――プロローグ――
新暦75年5月
機動六課車両出入り口から黒い車がゆっくりと、ミッドチルダ6番ポートに向けて走り出す。
速度が上がって来るにつれて車(オートモービル)は高速ドライブ仕様に車体の空力特性を自動で可変させていく。目的地に向かうためにフリーウェイを使用するようである。
車内には、時空管理局陸士隊用制服を着た二人の女性が三点式シートベルトをつけ乗り込んでいる。
運転席には金色の長髪ストレート、助手席には茶髪のショートヘアで髪の左側に赤いバッテンのリボンを付けた人物。
「でも悪いなフェイトちゃん、6番ポートにまで送ってもろて」
助手席の女性が、申し訳なさそうに運転席の女性に言う。
「いいよ、はやて、私も公安地区捜査部に用事があったから」
運転席のフェイトは、どうということは無いと返している。
はやては、フェイトの方に顔を向けたままで追加の用件を切り出した。
「後な~、マリエルさんからさっき連絡あってな~、クラナガンの技術センターにも寄ってほしいのやけど」
(技術センター?)
フェイトは疑問に思う、普段は出現しないバックミラーに写るフェイトの紅い瞳が、助手席のはやての方に向いた。
はやては自分の指を頬にあて、少女時代の面影を残す表情を作ってフェイトの疑問に答えた。
「ンー、何でもな? シャーリーが初めて一から作製を手がけたインテリジェントデバイスが、本局からセンターに届いたらしくてな、マリエルさんも忙しくて持って来れないらしいのよ、それとな~」
インテリジェントデバイス。
この言葉でフェイトは、八神はやての言いたいことを理解した。
インテリジェントデバイスは、かなりデリケートな品物で、通常の宅配手段はとれない。デバイスマイスター有資格者か、高いランクの魔道士がいなければ運搬ができないし、なによりシャーリーが早く手元に欲しいであろうと言うことが。
「そっか、わかったよはやて、そのデバイスも、ついでに取ってきて欲しいんだね?」
「うん、たのめる?」
上目使いで、はやてはフェイトを見る。フェイトは苦笑しつつも、了承の意を伝える言葉を出した。
「了解です、八神はやて部隊長殿」
道中、聖王教会のカリム・グラシアさんの話をしながら、はやてを6番ポートまで送り。私は、技術センターのマリエル技官に面会を求めたのだが、忙しいらしく、デバイスを受け取るだけになった。
バルディッシュに対ショック浮遊魔法を掛けてもらい、本来の目的である公安地区捜査部方面に向けて車を走らせながら、独り言のようにつぶやいていた。
「まさか、シャーリーがこのデバイスを担当していたなんてね……」
このつぶやきに待機状態のバルディッシュが珍しく声を出した。
<Sir?>
愛機の問いかけに相槌をうった私は、当時の事を思い出しながら声をだす。
「うん、あれからもう……9年もたつんだよね……」
フェイトの運転する車の助手席には、魔力光に包まれた休止状態のデバイスケースがふよふよと浮いており、名称が刻印されていた。
{St-RD-ID-HWS twinpeaks}
フリーウェイを、黒のオートモービルが、クラナガンの街並みに溶け込む様に走り抜けていった。
次元の海での出来事。
ズズーンと激しい音がした。それと共にアラートの文字が一斉に写し出される。
アースラ内部では今の音の原因を調査中だった。
次元の海を航海中に生じた地鳴りのような音である、普通ならありえない現象だ。
「今の衝撃波の発生源は何処だ?」
黒いバリアジャケットを着込んだ黒髪の少年が叫ぶ。
「判明しました、発生源は管理外世界の7番、エルヌアークからです」
女性オペレーターが答え更にアースラの現状も知らせる、幸い艦自体に被害は無いようだ。
少年の立つエリアの真下にいる女性がさらに発言を続ける。
「うーんと、管理外世界の7番か……お? あったあった、クロノ君エルヌアークのデータ出すよ、因みに今のは中規模の次元震だね」
クロノと呼ばれた少年は女性に対し。
「ありがとう、エイミィ」
軽く礼を言い、出されたデータ見つめる。
アレックスの声が艦内に響く。
「エルヌアークにサーチャーを送りました! 5秒で映像来ます!」
クロノはデーターを参照しながら映像が出るのを待つ。
管理外世界エルヌアーク、文明LVゼロ、魔法文明無し。管理局黎明期の時より変わらないこのデータではあるがクロノは映像が出て思わず叫んでしまった。
「なんだ! あれは……」
そこには、管理外世界97番でよく見られる三角錐の物体”ピラミッド”に酷似している、建造物が誕生していた。
――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
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