らは即座に鎮火のための行動を開始した。
その後、警察の調べではリムジンは空っぽだったことが分かった。
死体もなく、痕跡もなく、幽霊が運転していたかのようだと、後に怪談のネタになる。



「……用意はしておいて大正解だったな」
「……なにした、の?」
「備えあれば憂いなし、逃亡準備だ」

金の力は日も覆すトレードマスターによる自分への契約。
内容は、十人以上の敵対者に囲まれた時、所有金及びアマリアと共にヨークシン郊外まで瞬間移動する。
……使用金額が所持金の約半分だったため、出来れば使いたくなかった。

「まあ、戸籍を買っても余りあるから問題ないか」

 思わぬ出費にげんなりしながらも、二人はヨークシンへと歩を進めた。



現在所持金 100’020’308ジェニー(収入 慰謝料・200’020’308
出費 逃走代・100’000’000ジェニー)




[16132] 第4話 Ready
Name: 妄黙認◆8ac1f065 ID:d88a192d
Date: 2010/11/11 16:19
 ヨークシンシティ。

「これ、は?」
「小型の水筒だな。作りも悪くないし……いるか?」
「うん」

 そこは年に一度世界最大のオークションが開かれる都市。

「あれ、は?」
「……魚、だろう(……“知識”では魚に分類されているから合ってるはずだ。
……虫っぽい見た目だが)」

 今はその時期ではない。しかし、その関係から華美やかな影に隠れた“裏”が存在する。

「ねえ……[目を輝かせてみてる]」
「ほら、行くぞ!(説明できるか!!)」

 そう、例えば……。

「ここか」

 このような表通りから遠く離れたスラム街。その一角にある薄暗い廃ビルでのビジネスのように。
“知識”がなければ見つけられなかっただろう、場所。
始めよう、ネーム・サンミリオンを。


■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇



「二人分、戸籍を買いたい」

 そいつは入ってくるなりただ一言そう言ってきた。
全身黒づくめでマスクを被った怪しげな男。
ボイスチェンジャーで声まで変えている徹底ぶり。
どう考えても“後ろ暗い”人間だろう。
つまり……“いつも通りの一般客”だ。
まあ、子連れはめずらいが。

「内容」

 ……あまり深く関わると碌なことにならないな。
この商売で大切な事は“深入りしないこと”。
これに尽きる。

「ネーム・サンミリオン、男、年は12、それとアマリア・クリュ―キー、女、7。
国籍は……」

 奴隷でも飼うつもりか?
まあ、どうでもいいけどな。

「三千万」
「六千万だそう。その代り……忘れろ」
「へいへい」

 まあ、そういうことを言ってくる客もそれなりにいる。
だから書面も用意してある。……守るつもりは全くないがな。
信用は大事だが……命はもっと大事なんでね。
 
 彼は男に書面を目の前に差し出し、書き終わるのを待っていた。
「……ねえ」
とたとたと寄って来た幼女によって中断されるまで。

「おしっこ」
「がまんしとけ!」
「書き終わった」

 書面を確認した後、ネットにつなげ、偽造を開始する。
相場の倍を払うなんて……バカだな。
にしても、“改竄の記録を残さず消す”なんて言われてもやらんさ。
まあ、ばれた時は運がなかったと思って諦めてくれ。

「ほら」
「ああ、確かに受け取った」

 出ていく男を後目に俺は金を受け取り…………。



 ん?寝ていたのか、俺は?それにしても暇だ。今日は“誰ひとり”客が来やしない。
商売あがったりだ。


■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇





「上手くいったみたいだな」

 自分以外に試したのは初めてだったので不安だったが、契約は実行された。
アマリアに意識を向けた瞬間に契約書をすり替えたが……ばれずなくて良かった。
想定よりお金がかかったが自分でやるよりもずっと安い。
これで“自分自身との契約”と“他者に自分が頼む契約”も試せた。
後は……。

「“他者が自分に頼む契約”と“複合”、か」

 契約者が俺様に頼んで願いを叶える場合は問題ないはず。
問題は複合……互いに条件がある場合。
試してみるしかない、か。
それはともかく……。

「……何をしている?」

 ネームの手が男の手を握りしめた。
今しがた買ったばかりのネームの財布ごと。

「くっ!?これは、その……右手が勝手に……」
「無理があるだろ」

 どこぞの念能力者に操られているわけでもないだろうに。
握りしめた手から異音が響いた。

「ぎッ……ガァッ!?」

 油汗を流す男から手を離さず……金の入ったトランクを盗もうとしていた少年に投げつけた。

「「………ッッ!?!?」」

 この辺りはスラム街。当然、治安は悪い。
よって犯罪率も高く、大金を持った子供などカモネギにしか見えない。
実際は鴨どころかグリフォンといったどころだが。

「ごはん、たべたい」

 バイオレンスな光景を見てなおマイペースなアマリア。
あの場所での光景に比べたら何でもないことだが……それでもネームとしてはその将来を不安に思う。

「……いいだろう」

 頭を抱えたい気持ちを抑えて、少年は幼女と歩きだした。



 一時間後。そこは最近はやりの電脳カフェ。満員御礼なその場所にネーム達はいた。
もぐもぐと音を立て、アマリアがミートソースを食う傍らでネームはパソコンを使っている。

 電脳ページ……H×H世界のインターネット。
……実の所、ここが“H×Hに限りなく近い世界”だということは分かっていたが、
”完全に同一”かどうかは不明だった。
その乖離具合によっては原作知識が全く当てにならない可能性が高い。
だからその部分を重点的に調べることにした。
 流れる映像、奔る情報の羅列、キーボードの上で指が踊る。
クジラ島、天空闘技場、グリードアイランド、ゾルディック、そして……幻影旅団。 
 今まで調べた部分では原作と違う点はなかった。
現在はハンター歴1990年。
そして……俺様が一番重要だと思っていた“バッテラ氏のGI収集”もあった。
俺様の念、“トレードマスター”は自分の価値観における等価交換が原則となる。
例えば、“賭けごとで百万を稼ぐ”や“相手の念=AOP(対外に放出したオーラの量)の相殺”
といった具体的な数字を出せる場合はそれと同量の金額(同量のオーラ)が必要になる。
この点から、自分に、金の力は日も覆すトレードマスターを使用しても金儲けはできない。
稼ぐには他人との契約で金を出してもらう必要がある。
さらに大金を稼ぐには……伝手が必須になる。
だからこそバッテラ氏は最適だ。俺様の念なら確実に彼の想い人を救えるし、
必要金額を支払える財力がある。さらに、支払能力のある“ある程度善良な金持ち”との仲介を頼める。
これで金を稼ぐ目途は一応たった。だが……この世界においてはただ金を稼いでも危険だ。
 ネームの脳裏にゾルディックや幻影旅団の事が思い浮かぶ。
反則的に強い殺し屋や盗賊。はっきり言って“大金を持つ=死亡フラグ”になりうる世界。
金を余りに稼げば妬みを買って暗殺依頼が出かねないし、
幻影旅団のターゲットにもなりうるのだから。
だからこそ“極秘指定人物”という情報を遮断する制度がある。
 将来的な通過点の一つとして目指すとし、ネームは次の問題に思考を傾ける。

「武器が貨幣だから常にそれないの現金がいる。
そして、破損したり盗まれたり……おまけに荷物になる、か」

 ネームの念の根幹であるこの世の全ては金で廻るゴールドラッシュ。武器として使用する以上は損壊・紛失は起こりうる。
その上、金の力は日も覆すトレードマスターで常にある程度の現金を必要とする。
おまけに現金だから目立つし、盗まれて使用される可能性まである。
ネームは先ほどの盗人を思い出しながらため息を吐いた。
実際、盗まれないためにはトイレや風呂場にまで持ち込むしかないのが現状である。
 
「持ち運びの問題は直ぐにはどうにも出来そうにない、か。それはまだいい。
ただ、一方的な損失だけは受け入れたくない……が、それが盗難だ。む、盗難は損。
損するから盗難……」

 何か思い浮かびそうで思い浮かばない。
 もどかしげに頭を掻くネームの様子にアマリアはキョトンとしている。

「とうなんされても、そんじゃなければいいの?」

 アマリアの何気ない言葉。
問題の単純化。それは天啓のごとくネームに響いた。

「それだ!盗難されても損しない……いや、得になるようにすれば!」

 ネームは構想する。基本は金の力は日も覆すトレードマスターの変形。相手がこの世の全ては金で廻るゴールドラッシュの貨幣を壊したり奪ったら発動する念。
壊したり奪ってから数分、あるいは返却を要請して返さない場合発動する。そんな念。

「……具現化するイメージは……アレ、になるのか。嫌なイメージだがしっくりくる。
癪になるほどイメージしやすい。
盗んだ金を返却すれば解けるようにすれば……イケるな」

 消失した具現化系の念能力者。そいつが具現化していたのが紙だったのが幸いだった。
おかげで金の力は日も覆すトレードマスターに流用できたし、この念にしても直ぐに使えそうだ。

「礼を言おう、アマリア。助かった」
「どう、いたしまして?……おかわり、していい?」

 ……まだ食べるのか。

「ああ。が、それで最後にしておけ」
「…………………………わかった」

 沈黙が気になったが、了解してくれたようだ。
 六杯目のミートソースの空皿を上に乗せて、パソコンに戻る。
 最後にアマリアの件、だな。
ここから近くの孤児院の情報を検索……八件、か。
預けるに足る場所かは、行って確かめるしかないな。

「ごち、そうさま」

 食費がかかる幼女を預けられる場所があればいいが。
 ネームはため息をつきながら伝票をとった。


 そうして調べた孤児院へいくためにヨークシンを出た所で。

「犯罪者め!逃がしはせんぞ!!」

 一人の念能力者ケイサツカンがそこにいた。
“警察からは逃げられない”。

 

 



現在所持金 40’000’005ジェニー
(出費 戸籍代・30’000’000 痕跡消去+記憶消去代・30’000’000ジェニー 
携帯代・15’000ジェニー その他・5’300ジェニー)




[16132] 第5話 Idea
Name: 妄黙認◆8ac1f065 ID:b12d23c4
Date: 2010/11/11 16:28
 仁王立ちで立ち塞がるその男。青い帽子に青い制服、
パトカーを背に立つその姿はTHE・警察官としか言いようがない。
年日を重ねた渋い顔には強い意思が滲み出ている。

「……邪魔なんだが」
「年端も経たない子供か」

 苦い表情を浮かべながらも、警察官は直立不動。
俺様はアマリアを岩山の方へ避難させた。

「だが犯罪者を逃せはせん!」
「犯罪?人身売買やっていた下衆どもを逃げるついでに皆殺しにしたことか?
それとも臓器を抜かれたあげく、
ばらされた被害者供養のために屋敷ごと火葬にしたことか?
ついでに慰謝料がわりに車とかを持ち出したことか?」

 俺様の言葉に表情を更に歪ませながらも、搾り出すように相手は答えた。

「……今の言葉が真実なら殺人、放火、死体損壊、窃盗の容疑。
それとは別に公務執行妨害と交通違反だ」
「くくっ、下衆な輩をのさばらせておいて、か?」
「……ああ。それでもだ。それが真実と証明されたら心から謝罪しよう。
だが、今から君を捕まえることに変わりわないぞ」

 謝罪?オカシナ事を言う。

「何を言うかと思えば……。そんなもの要りもしない。過去は変わらない。
お前の偽善や自己満足などどうでもいい。そんな無意味な事を言うぐらいならさっさとどけ!」

 不愉快だった。こうして相対していれば分かる。相手はかなりの念能力者だ。
そんな自分たちを救えたかもしれない人間が邪魔をせんとし、あげくに意味のない謝罪をすると言う。
これで腹が立たない人間はそういないだろう。

「……言ったはずだが?逃がしはしない。、と」
「なら俺様から言う事は一つ。邪魔するなら消すだけだ」

 ネームはトランクの中身をばらまいた。
風に舞う大量の紙幣。
警察官は後ろに下がりながら、腰の……メガホンを手に取った。

動くな!!!

 次の瞬間、爆音が響いた。
メガホンから放射状に放たれた衝撃波はネームを貨幣もろとも吹き飛ばし、地面を抉った。

「ぐッ……ァ」

 音速の広範囲攻撃。それを回避するだけの力はまだネームにはなかった。
それでも、この世の全ては金で廻るゴールドラッシュの紙幣が楯の役割を果たしダメージを軽減した。
故に、そのまま立ち上がろうとして……ネームは愕然とした。
 体が動かない!?
 混乱する暇すらなく、高速で何かが飛来する。
それが何かは一目でわかったネームだったが、身動きはまだ出来ない。
結果、防御も回避も出来ずその四肢に嵌った。
手錠。警察官の持つ基本的な拘束道具。
それにより両手足は封じられた。

「逮捕させてもらうぞ」

 百人が百人勝負は決まったと考える光景がそこに出来た。
ひゅんひゅんと警棒を振り回し、進路上の貨幣を数枚破って警察官は突っ込んでくる。
この世の全ては金で廻るゴールドラッシュで相手を狙い、切り裂く。
だが、
「終わりだ!!」
相手を止めるだけのダメージを与えることは出来なかった。威力はあれども狙いが甘く、
致命傷になりそうなのは全て破壊された。
要するに、まだこの世の全ては金で廻るゴールドラッシュの修練があまりに足りなかったのだ。
これで動ければ持久戦に持ち込むこともできただろう。
だが、手錠で封じられた手足ではそれも出来ない。
八方塞がり。ネームは……覚悟を決めた。

「……破った金、弁償しろよ」
「終わりだ」

 十二分な念の籠った警棒が、ネームの首筋に……打ち込まれた。











「……バ、バカな!?」
「……賭けに勝った、か」

 首筋に当たった手錠は見事にへしゃげていた。
警察官には何が起こったのか分からなかった。念の応用技である“周”と警察からは逃げられないチートチェイサーによる強化による一撃。
それは相手の念の防御を確かに上回っていたのだから。
理解出来ない現実に混乱し、後ずさる。

「さて」

 ネームは四肢を封じていた手錠を引きちぎった。

「な、何をした!?」

 ネームはゆっくりと立ち上がる。
 
「計二十万ジェニー」

 そして、一歩踏み出す。警察官は一歩後ずさった。

「何をしたかと聞いている!!」
罰金ペナルティーゴールド
「……何?」

 警察官は更に後ずさり、ネームは更に踏み出す。

罰金ペナルティーゴールドとして、
お前の念は……“差し押さえた”」

 警察官はそこで初めて気付いた。
自らのオーラが……全て消失していることに!!
額には赤い紙。それはどこか禍々しかった。

「お前が損壊した金額は二十万ジェニー。よって二十万ジェニーを返済するまで念は使えない。
もっとも……」

 貨幣が舞う。警察官を囲うように。明確な殺意を持って。

「返済する機会はもうないだろうな」
「待て!これ以上罪をッ!!」

 命乞いではなく、最後まで“警察官”を貫こうとしたその言葉はそこで途絶えた。
 風を切り、肉を斬り、骨を伐る。一瞬、遅れて飛び散る鮮烈な紅。
全ての紙幣が止まった時、そこにはバラけた肉片が紅く散乱するだけだった。

「罪?だからどうした。……言ったはずだ。
邪魔をするなら消すだけだ。
善人だろうが悪人だろうが富豪であろうが貧乏人だろうが老若男女、一切問わずにな。ん?」

 袖を引っ張る幼女がいた。

「わたしに、とってはヒーローだよ」

 その言葉に苦笑いが出る。

「そんなのではない。そもそも俺様を悪人とかヒーローとか当てはめるのが的違いだ。
“赤の他人の価値観”に左右される生き方なんでするつもりは毛頭ない」
「?」
「俺様はネーム・サンミリオン。俺様は俺様の信じた道を行く。
その道は世間で善とか悪とか呼ぶものに重なることもある。
だが、俺様は俺様の信念を貫き通す。他人の価値観を全て無視して」

 んー、と難しい顔をして幼女は考え込んでいる。

「ようするに俺様は“ネーム・サンミリオン”だということだ。
真の金持ちを目指す、な」
「………ヒーローじゃなくてしんのかねもちだとおもえばいいの?」
「まだなっていないから未満だがな」

 紙幣をトランクに戻す……前に証拠の隠滅を行う。
数分後、そこにはただ乾いた風が吹くだけだった。


 
 数時間後、夕焼けが照りつける中、孤児院前に二人の影が差していた。
ネームは予定通り孤児院に辿り着いた。
が、二つの影は孤児院に入る様子は一切ない。

「何?」

 その言葉を聞いた時、俺様は自分の迂闊さを悟った。
アマリアという幼女は感情をあまり見せない。
それはあの場所で心が摩耗した結果。そう考えていた。
それもあるのだろう。だが、それだけではなかった。
……いや、気になる部分はあったが……後回しになっていた。
かなり賢いとは思っていたが。

「やくそく、まだだよ」

 ようするにこの幼女はあの時……。
 
「おとうさん、まだほうむってない・・・・・・・よ?」

 憎悪を胸に秘め、父親の殺害・・・・・を頼んでいたということだ。






現在所持金 37’800’005ジェニー
(出費 罰金代・200’000ジェニー 証拠隠滅代・2’000’000ジェニー)



念能力

心身揺るがす衝撃ショックコール  操作・放出系

 専用のメガホンを使用した念による衝撃波。
それなりの威力もあるが、相手との距離が離れているほど威力は弱まる。
最大の特徴は衝撃波を食らった相手を数秒だけ操作する点にある。

制約・誓約  愛用の専用メガホンを使わないといけない。
       操作内容は動詞一つのみでしかも否定形でなければならない。(例・殺すな、止めるな)
       誰か(操作対象も含む)を殺したり傷つけるような操作は出来ない。




[16132] 第6話 Sign 1
Name: 妄黙認◆8ac1f065 ID:b12d23c4
Date: 2010/11/14 16:07
 口約束。言ってしまえそれだけのもの。だが、ネームにしてみれば“それだけ”ではない。
金の力は日も覆すトレードマスターの誓約、“口約束でも破ってはならない”のだから。

「……父親を殺せ、そういう事でいいんだな?」

 こくっと、アマリアは首を縦に振った。
 ああ。何となくは見え隠れしていた黒い感情。
それを見誤った……違うか。ただ……後回しにしてしまったつけが回っただけ、か。
なら、仕方がない。

「そうか。だが……契約内容が釣り合わない」

 契約は適正なものでなければならない。
その思想がネームにある限り、契約内容を追加する必要性があった。

「どう、すればいい?」

 ネームは契約書を具現化する。自分の価値観の元、適正な内容を定めるために。

「……ちなみに、父親についてどれだけの情報が出せる?」
「なまえが、るーと……るーと・ぷろくたー。それだけ」

 ルート・プロクターという名だけでその男を探さなければならない、か。

「期限は?」
「わたしの、まえでしてくれるなら、まてる」

 無期限。その条件の元、代償が浮かび上がる。

「……俺様の元で働いてもらう。ルート・プロクターを葬るその日まで。
その上で、相手を葬った後に適正金額を払ってもらう」

 相手の強さ、立場、さらに相手が死んでいる可能性まで含めると値段を付けるのは現状不可能ということだろう。
正直、面倒なことになった。どう考えても幼女であるアマリアは枷に等しい。
……今のままなら。ならば……。

「如何なる困難も覚悟の上か?」

 アマリアは静かに頷いた。

「なら、この一万ジェニーを受け取れ。言っておくが契約の途中破棄は互いに許されない」

 小さなその手は迷うことなく、その紙幣を受け取った。
契約書に浮かび上がるサインが契約が成立したことを告げる。
手渡しで念の籠った貨幣をネームと契約者が持つことで双方を操作する。
これも金の力は日も覆すトレードマスターの誓約である。

「行くぞ。互いに険しい道のりが待っている」
「はい」

 予定外はあったが、次の目的地は変わらない。
バッテラ氏の古城。目的のためにもここで失敗は許されない。



■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇


 アマリアの過去。それは母親が全てだった。

「アマリア、ごめんね。何もしてあげられなくて」

 薄暗い部屋の中、いつも彼女は母親と二人だった。
彼女が物心ついた時には、すでにこの状況だったのだから。

「いつか、きっとお父さんが……ルート・プロクターが助けてくれるから、それまで私が守るから」

 母親は、いつもボロボロだった。いつも傷だらけだった。
美しかっただろう金髪はザンバラに切られ、鬘の材料にされた。
美しかっただろう肌は鞭で打たれ、欲望のはけ口にされた。
美しかっただろう体は晒されて、見せものにされていた。
それでも……アマリアにとっては誰よりも美しかった。
普通に考えれば、奇跡だろう。こんな劣悪極まりない環境にありながら、親子の愛があったのは。

「いい、の。おかあさんがいて、くれるから」

 母親は語った。澄み切った空を、広大な草原を、神秘的な森を、活気溢れた町を。
母親は教えた。叡智たる文字を、理たる数字を、想いたる心を、生きる知恵を。
だから、アマリアにとって母親は世界だった。母親さえいてくれれば良かった。
例え…………母親の知らないところでどのようなこと・・・・・・・をされていたとしても。
アマリアは耐えられた。

 もっとも……、
「それじゃあ、行ってくるね」
「うん」
いつもと同じように離れたその日。

「……うそ」

 世界は……壊されて、ばらされて、消えた。

「……………」

 その日からアマリアは何もしなくなった。
全てがどうでも良かった。
もっとも……、
「ハッ!アレの母親は馬鹿だよなー」
真実を知るまでは。

 きこえない。

「だってよー」

 かんじない。

「○○されてできた子を愛していたんだからさー!!」

 ………………え?

「しかもさー、何かの実験かなんかでヤッタらしいしな!ハハハッ!
笑えるよなー。愛どころか欲すらなかったてオチだしー」

 うそだ。

「ああ、そういえばそうだったな。確か……“惚れ薬の効果を調べたかった”とか」

 うそだうそだ。

「そうそう。ここに売ったのもその一環だとか。報告は毎月送ってたけど、
“なかなか、効果的だな。量産できたら良かったんだが”だってさ」

 うそだうそだうそだうそだっ!

「結局、最後まで切れなかったな。
“惚れ薬の効果の最終確認のために最後までやってほしい”ってリクエストが来たからやったが」

 …………。

「まあ、幸せだったんじゃねー?最後まで“愛していた”んだからさー」
「というより、“種明かし”したら“愛してる”を壊れたラジオみたいに繰り返してたな」

 嗤い声が響く中、アマリアは煮えたぎるような何かを感じた。

「……………してやる」

 その日から、アマリアはそれだけを望んで生き続けた。
だけど、無力なアマリアにはただ耐えることしか出来なかった。
そして……。

「君の名前は?」

 彼女は出会った。
彼女を解放し、彼女の願いを叶えてくれるかもしれない相手に。
その後、屋敷を家探ししている最中に母親の遺体は発見された。
“資料”として渡すために保管されていたホルマリン漬けのソレを。
火葬にして、骨だけになった遺骨を埋めた。
アマリアの手には一欠けらの骨片。

「……アマリアの母親はどんな人だったんだ?」
「…………やさしい、ひとだった」

 けど……。

「………どんな事を望んでいた?」
「………わからない」

 いつわりだった。
それは、しはいされていた。
それは……ゆがまされたおもいだった。

「………あいつらは死んで当然の奴らだった」
「?」

 いったい、なにを?

「殺してやりたいと思い、殺してやった。復讐は終わったわけだ」
「………」

 わたしは、まだおわってない。

「復讐は当然のことだ。だが、それで終わらせるつもりはない!!」
「……え?」
「俺様は幸せになる!!下衆どもを纏めて地獄に叩きこむだけで満足できるか!?
それで自分は死んでも良い!?良いわけない。あいつらにそんな価値はない。
それじゃあ、大切な人と下衆どもが等価値だと言っているようなものだ。
アマリアはそれを納得できるか?」

 …………できない。おかあさんとアレがおなじなんて。

「アマリア。復讐は“する”ものじゃなく、“終わらせる”ものだと俺様は考えている。
お前の母親は世界をどう語っていた?」
「………きれいだって、いってた」
「お前はそれを全てみたか?」
「みてない」
「母親が見てきた世界をお前は見たくないのか?」
「………みたい」

 わたしのことばに、かれはわらった。

「なら、復讐だけで人生を終えたつもりになるな。死ぬことなんていつでも出来る」

 …………けど、おかあさん。わたしへのおもいはうそだったかもしれない。

「……おかあさんは、きっと、わたしをにくんでた」

 それをまげられた。

「そう、言ったのか?」
「……いってない」

 けど、きっとそうだ。

「なら、まだ分からない。それなら精一杯に生きるべきだと思うが?」
「……ねえ、それで、もしたいせつなひとから、にくまれたら?あなたは、たえられる?」
「………耐えられるさ。少なくともそれは俺様に対する“強い想い”だ。それに……」

 そして……、
「それでも俺様が愛している事に全く変わりはない。それだけは不変なのだから。
その憎しみ、全て余すことなく受け止めよう」
いいきった。

 ……ああ。そのとおりだとおもう。わたしの、おかあさんへのおもいはかわらない。
みかえりなんて、かんがえることじゃなかった。 
 この日、アマリアは揺るがないネームの想いに憧れた。
それは母親以外に初めて向けた正の感情だった。



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