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[21490] 【習作】魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼【リリなの+FFXI、オリ主】
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/08/27 12:54
はじめまして。

南透(みなみとおる)という者です、これから投稿する作品は別サイトで投稿したSSに加筆改訂をおこなったものです。

【注意】

クロスであるFF11ですが、世界観ではなく、FF11内に出てくるアイテムや武器を使ったWS(ウェポンスキル)等を多数使用した内容となっております。

基本的にリリなの世界です、使用するメイン時間軸はA’s終了の半年後。

多数のオリキャラが出てきますが、モチーフ元がすぐにばれるようなキャラも登場したりします。

この様な感じのSSではありますが読んでくださると幸いです。



[21490] プロローグ
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/08/31 09:47
――プロローグ――

              新暦75年5月

機動六課車両出入り口から黒い車がゆっくりと、ミッドチルダ6番ポートに向けて走り出す。

速度が上がって来るにつれて車(オートモービル)は高速ドライブ仕様に車体の空力特性を自動で可変させていく。目的地に向かうためにフリーウェイを使用するようである。

車内には、時空管理局陸士隊用制服を着た二人の女性が三点式シートベルトをつけ乗り込んでいる。

運転席には金色の長髪ストレート、助手席には茶髪のショートヘアで髪の左側に赤いバッテンのリボンを付けた人物。

「でも悪いなフェイトちゃん、6番ポートにまで送ってもろて」

助手席の女性が、申し訳なさそうに運転席の女性に言う。

「いいよ、はやて、私も公安地区捜査部に用事があったから」

運転席のフェイトは、どうということは無いと返している。

はやては、フェイトの方に顔を向けたままで追加の用件を切り出した。

「後な~、マリエルさんからさっき連絡あってな~、クラナガンの技術センターにも寄ってほしいのやけど」

(技術センター?)

フェイトは疑問に思う、普段は出現しないバックミラーに写るフェイトの紅い瞳が、助手席のはやての方に向いた。

はやては自分の指を頬にあて、少女時代の面影を残す表情を作ってフェイトの疑問に答えた。

「ンー、何でもな? シャーリーが初めて一から作製を手がけたインテリジェントデバイスが、本局からセンターに届いたらしくてな、マリエルさんも忙しくて持って来れないらしいのよ、それとな~」

インテリジェントデバイス。

この言葉でフェイトは、八神はやての言いたいことを理解した。

インテリジェントデバイスは、かなりデリケートな品物で、通常の宅配手段はとれない。デバイスマイスター有資格者か、高いランクの魔道士がいなければ運搬ができないし、なによりシャーリーが早く手元に欲しいであろうと言うことが。

「そっか、わかったよはやて、そのデバイスも、ついでに取ってきて欲しいんだね?」 

「うん、たのめる?」

上目使いで、はやてはフェイトを見る。フェイトは苦笑しつつも、了承の意を伝える言葉を出した。

「了解です、八神はやて部隊長殿」








道中、聖王教会のカリム・グラシアさんの話をしながら、はやてを6番ポートまで送り。私は、技術センターのマリエル技官に面会を求めたのだが、忙しいらしく、デバイスを受け取るだけになった。


バルディッシュに対ショック浮遊魔法を掛けてもらい、本来の目的である公安地区捜査部方面に向けて車を走らせながら、独り言のようにつぶやいていた。

「まさか、シャーリーがこのデバイスを担当していたなんてね……」

このつぶやきに待機状態のバルディッシュが珍しく声を出した。

<Sir?>

愛機の問いかけに相槌をうった私は、当時の事を思い出しながら声をだす。

「うん、あれからもう……9年もたつんだよね……」



フェイトの運転する車の助手席には、魔力光に包まれた休止状態のデバイスケースがふよふよと浮いており、名称が刻印されていた。


{St-RD-ID-HWS twinpeaks}


フリーウェイを、黒のオートモービルが、クラナガンの街並みに溶け込む様に走り抜けていった。












        次元の海での出来事。





ズズーンと激しい音がした。それと共にアラートの文字が一斉に写し出される。

アースラ内部では今の音の原因を調査中だった。

次元の海を航海中に生じた地鳴りのような音である、普通ならありえない現象だ。

「今の衝撃波の発生源は何処だ?」

黒いバリアジャケットを着込んだ黒髪の少年が叫ぶ。

「判明しました、発生源は管理外世界の7番、エルヌアークからです」

女性オペレーターが答え更にアースラの現状も知らせる、幸い艦自体に被害は無いようだ。

少年の立つエリアの真下にいる女性がさらに発言を続ける。

「うーんと、管理外世界の7番か……お? あったあった、クロノ君エルヌアークのデータ出すよ、因みに今のは中規模の次元震だね」

クロノと呼ばれた少年は女性に対し。

「ありがとう、エイミィ」

軽く礼を言い、出されたデータ見つめる。

アレックスの声が艦内に響く。

「エルヌアークにサーチャーを送りました! 5秒で映像来ます!」

クロノはデーターを参照しながら映像が出るのを待つ。

管理外世界エルヌアーク、文明LVゼロ、魔法文明無し。管理局黎明期の時より変わらないこのデータではあるがクロノは映像が出て思わず叫んでしまった。

「なんだ! あれは……」

そこには、管理外世界97番でよく見られる三角錐の物体”ピラミッド”に酷似している、建造物が誕生していた。


       

    ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
             プロローグ



[21490] 第一話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/08/27 12:59
             新暦66年6月下旬

海鳴市の午後の風景が映し出される。海鳴市を突き抜ける国道、午後だけあって車道には色々な四輪自動車や自動二輪車が行き交う対向一車線の道。

国道沿いの歩道を小学生の女の子二名がテクテク歩いている。色々とおしゃべりをしているようだ。

一人は金髪の女の子、もう一人は赤みを帯びた茶髪の女の子。

二人ともツインテール状に髪をリボンでまとめている、ツインテールと言っても二人の状態はかなり違う、金髪の方は頭の左右から腰までかかりそうな位のロング、茶髪のほうは頭の上部に昆虫の触角のようにちょこんとしてるものである。

二人の少女はこの海鳴でも有名な私立聖祥学園の小学部の白い制服を着用している。

「そういえばフェイトちゃん?」

茶髪の少女が今までの他愛のない話を区切って、改めて金髪の少女に話かける、フェイトと呼ばれた少女は茶髪の少女の名前を呼び返事を返す。

「何? なのは」


「今日家にさ、お客さんが来てるんだけど、フェイトちゃんにも会って欲しいの……」

なのは、と呼ばれた少女がお願いをしてきて続ける。

「フェイトちゃん、うちのお店で最近働き始めた飛鳥エナさんて知ってるでしょう?」

フェイトもエナのことは知っていた。

なのはの母である、桃子の製菓衛生士の後輩で翠屋に喫茶店経営のノウハウを学びに来ているとかなんとか。

フェイト自身は背が高く、控えめだけど優しいエナの人柄が気に入っていたりするのだが。

エナの弟が明日から学校に通う事になるため、色々と教えてやって欲しいと、なのはが頼まれたとの事だった。

「エナさんに、弟さんがいたんだ?」

「うん!」

フェイトに元気な返事を返す高町なのはであるも。

「実は、小さい頃に少しだけ、家で暮らしたこともあるんだよね速人君は……」

そう言いながらフェイトに見せたこともない表情を少し出し、直ぐに元の表情に戻って。

「会ってくれるかな?」

お願いビームをフェイトに放つ。

「なのはから男の子を紹介されるとはおもってなかったよ?」

フェイトはそう返しながら(でも、なのはが知ってる男の子なら)会うのが、楽しみかな。

楽しみかなの部分だけ、口に出して返事とした。

正直な所、生来の性格のせいか、学校の男の子とは仲がいい人物が居ないフェイトであった。

「私と誕生日が一緒でね、生まれた病院も一緒なんだよ?」

なのはがフェイトに予備知識を与えていく、そんな午後の風景。










ふたりは高町家に到着。そのまま家に入り、ただいまとお邪魔しますが同時に発声される、リビングの方から落ち着いた女性の声が返事として返ってくる。

「おかえり~」

落ち着いた女性の声の正体は、なのはの母、桃子の様だ。

二人がリビングに入ると、なのはの話のとうりに、エナとその弟である速人がソファに座って待っていた。

少年を見たフェイトは思った。

(この子が速人君? 髪型がユーノに似てるな色は銀色かな……)

瞳は青く澄んでいる感じだった、おもわずじっと見つめてしまっていた。

「なのは フェイトちゃん、おかえりなさい」

桃子が笑顔で言ってくれた、フェイトはこう言ってくれる桃子が好きだった。

「なのはちゃん、フェイトちゃん、こんにちは」

エナが桃子の後に続いて挨拶をしてくる。

「こんにちは~」

二人で一緒に挨拶を交わす、エナはそんな二人を微笑みながら隣で緊張している弟に挨拶するようにうながす、なかなか声を出さない少年。

それを見ていたなのはが、お姉さん気取りなのかエナへの助け船をだした。

「フェイトちゃんこの子が飛鳥速人君だよ?」

フェイトに紹介をした。

銀髪青眼の男の子はなのはの方をちらりと睨んで。

(姉さんを助けたつもり? 僕はよけいに緊張しちゃうよ)

と言うような抗議の視線を送る。

なのはの眼はそんな視線を真っ向からはねのけ。

(いいからさっさと挨拶しなさいよ?)

的な態度と視線を送る、速人は覚悟したとばかりに口をあけた。

「こ、こんにちは……飛鳥速人です……」

おどおどした感じで言う少年。

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」

フェイトも挨拶をした。















「速人君どうしたの? もしかしてフェイトちゃん見て照れちゃったの?」

なのはが速人をからかいはじめた。

桃子とエナはもうお店に戻ってしまって家には三人しか居ない。

桃子特製キャラメルミルクを三人で飲みながら色々と話をしているところだった。

今までの話によると、なのはと速人は海鳴の同じ病院で生まれており親同士のつきあいがあった為に小さい頃から姉弟のように育ってきたこと。

3~4歳の1年間は、この高町の家で一緒に住んでいたことがフェイトに知らされていた。

その間、速人は、なのはの脚色に間違いが無いかを注意しながら聞いていて、間違いがあると正させるといった行為を繰り返していた。

それを面白く思わないないなのはが、先のセリフでの反撃にでた所であった。

「え? あぁうん、そうだね、なのは以外で同い年の女の子と話すなんて初めてだし……」

速人は続けて。

「それに、瞳がすごく綺麗だなと思ってさ?」

フェイトに向かって笑った。

「え? ア……アリガトウ……」

フェイトは照れてしまい、速人の顔を見れなくなってしまう。

「ちょっとぉ、それって私は綺麗じゃないってことなのかな?」

なのはが笑顔の中に(怒)マークを付けて速人に迫っていった。

「なのはは綺麗じゃないよ? かわいいんだよ?」

速人は笑顔を崩さずに言い放っていた。

「むぅ……」

となのはが黙ってしまう。



フェイトは感心してしまった様だ、速人はなのはの扱いが手慣れている。こういったやり取りは日常茶飯事なのであろう、姉弟の様に育ってきたと言うのは伊達じゃないようである。

暫く三人で学校の事とかを話して今日の所はお開きとなり、速人はエナと一緒に家に戻っていった。

飛鳥姉弟を見送ったなのはとフェイトは、高町家の玄関で明日の事を二人で話合っていた。

「アリサちゃんやすずかちゃんも会ってくれるかな?」

と、なのは。

「はやてにも紹介しないとね?」

と、フェイト。

他の友人三人にも紹介しよう、ということで話が落ち着いた所だった。




男の子といわれていたからもっと活発な(ひどくいえばお馬鹿な)イメージを持っていたフェイトだったのだが。

速人はどちらかというとおとなしい感じがしたなと、家に帰りながら思っていた。

(瞳がすごく綺麗だなとおもってさ)

速人のこの言葉にちょっとドキッとしてしまったフェイトだった。













「ねぇ? 今日転校生くるんだって?」


アリサ・バニングスがなのはに言ってきた。

私立聖祥大付属小学部の朝の教室でそんな会話があちらこちらから聞こえていた。

4ー1と書かれたプレートが廊下から約2mほどの高さで揺れている。

なのはの座ってる机の周りには、仲良しであろう女の子が三人程集まっていた。

「この学校にくる転校生って、半年前のフェイトが最後だから久しぶりよね」

アリサが語る。

「でも、うちのクラスじゃないみたいだよ、アリサちゃん」

青紫の髪に白のヘアバンドを付けた少女が口を出す。

「え? そうなの? すずか」

「4ー2に転入だって聞いたよ」

すずかと言われた少女は答える。

それは残念とばかりにアリサ落ち込むのだが、すずかがこう続ける。

「でも、4ー2ってことは、はやてちゃんと同じクラスだから後で話位は聞けるんじゃないの?」

二人のやりとりを見ていたなのはとフェイトは彼女達に告げた。

「アリサちゃん、すずかちゃん、実は、今日くる転校生って私の知り合いなんだよね」

「私も昨日初めて会ったんだけど、おとなしい感じの男の子だったんだよ?」

それを聞いたアリサは。

「フェイトの時もそうだったけど又あんた関係なわけ? 当然わたしとすずかにも紹介するんでしょうね?」

なのはに言う。

「もちろんだよ~」

なのはは当然でしょ? と返事をして。

「それでね……」

作戦会議よろしく、四人は体を寄せて内緒話をするかのように顔をよせて話はじめた。














八神はやては足の方も回復して学校に通えるまでになっていた。

石田医師のアドバイスのせいで教室の一番後ろの通路側の席に指定されており、後ろの備品置き場には、はやてが足の不調を訴えたときの為に使用する折り畳める簡易車椅子が用意されている。

ホームルームが始まる前に席に着き、今日の時間割の内容の確認をして、図書館で借りてきた本を読むのが彼女の日課になっている。

今日は彼女の席のとなりに新しい席が設けられていた、今日くる転校生の物のようだ、クラス内はそのことで朝から騒がしい、とくに男子が。

先生が入ってきて転校生も続いて入ってきた。

はやては思った。

(ユーノ君に似てるな、特に髪型が、色は銀で瞳は青か、外国の子やろか?)

と考えていたが。

飛鳥・速人と黒板に書かれた名前をみた。

「飛鳥速人です……どうぞ、よろしくお願いします」

元気とは言いがたい口調で挨拶をしていた。

(ナンヤ、元気の無い子やね? もうちょっと元気あってもええと思うけど)

先生がはやての隣の席に付くように言って、その子がはやての隣に座る。

「よろしくな~」

はやては速人に声をかけた。

「よろしく」

速人も挨拶を返す。

初めての学校での授業なので、隣のはやてが授業の進み具合とかを教えながら速人と話をしていた。

簡単な自己紹介も終わって。

「飛鳥君て、ハーフかナンカか?」

質問してみたはやてだった。


私の質問に飛鳥クンはちょっと考えてから。

「ううん、ちゃんとした日本人だよ、生まれた時からこの髪と瞳(め)だから」

ちょっと笑って答えた。

「ごめんな、私って気になるとすぐ口にだしてしまうのよ」

はやては申し訳なく思いあやまった。

「気にしないで、前の学校でもよく聞かれたことだしね」

この会話の後にお互い色々話をして(授業中ではあるのだが)

彼が元気がないというよりも大勢から集まる視線が苦手で緊張していたのだと聞かされた、上がり症なんやろか?

休み時間の時にクラスの男子が速人クンに早速質問をしてくる。

「飛鳥の特技ってなに?」

「うーん、特技とよべるか解らないけど好きなのは絵を書くことかな?」

聞かれた速人クンは絵を描くのが得意と答えた。

「うんじゃ何でもいいから何か描いてくれよ?」

速人クンは少し考えてから。

「うんじゃ八神さん描くね?」

と言い出した。

鞄から絵を描く用の何かとスケッチブックを取り出し。

「漫画とかはあまり好きじゃないから、人物画で」

私をすごい真剣な眼で見つめ、スケッチブックにスラスラと描き始めた。

私はいきなりモデルにされてしまい、その場で固まることしかできなかった。

速人クンが私を描き始めると私と速人クンを中心に男女問わず、クラスメートが集まってきた。周りのクラスメートは描きあがっていく絵と私を見比べている。

(ナンヤもう蛇に睨まれた蛙の心境や、きっと今の私ならガマの油を絞り出せる!)

そう思えるくらいにメッチャ緊張した3分間だった。

「完成かな?」

速人クンは言った、その画をみたクラスメートは。

「すげー! とか、すご~い」

とか声を揃えてあげている。

速人クンはそのページをビッと破り、私に差し出した。

「いきなりモデルにしちゃって御免ね、お礼にこれをあげる」

描きあがったソレを渡してくれた。

そこには、私がいた、といっていいくらいの画があった。










仲良し五人組はいつもの様にみんなでお昼を取っていた。

いつもと違うのは人数が一人追加されているのと、男の子が女の子の中に加わっていることだろうか。

「じゃあ改めて紹介します、飛鳥速人君で~す」

なのはが身内を紹介するような感じでアリサ すずかに紹介した。

「飛鳥速人です、どうぞよろしく」

二人に丁寧に挨拶をする速人。

「私はアリサ・バニングス、よろしくね速人!」

「月村すずかです、よろしくね速人君」

ついさっきの事だが。

昼休みになった時点で速人の所に4ー2のクラスメートから昼の誘いが殺到していた。

大勢の視線が苦手な速人にとっては逃げ出したくなる一歩手前まできていた所。

なのは達が駆けつけ、アリサによってその誘いの魔手から救いだされて現在に至る事を明記しておく。

アリサは同学年の男子からバーニングアリサと呼ばれ恐れられているのだ。


女の子同士の昼食は各自持ち寄ったお弁当のオカズ交換からはじまり、時間をフルにつかって会話を楽しむ感じで進んでいく。

正直、速人にとっては居心地がよろしくないのだが、助けてもらった手前どうしようもない。


「そう言えばあんた、なんであんなに昼食の誘いうけてたの? いくら転校初日といえどアレは異常でしょ?」

アリサは、はやてが作ってきた唐揚げを頬ばりながら聞く。

フェイトの時のことを考えても速人の所に集まっていた人数は多すぎるといって良いくらいだった。

「異常なのかな……」

速人は苦笑いするしかない。

「それなんやけどな?」

速人にかわってはやてが理由を説明した。

休み時間の出来事を、そしてその証である物を。

これや! と他の四人に見せつけた。

四人は(とくにアリサが強く)口を揃えてこう言った。

「はやて!(ちゃん)よりもかわいさがある!」

どうやら速人が描く画は女の子に対してかなりの破壊力を持つ物の様である。

あんたら、本人(モデル)に向かっていうことはそれかい。

はやては内心思ったのだが自分でも画を見て、ちょっと思ってたのでここは抑えた。

「速人君はどこに住んでいるの?」

すずかが珍しく自分から話を切り出した、画の効果であろうか、目の前の男の子に、少なからず興味を持ったようだ。

「うんと、アーバンハイツっていうマンションで、1階はスノーレインっていう画材とか文房具をうってるお店になってるとこなんだけど知ってる?」

「私の家の近くだよ!」

それを聞いたフェイトが何故か強く言い放っていた。

「そうなんだ、じゃあ改めてよろしくだね、えっとハラオウンさん?」

「言いにくいだろうからフェイトでいいよ? わたしも速人って呼ぶからね?」

フェイトは名前で呼ぶことを勧める。

「うんじゃ、私もはやて、でええで?」

アリサもすずかも、名前で呼ぶことをすすめた。

その後いろいろ話もしつつ、なのは、フェイト、速人は家路についていた。

フェイトはなのは達と別れ自宅に戻っていた。

部屋着に着替えリビングにいくとクロノがちょうどかえって来たところだった。

「おかえり、クロノ……」

ハラオウン家に養子として入ったのが半年前なのだが、いまだお兄ちゃんとは呼べないフェイトだった。

「ただいま、フェイト」

フェイトを見たクロノは義兄の顔で挨拶をすませた。

二人で一緒にお菓子を摘みながら、フェイトは学校の出来事、クロノは仕事での事などを話す。

半年掛けてようやっとフェイトがたどりついた兄妹のコミニュケーションの形だった。

不意に、クロノは黙って少し考えてからフェイトに話を切り出す。

「フェイト、すまないが今度の週末仕事にでてもらう」

クロノの顔は義兄から執務官の顔になっていた。








      ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
             少年と少女達 




[21490] 第二話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/08/31 09:49
次元航行艦アースラはすでにエルヌアークの建造物上空に待機していた。

「では今回は、ユーノとフェイト、それにミルズの三人で建造物内部の調査をしてくれ」

クロノは三人に告げる。

フェイトは先ほど紹介されたミルズ・ヒューディーの方を見ていた。

時空管理局広域特別捜査官、自分よりも先に管理局の仕事についていて、ロストロギア回収のスペシャリストと言われている。

ベルカ式の使い手で黒に統一された騎士甲冑はミルズの黒髪と同じ様な黒の中にも翠色がかった(いうなればカラスの羽色)感じである。

その容姿から黒翠色の騎士と呼ばれている。いつか手合わせをしてみたいな、フェイトは仕事そっちのけでそんなことを考えていた。

「フェイト! 調査内容は理解できたのか?」

クロノの少し怒った声にフェイトは意識をクロノに向ける。

「あ、うん……ごめん」

義妹の曖昧な返事にため息を漏らすクロノ。

「まぁいいじゃないかクロノ、捜査の責任者は私だし義妹さんはどちらかというとユーノの護衛が本来の目的なんだから流れだけでも理解できてればいいよ」

ミルズは笑って言った、その笑顔に見覚えがあるようなフェイト。

(アレ? どこかで見たような感じがするんだけど)

そんなことを考えていると。

「では、内部調査にいきますか?」

ミルズはフェイトとユーノに出発を促した。

建造物の入り口前で検索魔法を展開しながらユーノは口を開く。

「うーん、内部構造自体は管理外世界97番の神殿に近いね、小部屋や大部屋など多数在るみたいだけどさ」

ユーノの検索魔法は闇の書事件以降さらに精度を増していて、現在のような大型建造物の探査も可能になっていた。

「内部に入っても平気なのかい?」

ミルズは危険性が無いか、ユーノに問う。

「内部の危険度は低いし結構しっかりした造りの様だから入っても平気だとおもうよ」

では入ろう、とミルズは二人にそう告げる。

内部に入り調査を続ける三人、小部屋を数カ所調べた先に目的の高いエネルギー反応がある大部屋にたどり着く、この反応の調査が今回の目的だ。

三人が部屋にはいるやいなや。

「これは……なんて綺麗な宝石なんだろ」

フェイトは今まで見たことが無い宝石に感動したように口を開いた。

(フェ、フェイト……)

ユーノはこのフェイトの物言いにつっこみを入れたい衝動に駆られる。

確かに綺麗だ透きとうるような白金(プラチナ)色の光り、見る者の心を浄化するような輝きを放っているのだ。

だけど、デカすぎるでしょ? ここにいる三人の背丈の倍近い大きさだ。


瞳をキラキラさせて宝石を見つめているフェイトをユーノとミルズは女の子なんだなぁ~ と言うような苦笑を出しつつ宝石の様な結晶体の調査に入る。

「ざっと計算してみたけど、この結晶体僕が以前発掘したロストロギアの数百倍のパワーを内包してるね、でもものすごく安定していて封印しなくてもいい感じだな」

ユーノはミルズに説明する、ジュエルシードの単語を使用しなかったのはユーノなりのフェイトへの配慮だろうか。

「まぁでも、一応完全封印処理施さないと何があるか解ったもんじゃないしね……やるべきことはしておきましょう?」

調査も封印処理もすませ、ユーノはクロノに通信を開く。

「今までの解析結果から言うと、先日の中規模次元震の発生元はこれだね、封印も完了したからそっちで回収のほうよろしくお願いします」 

空中に浮かぶディスプレイの中のクロノが解ったと頷く。

「よこやりすまない、その先の大部屋からもう一つの反応が出始めているんだけど、アースラの方で何か解らないか?」

ミルズがクロノにこの先のエリアの報告する。

ユーノは検索魔法をもう一度展開させて内部を調べる、先ほどの展開時には無かった反応が出ていることを確認した。

「捜査官の経験からくる勘ってやつでね、一足先にちょっと奥のほう見てきたんだよ、ここの造りと似たような部屋があった」

それを聞いたユーノはなるほどなと感心したように。

「相変わらず君は行動が早いな、回収のスペシャリストは伊達じゃないって所かな?」

肩をすくめる仕草をとりながら話す。

ディスプレイ先のクロノから。

「こちらでも確認した、かなりのエネルギー反応だな……僕もそっちに向かおうと思うが?」

クロノ意見をミルズが制する。

「いや、君はこっちにある結晶体の回収を頼むよ、三人居るんだし、ユーノスクライアと言う封印処理のスペシャルもいるんだ、次のもちゃんと回収できるようにしてくるよ」

三人は反応があった部屋の前に到着。

「扉にかなりの魔法力を感じるね、解除できるかな?」

ユーノがミルズに口を開く。こういった芸当は君の専売特許だろう? という感じで。

「出来るか、やってみるか……」

ミルズの足元に黒色のベルカ式魔法陣が出現する。

フェイトには理解出来ない呪文をつぶやき詠唱が完了するとミルズは扉に触れる。

<Dispel>{ディスペル}

ミルズのデバイス、バスタードソード状のグラットンソードが発声する。

彼が触れた扉は音も立てずにスーと消えていく内部の状況が次第にハッキリとしてくる。

先ほどの結晶体の様な物はなく、部屋の中央に2mほどの高さのモノリスが3体ほどあり、1つは文字がびっしりと彫り込まれてる。

文字の書かれたモノリスの左右にあるモノリスは、人物画ともいえるモノが描かれている。

「これは……すごい発見かもしれないよ!」

ユーノが興奮した声をあげる。

「どうして?」

彼の突然の興奮を理解できないフェイトはユーノに質問をする。

ユーノは興奮を抑えずにしゃべりだす。

「だって考えてごらんよ? このエルヌアークは管理局黎明時代には文明が無いとされていた世界だよ? その世界に、さっきのエネルギー結晶もそうだけど、このモノリスには文字が刻まれてるんだ、それにこの人物画だ」

ユーノはフェイトの質問に答えながらも視線はモノリスから離さなかった。ユーノの代わりにミルズが締めの言葉をフェイトに送った。

「つまり、この世界には文明があった、ということだね」


ひとまず、アースラに報告しようとミルズがクロノに連絡を取る。

ユーノは、スクライア一族の血のせいかこの手の発見には興奮を隠せない。

フェイトは、ユーノの興奮を他所にモノリスの人物画の方に気を取られていた。

左のモノリスには学校で習った中世時代の騎士の姿の形をした男性の画で、ミルズと似たような剣を右手に、左手には盾を持ち、無骨な全身鎧を着込んだ姿。右のモノリスは弓を携え今にも襲ってきそうな姿の男が描かれていた。

「そうか、先の結晶体はアースラに移せたんだな?」

フェイトの耳にミルズの声が入ってくる。 

「ユーノ! クロノがこちらにも人数を回すから私達はひとまずアースラに戻れってさ」

ミルズが言う。

ユーノはエー? と明らかに不満げに言うが、モノリスも回収するから本局にもどってゆっくり調べた方がいいだろう? と諭されて渋々戻ることにした。

それを見たフェイトがクスリと笑う。


三人は一足先にアースラ内部で休息を取っていた。

「クロノに呼ばれる時ってさ~ 大概ロクな目に遭わないんだけど、今回はすごい発見があったし僕的には満足かな~」

コーヒーを飲みつつユーノは話す。

「聞こえているぞ」

三人が声がした方向を見るとクロノがやってきた。

ユーノは気にしてない。

「本局に戻ったらこの案件のデータ処理と解析を君一人にやってもらうとしようか」

クロノが先ほどのユーノの発言に皮肉を言う。

なのはと会う約束があるからそれだけはやめてくれと、ユーノが焦り始める。

そのやり取りをみてたフェイトは、なのはが聞いたら喜ぶだろうな、とか考えてココアを飲んでいた。

「クロノ、さっきのモノリスの回収はすんだのかい?」

フェイトがココアを飲む傍らでホットコーヒーを飲むミルズが回収状況を確認する。

「文字の方は回収できたんだが、画の方がもう少しかかりそうだな」

言い終わる頃に、ズズーンという音がした。

「「「なんだ?」」」

四人は音の正体を知るためにブリッジに上がろうとする、空間ディスプレイにエイミィとリンディが同時に現れる。

「クロノ君、ベータエリアに小規模の次元震を確認したんだけど……」

エイミィの話によると艦からさほど離れていない場所にさっきの建造物と同じような物が出現したらしい。

「それとクロノ、回収を担当した武装隊から報告でモノリスの画が実体化してその建造物に向かっているの」

アースラの最高責任者である艦長リンディが言う。

ディスプレイには二人の人物が映し出される、フェイトが見たモノリスの画そのままの姿で。

「フェイト、ミルズ捜査官、実体化した人物を追って下さい二人は武装局員を何人か殺しています」

リンディが出撃命令を出す。

「了解しました! ミルズ出ます」

「フェイト出ます!」

二人は急いで部屋から出ていく。

「クロノは部隊の回収を、ユーノ君もその手伝いをお願いします」












フェイトとミルズはバリアジャケットと騎士甲冑を展開、自分のデバイスを起動させて大空に飛び立つ。

ベータエリアに到着すると画の中の人物達が建造物内部に進入していく所だった、二人でそれを追っていく。

「止まりなさい! こちらは時空管理局です、あなた方を殺人の現行犯で逮捕します!」

フェイトは声を張り上げて彼等の制止を計る。

騎士姿の男と弓を持った男はフェイト達の方を向く二人ともかなりの長身である。

二人を追ってきたフェイトとミルズは、先の結晶体と同じような部屋にいた、そこには確保した結晶体と形は一緒ではあるが、黒いというか闇のような感じの色を帯び、不思議な感覚に陥る淡い光を出している物体がある。

騎士姿の男は、フェイト達の方に体を向けたまま低いトーンの声を相方に発した。

「エウリュトス、クリスタルの回収はどの位でできるのだ?」

名前を呼ばれた弓の男は、クリスタルと呼ばれた物体に接近して行き、返事をする。

「5分もあれば、完了ってとこですかね」

「ならば私が時を稼ごう、この少年と少女は先の男共よりは手応えがありそうだ」

騎士姿の男は、表情を変えずに剣を構える。 

「ま、それでも死ぬことに変わりはないんだけどね」

エウリュトスと呼ばれた男は、結晶体に何かの術式を施しながら、フェイト達と騎士姿の男の戦いの結果を予想する言葉を漏らす。

「実力行使ってことですか……」

フェイトは愛用のデバイスバルディッシュ・アサルトを目の前の騎士に構え、そう言いながらも。

(この男の人……隙がない、かなりできる?)

心の中で呟いた。

「すまないな、我々にも目的があるのでな、邪魔をするならば排除させてもらう……七罪の番人、大食のグラトニー、大命の為、君たちの命もらい受ける!」

言うやいなやフェイトに向かって走り出し剣を繰り出す、速い! フェイトはその速さに対応が遅れる。

ガキィン! と音がした。ミルズがグラトニーとフェイトの間に割って入り、剣と剣での鍔迫り合いの体制に持っていく。

「グラトニーとか言ったな、目的ってなんだ?」

フェイトとあまり身長が変わらないミルズであるが、身長差をものともせずに、大食のグラトニーと名乗った男を睨みつけ、グラトニーの剣を振り払う。

「ここで死んでゆく身の者に語る必要はない」

静かに語るもミルズに剣を振りかざすことは止めない。

<Poton Lancer>{フォトンランサー}

バルディッシュの発声音が聞こえ、グラトニーに4本の光の槍が襲いかかる。

「!」

グラトニーはその槍を盾で受ける、ドカーンと激しい音がしてグラトニーの周りに魔力の爆発煙が立ちこめる。

「ほう、魔法を使うか、しかもサークル式とはこれは楽しめそうだ」

グラトニーとフェイト&ミルズの戦いが始まる。グラトニーは二人を同時に相手をしているのにも関わらず、剣と盾を巧みに使いこなし、背後で何かの魔法の儀式をしている緑髪の男の所に近づけさせない。

「くっ、あの盾が厄介だ……」

フェイトは目の前の男にあせりを感じていた、ミルズが相手の気を引き、自分に魔法使用の時間を作ってくれたのに、相手はノーダメージの上に、二人ががりでもグラトニーで精一杯、エウリュトスの方に近ずけないのだ。

「ハァッ」

ミルズが気合いの入った声でグラットンソードを振るう、グラトニーはそれを盾で受け流し、ミルズめがけて横薙の一撃を振るう。

<sonic move>{ソニックムーブ}

フェイトはスピードを活かし、ミルズへ振るわれた剣をバルディッシュで受ける、グラトニーは力任せにそれを振り払う、フェイトはその反動で壁に吹き飛ばされる。

<defenser>{ディフェンサー}

壁にぶつかる寸前にバルディッシュのディフェンサーが発動し体へのダメージを減らす。ただいたずらに時間だけが刻まれていく。

(テスタロッサさん私に考えがあります、私がグラトニーに切り込んだらサイズフォームで追撃をかけてください)

ミルズから思念通話が聞こえる、このままではこちらに勝機はないのでフェイトは同意する。

「後1分だ」

エウリュトスはグラトニーに言う。

グラトニーとフェイト達の間は今3mほど離れていて間合いの探りあい状態である。

「どのみちこのままでは!」

ミルズは叫びカートリッジを2発ロードしベルカ式魔法陣を出現させてグラットンソードを構える。

フェイトは言われたとうり、サイズフォームにバルディッシュを変形させ魔力刃を出現させた。

「グラトニー……これが受けきれるか?」

グラトニーを挑発するミルズ。

「面白い! サークル式の次はデルタ式か」

挑発にのるグラトニー。

「剣閃溶解……レッドロータス!」

ミルズのグラットンが赤く光りグラトニーに向けて正面から一気に突っ込む。

グラトニーは盾で剣閃を受け止め、剣でミルズの左肩めがけて切りかかる、盾に阻まれたグラットンからマグマの様な物体が生じグラトニーの盾を包み込み本人にもひろがってゆく

「!」

フェイトがすかさずグラトニーに向けて鎌状態になったバルディッシュを振るう。

<scythe slash>{サイズスラッシュ}

「ハァー!」

気合いの入った一撃、クリーンヒットとは言えないが、ダメージは通したことを感じれる手応えをフェイトはつかんだ。

ビュインと音がしてグラトニーの盾にバルディッシュのサイズスラッシュの軌跡が白い光りとなって出現する。

バリン! と音がしてグラトニーの盾が切断されるそれを見たミルズは思惑が外れたのか苦々しい声で悔しがる。

「くそっ、連携でも効果なしか」


「完了だ、グラトニー」

エウリュトスが声をだすと、転移魔法陣も生成されており、大きな四角い緑色の魔方陣が彼等を包むように床の上で光を放っている。

「引き時か、盾を破壊されるとはな」

ミルズがおこした(連携魔法)の効果に多少の感心を示したグラトニーは、剣を収め口を開いた。

「こちらの目的は達した、さらばだ小さき戦士たちよ……」

男達は転移魔法によってどこかに消えていった。

残されたフェイトとミルズ、フェイトがミルズの方を見ると、ミルズは左肩から血を流していた。


       ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――



            第二話 広域特別捜査官 




[21490] 第三話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/08/28 08:32
エルヌアーク調査報告。

アースラスタッフにより発見された、管理外第7番世界の中規模次元震動現象から、今まで見たこともない建造物の出現を事の発端とした今回の事柄の報告をここに明記する。

回収されたエネルギー結晶体と文字の刻まれたモノリス、モノリスの文字は古代ベルカ言語に非常に似ているため、聖王教会に非公式ながら解読の要請をかける。

現在の解読で解っている事柄は、回収した結晶がプロトクリスタルと呼ばれている物で、全部で8種ある、回収できたのは光のプロトクリスタル、他に土、水、風、炎、氷、雷、闇、が在ることが解った。

特徴として名前を冠する属性のエネルギーをため込む性質があり、その量は現在認定されている第一級捜索指定ロストロギアの数百倍とされている、使用目的は未だ解読を待つ状態である。

ミルズヒューディ捜査官、フェイト執務官補佐が遭遇した二人の人物に関しての情報。

文字が刻まれた同型のモノリスの画から、まるで浮き出るように実体化したのを、武装隊員が証言している。

二名はそのまま局員を殺害逃走、気になる言動を局員が聞いているので明記。

「封印が解けたのか?」

「なら、他の奴らも同じようにもどっているかもね」

等の会話がされたらしい。

二名の身体的特徴と名前もミルズ、フェイト両名より判明。

一人目:自らを 七罪の番人(大食)のグラトニーと名乗った男、180cmほどの背丈であり、剣と盾を巧みに使いこなす様子。

二人目:エウリュトスとよばれた者 中性的な容姿で180cm位の背丈、緑色の長髪と同色の弓を所持、転移の上位魔法の使用が確認されている。

ミルズ捜査官の話によると、強奪されたプロトクリスタルは色からして闇のプロトクリスタルではないか? とのこと。

「ふう」

本局執務部で報告書を書いていたクロノは溜息をついた。

あの後、ミルズが負傷してアースラに帰還し、応援部隊と交代でこちらは本局にもどり現在補給中であった、いちおう休息指定のはずなんだがクロノは落ち着かないので報告書の作成なんかをしていた。

「そろそろ、時間か……」

執務官クロノ・ハラオウンは部屋の壁時計をみて、報告書作成を中断し部屋をでた。









第61管理世界スプールス。数多くの希少生物や植物が存在する世界。

時空管理局自然保護隊が派遣されるような世界である、この世界の生物が次元世界においてかなり貴重な存在だと言う事が理解できる。

スプールスでの移動手段は管理局によって規制されており、次元港を除くエリアでは馬車か騎乗馬に乗っての移動、もしくは徒歩となっている。

その為、馬が一日で走破できる距離には必ず宿場町が設けられ、スプールスに住む人々はこの世界に訪れる観光客が落としていく資金で日々の生活を送っている。

ある場所の宿場町。その観光宿の一室には一人の男が滞在していた。

エルヌアークでフェイトとミルズの二人と戦闘をした大男、グラトニー。彼はあの後この世界に転移したようだ。もう一人の男もこの世界に居るのであろう。

グラトニーの姿は無骨な全身鎧姿ではなく、いたって普通の格好である、特徴としては大柄な体格、重い武具を扱う為に養われた筋肉が目立つ、一言でいうならマッチョマンと言うところか。



現在彼が何をしてるのかと言うと、彼と同じくモノリスの封印から解かれた男、エウリュトスとなにやら通信している様である。

「ふむ、この世界に風のプロトクリスタルの波動を感じるのは間違いは無いんだが」

「グラトニーが言うなら在るんでしょうけど……私では波動を感じる事ができないんですよね……」

エウリュトスの泣き言に近い返事にグラトニーは困ったものだ、という表情を見せたが、すこし考え意見を述べた。

「確か……この世界には風竜がいたな? 奴ならプロトクリスタルを手元に置きたがるのではないか?」

グラトニーが言う風竜とは、この世界の象徴とも言える存在であり、名をリンドピオリムという。

普段は一般人が到底入る事ができない夢幻の回廊という場所におり、ごく稀にスプールスの大空を飛ぶ。

グラトニーの意見に通信相手の緑髪の男はなるほどね、というニュアンスの返事を返してきた。

「あー、つまりそいつから奪って来いと言うんだね? グラトニーも人使いが荒いね、まぁいいや、行って来るよ」


エウリュトスは通信を切った。

通信が切れると筋肉の大男は今まで座していたベッドから立ち上がり、地図を手にしてつぶやいた。

「まずはラースの行方を探さんといかんな……」

ギシッ! と部屋の床板が彼の体重を支えきれないよ、と言うような悲鳴に近い音をあげた。







「コーヒーでいいな?」

ミルズはクロノに答えを待たずにカップを渡す。

「どうも」

クロノはそれを受け取る。二人がいる場所は本局医局のレストルームだった、ミルズがクロノを呼び出しクロノがそれに応えたと言うわけだ。

「話と言うのは何だ?」

コーヒーを飲みながらクロノが切り出す。

「今回のことなんだが、私も最後まで関わらせてくれないかな?」


「ロストロギア回収のスペシャリストなんて言われてはいるが、その実、探査調査の初動扱いのみで、最後まで関わった事件なんて一つもない」

今までの担当した事件の経験を思い出すように目を閉じるミルズ。クロノはミルズを見つめながら考えていた。

ここ2年程のつきあいではあるが、ミルズが保有する希少技能。

物体魔力解除(ディスペルマジックオブジェクト)は、探査捜査向きで戦いに向いてはいない、だからこその広域特別捜査官ではあるのだが。

クロノ自身も初動捜査だったのでミルズを使った訳だ。

回収が済んだらサヨウナラをするつもりもないのだが、ミルズから嘆願してくるのも初めてのことだった。

「肩の怪我はどのくらいでなおるんだ?」

コーヒーを飲みつつ容態の確認をする。

「4、5日もすれば平気だといわれたけどね」

ミルズもコーヒーを飲みながら応える。

「アースラの次の出航は一週間後だ」

継続させる答えとしたものの、クロノはミルズに質問していた。

「君に質問だ、回収をメインに動いてる君が、何故今回は最後まで続けたいんだ?」

ミルズは真剣に答える。

「たまには、ケジメをつけてみたいんだよ」

「そうか」

クロノは笑ってレストルームを後にした。クロノを見送ったミルズはクロノに本当の目的は伝えなかった。

(もし、本当のことを伝えたらクロノ……君は私を恨むだろうな……)

一人、レストルームに残ったミルズはモノリスの文字を解読していた時のことを思い返す。

(モノリスに刻まれた文字は間違いなく生まれ出る命に関係しているものだ、解読した内容のとうりだとしたらその日が近い……番人も復活しているし、彼女との連絡もとれない、番人が生まれ出る命を見つける前に何とかしないといけない、そのために私は管理局に入ったのだから……王女もうすぐですよ……)

ミルズの顔には悲壮なる決意の顔が浮かんでいた。










七罪の番人、グラトニーは1日歩き続け彼が封印されていた同形のモノリスがある所に到着していた。

その場所とは、管理局によって立ち入り禁止に指定されている森林の奥深い場所、

通称迷い家の森。

辺りはすっかり暗くなっており大男はランタンを手に持ち二つのモノリスを見つめていた。彼の表情はとても穏やかなものであり微笑んでいる、とも取れる感じだ。

「フフ……相変わらず、仲が良いのだな」

モノリスに描かれている画。一つ目は小さな少女がほぼ全裸に近い状態で胸の中央にハンマーと思えるペンダントがかけられている画。

もう一つの方は少年で、少女の画と同じようにほぼ全裸に近い状態で右手に湾刀状の剣を握っている。

かなりの時をこの場所で過ごしてきたのであろう。

モノリス自体に蔓や草が絡みつき部分的に苔まで生えていたりする。その邪魔な物を丁寧に払いのけた。

「ラースにグリードよ、今おこしてやる、長い休眠は終わりだ」

グラトニーが指先に魔力を込める、右の人差し指が金色に光り出す。

ぶつぶつと魔法の詠唱をしだす筋肉男、やがて詠唱が完了したのかモノリスに六角形の魔法陣を器用に描いていく。

モノリスが金色に輝き始め、描かれていた画が立体化してモノリスから出てきた。

モノリスから分離をした二つの立体は完全に人と言える状態になる。

男の子と女の子の二人は静かに閉じていた両目を開いた。

「ここは……どこですわ?」

女の子の方が喋るとグラトニーは二人にマントをかぶせて話す。

「ラース、今は喋るな、後でゆっくり話してやる」





夢幻の回廊では、風竜の無残な死体が転がっていた。

緑髪の男の手によって命を絶たれたのであろうか。

リンドピオリムの身体の各所には弓矢で射抜かれた跡が多数あった。弓士エウリュトスの壮絶な技をその身に受けた為に出来た跡。

エウリュトスは死体の一番上で座している。

右半身に大きな緑色の弓を抱えてグラトニーと通信をしていた。

「ああ、グラトニーの言う通り、風竜が持っていたよ」

貴方のご推察の通りです、という返事をしながら弓士は回廊の最深部に存在している緑色の水晶体を見つめていた。

風のプロトクリスタルは、こうして七罪の番人の手に入った。



    ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
           スプールス






あとがき

南です、始めまして。

此処まで読んで下さった皆さん、ありがとう御座います、今回の話はアルカディアに投稿するために加筆した部分が多めになっています、別サイトで投稿してた当時の文に追加して七罪の番人側のエピソードを加えてあります。

この後、クロノ達管理局と相対する敵役な彼等でありますが、グラトニーが言っている通り、ある目的の為に動いていきます。

なのは達管理局サイドとグラトニー達番人サイド、両方の視点を使って物語を作っていけたらいいなと、考えています。

完結まで、お付き合いしていただけたら嬉しいです。

ではでは



[21490] 第四話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/08/29 12:15
7月15日、本日は聖祥小学部の海鳴自然公園内での全体写生授業で1日ここで過ごすことになる。

クラスも関係なく行動できるので、仲の良いグループで活動となるのは言うまでもない。

「おっそいわねーアイツ(速人)」

約束の時間になっても来ない速人にアリサはいらつき始めていた。

「これはあれよね後でバーニングヘッドロックの刑ね!」

アリサ・バニングス、速人に対し死刑執行を宣言していた。

「アリサちゃん……速人君きっと色々準備があるんだよ、私達に絵の書き方教えてって言ったのアリサちゃんじゃない、少し落ち着こうよ?」

ムキー! といらついてるアリサをすずかが落ちつかせようとする。

その様子を見ていたなのは、フェイトは

「アハハ……」と乾いた笑いを出すしかない。

(で、はやてちゃんはそのエルヌアークの調査に?)

なのはとフェイトは念話ではやて不在の話をしていた。

(うん、クロノが正式に要請して今日は本局だって)

(そっか、わたしも手伝えればいいんだけどな)

(今の所はなのはが出る必要は無いってクロノいってたよ、なのは使うとユーノは怒るからなって)

(ど、どうしてそこでユーノ君がでるのよ?)

なのはが念話で焦り始める

(さぁ? どうしてだろうね?)

先日のユーノとクロノのやり取りを見ていたフェイトは、親友に揺さぶりをかけていた。二人が念話をしていたら速人がやっと四人の所にやってきた。

「ごめんごめん、先生に場所の確認してたらちょっとおそくなちゃった」

やっと登場した速人にアリサがヘッドロックをかけてイライラの解消をする。

「場所の確認て、どのみちこの公園の敷地内でしか行動できないでしょうが!」

「ここには……何度か……来てるから……良い場所知ってるんだよ……く、くるしい……たすk」

アリサのヘッドロックで落ちそうになる速人をすずかが助けた。

「大丈夫?」

ハァハァと息をしてる速人にすずかが心配して聞いた、息を整えた速人がなんとか生きてますと答えた、フンッとアリサがそっぽを向く。

「うわー」

少女達は感激の声を上げる、速人のいい場所につれてこられて発したものだった。

海鳴市を見渡せる高台の広場、近くには池も売店もある。

「ここ海鳴が全部見渡せるから夜なんかにくると夜景もきれいなんだよね」

速人がちょっと得意気に言う。

四人は早速写生の準備を始めるのであるが、速人はスケッチブックをもったままでウロウロしていた。

速人に気がついたフェイトが話しかける。

「速人? どうしたの? ウロウロしちゃって」


ん? とフェイトの方をみて楽しげに言う。

「ミサゴが、この近くで子育てをしてるんだよね、そのミサゴの飛んでる所を画にしようと思ってさ」

ミサゴ?

フェイトはクエスチョンマークを浮かべる。

「ミサゴは鷹の仲間でね、魚を主食としてて、空の王者って呼ばれてるんだよ」

速人がフェイトに蘊蓄を披露していた時にバサッと音がしてそのミサゴが姿を現す。

「きた」

小声で速人は言い、フェイトにその方向を指示す。

速人のモデルとなるミサゴは、池の10m上空で空中静止して狙いをつけると、池にむかってダイブする。

ヒュンと弧月の様な軌跡を描いて、狙いをつけた魚を足で掴み、森の中に消えていった。

「すごい……」

まさに空の王者をみた気がした、自然の営みを初めて目の当たりにしたフェイトはその力強さに見とれていた。

脇で速人はそのミサゴの画を描きはじめていた、フェイトも一緒になってミサゴに挑戦することにした。









八神はやてとヴォルケンリッターは、本局でクロノと会っていた。

本来、陸と言われる、地上部隊特別捜査官補佐のはやてにとって、異世界の捜査をする海と言われる、次元航行艦隊の仕事の機会はあり得ないのだがレティが根回しをしてその任務に就くことになった。

「今渡した資料が今回の捜査の内容だ」

執務官クロノが言う、プロトクリスタルの回収と予想されるであろう強奪の阻止等、綿密に記されている。

「何か質問はあるか?」

クロノの問いかけにシグナムが反応する。

「執務官、強奪のメンバーがニ名以上らしいと言うのは?」

クロノは七罪の番人について話す。

「七罪の番人……」

右手を顎にあて部屋の壁にもたれかかりシグナムが考え込む。

「これは君たちの住んでる世界の話なんだが……」

クロノは説明する、キリスト教で7つの大罪とされた。

プライド(傲慢)エンヴィー(嫉妬)グラトニー(暴食)ラスト(色欲)スロス(怠惰)グリード(貪欲)ラース(憤怒)の感情がありそれぞれに対応する悪魔がいる等々の説明をした。

「で、前回の調査でプロトクリスタルを奪取したメンバーの中にグラトニーと名乗る者がいた、武装隊証言の{他の奴が~}ていうのも気にかかる」

「それで我々が選ばれたわけか」

人形態のザフィーラが口を開く、そういうことだとクロノ。

「選ばれたのはいいんだけどよ~ あたしは何かひっかかてるんだ」

その場にいる全員がヴィータに視線を向ける。

「クロノがいった言葉の中に……特にラースって言葉にさ」

ヴィータの言葉を聞いたシグナムが茶化す。

「お前(ヴィータ)自身が憤怒しやすいからな、それでじゃないのか?」

「シグナム、ケンカうってんのか?」

そんな事はない! と主張する様に食って掛かるヴィータであるも。

「ヴィータやめや、シグナムも心にないこと言うもんやない」

はやてに注意される。

「すみません主」

怒気の少しこもったはやてのしゃべりにシグナムは先の言葉を言って謝った。

今日のはやてはちょっと怖いと思うヴィータである。

気分を変えようとシャマルが「クロノ君出発はいつ頃に?」

と話題を変えた位である。

「出発は3日後だ、各自今所属している部隊の業務の引継等を完了させておいてくれ」

クロノが締める。はやてとクロノを除くメンバーは部屋から出ていく。

「クロノクン……」

はやては、今回の異例とも言える要請の本音を聞きたく、クロノに話しかける。

「私は陸の所属で、海の捜査には呼ばれんはずなんやけど、今回はなんでまた?」

「君の言うことも、もっともだ」

クロノは、八神はやてを指名した人物の名前をだす。

「ミルズ・ヒューディーという人物をしっているだろう? その彼が君を指名したんだ」










スプールスの夢幻回廊内部。

七罪の番人であるグラトニーは、一般人が到底入れないこの場所に、二人の子供を抱え楽に入ってきた。

子供二人はモノリスから封印を解かれたばかりで体力そのものを消費しすぎているのか、大男の腕の中で眠りについていた。

「おかえり」

大男を迎えたのは緑髪の長身の男エウリュトス。

幾重にも結界が張られ魔力探査が不可能なこの場所を彼らはアジトとして使う事に決めたようである。

グラトニーは風のプロトクリスタルの側に足を進めると、マントに包まれた少女を床に静かに横たわらせた。エウリュトスは彼の行動を注意深く見守る。

「風のプロトクリスタルに力を分けて貰えれば、グリードはともかく、ラースは目を覚ますであろう」

「グリードの対応してる力は雷……だったっけ?」

エウリュトスの問いかけに頷くグラトニー。

番人とプロトクリスタルはかなり密接な関係があるのであろうか?

「私は、闇のプロトクリスタルが力を解放させたおかげで覚醒する事が出来たが……他の番人達は、この様子だと未だ覚醒に至ってないと見るべきだろうな……それと他のクリスタルの存在場所も突き止めねばいかん、仲間が必要だな」

ラースの反応を心配そうに見つめているグラトニーは弓士の男に答え、まずは他の番人達を集めないといけない事を進言した。

「あの時の反動のせいで、クリスタルは次元世界に散ってしまったからね」

エウリュトスは自身の弓を身に背負い腕を組んで大男に言う。

「これは骨が折れそうだよ……さっきの戦い(リンドピオリム戦)で結構魔力を使ってしまったから、私は寝るとするよ、おやすみ」

グラトニーが回廊に来るまでに何処から調達したのか、エウリュトスは奥に生活するのに必要な物資を手に入れてきていた。当然寝具等もそれに含まれている。

「グリードは此方で預かるよ、雷のクリスタルを見つけないと目を覚ましそうに無いしね」

マントに包まれた少年を大男から預かると、緑の弓士は奥に消えていった。

風のプロトクリスタルの側に横たわる少女の顔色が僅かに赤みを帯びてくる。

じきに呻き声をあげ身体をよじらせた。

少女の反応を見た大男はホッとした表情を出して大人用のシャツを手に取った。

「そろそろ目を覚ませ、ラース、力も戻りはじめているのだろう?」

少女の側に寄った大男はしゃがみこみ、ラースに話しかけた。

「う、う~ん、わっち……何だかすごく長い時間、夢を見ていたような感覚ですわ」

ラースという少女は思い切りノビをして身体を起こし、グラトニーからシャツを受け取ると身に纏った。

「おはようですわ♪ グラトニーさん」

大人用のシャツを着た少女はニコニコの笑顔を大男に向けた。










ヴォルケンの面々は四人で各部署にもどるトランスポーターに向かっていた。もっともザフィーラに戻る部署ないのでシャマルに随行というものであるが。

(シャマル、今回の七罪の番人なんだが、アレの話にでていたか?)

思念通話でシグナムがシャマルに聞く。

(いいえ、ミルズ捜査官の名前は出ていた気がするけど、七罪関係ははいってないわね、聞いてみないとわからないけど)

シグナムの質問に丁寧と答えるシャマル。

考えすぎか……とシグナムはそれ以上は話すのをやめた。








喫茶店”翠屋”

「ありがとうございました」

飛鳥エナの声が翠屋の店内に心地よく響く。

「エナさん休憩に入ってください、ここは俺が代わりますから」

高町家長男、恭也がレジを代わる、7月15日の午後のひと時である。

「有り難う恭也君」

礼を言いエナはバックヤードの桃子に休憩の意思を伝えて、休憩室兼事務所に向かう、入るとオーナーである士郎が帳簿と格闘してたところだった。

「オーナー休憩入りますね」

と言いながらも、二人分の紅茶を準備する。

「ゆっくりどうぞ」

士郎が声をかえす、少しして香りのいい琥珀の飲み物が士郎の前に差し出される、これはどうも、カップを受け取り口につける。

「今日子供たちは、課外授業で自然公園らしいね?」

士郎は手を休めてエナに問いかける。

「速人君のことだ、きっと良い絵を描いてることだろうね」

士郎は、1年間共に暮らした少年の行動を思い浮かべる。

「そうだと、いいんですけど」

エナも紅茶を飲みながら答える。

士郎はデスクの上に1枚の写真を引き出しから話しだす。

「あれからもう7年か、時が経つのは、はやいな……」

士郎が出した一枚の写真には、三歳当時のなのはと速人が、仲良く絵を描いてるシーンが写されていた。

「エエ……」

紅茶をゆっくり楽しむように飲むエナは、肯定しつつ過去のことを思い出す、思い出したくないような出来事だったが、この男の前ではそうもいかない。




高町士郎 御神一族の剣士の生き残りの中で唯一師範の力をもつ人物、亡き父と母と最も親交があった人だ。


7年前に自分の家族を襲った黒部ダム決壊事故。

弟、速人の誕生日に両親と一緒に観光来ていた時の突然の出来事だった。

当時の速人はまだ三歳、わたしは十六になったばかりだった、ダムのほとりで速人をあやしていたわたしは、ダム決壊の鉄砲水に飲み込まれるはずだった。

私と速人がいまでもこうして生きていられるのは、父母が修得していた、鳳凰院流という特殊な格闘術のお陰だった。

私と速人を安全な所に移した後、二人は他の被害者のためにその命を使い、生涯を閉じ。後には私と速人だけが残された。

死者を丁重に送り出す等のことを、目の前の士郎さんが全部してくれた。

父が会得していた、鳳凰の太刀。士郎の御神の剣、流派はちがえど目的は同じ{護る力}速人を護るために、私も父と同じ道をすすんでいる。

速人の年齢が年齢だったので、1年間は高町の家で速人を預かる、と言ったのも士郎だった。

「速人君はずいぶん安定しているようだけど、その後変化はないかい?」

「エエここ数年は特に異常は見られません」

エナは士郎に問いかける。

「士郎さん……あの子は、これで本当に良かったのでしょうか?」

喫茶店”翠屋”これから忙しい時間を迎える。









速人は自分の画の下書きが終わったので四人にアドバイスをしていた。

アリサやすずかに筆の使い方等を丁寧に教えた後に、なのはの所にくると。

フェイトの絵? を書いていた、速人がみると、なのはが見るな的に絵を隠す。

速人はそんななのはにアドバイスを送る。

「なのは、人物を描くときはバランスが大切だよ?」

「う? そうなの?」

わずかな時間なのに見られた事に驚きの声を上げるのであるが、速人の真面目なアドバイスに聞く耳をもつ、姉なのは。

「例えばね、なのは自分の手のひら出してみて?」

なのはは、言われた通りに速人の前に手のひらを出す。

「それを、自分の顔に近づけてごらん?」

顔に手のひらを近づけるなのは。

「わかった?」

「???」

わからないよ、と言うニュアンスで、なのはが首を振る、速人は自分で言ったことをやって見せた。

「あ……」

なのはが気づいたようだ。

「そっか、顔と手のひらってだいたい同じ大きさなんだ」

「そういうこと」

速人ははのはに笑いかけると、フェイトの方に行ってしまった。

それを見送ったなのはは、紙面のフェイトに修正を加えていった。




フェイトは速人にミサゴの絵をみせた。

「うん、バランスもいいし、よく描けてると思うよ」

「本当?」

フェイトは自分の描いた絵を褒めてもらい正直嬉しくなった。

「速人のも見てみたいな」とたのんでみる。

「下書きだけだから、あまり見せたくないけど、フェイトならいいかな」

スケッチブックを見せる速人、右手首の所に十字架状の痣が見えた。

「速人そのアザ……」

十字架状の、かなりの大きな痣に思わずこんな声をだしてしまったフェイト。

「ああ、これ?」

十字架状の痣を左手でさすりながら、昔からついてるアザで痛みとかはないんだと説明した。










速人の画は相変わらず凄かった、下書きと言っていたけど、ミサゴが魚を捕らえてる所をまるで写真でも見てるんじゃないかと思うような繊細な画だった。

「速人はすごいな……」

正直な感想をフェイトは言う。

「画なんて、自分が描きたい物を描ければいいんだよ」

自分の描いたものを褒められ満更でもない速人だが。

「好きな物を描く、という気持ちがこもってればそれは一番いいものになるよ」

自分の描きたいものの原動力理論を述べてから次の言葉を加える

「ボクは、フェイトの絵も好きだけどね」

絵の上手な人に言われて照れるフェイトは。

「私のなんて、速人に比べたらぜんぜんだよ?」

自分の気持ち正直にいうのだが。

「フェイトは描きたいと思ったからミサゴを描いたんでしょ? そう思う心が絵をよくするんだよ?」

速人から返った言葉は思いもよらないものだった。

フェイトは速人の言葉に嬉しさがいっぱいになる。

自分から見ても、上手とは思えないのだが、気持ちを理解してくれる目の前の男の子を気に入り始めていた。

「あのさ……速人、私でも、絵を上手に描けるようになる……かな?」

「なれるよ」

速人は即答で答えた。

「じゃあ……さ、今度……一緒に……休みの時に教えてくれる?」

「うん、いいよ?」

快諾する少年は、じゃあ約束、とばかりに。

フェイトに指切りの体勢をとる、フェイトは顔を赤らめながらも、指切りで約束を交わす。


       ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
                約束の指切り




[21490] 第五話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/08/30 22:25
次元航行艦アースラ内部にはそうそうたるメンバーが集まっていた。

艦長のリンディを筆頭にクロノ、フェイト、はやて。

ヴォルケンリッターとミルズ&ユーノという布陣である。

現在メンバーは、ブリーフィングルームで最新の情報を検討中だった。

ユーノの調べで新しく解ったことが伝えられた。全員の前で話すユーノ。

「今回、エルヌアークの一部の歴史が解ったのでお伝えします、エルヌアークは王政の制度だったようです」

「今から1500年前に文明として栄えたようですね、衰退の原因はいまだ解りませんが、最後の王は女王だったようです」

「また、女王を護る十四人の魔導師がいたことも判りました、サークル式、デルタ式と言う、今のミッドとベルカ両方式に酷似する魔法文明もあったようです」

モノリスから得たエルヌアークの情報を一通り伝え、一拍置いてから、ユーノ・スクライアは司書として言葉を続ける。

「次に、プロトクリスタルですが、管理局は正式に、第零番特級捜索指定ロストロギアとして認定を出しました、クリスタルの追加情報として、これは何らかの高いエネルギーを制御させる装置の、予備エネルギーではないか? との説が一番信頼性が高いとの事です」

ここまでユーノが説明すると、今度はミルズが立ちあがり、交代で七罪の番人の近況を伝える。

「次に、七罪の番人の方ですが、魔法文明世界を巡り、魔力の蒐集を行ってる伏があります」

この言葉に、はやてたちは動揺を隠せない。

「これを見てください」

ディスプレイを出現させる広域特別捜査官。

エウリュトスと呼ばれた人物が分厚い黒色の本をもち、魔法使いとおぼしき集団からリンカーコアを抜き取ってる映像がでる。

「確かに、これは蒐集だな……」

シグナムが、自分たちもやった行為を振り返り呟く。

「今のところ……エウリュトスしか行動の確認がとれてませんが、グラトニーも同じ事をしていると思われます」

ミルズの話は此処までで、彼は椅子に着席する。艦長リンディが、椅子に座ったまま対抗策を語りだす。

「後、プロトクリスタルのエネルギー波動に、固有のパルスが確認できたの、アースラに探査装置を付けてあります、現在確認されているパルスは二つ、よってこの二ヵ所に人員をさき、彼等よりも先にクリスタルの確保をお願いします!」



シグナムは、フェイトと打ち合わせするミルズを見て考えていた。

(ミルズ・ヒューディーか……名前と姿からすると私の考えすぎかもしれないが……アレの言動からすると、我々にも関係してくるかもしれないな)


クロノから編成が伝えられる。

ミルズフェイトを一分隊、シグナムヴィータをニ分隊として先行させ、シャマル、ザフィーラでサブ、ユーノがサポート、はやてが分隊指揮を執ることになった。

「よろしくお願いします、ミルズ捜査官」

八神はやてはミルズに挨拶をする。

「こちらこそ、よろしくおねがいしますよ? 八神さん、単独回収が多かったのでチーム行動指揮なんてとれませんから、こきつかって下さい」

はやてに挨拶をすますとミルズは出発準備をする。

「ミルズさんに、聞きたいことがあります!」

口調を強めてミルズに問いかけるはやて。

ミルズは何故口調を強く言ったのかが理解できていない様子ではやてを見る。

「カレンという女性に、心当たり無いですか?」

「カレンさん……ですか?」

ミルズはしばらく考えたあと、はやてに答えた。

「すいません、心当たりというか、初めて聞く名前です」


はやてはミルズの目を射ぬくような瞳でジッと見つめる。嘘をついてる目ではないと判ると。

「申し訳ありません、いきなり変なこと聞いてしまいました」

謝罪の意を言葉にしペコリと頭を下げる。

「構いませんよ、ですがどうして私に、その女性の事を?」

「実は……」










シグナムとヴィータは、すでにパルスの反応が出てるポイント上空に来ていた。

今いる世界はエルヌアークではない、以前自分たちが闇の書として、モンスター相手に蒐集したことがあった砂漠の世界に来ていた。

ヴィータの右腕には腕時計サイズのパルス探査装置端末があり、この場所の特定に一役買っていた。

「反応は出てるけどよ……砂しかねえぞ?」

パルスの反応をみてヴィータがもらす。

「もしかしたら、砂の中にあるのかもしれんな」

シグナムが考えうる限りの答えを返す。

「中かよ……どうやって入り口見っけんだ?」

シグナムの返答に、ヤレヤレだぜ……というような表情で質問をする。

シグナムは、考えを整理する時間を少しとり、結論を踏まえヴィータに答える。

「シャマルをよこしてもらおう……我々では神殿ごと破壊しかねん」

破壊しかねん、という言葉にヴィータも納得はいった、確かにヴィータはもとより、シグナムも潜入という意味合いからいえば不向きな方である。

「おう、はやてに連絡するぜ」

ヴィータははやてに事のあらましを伝える為に、空中に通信ディスプレイを出現させ、シャマルの出動要請をかける。

「わかった~、シャマル送るから気いつけてがんばりや」

はやての返事があると程なくして、シャマルが転送魔法で現れる。

すぐにクラールヴィントで辺り一帯を調べはじめ、入り口の特定をする。

「シグナムの予想的中ね、地下10mの所に神殿らしき空間があるわ、だけど……入り口らしきものは見当たらないわね」

シャマルの返事にシグナムは、ならば行動はひとつだけかと、シャマルにたずねる。

「三人、一気に転送できるか?」

転送で内部に潜入しようと、シグナムが聞く。

「やれるわよ?」

シャマルは任せろというような感じで平然と言った。









転送魔法で潜入した三人は、クリスタルルームにダイレクトに転移し、土色のプロトクリスタルを見つけていた。


「テスタロッサが言っていたのは、これか?」

目的の物体を発見したシグナムの一声。

「デケーなオィ」

あまりのでかさに、あきれ返るヴィータ。

しかし、三人は不思議な感覚を覚える。

山吹の光を放つ目の前の物体は、見る物に力を与える、そんな感じの感覚にとらわれる。

「!」

三人は不意に殺気を感じ、その場を飛び退く、闇の書時代から培われてきた危険察知。

ドカァーンと、この音が部屋の中にこだまする。

「あれ? はずしましたですわ」

煙がモクモクと立ちこめる中に、小さい人影が映し出される、三人はその人物との間合いを取り、体勢を整える。

煙が晴れてくると一人の少女が巨大なハンマーをもって立っていた。

金髪で肩辺りまでのばしたストレート。黄金色に輝くハンマー、赤い血のような瞳。全体が黒で外周が赤で彩られたボディスーツ。

おへその周りの部分だけ素肌で、黒いスカートと赤いカリガタイプのブーツを履いている。

「グラトニーさん、不意打ち失敗したですわ~」

残念そうにいう少女の隣から、無骨な鎧を着込んだ男が出現する。

「ラース、私はエンヴィーを覚醒させる、その間一人で対応できるな?」

ラースの頭を撫でているグラトニーの表情は、どことなく父親の様な雰囲気を出している。

「おまかせですわ~」

頭をなでられ、猫のようにゴロゴロと機嫌よく答えるラース。

「まて、こちらは時空管理局だ、大食のグラトニー……貴方には、逮捕状が出ています。大人しくしていただきましょう」

シグナムが大男に対し言うが、ラースがシグナムの揚げ足を取る。

「まて! と言われて待つお馬鹿さんは、此処にはいませんですわ♪」



グラトニーはフッと口で笑い、モノリスをよびだす、描かれている画はシグナムと同じような背格好の女性のようだ。

「こっちの言うことは無視か! シグナム! もう我慢ができねぇ! あたしはやるぜ!」

吠えるヴィータは、グラトニーに愛機であるグラーフアイゼンを構えて攻撃にでた。

「何を吠えてるんですの? 貴女たちの相手はこのラースですわ!」

ラースは言うや否や、ハンマーをヴィータに向かって振り上げる。

気勢が殺がれたヴィータは間合いを取り直す、ラースのハンマーはラースの頭上から動かない 

キン!

黒色のミッド式魔法陣がラースの足下に出現する。

「グリンタン二、やっておしまい! ですわ」

<KeenEdge>{キーンエッジ}

デバイスが発声し、ハンマー部分から黒色の針状の魔力の雨が降り注ぐ。

「「「くっ」」」

三人は各自で防御魔法を展開させて受け続ける。

「アハ、アハハハ、キーンエッジから逃れることなんて、できるわけないのですわ~」

なおも続くラースの魔法は、威力は小さくても長時間持続するようである。

「それなら!」

シャマルはクラールヴィントに口付けをして対抗策を試みる、魔法の同時展開を敢行するようだ。

「お願いね、クラールヴィント」


バリアを張りながら別の魔法も使用する、魔導師にとって、マルチタスクは必須のスキルだ、こういう状況ではかなりのアドバンテージを持つ。使うのはもちろん旅の鏡だ、ラースの首もとに鏡の照準をあわせ。

「いまよ!」

<ja>

愛機の返事を起因として、旅の扉がラースの背後に出現する。

「う……」

不意に首をつかまれて呻いたラースは、自分の魔法を解除するしかなかった。

魔法の雨が止むのと同時に、シャマルの方にも真空の刃が飛んでくる、避けるためにシャマルも魔法を停止せざる得ない、飛んできた方をみると。




黒く長い髪を、後頭部で団子にまとめた女性騎士の姿がある。

全体を青で纏めた騎士甲冑に身を包み、手に持つ剣も身が冷めるような青さだ、柄の部分は金色で装飾されている。振り上げていた剣を鞘にもどし閉じていた目を開と、翠色の瞳が現れる。

「もう一人追加かよ……」

ヴィータが厄介な事になったという口調で言った。

「エンヴィー、私は回収準備に入る、ラースを助けてやってくれ」

グラトニーが言うと了解した、という感じで頷く青い女騎士エンヴィー。



シャマルは次の一手先を読み切れずにいた。目の前の三人は明らかに敵なのだが、体の方がなぜか反応がおくれる、こんなことは初めてだった。

はじめの不意打ちにしても、普段の彼女なら襲撃前に察知していたはずだ。

(いったいなんだというの? やりにくい相手だわ)

シャマルの頬から一筋の汗が床に落ちる。











シグナムは目の前の青い女騎士と、ヴィータはラースと対峙する。エンヴィーは剣を抜き。

「七罪の番人、エンヴィー、まいります」

青い剣ダインスレイフを構えて、シグナムに走りよる。シグナムはレヴァンティンを構え相手の剣の動きを読む。

キンキン キン! 三度の打ち合い、青と赤の剣閃が綺麗に弧を描く。

(なんだこの剣の動き、私の動きとにている?)

そう考えながらも、エンヴィーと打ち合う烈火の将。

シグナムは数回の打ち合いで確信した、似ているのではない! そっくりなんだ! と。

「……」

エンヴィーも同じ感覚に陥ってるのかもしれない。やがて、エンヴィーの方から口を開く。

「名を、聞いておこうか?」

エンヴィーの声は年齢相応の落ち着いた声である。

「時空管理局、ヴォルケンリッターが烈火の将、シグナム」


「シグナム……」

エンヴィーは自分の心に”シグナム”の単語を刻み込むかのように聞き入り、言葉を続ける。

「どうであれ、互いに技を出さなければ、この状況は打開できませんか……」

シグナムは口元を二ヤつかせ、この言葉を彼女に送る。

「奇遇だな、私もそう思う」

レヴァンティンのカートリッジを2発ロードさせ、刀身に炎を宿らせ構えを取る。

「紫電一閃!」

上段からの振りおろし、シグナムが最も信頼する技だ。

「ダインスレイフ……紫光十字閃セラフブレード」

対するエンヴィーは、シグナムにカウンターの要領で高速ニ連撃の、光を伴った技を放つ。

カッ! 二人を炎と光が包み込む。










「さっきはよくもやってくれましたですわ、わっち怒りましたですわ!」

喋り方のせいか、些か緊張感がないのだが、ヴィータは間合いを取りつつラースの動きを観察している。

「あなた! その武器は、ハンマーですわね?」

ラースはヴィータのグラーフアイゼンを指さす、それはもうビシッ! て感じで。

「それがどうした? あたしのグラーフアイゼンでぶったたかれてえのか?」

ラースはヴィータのガンとばしもどこ吹く風で。

「グラーフアイゼン……良い名ですわ、グリンタン二とセットにしたいですわ~」

ラースはさらにすごい発言をヴィータに言ってのけた。

「決めましたわ! わっち、あなたを倒してアイゼンさんをいただきですわ~」

そういって、グリンタン二をヴィータに向けて無造作に投げつけた。小さい体のくせに凄いパワーだ。

「!」

避けきれないと判断したヴィータは、愛機に叫ぶ。

「アイゼン!」

<ja>

カートリッジを一発ロードして叫び。

「うら~ テートリヒシュラーク!」

前に討って出た、迫るグリンタン二に猛然とアイゼンを打ちつけるのだが?

スカッ!

「!」

目の前のグリンタン二が消えた! 代わりに、グリンタン二を両手で持たラースが、ヴィータの足下から現れた。

「な?」

ヴィータには信じられない光景だった、デバイスを投げつけられて、打ち払おうとしたら消えて、真下で準備万端で打ち上げ準備をしている。目の前の【ですわ】少女が。

ラースは別に、特別なことをしてるわけじゃないのだ、グリンタン二が巨大すぎて、ヴィータの空間把握を狂わせつつ、投げつけたと見せかけて、一緒についていっただけである。

相手が打ちおろした直後に、自分も打ち上げ体勢を取っただけのことである。ヴィータはそれを知る由もないのだが。

二ヤ~ とした顔をラースがする。

「かち割れ! ブレインシェイカーですわ~」

<Brainshaker>

振り上げられる黄金の槌は魔法のコマンド名を発声、その輝きを増し鉄槌の騎士に襲いかかった。


豪快な音が鳴り響き、光の柱が天井まで突き刺さる。












光と音が止むと、空間に緑色の光が生じ、シャマルとヴィータが光の中から現れる。シャマルの旅の鏡のお陰で何とか無事だった鉄槌の騎士。

「ヴィータちゃん平気?」

ヴィータの心配をするシャマル。

「ありがとうシャマル、相手のペースに乗せられちまった、すまない」

反省と感謝の意を伝えるヴィータ。

「むぅ、ずるですわ」

「わっちの! 一人がちだったのに~!」

怒り心頭の様子のラースはその場で地団駄を踏む。

「ラース、準備が出来た戻るぞ、エンヴィーもだ!」

グラトニーが帰還を叫ぶ。

シグナムと技を繰り出し合い、致命傷はないモノのかなりの傷を負ったエンヴィーと、こちらもかなり深刻なダメージのシグナムがいる。

「この勝負、あずける」

エンヴィーがシグナムに告げ、ダインスレイフの構えを止めて戦いの場から退く、番人達は土色のクリスタルと一緒に消えていった。

「なにもできなかった……」

ベルカの騎士達は同時にそう思った。


       ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
               番人と騎士



[21490] 第六話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/08/31 17:00
スプールスにある夢幻回廊は、七罪の番人達のアジトとなっている。

金色の四角い魔方陣が夢幻回廊の床に現れると、魔法陣の上に、三人の人物と土のプロトクリスタルが実体化した。

「たっだいまなのですわ~」

巨大な黄金のハンマーを持った少女が、だれも居ない回廊にただいま、と大きく声をだす。

三人の目の前に青い髪のオールバックの男が何もない空間から現れた。

「もどったか? 回収も済んだようだな、ご苦労」

「スロウス、わっちがたただいまって、いったのですわ、おかえりと返すのが常識ですわ……」

ですわ少女ラースは、オールバック男の返事に突っ込みを入れる。

「そうか、それはすまないな、以後気をつけるとしよう」

スロウスと呼ばれた男も七罪の番人の一人である。


大男グラトニーは土のプトロクリスタルを風のプロトクリスタルが安置されている場所に移動させ固定する。

先ほど覚醒した女騎士とスロウスという男も大男と一緒についていく。

「既に、三つ揃えたのですか?」

クリスタルが安置されている空間をみて、エンヴィーはグラトニーに問いかけた。風、土そして紫の光を放つプロトクリスタル、雷のプロトクリスタルが存在していた。

管理局が、プロトクリスタルの発する固有パルスに気がつく前に、もう一つのプロトクリスタルを番人は手に入れていたのだ。

「もっと早く回収したいのだがな、時空管理局という新手の勢力が今は存在していてな、我々でしか感じ取れないはずの波動をキャッチできる装置を作り出したようだ」

グラトニーはエンヴィーに今の次元世界の状況を伝え、エウリュトスが居ない事に気がつく。

「エウリュトスはどうした?」

オールバックの男が大男の質問に答えようと声を出そうとすると、彼の後ろから少年の声が聞こえた。

「コキュートスに出向いたぜ? 氷のクリスタルを回収しにな」

ラースと変わらない身長の少年、グリードは大人三人に答え、手に持ったリンゴをかじり言った。

「グラトニー、俺も覚醒したんだ、邪魔な組織があるならぶっこわしてやる、さっさと遊びに行かせろよ!」









ディスプレイには砂の世界の二人とプロトクリスタルを目の前にしたフェイトが映っている。

八神はやてはヴィータの言うことを聞いていた。

「だから、シャマルをこっちによこしてほしいんだよ」

ヴィータの話によるとクリスタルがある場所はシグナムとヴィータだけではたどり着けないらしい。

「わかった、シャマルそっちに送るから気いつけてがんばりや」

通信を終えたはやては、フェイトの映るディスプレイをみて考える……やがて。

「……ザフィーラ?」

はやては残っている家族の一人の名を呼ぶ。

「はい、ここに」

人形態のザフィーラがはやての後ろに立つ。夜天の主の顔をしたはやてが彼に命令を出す。

「フェイトちゃんの方に向かってくれるか? 何か嫌な予感がすんねん」

「お任せを」

答えたザフィーラははやての視界から消える。

(私も前線に出れたらいいんやけど、リィンがおらん今は、かえって魔法が暴発しかねんし……シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラたのんだよ?)


はやてはさらにクロノにも連絡をとる。

「クロノクンか? はやてです……」

ザザー、とフェイトを映していたディスプレイが放送終了のテレビの様に機能しなくなる。







フェイトとミルズは氷の世界コキュートスにいた。辺り一面の白銀の世界、その世界で二人は戦っていた、番人の一人と。

反応を追って、この世界にある氷のクリスタルを見つけたまでは良かったが、エウリュトスとかち合い本調子ではないミルズと体格差のありすぎる相手にフェイトも手の打ちようがない。

アースラのはやてに連絡しようにも、エウリュトスの仕業か通信妨害を受けている。


「いい加減にしてくれませんかね? 相手にするのも疲れますよ?」

エウリュトスは二人にため息をつく。

「でも、これが私たちの仕事ですから……」

フェイトはあきらめてくださいと言う様な声を出す。エウリュトスはフェイト、ミルズを相手に弓のデバイスを使用せずに基本的な魔法のみで戦っていた。

フェイトは思う、この人もグラトニーと同じかそれ以上の力を持ってるんだと。

「ん~ でもそろそろクリスタルを持って返らないとね、グラトニーは怖いからな」

フェイトミルズのペアなんか、本当にどうでもいいような発言だ。

「素直にもっていかせると、思うなよ……」

ミルズが必死に敵愾心を煽るも。

「そんなへたな挑発に……のるわけがないでしょうに」

サラリとかわす緑の長い髪を揺らす弓士。

「では、敢えて聞こう、蒐集をしているのはなんの為だ?」

「さぁ? なんででしょうね?」

その言葉にとおどけてみせるエウリュトス。

(インデックスを開放するつもりか? エウリュトス)

ミルズは”遠話”で言う、エウリュトスの眼が真剣さを帯びてくる。

(貴様何者だ? 遠話{ログ}を使うってことは少なくとも本国縁のものだな?)

ミルズも眼をほそめ、エウリュトスをにらむ。

(そんなことはどうでもいい、答えろインデックスを開放するつもりなのか?!)

突然、周囲に雷雲が立ち込めた。白銀の世界に黒い雷がはしる。

「なに?」

フェイトは二人のにらみ合いの最中の雷に反応する。落雷した場所から一人の少年の姿が見える。

フェイトより少し高い身長。紫のボサボサの髪、青紫のバリアジャケット。

ラースと同じく赤い瞳、だが、こちらは炎が揺らめくような灼眼。

ベスト状の上半身で腹は露出し形のいい腹筋が見れる、キュロットをつけた下半身。

プーレーヌ状の靴を履き。上腕部には小さい小物入れの様なベルトつきの物を巻きつけて、アムレットを手に付けている。

右手にはさらに湾刀状の剣が握られている。

少年は、いかにもけだるそうにエウリュトスの方を見ると口を開く。

「エウリュトス、グラトニーのおっさんが、まだ戻らんのかって怒ってんぞ?」

左手で左耳をほじくりながら言う。

ミルズとにらみ合いをしていたエウリュトスは、表情をいつもの感じに戻し。

「すまないね、この二人が厄介にも邪魔をしてくれてね、作業が進まないんだ、ちょっと手伝ってくれるかい?」

ミルズとの”遠話”の時とは違い、いつもの口調で言う。

少年はフェイトとミルズを一瞥すると、エウリュトスに確認をする。

「殺っていいのか?」

エウリュトスはこの問いかけにミルズを殺す様に指示する。

「黒い甲冑の方は、確実に殺してくれると有り難いね」

「オーケー」

軽く答えると足元にミッド式魔方陣が出現させる、エウリュトスがソレを確認するとクリスタルの方に向かう。

「まちなさい!」

フェイトは叫び、エウリュトスの元に急ぐ、ミルズも同じように追う。

「させるかよ! 黒龍来覇 サンダーボルト!」

二人の進行を妨げる様に黒い電撃が襲い掛かる。

回避行動をとる二人、少年はミルズの方に狙いを定め、湾刀でミルズを薙ぎにいく。ミルズはグラットンソードで受けるも、力負けして吹き飛ばされる。

「ミルズ!」

本調子でない彼のことを心配し、叫ぶフェイト。

「おまえ弱いな、七罪の番人一の雷使い、グリード様が相手にするまでもねぇ」

ミルズが意外にに踏ん張らないのを確認して、つまらないという不満から声をだすグリード。

フェイトはバルディッシュのカートリッジをロードし、ハーケンフォームから魔力刃を作り出し相手に放つ。

「ハァー!」

掛け声に呼応しバルディッシュも発声する。

<HakenSaber>{ハーケンセイバー}

金色の魔力刃がグリードに向けて牙をむく。

「オ?」

グリードはソレを湾刀で切りにいく、ヒュン バチバチ、切られたハーケンセイバーから電気の飛沫が生じる。

それを見たグリードが、ヘェ? というような顔をしてフェイトの方に興味を移す。

「お前、電気を少しは使えるみたいだな?」

目の前の黒い死神のようなイメージのフェイトにニヤニヤとするグリード。フェイトはグリードを睨みつけて。

「だから何だ?」

バルディッシュを構えなおし答える。

「さっきの黒い鎧の奴よりも、先ににお前からやってやる……いくぜ金髪の、へびあたま!」

グリードは湾刀を水平に突き立てて空中のフェイトに一気に詰め寄る。

グリードとフェイトの空中戦が繰り広げられる。


フェイトは高速機動で大空を縦横無尽に駆け巡り、グリードを間合いに入らせない。

神殿内部のようなインドア戦ならいざしらず、大空のようなフィールド戦でフェイトに適う機動を持つ者などそうはいないだろう。

「ちょこまかすんじゃねぇ、へびあたま!」

グリードは湾刀に魔力をこめてフェイト目掛けてそれを振る。

(何をしてるんだ、間合いは見切ったはずだ、ここまでは届かないはず)

フェイトはグリードの行動が不可解だったが、すぐにそれが自分の足止めのためだと理解させられた。

黒い光のいかずちが、ヘビ状態になってフェイトの足に絡みつく、フェイトはグリードのサンダーバインドによってその高機動の機会を失う。

「しまった!」

フェイトはそう叫んだ、つかまったために距離が限定されてしまう。

「つかまえたぜ?」

フェイトは、得意げになってるグリードの顔を見つめこう言った。

「私を捕まえても、君は何も出来ないよ?」

「何? 負け惜しみいってんじゃねぇだろうな?」

グリードはサンダーバインドで捕まえた少女にここからどうやって抜け出るんだ? という感じで勝ち誇る様に言う。

フェイトはそんな勝ち誇る少年に、こうだよ? と愛機の名前を叫んだ。

「バルディッシュ!」

<yes sir>

<plasmaLanser Multishot>{プラズマランサーマルチショット}

バルディッシュが発声すると、グリードの周囲に金色の円形スフィアが16こ浮かぶ。

「なに?」

グリードはいつのまに? というような顔をするがすでに遅い。

機動合戦中にあらかじめ術式を構築し、発動寸前でとめておき、反撃の機会を狙っていたフェイトの頭脳プレーだった。

(以前、模擬戦でなのはにやられたんだけど、役にたった)

親友の少女のこの方法を、以前は汚い! と言っていたフェイトだったが、実践してみるとこれほど助かるものなんだと実感していた。

「ファイア!」

フェイトが命令を下す。8発の光の槍がグリードに襲い掛かる。

「くそ!」

サンダーバインドを解除して回避に専念せざる得ないグリード。

「バルディッシュ、次!」

のこり8発も起動させて8X2の光の槍でグリードを追い詰める。

槍を切り結び、撃退していくグリードだが、フェイトは凶悪にもフォーミングターンも付加していた為によけたランサーが再び襲い掛かってくる。

「しつこい攻撃だ、あったまくるぜ!」

もう結果は見えていた、さばききれないランサーが、距離を短縮していき攻撃の間隔がだんだんと早くなっていく、4発のランサーがグリードにヒットした。

墜落するグリードを見てフェイトは「ふぅ」と安堵の息をもらす。

「なかなかクレバーな戦いをするな?」

「え?」

フェイトは背後に気配を感じ振り向こうとするが手足をバインドされる、青い光によって。

(いつのまに?)

胸に刃物のような感触が感じられる。

「だが、勝利の余韻は最大の隙になることを、覚えておくことだな」

フェイトの目の前に青い髪のオールバックの男が現れる、刃物と思われたものは槍の矛先だった。手槍ともいえるような短い槍。

「恨みはないが、死んでもらう」

槍に力がこめられる、フェイトの胸に槍の切っ先が徐々に沈んでいく。フェイトの顔がみるみる青くなっていく。

「やられるの?」


「ておあぁぁぁ!」

声が響き手槍を打ち砕く音がする。フェイトの視界に白い影が見えたとおもったら、目の前の男が吹き飛ばされた。

「すまない、テスタロッサハラオウン、遅れた」

そう言いフェイトのバインドを解くベルカの守護獣。

「ザフィーラ?」

フェイトは此処にザフィーラが来てることが理解できなかった。

「主がこちらに助勢するよう命じられた、間に合ってよかった」

さっき吹き飛ばした男から視線をはずさずに言う。

「ありがとう、ザフィーラ」

自分の窮地を救った守護獣に礼をいうフェイト。

「気にすることはない」

我の役目はこういうことだというようにさらりと流すザフィーラは、ここは任せろと次の言葉をフェイトに言う。

「ヒューディが気になる、ここはいいから行ってくれ」

フェイトは頷いてミルズの元に向かった。











ミルズはエウリュトスと再び対峙していた、すでに氷のクリスタルを回収されてしまったが、転移魔法を使わせる暇を与えない。

「エウリュトス! インデックスを開放するつもりならやめろ、お前は又繰り返すつもりなのか、あの 惨劇を!」

ミルズはエウリュトスの放つ魔法を叩き落しながら叫んでいた。

「しつこいね君も、しつこい男は女性からきらわれるよ?」













ザフィーラは槍の男と対峙。

「ふむ、お前アニメーガスか?」

ザフィーラの容姿を見て男はそう言った。ザフィーラは”アニメーガス”の言葉にひっかかりを感じたが、答える。

「我は、ヴォルケンリッターが一人、盾の守護獣 ザフィーラだ!」

「俺は、七罪のスロウス」

そう答えるとスロウスの目の前に赤い槍が出現する。

「そしてこれは、再生する槍ゲイアサイル」

スロウスが槍をてにすると、今までの服から騎士甲冑姿にかわる。

青いオールバック、更に深い青みを持った瞳。

黒いぼろぼろのジュストコールを身に付け、黒いズボンを着用する。

ザフィーラが両拳を構え、いざ戦いが始まると思いきゃ。

「しかし、今は他に優先すべきことがある」

男はそういうとフェイトが去った方向に飛んでいく。

「まて!」

ザフィーラもそれを追う。










「あのヘビ女め……」

グリードはランサーが命中したにもかかわらず、わずかの時間で覚醒していた、自分の体質のおかげであろう。

「このままじゃラースあたりに{ほんと、つかえませんですわ}とか言われちまう」

似た年齢の怪力ですわ少女を脳裏に浮かべるグリード。

「ん?」

そこに空中を横切るフェイトが見えた彼女はグリードに気がついていない。

「あのアマ、次こそは」

グリードはフェイトに再び攻撃する為に飛び出した。










「ミルズ!」

エウリュトスの魔法とミルズのグラットンが相対する中、フェイトはこの場所たどり着いた。

「ここで彼を逃がしてはいけない、クリスタルを奪取された!」

ミルズの声に返事を返すフェイト。

「わかった、1分もたせて!」と叫ぶ。

ミルズは頷くとグラットンソードに力を込める。

フェイトが何故時間を指定したのか? 彼女はこの魔法の行使を以ってケリをつけようと画策したのだ。



「アルカス クルタス エイギアス……」

バルディッシュを自分の目の前に直立させ、フェイトは詠唱を始める。

バルディッシュは残っている全てのカートリッジを激発させる。

「疾風なりし天神、今導きの元に、打ちかかれ」

フェイトの周囲にランダムにミッド式魔法陣が現れては消えていく。

「バルエル ザルエル ブラウゼル……」

足元に極大の金色の魔方陣が形成される。

「いくよ? バルディッシュ」

愛機に声をかけ、フェイトは発動キーを口にした。

「プラズマランサー、ファランクスシフト!」

<PlasmaLancerPhalanxShft set>

「ファイア!」

合計1086発の光の槍の乱舞がエウリュトスに注がれる。ミルズは絶妙のタイミングでシフト外に離脱する。

次々に命中していく光の槍。彼女は全ての魔法力を使って槍のコントロールに回す。

「ここで、おわらせる!」

フェイトは声をあらげると残った全ての槍が当たり終える、周囲にはものすごい魔力煙が立ち込める。

フェイト、ミルズは同じ位置、空中でエウリュトスの確認をする。

「バカな……」

ミルズは信じられないものを見るように声をだす。

「千発以上の、プラズマランサーを受けて平気なはずが……」

エウリュトスは立っていた、隣でグリードとスロウスが防御魔法を使ってはいるが、ダメージははいってる。

「さすがに、無傷とはいかないですがね……」

エウリュトスはそういうと、弓形デバイス ヴァーリボウをフェイトに向ける。

「あれだけの儀式魔法ですから、そっちは打つ手もすでにないでしょう? ラスト復活までは戦いは避けたかったのですが……」

エウリュトスは弓の弦を引く、ギリギリと唸りをあげて彼の弓は魔法の起動を開始する。

「もうだめですね……お前達はやりすぎた」

ヴァーリボウの前に魔力が集まっていく。

色は緑であるが、なのはのスターライトブレイカーと同じように流星状に魔力光が振りそそぐ。

弓と弦の間に魔力の矢が番(つが)えられる。

「アーチングブラスト、エンピリアルショット」

ヴァーリボウから緑の収束砲撃がはなたれ、それがフェイトに襲い掛かる。

先の魔法で体の反応がにぶくなってるフェイトは。

「避けられない」

と苦言をもらす。

「ここで、朽ち果てるのですね!」

エウリュトスが吼える。

「うおおおおおおお! 鋼の軛!」

スロウスを追っていたザフィーラが、二人の前に立ち、軛で収束砲撃を防ぐが威力自体をころせていない、かろうじて止めてる感じだった。

「ザフィーラ、無茶だ!」

フェイトはザフィーラに叫ぶ。

「無茶でも、やらねばならん時がある!」

ザフィーラは軛に魔力を送りさらに強固にしていくが ピシ ピシとヒビがはいっていく。

(ここでおわるわけには、最悪、あれを使うしかないのか?)

ミルズがそう考えていると、彼等の上空から男の子の詠唱の声がきこえてくる。

「悠久なる凍土、いてつく棺のうちにて 永遠の眠りを与えよ」

エタナールコフィン。

クロノが、自身最大の凍結魔法で砲撃の魔力を凍結、さらに分解させて無力化させる。

「クロノ!」

ミルズとフェイトが同時に叫ぶ。

「時空管理局執務官クロノハラオウンだ、エウリュトス以下ニ名、次元世界騒乱罪他の容疑で逮捕する」

クロノが空から見下ろして三人に告げる。

「残念だけど、時間切れだね、転移魔法構築の時間は稼げた、又の機会にさせてもらうよ?」

エウリュトスはそういうと、光のなかに消えていく。

「金髪へびあたま! 次はおれが勝つ! 首洗ってまってろよ!」

グリードはフェイトを睨んでほえ、スロウスと共に消えていく。












「そうか、だめやったんか……」

はやてはシャマル、ミルズから報告をうけた所だった。

アースラに戻った面々は意気消沈する、特にフェイトの方はあれだけおいつめながらも逃げられてしまっていた。

「となると、残りは後四つ……何か新しい事は分かってないん?」

はやては残りのクリスタルの残数を口にし、ユーノに質問をするのだが、ユーノは首を横に振る。

「今のところは何も……」

そうかぁと、はやても肩を落とす。

シグナムとザフィーラが怪我を負い、フェイトミルズが魔力の疲弊、前衛で今動けるのはヴィータのみだった、正直な所、今回の失敗は痛い。




ミルズは医務室で簡単な治療を受けた後、艦長のリンディの所に向かう途中だった。

(……)

前回の戦闘そして今回、自分の力の無さを痛感する。

(やはり……クロトを使うしかないか……)

しばし歩みを止め遠話を使用する、エウリュトス戦でやったあれだ。

(起きているか? クロト)

(はい……マスター)

ログに相手の声が聞こえる。

(今の私が君の力を使った場合、体の負担はどの位と見る?)

(…………)

クロトと呼ばれたログの相手は、かなり考えてから答える。

(今のマスターの状態では、私の力を開放すれば92%の確立で体の崩壊を起こすでしょう)

ミルズは冷静な答えに。

(そうか……そこまで高いか……)

(ハイ、くれぐれもお体をご自愛下さいますように……)

クロトと言われた相手は、それだけ伝えるとログを切った。

「ミルズ・ヒューディ広域特別捜査官、呼び出しにより参りました」

艦長室の扉前で声を出す。

「どうぞ」

リンディの声がする。

「失礼します」

ミルズが艦長室に入るとクロノがすでに在室していた。










シャマルはシグナム他、負傷疲弊したメンツの診断と治療をしていた。

フェイトは魔力疲弊が激しく、すぐの出撃は無理と判断し休息の必要性を報告書に記入する。

シグナムはエンヴィーとの戦いでかなり体力も魔力も消耗しており、はやてからの魔力リンクの必要性があると判断した。

ザフィーラの治療をしようと準備をすると。ザフィーラが医務室にはいってきて、人形態で治療椅子に座った。シャマルは回復魔法をかけながらザフィーラの怪我した部分に包帯を巻いていく。

「シャマル……」

治療を静かに受けていたザフィーラだったが、湖の騎士に自分が感じたひかっかりを、相談しだす。

「アニメーガスって言葉、お前は何のことか解るか?」

「アニメーガス?」

詳しく話を聞くシャマル。

「ウム、先の戦いで相手にしたスロウスという者が、我をみてそういったのだ」

ザフィーラはその言葉に何か感じるものがあるのだがその正体がわからないと。

シャマルも七罪相手に体の違和感を感じたしヴィータも似たような事を言っていた。

「これは私の憶測にすぎないのだけど」

シャマルは断ってからザフィーラに思ってることを伝える。

「七罪の番人と私たち、記憶とかじゃなくもっと深いところで何か因縁があるのかもしれないわ……」

そういった彼女の表情には困惑の色が出ていた。










「それで、今回はメンバーの負傷疲弊もそうだけど、あなた自身もかなりのダメージを負ってるわ」

リンディは今後の行動をミルズに告げる。

「情報を整理しつつ、本局に一度戻ろうと思うの」

リンディ謹製スペシャルティを飲みつつ言うリンディに返事をするミルズ。

「そうですか」

「貴方が提案した、エルヌアークの再調査は別部隊に行ってもらう事にするわ、今は体と心を休めることに勤めなさい、これは命令ですよ?」

リンディは少し語気を強めて言う。

「別隊には、クロノに行って貰いますから」

リンディはそこまで言うと、ミルズにもういいわよと退室を促す。ミルズが出て行ったあとリンディはクロノに。

「彼……何か隠してるわね……」と呟く。

クロノはミルズが出て行った扉を見つつもリンディに切り返す。

「そうかもしれません」

肯定するが、次の言葉を本音として言った。

「でも、僕にとっては友人ですから、話してくれる事をまちますよ」

そういって艦長室を後にする。

「だといいのだけれど……男の子の友情ね……」

リンディはリンディスペシャルティをいつもの倍の甘さでのんだ。


  ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
         番人と魔導師達







あとがき

南です、ここまで読んでいただいて有難うございます。

魔法少女リリカルなのは、なのに、未だ高町なのはが話しに絡んできていませんが、次にあげる話から彼女も絡みはじめます。

ここで、少しお詫びをしておきます。

今回の話でフェイトが使ったファランスシフトですが、本来ならフォトンランサーのファランクスシフトです。

この話の時間軸がA’sが原作どおり終わり、その半年後なので、無印でフォトン、A’sでプラズマというランサーを使っていましたので、半年もたったフェイトなら使えるんじゃないか? という、作者妄想から生まれた架空(公式には無い)の魔法です。

読んでくださった読者の皆さんは、この手の改変は許容できる範囲なのでしょうか?

あとがきでこういう問いかけするのも失礼だとはおもいますが、何か思った事があれば感想の方に書いていただけると嬉しいです。

ではでは



[21490] 第七話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/09/01 10:39
情報整理と別隊の編成に人員を分けたアースラチーム。

シャマルはクロノと共に別部隊に参加、ヴィータも同行する。

はやて、ザフィーラ、シグナムは居残り地球に、フェイト、ミルズ、ユーノは本局待機となっていた。

「じゃあ、今日はここまでです」

教導隊制服を着た高町なのはは、今日の訓練の終わりを宣言していた。

「ありがとうございました」

教え子達が、声を揃えて敬礼をする。小学校のほうは今日から夏休みに突入し、今まで以上に魔導師としての仕事に力をいれていた。

教導官補佐という割に、高町なのはには補佐すべき人物が居ない。実質の所、教導隊も人手不足でなのはの様な補佐官も一人で教導を行わねばならない。


制服から私服に着替えるためにロッカー室に向かう高町なのはに、見知った人間が声をかけて来た。

「あら? 今日はもうあがり?」

声がした方になのはが振り向くと、レティ・ロウランが分厚い紙の書類を腕に抱えて歩いてきた。

「レティ提督、お久しぶりです」










無限書庫では、ユーノとミルズが今回の事件の情報整理に追われていた。

「クロノのやつ、相変わらず要求が多すぎる」

ユーノがふてくされている、それを横目で見ていていたミルズは笑いながらユーノをなだめる。

「あいつは、情報最優先の優等生だからな、自然と要求も多くなるんだろう、まぁ私も手伝うんだ、それで我慢してくれ」

ユーノもミルズとは、かなり親密な関係である。ユーノがここ、無限書庫の司書として管理局に関わり始めてから、すでに何度も同じ調査で顔を合わせていた、二人での会話がくだけた感じなのもそのせいなのであろう。

「しかし、今回は本当に驚かされることばかりだよ」

ユーノは読書魔法を展開させつつ話す。ん? とミルズが聞き手に回る。

「文明LVゼロの世界に文明があったこともそうだけどさ? モノリスに描かれている画が実体化するなんて、どういう魔法なんだか、エルヌアークの再調査ついていきたかったな」

「トレースコフィン……」

(あの人の得意な魔法だったな)

ミルズは心で思っていたのだが、最初の言葉だけは口に出てしまったようだ。その言葉に反応したユーノがミルズに聞く。

「なんだい、トレースコフィンて?」

「そんな事言ったか?」

ミルズはとぼけると、自分も読書魔法を展開し情報整理の作業に集中する。

「僕のきのせいかな?」

「読書のデータと、勘違いでもしたんじゃないのか?」

ミルズは笑って誤魔化した。







アースラは現在、クロノをフォワードトップとしたエルヌアーク再調査隊の編成が完了し出発する所である。

「シャマル、ヴィータしっかりな?」

はやては同行する家族二人の見送りにきていた。

「シグナムとザフィーラのことお願いします」

(あとカレンさんの事も)

思念通話に切り替えてシャマルはカレンという言葉を追加した。

(そっちも了解や、新しい家族みたいなもんやしな)

はやても同じよう思念通話で返す。アースラはその後出発していった。

「さて、我が家にかえるか~」

出発した次元航行艦を見送った彼女は、誰に言うでもなく声に出していた。




レティと別れたなのはは、少し表情を曇らせていた。

彼女からアースラスタッフの、今回の出動結果について知らされた事を考え。親友達の心配をする。

(フェイトちゃんとはやてちゃん、大丈夫かな)









一方、此方は夢幻回廊、プロトクリスタルの放つ五色の光が混ざり合う。

番人達はひとつのモノリスの所に集まっていた。氷の世界コキュートスに在ったモノリスである。

エウリュトスがクリスタル回収に出向き、グリードとスロウスが後を追って出かけたわけだが、スロウスが其処でコレを発見していたのである。

描かれている画は、フェイトと同じ様な感じのツインテールの女性であった。女性とは言っても色々タイプがあるわけで、エンヴィーが成人、ラースが少女とするなら、画に描かれた彼女は女子高生と言った所か。

グラトニーが、ラースとグリードを実体化させた時と同じように、金色の六角形の魔方陣を指で器用に描く。

六角形と言ったが、正確には、ミッド式の円形の中に描かれている紋様がヘキサグラムであり、ベルカ式の様にヘキサグラムが円の中でゆっくりと時計回りに回転している物である。その魔方陣はモノリスの封印を解いた。

「プライドがこれで覚醒か、残るはラストのみだな……」

エウリュトスがぼそりと呟いた。









ユーノと別れたミルズは一人、アースラスタッフが待機できるデータベース室にいた。

ディスプレイには彼個人が集めた情報が羅列されている。そのデータを見つめ、考えを巡らす。

モノリスに書かれていた女王のメッセージ。生まれ出る命(うまれいずるいのち)の時間。

七罪の番人とは、失われし都と呼ばれたアルハザードにおける、死刑執行人という存在である等。クロノ達が知りえない事柄が事細かに載っている。

シグナムと戦ったエンヴィー、フェイトと戦ったグリード等、番人達の戦闘パターンから癖を見抜き、攻略法を練っている時に突然閃いた。

(今までクリスタルの回収にかち合った七罪の番人は……ひょっとすると、{天}なのか?)


ミルズは天と言う単語を考えた後にクロノ達の事を考える。

(もし、番人が天だとしたら……エルヌアークの再調査は彼等だけでは危うい……クロノ、死なないでくれよ?)

既にエルヌアークに向けて出発したクロノに生きて戻って来いと願う、黒翠色の騎士だった。




海鳴市午後7:30。

フェイトは休息の為に朝から家にいた。

魔力自体はもとにもどっていたのだが、リンディが家に戻って休んでなさい! きつく言われたので渋々戻ってリビングでくつろいでいた。

(なのはも仕事だったし、家にいてもつまらないな……)

テレビを見ながらそんなことを考えていた。

”フェイトちゃんメールだよ! フェイトちゃんメールだよ! フェ”

このふざけた着信音は、地球製機械音痴のフェイトのために、エイミィが作ったなのはちゃん音声だ。

フェイトは誰からだろう? とメールの確認をする。

「あ……」

速人からだった。

”フェイトへ この間の約束の件ですが用事ですぐには無理です、都合のいい日を教えてください 速人”

フェイトはちょっとはにかんで返信をする。

”私も今忙しいのですが、日程を速人がきめていいよ? それにあわせます フェイト”

返信するとエイミィがアルフ(犬形態)と買出しから帰ってきた。

「お帰りふたりとも」

家族を迎えるフェイトの表情は、なぜか優しいものだった。




フェイト、アルフ(人形態)エイミィはユーノから送られてきたデータをみて唸っていた。

「う~ん、残りのクリスタルの在る場所かぁ」

エイミィは、見当がつかない顔で買いだして来たお菓子を口に運ぶ。

ユーノから送られてきたデータは、光を除く 雷、風、土、氷、闇がすでに番人によって奪取させてる事も送られてきていた。三人でうんうん唸っているとアースラのリンディから通信が入る。普段飄々としてるリンディが、かなり焦っている様子だ。

「エイミィいる?」

「ハイハイいます!」

だらけていた体勢を整えて、返事をするエイミィ・リミエッタ。

「今、管理世界の一つシンフレアで、番人が炎のプロトクリスタルを奪取したわ!」

モニターに映像が映ると、エイミィが悲鳴に近い声をあげる

「うあぁ」

見たことも無い番人が、ものすごい魔法で辺り一帯を火の海としていた。

「これは……ひどいや」

アルフはそういってフェイトを抱き寄せ映像を見せないようにする。

グラトニーとスロウスが無差別蒐集をしている映像が映し出された、これをみせたくなかったらしい。リンディがさらに告げる。

「それで、ミルズ君から連絡入ったんだけど、本局のパルス探知機が残りのクリスタルの位置を特定したの、データを送るわ」

そのデータを見たエイミィは、驚きの声を上げる。

「え?……これって……海鳴!」

「ミルズとユーノ君が先行して向かったわ、そっちの管制おねがいね」

リンディが出動命令をだした。通信士の顔になり返事を返すエイミィ。

「了解しました! フェイトちゃんでれる?」

「わたしはいつでも」

フェイトは既にバリアジャッケトを展開していた。





番人たちは既に海鳴に来ていた、弓士エウリュトス、剣士エンヴィーにラースとグリードの四名。


「こんな辺境世界に、じじぃがほんとにいるのかよ? エウリュトス?」

グリードが本当に面倒くさそうに聞く。

「お兄様の調査は完璧ですわ、反抗的すぎですわグリードは」

そのグリードの言動に突っ込みを入れるのはわっち と ですわ が口癖の少女ラース。

そんな二人の会話を他所に、エンヴィーは空を見上げ月明かりをまぶしそうに呟く。

「月が、光をよく放っている」

「この世界では満月、っていうんですわ~」

得意げにラースはいう、それはもう人差し指を突き立てる位に。

「邪魔者が来る前に作業をおわらせてしましょうかね」

行動開始をエウリュトスが促す。










「!」

(なに? この感じ)

なのははくつろいでいた部屋から急いで玄関にむかい外にでる。

彼女の中で警鐘をあげるように耳鳴りが激しく鳴り響く。

(魔力反応? ……)

目を凝らしよく見ると、うまく隠してはいるが結界を張ってる最中なのが解った。

「この魔力、ユーノ君? レイジングハート?」

愛機に魔導師になる事を伝えるなのはに、レイジングハートも応える。

<yes my master>

「いくよ、レイジングハート、セーットアーップ!」

天使を模した白いバリアジャケットが展開されていき、レイジングハートが飛翔呪文を発声する。

{アクセルフィン}

足元に桜色の魔力の羽が生え、高町なのはが大空に舞う。





ミルズとユーノは、番人より先に海鳴海上で水のプロトクリスタルを発見していた。

「ミルズ! この世界は魔法文明が無い、僕が結界を張るからそれまでまって」

結界構築の時間まで行動を起こすなと、ミルズに伝えるユーノ。

「しかし、そんなことをしたら番人がくるぞ?」

クリスタル回収を最優先に動くミルズは、多少なりともじれる発言をする。ユーノはそのミルズを落ち着かせるために結界準備をしながら返事を返す。

「大丈夫、フェイトもすぐに駆けつける」

だが、ユーノの心中は別なところにあった。

(それに、ここはあの子がいる、巻き込みたくは無い)

ユーノの結界は海鳴全域を包み込む。なのは出会った頃よりも力強く、大きさも増していた、結界が出来上がった頃。二人が揃ってやってきた。

「ミルズ! ユーノ君」


「なのは……」

ユーノは関わらせたくない少女の登場に、声を出し次の言葉を彼女に投げかける。

「どうして、きたの?」

問いかけられた少女、高町なのはは、自分の考えを目の前の結界魔導師の少年にぶつける。

「ここは私の出身世界だよ? それにレティさんからフェイトちゃん達のこと聞いたの、わたしも手伝うよ!」

ユーノは、この少女の意思の強さを誰よりも知っていた、だから。

「ジュエルシードや、闇の書の防衛プログラムとは訳が違うよ? 相手は軒並みオーバーSランクだ、サポートはするから無理はしないでね?」

「うん!」と頷き、ミルズに向かって参戦表明を述べる。

「高町なのは戦技教導官補佐、非魔法文明の魔法漏洩防止のために助力します、よろしくおねがいします、ミルズ捜査官」

慣れない管理局式の敬礼をミルズにするなのは。

「こちらこそお願いいたしますよ? 高町なのはさん」

広域特別捜査官たるミルズには、緊急時の人員決定権がある、この時点で高町なのはは暫定的に公務につくことになる。

(がんばろうね? なのは)

親友に念話で話しかけるフェイト。

(うん! フェイトちゃん)

管理局きってのAAAクラスの魔法少女と広域特別捜査官の自己紹介も済んだころ。

「ハイハイ、クリスタルの回収急いで、番人がくるよ!」

空間ディスプレイからエイミィが締める。

「私が回収に、みんなはサポートを」

ミルズが回収に向かおうとすると、一条の緑の光がそれを妨げる。

「わたせませんよ! それはね」

ヴァーリボウを構えたエウリュトスが現れる。

「エウリュトス……」睨むミルズ。

「ラストを覚醒させる、あとはたのんだよ」

管理局勢を前にしても目的遂行の行動を取るエウリュトスは、残りのメンバーに管理局メンバーを抑える様に指示をだす。

「オレは金髪へびあたまをやる! あとは好きにしな!」

「すきにするですわ、わっちはどうでもいいのですわ」

フェイトに対し雪辱をかけるグリード、そんなグリードに突っ込みを忘れないラースは、新たに参加したなのはを標的にする。


エンヴィーは既にミルズのほうに飛んでいた、3on3のバトルが始まる。

フェイトVSグリード、ミルズVSエンヴィー、なのはVSラースの構図。




高町なのはは、すぐさま戦況分析をして自分が何をすべきか? 答えをたたき出し行動に反映させていく。

「そっちの思うようにはいかせない! レイジングハート!」

<AccelShooter>{アクセルシューター}

12発のシューターを、向かってくるラースめがけて飛ばすなのは、そして直ぐにフェイトのほうに向かう。

フェイトも、グリードと高速戦を行ってるが思ってることは同じようだ。一人でだめなら二人で、それでもだめなら三人で、仲間を信頼すれば負けることは無い。それが二人の想い。

(フェイトちゃん、うまく避けてね)

念話でなくただ心に思う、フェイトはグリードをなのはの射線軸上に誘い込む。砲撃体勢にはいるなのはは愛機に叫ぶ。

「レイジングハート!」

<LoadCartrige>{ロードカートリッジ}

一発ロードして砲撃スフィアを展開する、照準内にグリードが収まる。

(なのは、まかせた)

フェイトも同じく心に思うだけで、愛機に叫ぶ。

「バルディッシュ!」

<SonicMove>{ソニックムーブ}

フェイトがグリードの視界から消えうせる、向かう先はアクセルシュータでもたついてるラースの所。

「ディバインバスター!」

夜空に桜色の閃光が鮮やかに光る。

「な!」

グリードはもろにそれを食らい彼の周囲には桜色の魔力煙が立ち込める。ラースの背後を取るフェイト。

「ハァー!」

<HakenSlash>{ハーケンスラッシュ}

ハーケン状のバルディッシュが、ラースの後ろから襲い掛かる。

「なんですわ?」

<RoundShiedPowered>{ラウンドシールド、パワード}

グリンタンニがオートでシールドを展開する。

ハーケンスラッシュをすんでのところで受け止めるラースであるが、フェイトは次の手を繰り出していた。

<PlasmaLancer>{プラズマランサー}

バルディッシュが発声し四発のランサーが命中する。

なのはとフェイトの魔法を直撃で受けた少年と少女は、揃って海鳴の海中に落下した。かなりの高さから落下したため、結構な高さの水柱が出来上がる。

それを見ていたエイミィが感嘆の声を上げた。

「さっすがN&Fね、仕事が速い!」










ユーノはミルズのほうを見ていた何だか様子がおかしい、いつもの動きでは無いのだ。

エンヴィーがシグナムと、互角以上の戦いをするのは見知ってるが、ミルズだって伊達にAA+のランクじゃない、ランクで言えばシグナムと同等のはずだ。

「でも今は……」


ミルズは終始エンヴィーに押されている、ダインスレイフを巧みに操りミルズを追い込んでいく剣士。

「ハァハァ」

ミルズの息の上がり方を観察したエンヴィーは、ダインスレイフを構えなおしてつぶやく。

「本調子ではないようだな?」

ミルズは既に肩で息をしている。

(くそ、迂闊だった、ここは月がひとつしかないんだった……)

グラットンを構えなおし不屈の精神を押し出すようにエンヴィーに挑発をする。

「演技かもしれないぞ?」

目の前の、肩で息をしている黒翠色の騎士をにらみながら女性剣士はため息混じりに返答をする。

「そのような挑発をすること自体、すでに余裕がないと見た方がいいのでしょうね……」

ミルズもこの反応は予測ができていたようだ。

一人で攻略法を練っていたときに出た単語、天に関係するのであろうか?

(さすがにエンヴィーか、グリードやラースとは違うか、ならカウンターにかけるしかない!)

ミルズは口元にやつかせ、まだ奥の手があるぞ! といわんばかりに。

「なら、試してみてはどうだ?」

キン!

足元に黒のベルカ式魔方陣を生成させ、カートリッジを3発ロードしグラットンソードを水平にかまえる。

「……」

ミルズの自信があるぞ! といわんばかりの構えを前に、エンヴィーも白色のベルカ式魔方陣を出現させる。

「ご自慢の技……仕掛けてみたらどうだ?」

「なにを考えてるのか知りませんが、死ぬことになる……」

エンヴィーもダインスレイフを水平にかまえた。

月明かりの中、先に仕掛けるエンヴィー。

「ゆくぞ!」

「応!」

白色と黒色の魔方陣が一層に輝きを増し、お互いの技の発現を予告する。

「紫光四連閃 ヴォーパルブレード……」

エンヴィーはミルズに一気に詰め寄り、ダインスレイフによる四連の剣戟を繰り出す。

ミルズはその場から動かず。

「剣刺五連 エヴィサレーション!」

水平のグラットンはそのままの状態で、迫り来るエンヴィーめがけて五連続の突きを繰り出す。

白と黒の激しい激突。お互いの技を繰り出す前とは立つ位置が入れ替わり。

エンヴィーは斜め45度にダインスレイフを振り上げた状態。ミルズはグラットンソードを水平に突き出した格好でお互い背中合わせで静止する。

彼等の静止は一陣の夜風が吹くまで続いた。風がエンヴィーの頭から僅かにピョンと出た髪の毛を揺らす。エンヴィーの額からツツーと赤い液体が一筋流れた。

「その技は、ナイツオブブルーの……」

エンヴィーはそういって気絶しながら落下する。エンヴィーが海に落ち、ラースとグリードと同じように水柱が吹き上がる。

「昔のことだよ、エンヴィー……」

その場でミルズは小さく呟き、月を見上げて「ハァハァ」と肩で息をする。

「「「ミルズ(さん!)」」」

決着をつけた騎士の元に、ユーノ、なのは、フェイトの三人が駆け寄り、今までチームで共に行動していたフェイトが心配する。

「ミルズ、どこか具合が?」

「大丈夫ですよ……それよりもクリスタルの回収を!」

そう叫んだ瞬間海から水柱が上がる。

「ラストの復活か……」

ミルズが悔しそうに言う。

「これで、全員そろったな」

エウリュトスは最後の番人の復活を確認すると。

「ラスト、三人が海の中だ引き上げてくれ」

フェイト達に撃墜された番人のリカバリーを命じる。ラストと呼ばれた人物は老人の男性だった。

いかにもなローブ、いかにもな杖を手にしている。

その杖が水色に輝き海中から3つの光の球体が浮かび上がる。

真ん中にエンヴィー、左にグリード、右にラース。さらにラストは左右の球体に魔力の供給を行う、みるみるうちにラース、グリードが回復し覚醒する。

ラストを加えた三人がまたも立ちはだかる。

「なにあれ? インチキだよぅ」

なのはが泣きそうに言う。

エウリュトスは回収をすますためにクリスタルの方に向かう。

「さっきはよくもやってくれたな! 触角頭!」

グリードがなのはに向かってシミターを構え、ほえる。

「しょ、しょっかくってわたし?」

なのはが自分を指差す。フェイトも同じような事言われてるんだと言う様に一言。


「わたしなんか、へびあたまとかって……」


「グリード、ボキャブラリーがお粗末すぎですわ」

表現力の弱いグリードに突っ込みを入れるラース。

「うるせぇ! 頭からアンテナみてーなもんプラプラさせやがってるじゃねーか! あれはどう見たって触角だ!」

その突っ込みに素晴らしく素直な反応をする激情家グリード。

「お前達、さっさと相手をするんじゃ」

ラストが威厳ある声でいう、ラースグリードは口喧嘩をやめて、はのはとフェイトの方に向き直る。

「おっとそうだった、こいつらやっちまわねーとな、さっきのようにはいかないんだぜ?」

「おじい様、ラースたちに強化をお願いしますですわ」

「うむ」

ラストが杖をかざすと二人の全身が黄金色に輝きだす。

「HAHAHA、みなぎってきたZEEEEEEEEE!」

グリードがそう叫ぶと、なのはめがけ一気に飛ぶ。先ほどとは比べ物にならない速さで。

風切り音が聞こえる位の唸りを上げ、あっという間に目の前にきて、イモータルシミターを上段から振り下ろす。

<Protection>{プロテクション}

レイジングハートがオートでプロテクションを出す。

バチバチと派手な明滅を繰り返すユーノ直伝の防御魔法。

なのはの強固な守りに阻まれて決定打にはならないが、じわりじわりとバリアを侵食していく。

「強いの……」

なのはもこの一撃の強さに、守るだけで精一杯だ

「なのは!」

ユーノがストラグルバインドでグリードを捕らえるが、一瞬動きをとめただけだった、それでもなのはにとっては長すぎる隙だった。

抜け出してユーノの元にいく高町なのは。

「ありがとうユーノ君」

自分を助けてくれた少年にお礼を述べる。












ラースはミルズめがけ、グリンタンニを振りかぶって打ち下ろす。

「いただきですわ!」

巨大なハンマーがミルズを押しつぶしにかかる。だが彼女が思った様には事は運ばなかった。

「なんですわ?」

フェイトがザンバーモードを起動させ、巨大なザンバーの魔力刃でグリンタンニを止めていた。

「くっ! なんていう力なんだ」

それでも止めるだけで精一杯。

「ミルズ! 逃げて!」

フェイトが叫ぶも疲弊が激しい、ミルズは動けない。

「押し……返せない……」

ミルズの体にユーノのストラグルバインドが絡まりその位置からミルズを動かした。

「邪魔……ですわ!」

ラースが渾身の力でフェイトのザンバーを振り払う。というか、ぶち抜いた! ザンバーの魔力刃を破壊する、フェイトは離脱して間合いをとる。

四人が、ユーノの所に集合する様な感じに集まった。そこで、ミルズは疲弊しながらも口を開く。

「このままじゃ駄目だ、あの二人を相手にしてはいけない、ラストに狙いを絞るんだ」

「どういうこと?」

ミルズの言動に疑問をもったフェイトが聞く。

「あれは、スピリットリンクという魔法……一時的に対象者の魔力を大幅にブーストさせる……だから……元のラストを叩けば……効果は消える」

接近戦を身上とするフェイトとミルズでは、強化されたグリードとラースを抜いて、目標であるラストにはどうあってもたどり着けないが、こちらにはあの砲撃の天才少女が今は居るのだ。

ミルズはなのはにラスト撃墜を託す。

「高町さんの砲撃なら……それが、できる!」

なのはも心得たといわんばかりに大きく無言でうなずく。

「私が二人を引き付けます……テスタロッサさんはサポートを」

理由は解らないが、かなりの魔力の疲弊をしているミルズに対しフェイトは叫ぶ。

「無茶だ! ミルズ! 囮なら私が……」

今の状態のミルズよりは、自分の方が適任だと主張するフェイトであるが。

「大丈夫ですよ、とっておきの魔法があるんです」

ミルズは、心から心配するフェイトに笑顔をみせる。

「全員散開!」

ミルズが叫ぶ。全員その指示の元に各所に散っていく。

立ち上がり、ベルカ式魔方陣を形成し残ってるカートリッジをすべてロードする。

「グラットン! センチネル発動!」

<Sentinel set>{センチネル、セット}

グラットンが発声すると、一部の甲冑がパージされ両腕がさらけだされる、それと同時に多角面体のケージ状のバリアが、ミルズの周りに形成されていく。ミルズはグラットンソードを構え、迎撃の態勢をとる。

「それで、なにができるっていうんだ!」

「わっちをなめるなですわ!」

グリードとラースがミルズに迫る。

「そうだ! こっちに来い!」

自分を標的にさせることで、なのはを砲撃に集中させるミルズ。

フェイトもザンバーを再起動させて長大な魔力刃を作り上げる。


なのはもエクセリオンモードを起動させ、足元にミッド式魔方陣をつくる、ユーノはなのはの周りにシールドを幾重にもはる。

「サイドワインダーショット!」

海の方から声が聞こえ、緑の一矢がミルズに向けて放たれた。前方に集中していたミルズはそれに気がつかない。

緑の砲撃はかなりの威力で、ミルズを包んでいたセンチネルを崩壊し、なおも威力の衰えない砲撃がミルズを貫く。三人はそれをみて叫ぶ。

「ミルズー!」

前方のラース&グリードに意識の大半を向けていたミルズは魔法の直撃を食らい、そのまま墜落していく……。


ラースとグリードはフェイトに狙いを変えた。フェイトはミルズに気を取られていたため、反応が遅れる。

「しまった!」

「フェイトちゃん!」

なのはも親友の名を叫びエクセリオンバスターの態勢に移るのだが。

なのは達の斜め上空から青い光がグリードとラースにむかって飛んで来る。威力も先のサイドワインダーに引けは取っていない程の魔法の光。

その光はフェイトに向かっていた少年と少女に容赦なく襲い掛かる。

「「何? ですわ?」」

二人はそれの直撃を受け、二度目の海への落下を体験する。

「何者だ!」

エウリュトスが叫び、その場に居た全員が光が打ち出された方をみる。





月の光に鮮やかに映しだされ、長い髪をたなびかせ、黒い羽をいくつも生やし、右手にはバズーカを持ち、黒い色のボディースーツとミニスカート。

なのははその姿をみて愕然とした。いやフェイトも同じだ。

二人は同時に声を出す。

「「リィン……フォースさん?」」

確かにリインホースだ、姿はそっくりだ。リィンフォースといわれた女性は、海上に浮いたミルズを救い上げ抱きかかえると、バズーカをなのはたちに向けて構え、砲撃を放った。しかも声までそっくりである。

「ツインピークス、ヒールバースト」

<yes master>

「え?」

ツインピークスから放たれた、白い光がなのはたちに向かっていく。

「!」

そして光が分散し、三人を包み込む感じに広がっていく。

効果を確認すると、ミルズを背負った女性は転移魔法を使い出し何処かに消えていく。

「あれは!」

フェイトはその刹那の瞬間にみた、ミルズの右手首にある十字架状の痣を。

白い光が消えるとリィンフォースも七罪の番人も消えており、三人だけが残っていた。

「今のは、回復魔法?」

ユーノが自分の魔力が回復してる事に気がつき。

「なんで、リンフォースさんが?」

なのはが半年前に見送った人物の登場に混乱し。

「どうして……ミルズに……あの痣が……」

フェイトは速人と同じ痣を持つ、ミルズ・ヒューディーという存在に困惑する。


その日、月は満月だった。






ミルズが撃墜された。ミルズを連れ去ったリィンフォースに酷似した女性の消息も掴めず数日がたった。

なのはも巻き込まれた形となった今回の事件。管理局は、七罪の番人関係を”セブンギルティアサルト”と呼称する。

番人達は現在、蒐集行為を次元世界を渡りながら巻き起こしており、管理局はその対応に追われていた、神出鬼没でいたる世界に現れては蒐集を繰り返す。闇の書事件でシグナム達が行ったものが可愛く見えるほどだった。



クロノ達アースラ組は、まだエルヌアークから戻ってはいない。

フェイト達も連日の対応に日々を送っていたが、今日は休みを貰っていた。さすがのフェイトたち優秀な魔導師といえど、たまには休みを取らないと体が持たない、それに今日は約束の日でもある。そう速人との。


「それじゃ、今日の夜には戻れると思うからフェイトもしっかりね?」

リンディは通信を切る。義娘となったフェイトからの定時通信を済ませ。

「フェイトがデートか、なにか微笑ましいわね」

リンディスペシャルティーを飲み干すリンディ、家が近いのでリンディも飛鳥姉弟とは顔見知りであるし、速人の事を少しは知っていた。

(あの子となら、いいわよね)





通信を終えたフェイトは、ミルズにあった十字架状の痣が気になっていた。

(もし、ミルズが速人だとしたら、私はどうしたらいいんだろう……)

フェイトは考える。

速人がミルズなら、リンカーコアを、それもAA+クラスの強いのを持っているはず、それに念話も受信できるはずだ、仮に応答しなくてもチャンネルが繋がれば私には解る。

今しがた、義母さんと話した魔力光とリンカーコアの色の話し……人の性格と一緒で、この二つは一生変わることが無い。私が金色なのはが桜色であるように、速人がミルズなら、黒いはずだ……。

私は今日、それを確かめることにする。

(でも……できれば)


――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
        ミルズ撃墜




あとがき

南です、此処まで読んでいただき有難う御座います。

なのはの参戦、勢ぞろいした番人達、撃墜された広域特別捜査官、物語はやっと新展開を迎えます。

いままでは、管理局VS番人で小競り合いをし、結局番人にクリスタルを奪われるというパターンでした。見飽きた展開ではありますね。

物語これから急速に展開をしていきます。各話にちりばめた謎を回収していきますので、完結までお付き合い下さるとうれしいです。

ではでは



[21490] 第八話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/09/04 12:10
爽やかな風が吹く、若草が辺り一面を緑一色に染め上げる広大な土地。

遥か遠くまで見渡せる丘。陽炎の様に三本の尖塔が遠くで揺れる。

その緑一色の丘に、月下麗人という表現が一番に当てはまる一人の女性が、大気の澄んだ青い大空を見上げている。

下腹部を重そうに、細い両手で支えながら立っていた。お腹の大きさから察すると妊娠8ヶ月に相当する大きさか?

「この子が生まれたら、あなたは、良いお姉ちゃんになってくれるのかしら?」

月下麗人が【自分】の方に優しい微笑みを投げかけ、問いかけた。

突然、月下麗人の顔が光だし、辺りの景色も白い闇に変換されていく。

徐々に白い闇が晴れていき、薄暗い部屋の景色を映し出した。

「……今のは、夢……ですわ?」

ベッドに寝かされていたラースは目を覚ました、同じように隣ではグリードが寝かされている。

水のプロトクリスタル奪取時、管理局勢力に二度もダウンを奪われ、今まで意識を覚醒する事が出来なかったのだ。

今居る場所はラース達、番人のアジトである夢幻回廊内部。

ラースが目を覚ましたタイミングで、番人の一人がやって来た。

黒い衣装を普段から着用する男、スロウス。彼はラースが目を覚ましているのを確認すると彼女に話しかけた。

「目が覚めたか、早速で悪いが出かけるぞ」

未だ目を覚ましていないグリードの身体を揺すり、目を覚まさせるスロウス。

ラースはスロウスに問う。

「出かけるって、どこにですわ?」









海鳴自然公園高台AM11:00。

速人は絵画の準備をしてフェイトを待っていた、約束を交わした場所で、もう一度ミサゴの画を描きたいと言ったフェイト。

速人はその時、フェイトを描いてみたいと約束していた。

「速人、おまたせ……」

「ボクもちょっと前に来たばっかりだ……よ?」

答える飛鳥速人であったが、フェイトの格好をみて固まった。初夏の日差しは思ったより強く、フェイトは普段着用しない麦わら帽子と白いドレスタイプのワンピースという格好は、異国のお姫様を連想させる、少年は少女の姿に見とれた。










同時刻、喫茶店翠屋。

「こんにちは」

翠屋にはユーノ・スクライアが来ていた。奇しくもユーノも休日が貰え、なのはから新作ケーキの味見にこないか? と誘われていた、こっちはこっちで微笑ましい。

「あ、ユーノ君いらっしゃい」

なのはが店員制服で迎える、本日は新作発表なので店は関係者しか入れない、いつもの賑やかな店内はここにはない。

「まってたよユーノ君、早速だけど味見おねがい」

なのはと桃子がトレーをもってケーキを持ってくるのだが、数が……多すぎる!

トレーに所狭しとケーキが並べられている。それを、なのはと桃子の二人でもってくるのだ、想像も簡単であろう。

(もしかして……これ全部?)

ユーノは戦慄した。










私は、ミサゴを待ちながらベンチに座っていた、課外授業の時に見て以来、今日はまだ現れていない。速人に聞くと「そういう時もある」と言われた。


速人の方を先に始めようって事で、ミサゴを待ちながらモデルをしていた、ポーズとかつけろとかいわれるのかと思っていたのだけど、ベンチに座ってミサゴまってればいいよ、と言われて今に至る。

「じゃあフェイト、始めるね?」

言われたので「うん」と答えた。


モデルをしながら考えていた。私を見る速人の眼は青い、ミルズは黒かった。

これだけでも違う人物と思えるけど、魔法にはそれを誤魔化せるものもある。画を描くときの速人は左手で描く、ミルズは剣を右で使っていた、速人の髪は銀色、ミルズは烏羽色。唯一の共通点が右手首のアザ……

これだけ違うところが存在するのに、私はまだ速人のことを疑っていた。人としてはいけない事なんだろうけど……そんなことを考えていたら。

「フェイト?」

速人が私の顔を覗き込み、声をかけてきた。

「何?」

突然の声掛けに、私はそう返事するのがやっとだった。

そんな私をみて速人は「何か心配事でもあるの?」と聞いてくる。正直な所、速人のひとの心を見抜く力には、いつも驚かされる。

「そんなこと……ないよ?」

私の返事を聞いた速人は描くのを止めて言う。

「なら僕も描くの止める、今のフェイトを描いてもつまらないよ……」

少し寂しく言ってきたので罪悪感が生じる。速人は描くのを止めて私の隣に座る。

私は何か違和感を感じた、なんと言うのか形容しがたいのだけど、速人が隣に座った感覚が、学校でお弁当を一緒に食べる時とは違うような?

「フェイト?」

速人が私の顔をさらに覗き込む、私は速人の顔を正面からみた。

(速人……ごめんね)

心の中で謝り、瞳に魔力を込めて速人の中のリンカーコアを覗く。

うそ? こんなことって?










「う~ もう、食べれません……」

翠屋では、味見なのに律儀にケーキを全部食べきった【勇者】が降臨していた。

「ユーノ君、味見なんだから……一口二口たべて感想言わないといけないんだよ?」

なのはが少し呆れて言う。

「だって……それって……作った人に失礼じゃ」

お店のソファに横になり、お腹をさすりながらユーノはなのはに自分の心境を言う。

「それじゃ意味が無いんだよ~ ユーノ君にたのんだわたしが、間違ってたのかな?」

「でも感想なら言える、全部おいしかった」

はのはの人員選択のミス反省に対して、取り繕うように、取って付けたような意見を言ったユーノ・スクライア。

「それは嬉しいわね」

二人のやり取りを、奥で聞いていたのか大人の女性が近寄ってきた。










速人のリンカーコアを見た私はびっくりした反面、喜んだのかもしれない。

速人にはリンカーコアが見当たらない、つまり魔力が無い。かなり稀ではあるが、魔力がまったく無い人物も居るのだと、義母さんは言っていた。

「フェイト……その……見つめられると、てれるよ」

速人が顔を赤らめて言う、私は思わず少し笑ってしまった。笑ったのは私の中でわだかまりが消え去ったからだけど。

「あ! その表情いいな」

「なんで?」と聞くと。

速人は嬉しそうに返事をしてくれた。

「フェイトの表情ってね、すごく綺麗なんだよ、特に、笑ってる時がさ」

答えた後に、すぐにキャンバスの方に向っていった、速人を見ながら私は思った。リンカーコアが見えない……つまり魔力が無い。ということは速人はミルズじゃない! 私の中で、その答えはすごく大きかった。その時ミサゴが姿を現した。

「あ! 来たよ!」

私は声をだして速人を呼んでいた。











「こちら、飛鳥エナさん、今日の新作ケーキを作った人だよ?」

なのはがユーノに紹介する。

「ユーノ・スクライアです、ケーキおいしかったですよ」

「有難う、ユーノ君でいいかしら?」

エナの問いかけに、ユーノはハイ! と強く返事をかえすと、なのはがユーノのお尻をつねっていた。

「い!」

ユーノは顔を強張らせる。それを見たエナが笑って。

「なのはちゃん、速人迎えにいってくるから私はあがるね?」

奥に飲み物があるからどうぞ、と言ってその場所を離れる。居なくなったのを確認するとユーノがなのはの方に顔を向けて抗議する。

「痛いよ! なのは」

「ユーノ君て、美人に弱いんだね?」

ジト目と低い声で、ユーノを見見つめた。









海鳴市の定食屋でかなり遅い朝ご飯を食べているラース、グリード。

スロウスから出かけた理由を聞いて。グリードは、カツ丼をかっこみながら言う。

「なぁ、この前もここに来たけどよ? ここにホントにイレイザーってのが、あるのかよ?」

「プライドが言うんですから、間違いないですわ。グリードはホントに反抗期ですわ」

ラースは上品? に野菜炒め定食のおかずを口に運び、食べながら、前にもやったような掛け合いをする。

「右手首に十字のアザがある者を探せ……それが証だ」

青髪のオールバックの男、スロウスはコーヒーだけ注文して飲みながら言う。

「食べ終わったら、手分けして探すぞ」




フェイトは速人にアドバイスをもらいながら、ミサゴを描いていた。以前のそれよりかなり上手になっている。

「速人はもう描かないの?」

つきっきりで教えてくれている少年に対してフェイトは申し訳なさそうに聞いた。

「あれ(画)は1日では完成しないよ、後はゆっくり描きあげる、完成したらフェイトに見せるよ」

速人が笑っていうと、姉のエナが長い筒状の物と、大きなランチバックをもってやってきた。









再び翠屋。

「へー、フェイトが男の子とね~」

ユーノは何とかなのはのご機嫌をとり、フェイトと速人の話にもっていった所だった。

「私の弟分って感じかな?」

「あー、この前いってた、誕生日が一緒で僕が来る前になのはの所に居たっていう子?」

なのはが「そうそう」と頷く。










フェイト達三人は、ベンチで少し遅い昼食を取っていた。エナが気を利かせて持って来てくれたのだ。

ケーキを食べながら「おいしいですエナさん」フェイトが感想をもらす。

エナはフェイトをみて微笑んだ。速人は意外にも甘いものが好きなようでムシャムシャ食べている。右手首の十字架のアザが激しく動くほどに。


(見つけたぞイレイザー……ラース、グリード。俺の所に来い、十字のアザをつけてる者を見つけた)

スロウスが遠話で二人を呼ぶ。



なのはとユーノは、月村邸に向かっている所だった。ユーノが帰るからだ。

「!」

二人は魔力反応を感じて空を見上げた。

「あれって」

なのはが呟く。グリードとラースが自然公園の方に飛び去っていった。

「なのは、僕が結界張るから、二人を追って!」

なのははうなずき、バリアジャケットを展開して空に舞い上がっていった。











エナが不意に険しい顔になる、フェイトも魔力反応を察知する、帰りの準備の最中のことだ。

青い髪のオールバック男が槍をもってあらわれる。

「そこに居る、十字架のアザの者を渡してもらおうか?」

赤い槍ゲイアサイルを両手に携えて、物言いは静かであるも脅迫に近い言動で迫るスロウス。

「貴方は何者ですか?」

スロウスの雰囲気に飲まれもせずに正面からスロウスを見つめる飛鳥エナ。いつもと感じが違うエナにフェイトが驚く、さらに、エナは長い筒状の入れ物から刀を引き抜いた。

「エナさん?」

フェイトが口にだす、普段の優しい人物からは想像が出来ない、物騒なものが取り出されたのだ。

「良くわからないけど、速人を狙ってるみたいね……速人! フェイトちゃんと一緒に此処から逃げなさい!」

速人はそう言われ、フェイトの手を取って直ぐに走り出した。

「にがさん!」

スロウスが追いかけようとすると槍を刀で弾き阻むエナ。太刀を握った剣士エナは弟を狙う目の前の人物に殺気を抑えず喋った。

「この先は私がお相手します……お覚悟を」








速人とフェイトは走る。エナに言われた通りとにかく走った。自然公園の外れに位置する雑木林を抜けて、人工池の辺に抜け出た。

スロウスが追ってこないのを確認すると速人は立ち止まった。息を整えながら姉の習得している武術の事は隠して説明する。

「姉さん、強いんだ、剣道やってるから」

剣道にしては扱ってるモノが物騒すぎるのだが、フェイトにとってはどうでもいい事柄である。フェイトも息を整えながら考えをまとめる。

(アレは番人だ、私もいかないと)

不意にあたりが結界に包まれる。そして上空から、みつけたぜの声。フェイトも速人も上を見上げるとグリードとラースが居た。

「何?……なんなのこれ? 人が空中にういている?」

速人は訳がわからず震えている。当然であろう、地球育ちの少年にとって、人が空中に浮いてる所を目の当たりにすれば訳が分からなくなりもするし、しかも一人は巨大なハンマー、もう一人は湾刀を手に持ち、自分を睨んでいるのだから。

震えている少年に対し、魔導師である少女は決断を迫られていた。迷ってる暇は無い、自分の正体を知られる事に躊躇していては、この状況を打開する事などできない。

ワンピースのポケットに忍ばせているレリーフを強く握り、彼女は決断した。

「速人、なにがあっても私を信じて、お願いだよ?」

少年に一言いい。フェイトは覚悟を決め、金色のレリーフを取り出し叫んだ。

「バルディッシュ・アサルト・セットアップ!」

<set up>

金色の光体の中でバリアジャケットとバルディッシュが組み立てられていく。

「フェイト……」

(何があっても私のこと信じて、お願いだよ?)

フェイトの言葉を聞き、少年は少女を信じる事にした。友達だから、なにより彼女が好きだったから。

フェイトはバルディッシュを構え、速人にバリアを施し真剣な眼と凛々しい口調で。

「ここから、動かないで」

少年に言い、番人二人の前に浮かんだ。

「彼を狙う理由は何だ!」

フェイトは語気を強め二人を睨んで言う。

「聞かれても、答える訳ありませんですわ~」

ラースが答えにならない答えをかえすと、なのはが追いついた。

「フェイトちゃん!」

「なのはまで……」

速人はバリアの中で呟いた。

(なのは、相手は二人、いや三人、狙いは速人だよ、この二人倒してエナさんの所いかないと)

(え? 速人君が狙われている?)

短い念話でのやり取り。なのははバリアに包まれた速人を確認した、こっちを心配そうに見ている、混乱している様子は無い。

「なら、さっさとやらないとね!」

「うん」

グリードとラースとの三度の対決。

「丁度いいぜ、お前ら変な頭シリーズには色々と借りもある、ここでやってやるぜえええええ!」



(スロウス! 目標をコッチで補足、こちらにくるですわ)

ラースから入ったログに、スロウスは目の前の剣士から飛び去った。

(今向う)

「待ちなさい!」

空を飛ばれてはエナには追いかける術がなかった。



フェイトがグリードと、なのはがラースと戦っているのだが、以前よりも学習したのかこっちのコンビネーションに入らせる隙を与えてくれない。相手の連携のよさにフェイトが言葉を漏らす。

「く! 前よりも強くなってる」

憤怒と貪欲の小さな番人達は勢いに乗る。

「どうしたどうした、それでおわりか?」

「ぶち抜きますわ!」

ラースがグリンタンニをなのはに振り下ろす。

<RoundShield>{ラウンドシールド}

レイジングハートが発声する。受け止めるなのは、バチバチ! と派手に音と光が生じる。 

「かたい、ですわ、この子……化け物ですわ」

ラースは、自分のフルパワーに近い力で愛機グリンタンニをぶちかましにかかったのだが、眼下の白いバリアジャケットを着込む少女の防御魔法。その硬さに苦言をもらす。

かたや、高速戦闘を繰り広げている二人組は。


「ハァー!」

フェイトの威勢の良い掛け声と共に。

<HakenSaber>{ハーケンセイバー}

バルディッシュが発声し、フェイトがハーケンセイバーを放つ。はなったソレをグリードが一刀両断にし、蹴りをいれてバランスを崩させる。

「何度も同じ手を食らうと思ってるのか?」

「うあ」

思わず声を上げるフェイト。速人は上空で繰り広げられている戦いを見て、何も出来ない自分をしって悔しがる。

幼いときから知ってる家族のような女の子、その子の親友で、自分にとっては一番気になる子、その二人が戦ってるのに何も出来ない自分が悔しい。

正直な所、速人にも対抗策が無いわけではなかった。

だが、ソレを使うという事は姉との約束を破ることになる、加えて{ある事}も覚悟しなければならない。


(僕にも【力】はある、けど、あれは姉さんとの約束で使わないって決めてた、それに僕自身にも……けど、だけど、姉さんゴメン! 僕は、ボクは……なのはやフェイトを……助けたい!)

何処からとも無く鳳(おおとり)の鳴き声の様な音色(ねいろ)が聞こえてくる。

【力】を使い始めた速人の胸の中に、ひとつの光が生じる、小さな光、でもソレは、紛れも無いリンカーコアの光。

「さっさとぶっ飛んじまえよ、ヘビ頭!」

グリードは、蹴り飛ばしたフェイトに追い討ちでイモータルシミターの斬撃を仕掛けた。

「これで終わりだぜ!」

動きが鈍ったフェイトに対し勝利宣言をするグリード。

「もう、だめかも?」

右わき腹を押さえつつ、フェイトがそう思った時。下からもの凄い魔力の流れが生じる。

フェイトに襲い掛かっていたグリードは信じられない顔をする。フェイトは瞳を見開き、そこで見たものは!

「は・や・と?」

一瞬でフェイトの目の前に舞い上がり、白金の魔力の光に包まれた少年が素手でグリードのデバイスを受け止めてる姿があった、グリードを睨みつけ。

「フェイトを……なのはを……傷つけるなああああああぁ!」

速人がそう叫ぶと白金の光は輝きを増した。速人の周囲を取り囲んでいた光は、二条の光の槍となってグリードとラースを打ち抜いた。

直撃を受けた二人は墜落、スロウスがその二人を担いで消えていった。速人がそれを確認すると、魔力の光は消えうせ速人は気を失った。

フェイトの方に倒れこむ少年。フェイトは抱きとめ名前を必死に呼ぶ。

「速人! 目を醒まして! はやと~!」










速人が【力】を発現させてから二日が経った、あれから速人は死んだように眠り続けている。

フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは家の中の魔法系治療室で眠り続ける速人の所にいた。

ハラオウン家の司令室兼リビングではエイミィとエルヌアークから戻ったクロノで、その内容を確認している最中。

「しかし、凄いねこれは……」

エイミィは、レイジングハートとバルディッシュから受け取った速人のデータを見て驚嘆の声を上げていた、クロノも凝視している。

「魔力流の流れだけでフェイトのところまで飛んだのか……」

「さらに、デバイスを素手でとめるんだもんね」

ミッド人の彼等には理解しがたい映像のオンパレードである、エイミィはさらに番人の二人を攻撃した光の槍の画像を選んでクロノに見せる。

「とどめはこれだよ、この光の槍の攻撃さ威力換算SSSはあるよ?」


「本人の魔力ランクは計り知れないな……この世界の人たちは規格外もいいところだな、だが……このままじゃ速人の命に関わるぞ、この発現方法は危険な使い方だ」

映像をみて、瞬時に命に関る危ない使い方と見抜くあたり、さすがにアースラの最終兵器の異名をとるクロノ・ハラオウンである、速人の異常なまでの魔力放出に表情が険しくなっていた。




――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
        リンカーコア生誕







あとがき

南です、此処まで読んでくださって有難うございます。

物語の中盤に入りました。

少し注釈を入れておきたいと思います、作中表現の中の【力】は{ちから}と読みます。

【力】の詳しい描写は次回の話であげます。

では、次回でお会いしましょう。



[21490] 第九話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/09/06 18:02
スプールス夢幻回廊。

淡い金色の球体の中に、裸で体育座りの格好で眠りについている少年と少女。

二つの球体を見つめる青い騎士甲冑を身に纏う女性剣士エンヴィー。

三人からやや離れた所で密談を交わすオールバックの男と筋肉質の大男。

ラースとグリードのデバイスであるグリンタンニとイモータルシミターから、速人の発現させた【力】の映像を見ていた。

「ふむ……魔法というより、エナジーストライク(魔力打撃)というタイプのものだな」

大男グラトニーがスロウスに語る。スロウスも頷くが疑問も同時に投げかけた。

「エウリュトスが言っていたイレイザーの力ではないな? これはアルハザードの一般兵士がよく使う類のものだぞ」

二人の密談に加わる人物が現れる。弓士エウリュトスは、槍士スロウスの疑問に答えた。

「この少年の手首には十字架の痣があったのだろう? それは間違いなく【世界を消去する存在】スターロードイレイザーである証だよ」

エウリュトスは速人の画像をみて、長年探していた物を見つけた! と言わんばかりに嬉々とした表情を見せていた。彼の右手には分厚い黒い本が持たれている。

「この本の禁書目録部分の起動までは、放置しておいてもいいさ、居場所の特定が出来ただけでもかなり違うよ」

グラトニーは分厚い黒い本を見てすこし表情を曇らせる。反対にスロウスは何処吹く風で弓士に聞いた。

「蒐集の残りページ数は?」

本を広げ確認するエウリュトスは、残り残数を答え、蒐集対象となる属性の魔力を告げる。

「残りは350さ、光属性の魔力でないと受け付けないから少し厄介だね」








海鳴市 高町家。

高町家では、リンディ、士郎、エナ、なのはが話し合っていた、時刻は午後7時。高町家のリビングの雰囲気は明るいとはけしていえない、現在口を動かしているのはリンディ。

内容は魔法という存在と管理局についてエナに説明している所だった、魔法の源リンカーコアと人の命の密接な関係も述べている。速人が意識を失って今まで目を覚ましていない原因はリンカーコアにあった。

「速人君は、その魔法の元になってる魔力をつかったわけなんです、魔力を使いすぎると先ほど説明したとおりに意識を失うこともあり得るんです」

リンディはそこでいったん口を閉じる、エナは終始真剣に聞いている様子。

一拍置いてリンディ・ハラオウンは解説を続ける。

「それと、気になることが2点あるんです」

速人の魔法の使い方はなのはやフェイトのそれとちがい、魔力そのものを放出して、魔力が尽きると止まる、という流れであり、これは今までに例がないそうだ。

普通はデバイスという媒介を使うか、呪文という形を取ってでないと使えないらしい。

「あとひとつは、魔力の元となるリンカーコアの大きさなんです」

リンディが、なのはさんに居てもらったのは見てもらった方がわかりやすいので、と付け加え、なのはが自分のリンカーコアを発現させる。桜色の球体が現れる、レイジングハートの待機状態の宝石位の大きさだ。

「速人君のは現在この大きさの三分の一位なんですが……それにしては発現した魔力の力が大きすぎるんです、まるでリンカーコア自体から削り取るような感じで魔力をつかってるんです」

その説明を受けてエナと士郎が顔色を変える。リンディはそれを見逃さなかった。鋭い視線を二人に向け聞く。

「何か、心当たりがおありなんですね?」

リンディの鋭い視線を受ける士郎とエナ、やがてエナが口を開く

「実は、今日のようなことが、過去に1度だけありました、もう7年も前のことですけど……」

俯くエナに代わり士郎が続けて話す。

「リンディさんが知ってるとうり、高町の家は剣士の家系ですが、彼女も同じ剣士の家系なのです、鳳凰院流太刀術という剣士の」

エナが顔をあげ、飛鳥の家系の側面を説明する。本来なら話す内容ではないが、目の前の異世界人には話しておいた方がいいというエナの判断であった。

エナが話す内容では、鳳凰院流派は陰陽師、安部清明(あべのせいめい)が時の帝(みかど)を守る武術として開発したもので、武術の他にリンディたちの言う魔法といわれる術もあるのだという。

それを鳳凰院では【力】(ちから)と呼んでいる。

速人の【力】はその中でもかなり稀なもので、生命力そのものを【力】として使う類のもので、使いすぎると命を落とすというものである。リンカーコアと人の命の密接な関係説明を受けた為に士郎とエナは顔色を変えた訳である。

術の中にはその【力】を封印するものが存在していて、それを七年前の速人に施していたということを伝える。

リンディは納得がいったとばかりに頷く。

「なるほど、それで今まで、速人君から魔力を感じなかったわけですね」

静寂が支配する高町家リビング、リンディが考えを纏めて提案する。

「しかし、今のままでは速人君自身が狙われているようですし、私に預けていただけませんか? エナさん」

「どういうことでしょうか?」

疑問を投げかけるエナに、リンディはまたも説明しだした。

理由が解らないが、管理局が追っている犯罪者達が速人を狙っているという事。魔力をこのままにすると又暴発する恐れがあると言う事、コントロールを覚えれば無理に封印する必要性がないことを説明した。

エナがリンディに対して懇願するように口を開く。

「速人が……死なずに済むなら…お願いいたします、私では使っちゃいけないとしか教えられませんから……」

リンディはそんなエナに大丈夫、きっと速人君は良い方向に向かいますと告げ、エナの両手を握った。









再び夢幻回廊。
 
グラトニー、ラース、グリード、エンヴィー、スロウス、ラスト、エウリュトス。

この七人が、各々円形と三角形の魔方陣を展開しその魔力が中心に居る人物に送られている。中心で魔力を受ける彼女の魔方陣は、グラトニーがモノリスの封印を解除した時と同じもの。円形の魔方陣の中がヘキサグラムのものである。最も色は彼女の髪の色と一緒である赤色だが。

赤い長いツインテールと茶色のブレザー、紅い短いスカートを着けた女性。名をプライド、番人の中で最も魔法に精通し番人中最大の魔力を有する炎の魔法使い。

シンフレアを炎の海にしたのは彼女の魔法によるものだ。やがて全員の魔方陣が消えていく。

「何かわかったかい? プライド」

エウリュトスがプライドに聞く。彼ら全員の魔力を使っての探索魔法、これで何を探していると言うのだろうか?

プライドは閉じていた目を開く、その瞳に光は無く虚ろだ、エウリュトスの問いかけに暫くの時間を使った彼女は声を出して答えた。

「探し物は……アルザス……」

彼女の答えに、グラトニーが反応した。

「ほう、あの竜召喚一族の居る世界か……相手は、真龍ティアマットか……」

グラトニーの言葉に、エウリュトスは苦い表情をした。もう竜退治はごめんだという感じである。

「ティアマットならば、光属性の魔力をふんだんに持っていましょう……」

虚ろな瞳のプライドの一言が、七罪の番人達に蒐集目標は真龍と定めさせた。

番人のリーダー格である大男グラトニーが言う。

「本調子でないラースとグリードを残し、後の者はアルザスに向かうとする」









「うん、わかった」

フェイトはリンディからの電話を切った、速人のいきさつを聞かされた所だった。


フェイトが速人の所に戻ると速人が目を醒ましていた。室内は少し暗めに照明が調整されている、丁度蛍光灯に付く小さな裸電球が発する程度の光に。

「速人! おきたんだね」

嬉しそうに目の前の少年に笑顔を向けるフェイトの心境は、気が付いて本当に良かった、という感じのものであった。

「ここは?」

上半身を起こした速人がフェイトの方をみる。彼女を助けたい一心で【力】を発動させ、気を失い、いま居る場所が何処なのか理解できていない、現在彼はベッドの上なのだ。

フェイトは速人の居るベッドに腰を掛け、彼の右隣に座り質問に答える。

「私の家だよ」

フェイトは速人の【力】についてエナ達から聞いたことを速人に伝え、自分となのはが魔導師であることも伝えた。

薄暗い空間でフェイトの視線から顔を背けている速人、ジッと速人を見つめるフェイト、二人の間に沈黙が流れる。


急に速人が自分の両腕で自身の体を抱き、震えだす。何かに怯えるような仕草にフェイトは少し戸惑いを感じ聞く。

「速人どうしたの? 大丈夫?」

フェイトは速人の右手を自身の左手で掴み聞く。心配してくれる彼女に速人は静かに喋りだした。

「姉さんがいってた……この【力】は僕の命を確実に削っていくんだって何でこの【力】僕にあるのかわからない」

今まで【力】に関して他人に自分の心境を話すという機会は無かったが、目の前の少女には素直に打ち明ける。

「正直、あの時、夢中だったよ【力】が魔力だったとしても命を削っていくことには代わりがない」

速人の話を隣で黙って聞くフェイト。小さな窓から差し込んだ月の明かりが速人の顔に当たり彼の表情を印象つける。

隣のフェイトに顔を向けた少年の澄んだ青い瞳から、一筋の涙が頬に伝わって顔から落ちそれがフェイトの左手の甲に当たる。

「フェイト、怖いよ……僕……死にたくないよ、こんなわけの解らない魔力のせいでなんかしにたくないよ……感情の高ぶりが、この【力】を呼び覚ますきっかけになるんだ……小さい頃に、この【力】を使った事がある、その時も生死の境を彷徨ったんだ、二度と使わないって決めたのに……」

速人はフェイトの目の前で涙を流す、命の危険に怯える涙を。

フェイトも速人を死なせたくはない、リンディが言うにはコントロールすることを覚えればその危険を回避できることも聞いていたから。

フェイトはベッドで涙を流す速人に寄り添い抱き寄せる。

「フェイ…ト?」

「速人、私、この間のお礼を言ってなかった、助けてくれて、有難う」

速人は急に抱きしめられ丁度フェイトの胸あたりに顔をうずめる形になる。フェイトは自分の魔力を解放して自分と速人を包み込む、やさしい金色の光で。

暫し無言で、フェイトは速人を抱きしめ、速人は抱きしめられていた。

フェイトは自分の胸中に顔をうずめている速人に優しく話し始める。

「魔力はわたしにもあるよ? 君は今この魔力に何を感じる? 怖い?」

やさしく語るフェイトの表情には、死に怯える少年を救う聖母のような雰囲気がある。

「あたたかい……」

速人は言葉に出した感覚以外に自分の不安が薄らいでいく感覚も味わった。

それを聞いてフェイトは魔力の開放を止め、抱擁を解いた。速人の顔まで自分の顔を持っていき。

「君は、魔力の使い方を知らなかっただけ、ちゃんとした使い方を覚えれば、死ぬ事なんて無い。速人が私に絵の描き方を教えてくれたように、私が君に魔法をおしえるから、だから一緒にがんばろう……ね?」

速人の瞳をみつめてそう語るフェイト。

「使い方……覚えれば、死ななくてすむ……」

速人は瞳はフェイトに向けてはいるが、自分に言い聞かせるような感じで話す。フェイトは真剣に頷く。

「フェイトの言うこと信じるよ、僕に使い方教えて……」

フェイトはありったけの微笑みで「まかせて」と答えた。



  ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
         飛鳥速人




あとがき

南です、此処まで読んでくださり、ありがとうございます。

九話をお届けです、此処まで来たので暴露ですが(一話でバレバレだったかもしれませんが)この物語のオリジナル主人公は、飛鳥速人(あすかはやと)という少年です。

彼がどのように活躍していくのか、見守ってくださると幸いです。




[21490] 第十話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/09/07 15:58
フェイトは速人に魔法の使い方を教えるべく、色々な文献を引っ張り出し、ミッドチルダ式がどういったモノなのかを再確認していく。

速人自身がミッドに適正があるのか、ベルカに適性があるのか、まだ未知数である。フェイト自身はミッドチルダ式を扱うため、まずはそれから試してみようと言う事になる。


魔法の特訓初日。

ハラオウン家の住むマンションの屋上でフェイトの使い魔アルフが結界を作った。フェイト、クロノそして速人の合計四人が結界内に存在する。

「じゃあ、まずはリンカーコアの発現の仕方からいってみようか?」

フェイトの優しい声が結界内部に響く。リンカーコアを体内から外に出す。この行為は魔導師としてまず覚えないといけない事であり。これが出来ないと次のステップである魔方陣の構築すら出来なくなる。

「速人、心を静かにさせて、自分の胸の中に意識を集中させてみて? 中に光をイメージしてみるとやりやすいかも?」

フェイトのアドバイス通りに行動を起こす速人。直立不動の体勢で自分の中に光をイメージする。その行為を注意深く観察するクロノとフェイトと犬形態のアルフ。

すると、速人の両手が自然と自分の胸の辺りまで動きソフトボール大の広さを作った所で止まる。やがてその空間の中に、白金(プラチナ)色の小さな光の球が出現した。

「へぇ、速人の魔力光は白金か、珍しいね」

声を出したのはアルフ。通常の魔力光と言うのは色の三原色に習ったものであり、フェイトの様な金色というのは変換資質をもった者が発現させる色である。中には、はやての様な例外も存在するのであるがミッドチルダ式魔導師においては今までに例が無い。

「なんらかの変換資質を持っていると言う事か……」

クロノは速人が出現させた色に感想を漏らす。

フェイトは、まず第一段階をクリアした速人を見つめて微笑む。およそ10分間、速人のリンカーコア取り出しの練習は続いた。フェイトがコアをしまっていいよ、と声をかけて、訓練終了を言い渡す。

「ふう……」

速人は一息ついた、全身から汗をかいている、慣れない事をしたために、体がかなり緊張していたのであろう。

「今日はこれで終わりなの?」

少し物足りないと言う感じの少年の意見に、クロノが口をだす。

「あまりあせっても仕方が無い。覚える事は山ほどあるが、基本をしっかり覚えないとな、そのうちに嫌って言うほど特訓させてやる、今はまだ適正判断の時だからな物足りなくて当然だ」

クロノの物言いに、そうですか、と少し残念そうに言う少年。そんな速人にクロノは課題を出した。

「どうしても、と言うならそうだな……君がいま勉強している物理を今から見てやろう」

「え? 物理!」

クロノの意見を聞いた速人は青ざめる、速人はどちらかと言うと物理はあまり得意じゃない方である、夏休み入って課題は出ているが、毎回物理は後回しにしている教科であった。

「此方の物理が、ミッドの魔法習得に大いに役に立つんだ、なのはも、フェイトも物理においては優秀だぞ?」 

お前の基礎力を見てやる、というクロノの意見にフェイトが賛成意見を出した。

「そうだね、物理を理解できれば魔法の使い方も覚えやすいから、速人、クロノにみてもらおう?」

好きな子にそう言われてはイヤです、とはいえなくなった速人だった。すこしトーンを落として返事をする。

「よろしく、おねがいします」

こうして初日を終え、その後4時間。クロノとマンツーマンで物理の勉強をした速人であった。正直こっちの勉強の方が彼にとってはきつかった。


こんな感じで適正判断を下していきながら魔導師速人の訓練が始まったのである。








その日の夜遅く、ハラウオン家リビングで、色々なデータや本を取り寄せ必死に魔法初心者の為に教えるマニュアルを作っていく。約束した以上は全力で教える。フェイトは親友のなのはから、全力全開の意味を嫌と言うほど学んでいたからだ。

「あまり根を詰めると、君が持たなくなるぞ?」

砂糖の入ったココアを義妹の為にいれてやった義兄クロノはそれを差し出し、飲めと勧める。

「あ、ありがとう……クロノ」

フェイトはココアを口にする、クロノも同じようにココアを飲んでいる。フェイトの作っているマニュアルにサッと目を通した義兄は、自分のポケットから待機状態のデバイスを取り出し、彼女の手書きのマニュアルの上に置いた。

「クロノ……これって?」

差し出された物は、彼が使っていたストレージデバイス、ジュエルシード事件、闇の書事件の時に使っていたデバイス【S2U】だった。クロノにとって見ればグレアムから凍結の杖、デュランダルを託される前まで愛用していた。思い出のある一品。

ココアを飲みきったクロノは義妹に考えを述べる。

「速人が、何系統の魔法が得意なのか? 現状では分かっていない、君はバルディッシュを扱わせるつもりなんだろうが、それだと返って速人がデバイスに振り回されるかもしれない、こっちのS2Uの方が初心者には扱いやすいはずだ」

確かにクロノの言うとおりである。魔力は大きいと予測される速人であるも、魔法を使うとなるとズブの素人の位置なのだ。高町なのはのように、いきなりインテリジェントデバイスを扱える、という天才は、そうは居るわけが無い。

フェイトはクロノを見つめた、血はつながっていなくとも、未だ兄妹関係の日が浅くても、クロノはやっぱり自分の義兄。それとなくサポートをしてくれているのだ。

今日の特訓を終えた速人の帰り際の言葉を思い出すフェイト。

物理の特訓を受け終わり、ゲンナリした速人が靴を穿き、一言いった。

「クロノってさ、いい兄貴だよね? 僕には兄と呼べる人が居ないから、フェイトがうらやましいよ」

「そうかな……」

速人の意外な一言に少し言葉を詰まらせるフェイト。速人はそんなフェイトに笑いかけ言う。

「きっとさ、クロノ待ってるよ、フェイトがお兄ちゃん、って言ってくれるのをさ? 言えばきっと喜ぶよ」

クロノとフェイトの関係は速人も理解していた、養子に入ってまだ半年。フェイトの性格から直ぐに言い出せないことも分かっていたが、それでも勧めてみたのは、クロノとマンツーマンでやった特訓からクロノの想いを見抜いたのであろう。

速人の後押しも在った為か、フェイトはクロノにお礼を言う時にいつもと違う返事をした。

「ありがと、お兄ちゃん」

クロノにとってみればこれは完全な不意打ちであった、飲みきったココアのカップを手から落とし、そのカップが自分の右足の小指にクリーンヒットした。

「ーーーーーーーー!」

彼(クロノ)の声にならない叫びが聞こえそうだ。小指を押さえて悶絶する義兄。

「わたし、変な事いったかな?」

頭に疑問符をつける義妹のキョトンとした表情は、痛みをこらえる義兄の悶絶表情とは対象的であった。




魔法特訓の方も順調に進んでいく。

「じゃあ今日は、今までのおさらいね、まずは魔方陣の展開から」

フェイトに言われ、速人は魔方陣を構築する、白金(プラチナ)色のミッド式魔方陣が出来上がる

危惧していた方式のほうは、クロノとのマンツーマン物理特訓の成果かミッド式魔法陣を構築出来るまでになっていた。

今は、ミッドでも基本的な魔法を習得しソレを運用展開と言う所まで進んでいた。

「次は移動系の練習ね? 500m先の目標まで0.1秒で動けるようにね?」

「次は空をとぶよ?」

フェイトの訓練は物言いはやさしいが、その実スパルタだ、日に日にクリアのハードルが高さを増していく、速人も必死にそれに応える。

フェイトはミッド式魔道士の中でも近距離と中距離を得意としているが、遠距離、長距離は得意じゃない。なので、あの少女が登場となる。

「なのはが……教えるの?」

速人は聞く、それはもういやそうに、まるでフェイトとの二人の時間を邪魔するな的な視線を送って。

「わたし、これでも管理局で先生役なんだけどね?」

速人をいじめれる、もとい教育するのも姉貴分の仕事だといわんばかりの視線を浴びせる。

「ごめんね速人、わたしは、接近戦とか教えれるけど、クロノが教導専門のなのはにも見てもらった方がいいって言うから」

フェイトが申し訳なさげに言うと、速人はあきらめた感で「おねがいします……」と答える。

「じゃあバリアジャケットつけてはじめようか」

なのはが訓練開始を告げる、フェイトもなのはもバリアジャケットを着ける。

「うん……」

速人もバリアジャケットを着用するのだが?

「……」

暫しの沈黙の後、なのはが彼の格好をみて笑い出す。

「アハハ、速人君、それにあってない~」

げらげら笑い出す。速人に対しては遠慮というものをしない、それが高町なのは、腹を抱えて盛大に笑う。

「なのは……速人も気にはしてるんだよ?」

フェイトは速人の心中を察する。なのはにフォローを入れ、笑いの元になってる少年の方を見る、ムスッとしてる速人。速人がつけたソレはクロノがつけてるソレだ。

急遽の借り物デバイスなのでジャケットの換装もしていないわけだ。速人は思った。

(直ぐにデバイスの変換式も組めるようになってやる! 待ってろよ、なのはめ!)

姉なのはに対し、変な所で対抗心を燃やす弟速人であった。


――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
       義兄と義妹 姉?と弟?






あとがき

南です、まずは特訓編と言うところでしょうか。

リンカーコアの発現など独自解釈になってるのですが、間違っていると感じられたりしましたら、ご意見お聞かせ下さると幸いです。

ではでは



[21490] 第十一話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/09/12 15:57
ハラオウン兄妹からミッドチルダ式という魔法の使い方を教わる飛鳥速人。

学校での成績は中の上の辺りであるが、美術や工作等の成績はダントツであった。しかしミッドチルダ式魔法と言うものは、此方で言う科学の部分も入ってくる。

大別して文系な彼は理系教科に強くなかった。

だが、人間面白いもので、窮地に立たされると火事場のくそ力が発揮されるのであろうか? 英会話も出来ない日本人が、なんの頼りも出来ない状況下で必死に英会話を覚えて行き、ひと月で会話等が出来るようになってしまう。または、子供特有の興味が沸くと苦手な物も好きになりどんどんと力を付けていく。

こんな現象が現在の彼、飛鳥速人の近況だった。

七罪の番人は速人を襲撃してから、この地球の存在する世界には来ていない。というか、時空管理局本局の有する、全次元航行艦隊の捜査網に引っかかることが無かったのである。

執務官であるクロノ・ハラオウンは本局に行き来する傍ら、速人の物理の勉強を専門にみつつ、クロノの補佐という立場のフェイトは、クロノよりは時間的余裕があったため、殆どは彼女が教えるというスタイルになっていた。

現在はクロノの部屋での物理の勉強中。勉強の最後にクロノが試験問題をだし、合格点を取らなければまたやり直しという、実にスパルタな事をしている。

最初に行った時は、様子見で4時間という時間が使われ、2回目は合格点が取れずに半日の間クロノの部屋に缶詰になったのだ。

このとき、速人はクロノに言われた。

「お前、自分の命がかかってるのに、そのやる気の無さは何だ?」

クロノにこういわれる程。彼の物理はお粗末過ぎたのだ。仮に教えるのがフェイトなら。

「此処の問題は、この公式を使えば解けるとおもうよ?」

等の助言があり、物理自体の理解力は増えたかもしれない。しかし、物理の勉強は、あくまで魔法の構築を理解するために学ぶものであり、魔法の基礎とされるものである。基本が理解できていなければ応用など出来るわけも無く。他人の手助けがあってはいけないのだ。

2回目の特訓後にクロノは速人に課題を出していた。今回はそれの確認をしているわけである。

速人に渡したS2Uに監視機能を付加し、ちゃんと課題をしていたかと言う事も確認できるようになっている。尤もその監視に関しては速人本人は知りえない事であるが。

提出された課題を厳しい表情で見つめるクロノ。20ページにわたる物理の問題集の回答を眺めていく。クロノの厳しい表情が驚きの表情に変わっていった。全部の回答をチェックした彼は、目の前の椅子に座る銀髪の少年を見つめた。

S2Uの監視映像でもズルをしているところは無く、ちゃんと全部自力で解いていた。

「お前、前回の授業から四日しかたっていないのに、なんでコレが解けるようになったんだ?」

クロノの予測では、できて二、三割であろうという所だったのだ、それが全問正解という結果に驚いたのだ。

クロノの驚く表情とは裏腹に速人は終始ニコニコで答える。

「いやさぁ、僕もよく分からない」

速人の答えに、は? と言う顔をするクロノは自分の現在のデバイス。デュランダルを起動させようと待機状態のカードを取り出した。それをみた速人はまてまて、クロノ。ちゃんと言うから、という風に両手を彼の方に上げる。

何で急に理解できるようになったのか、その時のことを話しだす。クロノが出した課題を自分の部屋の机に広げウンウンとうなってる時の事を。

「クロノの出された宿題を見てて、最初絶対出来ない! って自信があったよ? 正直、投げ出して寝ちゃったさ……」

速人の物言いに、そりゃそうだろうな、選んだ問題はフェイトでも時間がかかった問題ばかりだしな、とクロノは選択問題の難易度を思い返す。

「でもね、寝てる時に声を聞いたんだ、物理と考えるからいけない、魔法として考えてみなさいってさ……魔法として理解しようとするなら手を貸せる、その声はそう言ったんだ」

彼の言葉に耳を傾けながら、それで? という表情をするクロノ・ハラオウン。

「起きて問題集をやり始めたらね、頭に声がそのまま聞こえてて、その問題の解き方がスラスラと出てくるようになった。例えば最初の問題、ある理論を使えば解けるよね? その理論を声が教えてくれるというか……」

「……」

速人の答えにクロノは押し黙る。今言った速人の答えが釈然としなかったのだ。。

「速人、その声は今でも聞こえてるのか?」

「うん、意識を集中させれば聞こえる」

もし、速人の言った通りであるとすれば、声の正体はかなり魔法に精通してる存在である。なので彼は、此方の世界の大学院で使う様な問題を突発で出してみる事にした。

「今から出す問題をここで解いてみろ、それが正解なら、お前の話を信じよう」

「わかった」

結果から言うと、速人は速攻で正解を導き出した、正解に至るまでの公式の運用のしかた等もきちんと理解していた。

目の前で問題を解かれたクロノは、速人の言う事を信じざる得なかった。

「此れならまぁ、実戦魔法の運用に進んでもいいかもな、声に感謝するんだな速人」

クロノの最後の言葉がこれだった。クロノの物言いにちょっとムッとした速人だった。









その日のクロノとの学習を終え。今度は、ハラオウン家リビングで、フェイトからデバイスの中に組み込む、魔法のセッティングを教えてもらっている。

今までの基本的な魔法運用から、実戦的な形式に移る為の前準備と言うところか。
フェイトは色々丁寧に教えている。

「でね、魔法は予めデバイスに組み込んでおいて発動させる事もできるんだ。というより、今は呪文詠唱で発動させるほうが珍しいかも。バルディッシュ、リストアップ」

フェイトは自分のデバイスであるバルディッシュを起動させて、中に組み込んである魔法の術式を
展開させるように頼む。

<yes sir>

短いバルディッシュの発声の後に、術式のリストがズラズラと空間ディスプレイに流れ出す。フォトンランサーの術式から始まり、かなりの多種多様な術式が速人の目の中に飛び込んでくる。

「うあ……こんなに、バルディッシュの中にはいってるの?」

<My capacity still remains.>{私の記憶容量はこんなものではありません}

速人の驚きの声に、バルディッシュが失礼な! 馬鹿にしないでほしいな。という感じで返事を返す。

まだまだ魔法を蓄えれるぞ! と言わんばかりだ、そういえば、金色球の本体部分が心なしか赤みを帯びている。

そのやり取りを終始にこやかに見てるフェイト。

速人は、バルディッシュの変形シークエンス術式を見ながら、何気なしに彼女と彼女の愛機に質問した。

「ねぇ二人とも、この術式ってS2Uとかにも組み込めるの?」

彼の質問ももっともである。バルディッシュは、インテリジェントといわれるタイプ。デバイスの中でも高性能機である、対して彼がクロノから預かってるS2Uはストレージデバイスといわれ、ミッド式魔法を使う魔導師には一般的なものである。

速人のいう【組み込める】という意味が【変形シークエンス】に関してなのか? それともフェイトのいう【魔法】に関してなのか? 両方に取れる。

なのでフェイトはこう答えた。

「君が使っているS2Uは、バルディッシュの様に形状変化は起こせないよ? でも、魔法を新しく作ってその術式を組み込む事はできるよ」

彼女の答えに、ふぅん、という気の無い返事をした少年は、ハッ! と何かに気がつき、フェイトに言った。

「僕でも、S2Uに術式、組み込めるってこと?」

「うん、組めるよ?」

速人の質問に、これから私が教えるのはそれなんだけど? という感じで返事をしたフェイトだった。









ハラオウン家で今日の魔法特訓を終えた速人は、自室にて、S2Uを起動させ、フェイトより伝授された魔法の組み込みをしていた。元来こういう作業は好きな性格であり、物理の勉強よりも遥かに集中して魔法の構築式を書き出し組み込んでいく。

「うん、この術式なら問題ないかな~」

時刻は丁度午後7:00、ちょっと休憩しようとテレビをつけた速人。現在飛鳥家には彼一人である、姉のエナは翠屋でまだ仕事中である。出掛けに彼女が作り置いてあったサンドイッチを頬張りながら、テレビの番組をボーっと見る少年。

見ているのは現在小学4年生の間で流行ってるアニメである。夏休みなので毎日この時間に放映されているのだ。テレビからアニメのキャラクターの声が聞こえてくる。

「水でもかぶって、反省しなさい!」

そう、彼が見ているのは美少女戦士セーラー○ーン。丁度、水星の戦士が決め台詞を言った所だった。

「この戦士の声って、なにげにリンディさんに似てるよね」

誰も居やしないのに声を出す速人。続いて水星の戦士の技が華麗に決まるシーンが映し出された。


「シャボンスプレー!」


「そういえば、S2Uもリンディさんの声だよね……」

速人の頭の中ではある事が思い立った。テレビを見つつニンマリとする彼の口元。

「いいこと、思いついたぞ」

あまり知られていないのだが、思い立つと後先考えずに突っ走る行動を起こすのがこの少年の悪い癖である。3歳の時に、なのはとともに電車にのって遠くに行こうという事を思い立ち、特急にのり120kmはなれた都市までキセル乗車をした実績がある。

当然、保護者である高町夫妻が鉄道会社から呼び出しを受け、往復運賃を払った経緯がある。その金額子供二人で約1万円。この金額で済んだのは子供のやった事だと、鉄道側の優しさが有った為である、本来なら運賃+特急料金の全区間三倍を請求される。これを代表にして他にも数えるときりが無い。

なのはが姉として振る舞い始めたのも、この速人の暴走癖を律するが為なのである。事実として生まれた時間も若干、なのはの方が早く生まれている、時間にして2時間くらいだが。

「忙しくなってきた!」

誰も居ない家で、大きく叫ぶ速人は、S2Uに本格的に【改造】を施し始めた。









次の日の夕方、ハラオウン家のマンション屋上。

今回は、初の実戦形式訓練、前になのはが来たのは速人の適正を見るためであり、本格的な教導は行ってはいなかった。

訓練スペースに居るのはフェイト、なのは、速人、そしてクロノの四人。

「じゃあ早速、始めるとしようか、まずは……」

クロノが訓練開始を宣言すると、速人がまったをかけた。

「ちょっとまってよ、クロノ」

全員が速人に注目すると、彼は話し出す。初の実戦の前にミッド式魔法がどのように展開運用されるのか、この目でまず見てみたいと。基本的な使い方はフェイトから教え込まれているが、戦ってる最中の使い方にも何か秘訣があるなら、それを見て盗んでみたいという事をはなした。

「ふむ、速人の言う事にも一理あるな」

速人の意見に筋が通ってると言う感じで納得するクロノ。

「そうだね、だったらわたしとなのはで、一回模擬戦してみた方がいいのかな?」

模擬戦訓練が大好きなフェイトは、なのはと勝負ができる! と言う感じで言い出した。

しかし、速人はフェイト意見を突っぱねた、なのはの遠距離魔法は自分には無い部分で参考にはならない、参考にしたいのはあくまで中距離での魔法の展開運用であると。

「となると、僕とフェイトか?」

クロノの発言にコクコクと頷く速人。その行動を傍から見ていた高町なのはは、頭に大きな疑問符を浮かべた。

(なんだろうな、なんか大事な事忘れてるような?)

なのはの疑問は間違っては居なかった。過去に彼女は、少年の暴走に嫌と言うほど巻き込まれている。しかし、7年という歳月が過ぎたため、この時彼女は、暴走に気がつくことが出来なかったのだ。

「でね、クロノ、S2Uでフェイトと模擬戦してほしい、このデバイスで僕も実戦形式覚えるから、これでしてもらった方がより参考になるとおもうんだけど」

カード状態のS2Uをクロノに渡す速人。

「ふむ、そうだな、久しぶりにフェイトとやるのもいいかもな」

最近管理局の仕事に忙殺されて、訓練らしい事をしていなかったクロノも、義妹との訓練は丁度いいと感じたのであろう、S2Uを受け取った。

昔のなのはなら、ここで気がついたであろう、速人が黒い笑みをしていたのを。だが残念な事に彼女は気がつけなかった。速人の策略が進む中で模擬戦は開始される。


「よし、始めるぞ、よく見ておくんだぞ? 速人」

速人に目線を向け、S2Uを起動させたクロノはいつもの黒いバリジャケット姿になった。フェイトの方も黒い死神を模したバリアジャケット姿だ。

「準備はいいか? フェイト」

「うん、お兄ちゃん!」

フェイトの発言に少し照れたクロノであったが、模擬戦前なので直ぐに平静を取り戻す。

なのはが、模擬戦開始を叫ぶ。隣では速人が既に笑いを堪えていた。

「では、レディ~ゴー!」

先に仕掛けたのはフェイト、一直線にクロノに近づきバルディッシュの一撃を見舞おうとする。クロノは義妹の突込みをシールドで受けて回避行動を取ろうとS2Uに魔力を送った。

そこで異変が起こったのだ! 普段なら予め組んだ魔法を選択しない限り、S2Uが喋ることは無い。だが、喋ったのだ。

「マーキュリークリスタルパワー、メ~イクアップ!」と

クロノの魔力に同調しリンディの声を大きく発するS2U。

その瞬間、高町なのはは気がついた、隣の少年の仕業であると。脇を見ると、黒い笑みでクロノを見ている少年が居た。

突然のS2Uの発声に、突っ込みをとめたフェイトは義兄の変身を見つめている。そう、声だけでなく、アニメさながらに、水星の戦士にクロノが変身し始めたのだ。

「これは、なんだ?」

一番面食らったのはクロノ本人だろう。いまの声はすでにリンディの声そのままなのだ。

水色のセーラー服、そして顔までも水星の戦士ソックリそのままで、声もリンディのソレ、アニメから実体化した感じの完璧さだった。

「やった、僕の術式は完璧だ! クロノを完全に変身させたぞ! どうだクロノ! 僕だけの力でこの魔法組んだんだ、声だけの力じゃない!」

大きくガッツポーズをとる速人がそこに居た。

昨日の物理の実力考査時のクロノの言葉を根に持った速人の仕返しでもあった。模擬戦を中断し、ボーっとクロノの見つめるフェイトが一言。

「クロノが、亜○ちゃんになちゃった?」

「フェイト、前に一緒に見てた時いってたよね、手合わせしてみたいってさ! 今ならできるよ! 思う存分にね!」

自分の構築した術式の完璧さに自信満々に声をだす速人。

「お前、何かんがえてるんだ!」

リンディ声のクロノが叫ぶ。

昨日思いついた事とは、この強制変身魔法の構築だった。完璧に水星の戦士の姿に【男】であるクロノを変身させたあたり、ある意味凄いのではあるが、方向性が完全に間違っている。これはもう立派な暴走だ。



隣の物凄い魔力の高まりに気がつかない程に飛鳥速人は自分の組んだ魔法に酔いしれていた。弟の久しぶりの暴走をみた姉は低い声で語りかけた。

「は・や・とく~ん、少し、頭冷やそうか?」

ゴゴゴゴゴゴと黒いオーラを放つなのはは、暴走した速人に有無を言わさず魔力でのノックダウンを狙った近距離砲撃を放った。

ガッツポーズのまま、桜色の閃光に身を晒した飛鳥速人は、幸せな笑顔で気を失った。




後日談を語ろう、実はこの強制変身魔法の他に、シャインアクアイリュージョンという中距離射撃魔法が存在していたのであるが、結局クロノがすべてを消去し、S2Uの改造が出来ないようにパスワードを設定し速人が弄くれない様にしたのは言うまでも無い。

さらに、弟速人のこの暴走を姉なのはがその上を行く暴走で止めた事を明記しておく。

なのはが放った近距離砲撃は、ハラオウン家屋上の結界を突き破り破壊、夏真っ只中の海鳴市に綺麗な桜色の花火を打ち上げたのだった。


――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
      オーバードライヴ



あとがき

南です、ここまで読んでくださりありがとう御座います。

特訓編その2です。

特訓編はこの後もう一話あげる予定です。

ではでは



[21490] 第十二話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/09/21 09:29
ピピッピピッっとスムーズ機能の付いた目覚まし時計の音が鳴り響く部屋。六畳の和室にある自作の木製ベッド。窓から入り込む心地の良い風が少年を眠りから覚ます。

現在の時刻は朝4:30。冬ならまだ太陽など出てはいないだろうが、今海鳴は夏真っ盛り、この時間から明るくなりはじめる。

段々と音を大きくしていく目覚まし時計のボタンを押し音を切ると、飛鳥速人はベッドの上で大きく伸びをして、自分の意識を覚醒させた。

ねまき等を着ないで下着で寝る彼は、スポーツウェアにモソモソと着替えだし洗面所で顔を洗うと鏡に写った自分に一言話した。

「さてと、姉さん起こさないように出かけるとするか」

玄関でスニーカを履いて、心地の良い風が吹く海鳴の大地を大きく蹴った。

早朝の体力トレーニング、魔導師になる前から続けている彼の日課である。高町の家に預けられた時から始まった、この朝の散歩と称したランニングは齢を重ねるごとに距離を伸ばし、現在は3kmさきの海岸まで続く。

海岸の公園に着くとストレッチ等を済ませて背中に背負い込んでいたちょっと長い木刀を取り出す。

「さてと、父さんや母さんのやっていた武術の基本を、もう一度やり直そうか」

海鳴に戻る前から続けている鳳凰の太刀の鍛錬、本格的な修行はしていないが、姉から基本的な鍛錬方法を聞いており、よほどの事が無い限り毎日続けている彼の朝の習慣であった。

ここで約2時間を彼は過ごす。時を同じくして、なのはやフェイトも、各自朝の訓練は自分達だけで行っている。だれからも強要されていない自己鍛錬の時間。魔導師達の朝は結構早いのである。まぁ速人に至ってはまだ卵であるが。

自己鍛錬を終え。朝食を済ますと、家が近いハラオウン家の在るマンションに通うのが最近の彼の新しい日課となっている。



基礎となる部分をクリアした速人は、早速魔法の実践を開始する事になる。

始めての魔法陣構築から飛翔魔法の習得等、乾いた大地が水を直ぐに吸ってしまう様な勢いで速人は魔法の使い方を覚えていく。

なのはを交えた訓練では。

「382……383……389」

コン、コンと小気味よい空き缶の鳴る音が響く練習空間。

「そう! それを500まで続けて! 500回1セットを後4セットやるよ~?」

と言う様な感じで誘導制御を中心に行っている。

今までの訓練で速人の適正は中距離の射撃。それと誘導制御にかなりの適正を示している。

近接も剣士の家柄のためそつがない適正だ、もっともフェイトの様に多種多様な技があるわけでないが。

飛行特性もあり空も飛ぶ、なのはの様に足元に羽は作らずフェイトと同じような飛び方をする。

空間把握能力はかなり高いのだが、遠距離とアウトレンジはからっきしだった、簡単にまとめると中距離戦闘型に分類される。

本人が練習の虫になっているためにどんどん教えることを吸収していった。なのははそれが嬉しく、フェイトはそれが頼もしかった。


なのはに砲撃された五日後の出来事である。魔法の構築も出来るようなった速人は、二人を訓練スペースに呼び出した。

いつもの訓練はハラオウン家の住むマンションの屋上でありそこに三人が登場する。呼び出した理由を少年は言い出した。

「僕さ、ちょっと考えてる魔法があるんだけどね?」

相変わらずジャケット換装はしていない、と言うか換装が出来なくなっているのは先日の速人暴走からの自業自得ではあるが、なのはも笑うのは止めた様である。飽きてきたと言う方が正解か。


なんだろう? と二人が聞くと。

速人が説明しだす。自分の得意分野である誘導系、なのはのアクセルシューターをベースにしているがそれだと弾速が遅い。そこでフェイトの直射型のプラズマランサーの式を掛け合わせて見る事を考えたと。

「う~ん、でもそれ可能なのかな?」

なのはが、速人の考えに疑問を持つ。少なくともアクセルとランサーではその魔法の性質が違うため掛け合わせるというのが理解が出来ない。

「でも、やれそうなんだよね」

自分の考えを主張する弟速人の表情は成功できる! という感じの自信が満ち溢れている。

「やってみても、いいんじゃないかな?」

その表情を見たフェイトがそう言った。親友の肯定的な意見に、姉なのはも試させてみて欠点があるなら諦めさせよう、という考えに至るのである。

「そうだね、じゃあ見せてみて?」

なのはが教導官の顔になりレイジングハートを起動させてバリアジャケットもつけた。

わかった! と速人がいい、なのはがシューターを十二発ほど出して待機する。

速人は足元に白金のミッド式魔方陣を作り出し。次に、回りになのはと同じ球形のアクセルシューターを出現させる。速人が現在完全制御できる数十二個。

「じゃあいくよ?」

なのはと速人、同時に操作開始させる。

速人は意識を集中させる、桜色とプラチナの球が空中を飛び交う様は、さながらロケット花火を打ち合う感じで縦横無尽に入り乱れる。

「そこ!」

瞳を閉じコントロールに集中していた速人が瞳をカッ! と見開き声をあげる。持ち前の空間認識能力の高さからか、なのはのシューターのコントロールの癖をつかみ取り、十二個の桜色球が一瞬止まる時を狙って自分の魔法を使い出した。

白金の球がフェイトのランサー状に形態を変化させる、フェイトのランサーほど大きくなくその5分の1ほどの大きさ、それが各個の桜色球に光の速さで打ちかかりシューターを全て吹き飛ばす。速人の周囲にかなりの桜色の魔力煙が立ち込める。

「すごいね……途中で高速直射型に切り替えるのか」

フェイトはそう言いながらも今の対決を分析する。なのはのシューターもかなりの速度なのだが、それをすべて叩き落したスピードはすごいとしか言いようがない。
仮に自分があの速度を出そうとするなら、出来はしないというのが彼女の答えだった。

「どうかな?」

最高の結果を得られた速人が明るい表情で聞く。

「これは、使えそうだね」

予想外の成果になのはも認める、教導官という立場からか仮想敵を良くする彼女であるが、此処まで見事に自分のアクセルを全部落とされた事はいままでに経験が無かった。

「よかった、僕の考えは間違ってなかったのかな」

自分のことを認めた姉なのはに喜ぶ弟速人は、ついでに聞いた。

「使ってもいいよね? この魔法」

無言で同時に頷くなのはとフェイトであるが、疑問も出来ていた。魔法と言う存在を知り、経過した時間は約2週間、その間に魔法の構築を考え出せるようになった少年に。

「でも速人君、なんで私とフェイトちゃんの魔法を掛け合わせようと思いついたの?」

言い出したなのはの疑問はもっともだ、彼女もディバインバスターのバリエーションとしてスターライトブレイカーを編み出してはいるが、その魔法でさえも速人の様に短期間で編み出したものではない。

「んー、二人から教わったモノを僕なりに形にしてみたかったから、かな?」

元々、工作の類は得意な速人である、ミッド式を理解し始めて、自分なりにカスタマイズすると言うのは当然な事としているようである。さながら模型店で売っているプラモデルを説明書通りに作るが、満足できず、自分なりに改造するという感覚なのであろう。

クロノがこの場に居れば間違い無くこう言う。

「感覚で魔法を組むってのは末恐ろしい」と。


「あ、名前かんがえてないや」

使うとなると発動キーを設定する必要も出てくるのである。速人が言うと少女二人は苦笑いする。

珍しく、彼女達のインテリジェントデバイスが会話に参加した。

なのはのデバイス、起動状態のレイジングハートが彼女特有の音を出して。

<There is a good idea for me>{わたしに、いいアイデアがあります}

次にフェイトの愛機バルディッシュ。待機状態で低くバリトンの声で。

<I also hit on a good neme>{わたしもいい名前を思いつきました}



これに驚いたなのはとフェイトは互いの愛機を見つめた。

「レイジングハート?」

「バルディッシュも?」

バリトンで話すバルデッシュは、レイジングハートと自分の考えが同じであることを主張する。

<Itis befor it perhaps the same>{おそらく同じ名前です}

「きかせて? くれるかな?」

少なくとも主人以外の事柄に首を突っ込むなんて事は今までになかった二機であるのだ。三人が興味がでるのも必然なのかもしれない。

二機は同時に一つの単語を喋った。

<DancingEdge>{ダンシングエッジ}










少し時間を巻き戻そう、なのはとフェイトが飛鳥速人と出会う数日前の時間に。

      
新暦66年6月下旬夜。海鳴市、中丘町。

音速ジェット戦闘機のソニックムーブ音が中丘町の一戸建て家屋に向かって行く。音を伴った七色の発光体が、ヴォルケンリッター参謀の作り出した結界にぶち当たり、落雷を思わせる様な音を響かせる。光はその結果を突き破り、敷地内に落下した。

海鳴の八神家でド派手な音がした。

「なんや! 今の音は?」

八神はやて。時空管理局地上部隊特別捜査官補佐は、音のあった方向に急いだ、そこは庭だった。

何かが落下したところは七色の光が発光している。派手な音の割には庭にさしたる被害は無い、他の家族も集まってくる。

「どうしたのです? 今の音は何ですか?」

リビングでくつろいでいた、シグナムが一番乗りで来る。

「何だよ? 今のギガ迷惑な音は~」

寝巻き姿のヴィータが眠そうな目を擦り、片腕に枕を抱え、シグナムの後に続き。

「ご近所に迷惑ですよね?」

シャマルが洗い物の途中なのか、手にタオルを持ちながら、リビングの窓を開けて出て来た。

ザフィーラが同じく犬形態でシャマルに続くのだが

「……」何もいわない。

家族全員が庭に出ると、そこには一人の女性が倒れていた。長い髪黒い色のボディスーツとミニスカートをつけていた。


「うっ」

女性は意識があるようだ、全員はその姿を見て驚くそして叫んだ。

「「「「リィンフォース!」」」」

五人の叫び声が中丘町一帯にけたたましく響いた。この夜一番のご近所に迷惑な声だった。

――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
        速人の魔法





あとがき

南です、ここまで読んで下さり有難う御座います。

特訓編は此処までです、作中登場した彼の魔法、ダンシングエッジですが、FF11ではシーフや踊り子が使う短剣スキル200で覚えるWS(ウエポンスキル)です。

この物語では主に魔法と言う形でFF11のWSが多数登場します、今回の話の文末に登場した八神家ですが、いままでナリを潜めていたのは、次に上げる話で大きく話に絡んでくる事になるため、ハラオウン兄妹よりも出番を意図的に抑えてた感があります。

次は八神家メインのお話になります。

ではでは



[21490] 第十三話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/10/16 13:55
目の前に青く大きな狼がいる。背後には光が輝き存在感と威厳をほしいままにしている、唯の狼ではない、ある世界を代表とする神。神狼フェンリル。

【自分】に向けて威厳ある声を心に直接投げかけてくる。

「そなたは我と契約をして何を望む?」

魔力と生まれ出る命の元に…… そう答える、私の目的はそれしかない。

「人でない者よ、望みを叶えたら、命果てるまで我の僕として使役する事を誓ってもらうぞ、それでも契約を望むのか?」

元々守護するのが私の目的、それさえかなえば本望。

「ならば、そなたの望み聞き入れよう、そなたはカレン、カレンと名乗れ」

私はカレン、目の前に光が迫るそして飲み込まれる。

目を開けると誰かいる、生まれ出る命の元に移されたのか?

同士のミルズを探さないと、ミルズ、ミルズはどこです? でも体が非常に重い、意識もつづかない……





八神家の庭。

右腕を伸ばし倒れている女性はリィンフォースにそっくりである。

「どうするんだ? はやて……そのリィンに……似たこいつ」

ヴィータが半年前に別れた仲間のことを想ってか少し言葉を詰まらせていた。

はやてはひとまず介抱することに決め家族に指示をだす。

「ザフィーラ、客間にはこんでやり、シャマル、治療の準備や、シグナムヴィータは……やることないなぁ?」

二人はきれいにずっこけた。

シャマルを除く全員はリビングで彼女を待っていた。暫らくしてシャマルがリビングにやってくる。

「どうやったシャマル?」

はやてが容態の確認をとる。

「命に別状はないみたいです……ただ」

シャマルの歯切れの悪い口調に全員が疑問譜を浮かべる。

「彼女、私たちと同じようなんです……」

同じ? どういうことだ?

「守護騎士プログラムの様なんです」

「なにーーーーーーーーーー!!」

シャマルの心配する、ご近所に一番迷惑な声、第二声が夜の中丘町に鳴り響いた。









すずめのさえずりが朝の到来を知らせる。

畳の六畳和室の部屋にリィンフォースによく似た女性は柔らかい羽毛布団をかけられ寝かされていた。

シャマルは昨日庭に降ってきた女性の所にいた、治療のためにクラールヴィントで彼女の体を調べて判ったこと。それは自分達と同じ守護騎士プログラムという愛機の答えだった。

長い時を生きてきた彼女だったがこんなことは初めてだった、しかもリィンフォースにそっくりなのだ。

「うっ」

女性が意識を取り戻す、目を開けた瞳の色は青かった、夜見たときは赤かったはずだが、今は瑣末な問題であろう、シャマルは彼女に声をかける

「気がつきましたか?」










その日、はやては学校を休み昨日の女性と話をしていた。

他の家族も今日は家にいる、リビングで昨日の状況を説明し、ここが海鳴という場所であるということ目の前の女性に伝える。

「あの、助けて頂いてありがとうございます、私はカレンといいます」

女性はカレンという名だった。

「吃驚したで~突然庭にふってくるんやからな~」

はやては昨夜の感想を素直に目の前のリィンフォースに酷似している女性に述べた。カレンは、すいません、と謝る。

「カレンさん言うんか、私は八神はやてです、そして、こっちが」

隣に座るシグナムを指差すはやてに同調するように声をだす烈火の将。

「シグナムだ」

シグナムがソファに座りながら、やや威厳のある声を出す。続いて、シグナムとは逆位置に座るはやての隣にいた赤髪の少女が、少しブスッとした態度で名前を言う。

「ヴィータ……」

ソファの後ろに立つシャマルは、ヴィータの方をみてしょうがないわね、というような困り笑いをしながらカレンの方に視線を向け。

「私はシャマルです」

丁寧な言い方で自己紹介をするシャマル。四人からやや離れた、リビングの壁に背中を預け両腕を組んだザフィーラ、人形態で短く言った。

「ザフィーラだ」

カレンはヴォルケンリッターの自己紹介をうけると少し驚いていたが、はやてが直ぐに質問攻めに入った。

「それでカレンさんな? どうして家の庭にふってきたのかいってくれへんか?」

もっともだその理由は知りたい。カレンは言う。

「私は、生まれ出る命(うまれいずるいのち)とミルズを追ってエルヌアークから来ました」

カレンの説明が始まる。元々違う世界でアイリスという王女に仕えていたのだが、その世界が崩壊する位の戦乱がおきた。

仲間ともちりじりになり、アイリスが最後の力を使い、生まれ出る命を違う世界にとばした事。自分はアイリスの願いで、その生まれ出る命を守護するためにエルヌアークを離れたこと。

同じく、守護する同志であるミルズと共にそれを探していたが、その最中に魔力が低下し、ヴァナディールという世界に落ちた。ミルズと共にそこの神狼であるフェンリルと契約をした。その際にミルズとはぐれ、この地に降り立ったことを。

カレンの話を聞いた八神家の全員は黙り込む。時間にして約5分間、リビングに掛けられた壁時計の秒針の音だけが鳴る空間。沈黙が耐えられないカレンが聞く。

「私の話信じていただけますか?」


はやてはずっと話をカレンの瞳を見て聞いていたが嘘をいってるようには見えなかった。

「信じるで……でもな? あとひとつ聞かせてほしい」

なんでしょう? と言う感じのカレンのリアクションがあり。

「あんたいったい何者や? 人間ではないようやけど?」

シャマルから聞かされていた守護騎士らしいという素性を本人の口から言わせようとする夜天の主は、何か別の考えがある様で、先の質問をしたようだ。

カレンは瞳を見開くが目の前の少女にはなぜか嘘はつけないきがして正直に答える。

「私は……エルヌアークで作られた守護騎士プログラムです、そこの四人の方と同じの……」 

はやては納得した、納得してからの行動が早かった。

この世界に来たばかりで右も左もわからないカレンを八神家で迎え入れることにしたのだ。

カレンを有無を言わさず家族にしてしまった。他の四人もリィンフォースにそっくりな彼女に文句は言わなかった。

「これからは、ここがアンタの家やで? カレン」

カレンは押しの強い少女に面食らったがはやての好意に感謝した。

「みなさん、よろしくお願いします」

青い瞳を持つリィンフォースにそっくりな女性。カレンはこうして八神家の一員となったのである。





「カレン! きったねえぜ!」


新しい家族となった守護騎士に、この様な暴言を吐いたのは鉄槌の騎士ヴィータ。二人は現在八神家リビングに於いて同一方向に向いて座り。ある物を手に持ちTV画面に向かって真剣な表情を作り、手に持ったある物を必死に弄くっている。

先ほどの暴言もカレン本人に向けて言ったのではなく、TV画面に向けて言ったのもであった。

そう、二人が現在しているのは世間一般で言うところのテレビゲームというものである。彼女達が行っているものは俗に言う格闘対戦物。コマンド操作を行うと技が出るタイプのやつである。

「フフフ……ヴィータ、勝負に綺麗も汚いも無いのです……叫ぶ前に自分の腕の悪さを反省なさい?」

先の暴言に対し冷静な口調ではあるが、上から目線的な言葉を送ったカレン。

彼女達の対戦内容を見てみよう。ヴィータはパワーがあるプロレス風な巨漢の男を自分のキャラとして使用。対してカレンはオーソドックスなタイプの男キャラを使用しての対戦。

ヴィータの戦い方は小パンチを連打しながら得意技のスープレックスに持ち込む様な戦い、俗に言う吸い込みという技法を使っての対戦の仕方。

カレンの方は、その吸い込みを警戒し飛び道具で応戦、ヴィータの隙があればキャラのガード範囲をジャンプですり抜けガード範囲の来ない部分に攻撃を当てる。俗に言うマクリという技法を使い、更にそこから無敵技を使用するという極悪な事を行っていた。ヴィータが吼えるのも納得がいくであろう。

既にこの対戦ゲームをニ時間ほどやってる彼女達であるが、ヴィータが勝ったのはカレンが慣れる一時間の間だけであり、それ以降の対戦はカレンの勝ち星がどんどん増えて行くのであった。


カレンがこの八神家にお世話になるようになって、一ヶ月が経とうとしている午後の出来事である。

当初ヴィータは、他のヴォルケン達とは違い、カレンにあまり良い反応は見せていなかったのであるが、カレンが自分と同じゲームに興味を持ったので仕方なく教えてやったのだが。これが意外にも二人の仲を良くする原因となるとは、ヴィータ本人も思っていなかったであろう。

今では先の暴言を言える位に仲が良くなっていた。

TV画面からK.O.の文字と声が高らかに鳴り響きカレンの操作するキャラの勝利を宣言した。

「くそ~! なんで勝てなくなった!」

正座してコントローラーを握り締め、悔しがる鉄槌の騎士。激情形のヴィータにしては行儀が良い悔しがり方である。

「ヴィータは力押しすぎるんです、もっと小技を使わなければ……おや、もうこんな時間ですね、そろそろ夕飯の支度をしなければ」

ゲームの決着をつけ、新しい家族であるカレンは夕飯の手伝いをしに台所方面に向かうためにその場を離れようとすると、ヴィータは彼女に向かって言った。

「カレン、夕食済んだら又勝負するぞ! 今度は負けねぇ!」

「返り討ちにしてあげます」

カレンは勝ち負けに拘るヴィータに微笑み言い返した、言われたヴィータも笑顔をだしていた。こんな感じでカレンは八神家に馴染んでいくのだった。





はやてがクロノの要請でエルヌアークの調査に出向くことになった夜の話である。とはいってもカレンがいた時代はもっと昔のことであるが。

「本当ですか? その話は!」

新しく家族になったカレンは声を上げた、はやてがミルズの名前を出したからだ。夕飯の準備中であったが切り物を忘れてはやてに詰め寄るカレン。

「落ち着いてな? カレン、刃物もってつめよったら、あぶないやろ?」

はやてがさかった馬を落ち着かせる様にカレンの両肩をたたく。

「私もはじめは驚いたがな」

シグナムはカレンの右手にある包丁を手に取りまな板の上におきながら、先の会議の様子を思い出すように声を出す。

「そうですね」

シャマルも食器の準備をしながら、シグナムと同じ感じで相槌を打つ。

「それでだ……気になることがあるカレン、七罪の番人、この言葉に心当たりは無いか?」

シグナムは今日クロノが言っていたこの言葉に何かひっかかりを感じていた。

「あたしもだ、カレン、その……何ていうかうまく言えねーんだけどよ、なんかひっかかるんだ」

ヴィータは出会った当初に比べてかなり親密になった家族に自分の考えを伝える。

カレンは自分の記憶をたどるが七罪の番人の記憶は無かったので正直に答える。

「すいません、私にもわかりません」

そうか、と落胆するシグナムとヴィータであるが、シャマルが別の考えを述べた。

「そうだわカレンさん、そのミルズさんでしたっけ? その方の特徴を教えていただけませんか?」

シャマルが言う事はもっともだ、ここにいるメンバーは、はやてを指名したミルズ・ヒューディーという人物を知らないのだ。はやても頷き声を出す。


「そうやな、それは聞いといたほうがええね」

「そうですね……」

カレンは説明を始める、名前はミルズ。銀髪の青い瞳をもち。身長は180Cm位でアダマンキュイラスというアーマードデバイスというものを使っている。別名ナイツオブブルーと呼ばれているはずだと。

「なんや? その……アーマードデバイスって?」

はやてが聞く、ほかの四人も聞きなれないデバイス名に興味を持つとカレンが答えた。

「簡単に言うと、鎧です」










はやてはミルズと出会った。でも目の前のミルズはどうみても少年だ、カレンの言う容姿ともかけ離れている。だが新しい家族の為だ、今は少しでも情報がほしい。

もしかしたら、魔法で姿をかえているのかもしれない、ここは探りを入れるしかない。

「ミルズさんに聞きたいことがあります!」 

「何でしょう?」

「カレンという女性に心当たりないですか?」

口に出した以上なんでもいいから掴んでみせる。はやてはそう想いミルズが変身魔法を使っていないか瞳に魔力をこめた。

「すいません、心当たりというか初めて聞きます」

ミルズが申し訳なさそうにする、変身魔法の類も使ってないようだ、はやてはがっかりしたが、それはしかたのないことだ。

「すいませんいきなり変な事きいてしもて」

「構いませんよ、ですがなぜ私に?」

「実は……家で今暮らしてる家族にカレン言う子がおるんです」

はやてはミルズにカレンが守護騎士プログラムということは伏せて説明する。

「その子がミルズと言う人を探してるんです」

話を聞いたミルズは、現在の状況を考えた上で答えを出す。

「そうですか、私に力になれればいいのですが、今は作戦行動中ですし、また今度詳しく聞かせていただけませんか?」

「それはもうこっちからお願いしたいくらいです」

はやては彼に頭を思い切り下げた。








海鳴で、七罪の番人達となのは達が戦っている映像が映し出されている。クロノから連絡を受けてモニターを八神家に回してもらっていた。


映像を見ているのは、はやて、シグナム、ザフィーラそしてカレン。丁度、フェイトとなのはのコンビネーションが映し出されている。

「ほう、うまいことテスタロッサが囮になったな」

エンヴィーとの戦いでの傷がまだ回復していないシグナムが感心する。

「高町教導官補佐もいいタイミングで足止めをかけたな……」

ザフィーラが犬形態で言う。此方も魔力の疲弊が激しく犬状態で回復中である。

「さすがやね二人とも……」

はやては二人の連携のよさにおもわず口が開く。そしてミルズ少年とエンヴィーの対決の映像が出る、丁度技の掛け合いの所だ。

「あれは!」

今まで映像を見ていなかったカレンが、ミルズの出した技。エヴィサレーションを見て声を出していた。


「どうしたんやカレン?」

お茶の準備をしていた彼女はミルズの技の部分の映像をみて、急いで出る準備をする。


「すいませんはやてさん! 私、この少年のところに行きます!」


「どうしたんや?」

「あの少年、やっぱり私が探しているミルズなんです!」

返事をしたカレンは部屋を飛び出す。

「ちゃんと帰ってくるんやで! カレン!」

はやては彼女に戻ってくる場所はここや! と念を押す。カレンは振り向き頷いた、彼女の瞳はリィンフォースと同じ様に赤くなっていた。

カレンがミルズ少年を連れて家に帰ってきたが、意識の無いミルズをみてシャマルが慌てた。かなりの魔力疲弊状態であり魔力の供給をしないと危うい状態。それなのにシャマルの魔力回復魔法を受け付けないのだ。

つれて帰って来た当人であるカレンは、寝かせておけば勝手に回復します、と平然としていた。ミルズをひとまず休ませる、意識がないから寝かせておくしか方法が無かった。

(回復魔法を受け付けないなんて……こんな事ありえるの?)

癒しと補助が本領のシャマルにとってこの状態はかなりショックな事柄であった。カレンとミルズには自分達では理解できない何か得体の知れないものを感じ取る湖の騎士だった。



はやてとカレン、そしてザフィーラはリビングで話をしていた。カレンが言っていたミルズの容姿とはかけ離れたこの少年を連れて帰った理由を聞くために。以前話した時は、ミルズ本人がカレンに心当たりが無いと言っていた。

「どういうことやカレン、このミルズさんが探してるミルズさんて? カレンがいうてた姿とえらいかけはなれとるで?」

そうである、ミルズは少年なのだから、カレンの言ってた容姿は青年のはずである。犬形態のザフィーラもはやても、彼女の返事を待つようにジッと彼女の青い瞳を見つめる。

「さきほど……彼が使っていた技があるのですが、私の記憶とまったく同じ技なんです。あの技はミルズ(青年)が得意だった技で……彼にしか扱えません」

確信をもった答えが返ってくると。

「さよか」

はやてもそういうしかなかった、八神家の全員はミルズの目覚めを待つしか無かった。









大きな狼、フェンリルが目の前にいる。

「そなたは我と契約をし何を望む?」

私が望むもの、生まれ出る命を導く事だ、それとそれを守る力。

「志の高きものよ、望みを叶えたら命果てるまで我の僕として働いてもらうぞ? それでも望むか?」

当然だ! 生まれ出る命はアイリス様の最後の希望なのだからな。

「お前の名前は……」

私の名前はミルズだ、アイリス様より頂いた名を変えるつもりはない!

「ならばミルズよ、ミルズヒューディーと名乗るがよい、されば我の力も使えよう」

私は……ミルズヒューディー生まれ出る命を導く者、光が私を包む、私の体が……そして世界を移される……。












六畳の和室の布団の中でミルズが目を醒ますと、八神はやてがそこにいた、ミルズがいつ目を醒ましてもいいように、この和室にずっといたようだ、はやての瞳はちょっと赤い。

「気がつきはりました? ミルズさん」

はやては自分の目をこすりながらも覚醒したばかりのミルズに声をかける。ミルズは自分の現状が理解できておらず、はやてに聞く。

「ここは?」

「私の家や、ミルズさん目ざめてすぐやけどあってもらいたい人がおる」

はやてはそう言うと新しい家族、カレンを呼んだ。

「カレン、入っていいで?」

障子がスーっと開き、カレンが姿を現す、その容姿を確認したミルズは驚きながらも懐かしむように彼女に声をかけた。

「シーレン……君がカレンだったのか……」





「じゃあアレか? ミルズさんが心当たりがないいうたんは名前だけで、私が容姿を伝えておけばあの時ハッキリしたというわけか?」

はやてはちょっと納得いかない口調で言う。

ミルズは申し訳なさそうに答える。

「あの時は作戦行動中でしたし、話もままなりませんでしたから……」

「まぁええわ、私もちゃんと言わんかったしな……それにしても、そのフェンリルいうんはけったいな神様やね?」

はやては混乱の原因に文句をいう。ミルズの記憶のカレンは正式守護騎士名をシーレンと言い、カレンがその名前をつかっていないのはフェンリルとの契約の際の戒めによるものである。

魔力提供をうける代わりにフェンリルは名前の改変を行うとのことだった、ミルズはミルズ・ヒューディと言う名前に改変されていた。

「ですが……提供を受ける魔力は強大ですから」

とはカレンの意見。

「月の満ち欠けにより提供魔力の差がでますがね……」

少し不満気なミルズが言うには、月の満ち欠けによりフェンリルが提供する魔力に強弱が発生するとのこと。

ミッドチルダの様に月が2つあるような世界なら大した誤差はないのだが、この97番世界のように1つしかないところでは如実に影響が出るとの事。

「私は新月で強く、カレンは満月で強くなるのですよ、反対に満月で弱くなるんですよ私はね……」と付け加えた。あの夜の戦いで彼が精彩を欠いた理由はこれだった。

それとは別の疑問を投げかけたのはカレン、はやても相槌を打ち声をだす。

「ミルズあなたのその姿なのだけど、なぜ少年の姿で?」

「私も知りたいで?」 

二人の疑問に答えるミルズは、顎に自分の右手を添えて少し考えをまとめてから答えた。

「それについては……」


カレンと同じようにフェンリルと契約をしたミルズはファーストネーム改変を拒んだために姿を変えられる戒めも受けたと話した。

「はぁ~? 何でもありやなフェンリルは」 

はやてはもう神狼にただただ、呆れるばかりである、ミルズは苦笑するも頭の中では別の事を考えていた。

(今ここではこれでいい、時がくればあの人に……)

呆れていたはやてであるが、それだけで済ますわけがない。この機会を有効に活用しようと今までの疑問を全て、目の前の広域特別捜査官より聞き出すことにする。

「ミルズさん、カレンからエルヌアークの事少しは聞いたけど、ミルズさんが知ってることも教えてくれへんか? 特に番人がプロトクリスタルを集める理由と蒐集行動のことや」

ミルズは当然でしょうという顔をしたのだが、少し考えを変え次の意見をはやてにのべる。

「ここから先は……シグナムさん達もいた方がいいですね呼んでいただけますか?」

はやても了承しシグナムとザフィーラを呼ぶ。










八神家とミルズで再び話が開始される。

ミルズの長い話では、モノリスの文字にはアイリスがミルズ、カレンに宛てたメッセージも含まれていたとのこと。それは【光天(こうてん)の書】の存在。永遠の水晶(エターナルクリスタル)の精製方法。

そして、生まれ出る命の誕生の時間等が伝えられるメッセージだった。

「私も……モノリスの文字を見るまで七罪の番人が何者であるのか思い出せませんでした、彼等は失われし都と言われているアルハザードの死刑執行人という存在です」

はやて達に七罪の番人の素性を伝えるミルズは、さらにカレンの方を見つめ。

「カレンもモノリスを見ればなにか思い出すかもしれません」

カレンに向けた視線をはやての方に戻し、話を続ける。

「七罪の番人が、プロトクリスタルを集める理由はエターナルクリスタルの精製だと思われます」

布団の中で上体だけを起こしていたミルズは一拍置いてまた口を開く。

「こちらに、光のクリスタルがある以上……精製はできないはずですが、その代わりのエネルギーとして、光天の書のパワー部分である禁書目録(インデックス)の開放をもって代用しようとしてるのだと考えます」

「なるほどな」

はやてはミルズの話を聞きながら、番人の行動理由に一応納得はしてみせる。


「私が、エルヌアークの再調査を提案したのは……そのエターナルクリスタルの精製装置の場所の特定と破壊を考えたからです」


インデックスの開放により、8種のエネルギーの力を得たならば、その装置を使用するはず、それはエルヌアークの封印城クーザーにあるはずだと。


今まで話を聞いていただけだったシグナムが【クーザー】に反応を示す。

「ミルズ捜査官……そのクーザーと言う言葉もそうなのだが、私はエンヴィーと剣を交わし、何故か不思議な感覚に捕われた、私だけではないほかの者も同じような体験をしているのだが、何か知っているのではないのか?」

シグナムの言葉にミルズは答える。

「そうですね、それは(不思議な感覚)当然でしょう、何故私が今回地上本部所属の八神はやて特別捜査官補佐を私の捜査の補佐にしたのかは、それも関係がありますからね」

皆がミルズに注目する中、ミルズはその答えを口に開く。




「あなた方ヴォルケンリッターは、私とカレンと同胞です、エルヌアークで生まれたのですよ、夜天の書の初代マスターは私とカレンの主人、アイリス王女、その人なのですから」


「「「!!!!!」」」

シグナム、ザフィーラ、はやての三人。流石にこれにはショックを隠せない。

「なんと……」

「我々の生まれ故郷がエルヌアークだと……」

それぞれシグナムとザフィーラが、自分の出生を知らせる目の前の少年に信じられないという顔を向ける。

「しかし、記憶がないぞ?」とザフィーラ。

ミルズは少し寂しい表情をだし記憶がない原因を述べる。

「闇の書事件の報告書は読みました、プログラムの改変が影響しているのかとおもいます」

「そうだったの……私も最初みなさんを見たときの違和感はそれのせいなのね……」

カレンは最初逢ったときに自分をみて自分のことを知らない様子の四人を見たときの事を思い出す。

現夜天の主である八神はやては、ミルズの考えと自分の家族の生い立ちを聞きミルズに念をおす。

「いずれにせよ、これは私等に深く関る事件なんやね?」

ミルズは頷き布団から出て立ち上がる。

「八神さん、カレンのことはこのまま預かってもらっていいでしょうか? わたしは生まれ出る命の事に関してこれから戻らねばなりません」

「カレンはもう私達の家族や、言われんでも大丈夫やで」

笑顔で返事するはやてに、ミルズは感謝の表情をだし頭を下げる。

「貴女はどこか、アイリス様に雰囲気が似ています、きっとあの子(リィンフォース)も、カレンもそれに惹かれたのかもしれませんね」

ミルズはカレンのほうに向き。自分の懐から2つの物を出し、彼女に預ける。


「カレン、ひとつ頼まれてくれるか?」


「これは?」

彼女が受けとった物は、手紙と黄銅色のリストリングだった。


 ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
         八神家



あとがき

南です、ここまで読んでくださり、ありがとう御座います。

今まで物語中の管理局サイドは、フェイト視点? での描写がメインでした、今回はその裏側で、はやて達が同じ時間軸でどのように動いていたのかを書いてみました。

一応前半部の謎? な部分はこの話で明確にしたつもりです、次回からは後半部に入ります。

ではでは



[21490] 第十四話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/10/18 10:30
フェイトと速人は明日行われる速人の嘱託魔道士試験の為の仕上げの訓練を海鳴の自然公園で結界を張りつつ行っていた。

クロノ曰く、ここまで成長しているなら嘱託扱いで管理局入りをして、今後の対処をしやすくしたほうがいい。とのことだった。

フェイトもそのほうがいいと自分も思ったので、速人に試験課題のひとつである儀式魔法の伝授を行っていた、サンダーフォールの伝授である。



「じゃあ、今から言う呪文を復唱してね?」

私服姿のフェイトはバリアジャケット姿の速人に確認を取る。

「よろしくおねがいします!」

速人も気合は充分だ。静かに目をつむるフェイトは呪文の詠唱に入った。

アルカス・クルタス・エイギアス

「アルカス・クルタス・エイギアス」

フェイトの落ちついた、涼しげな詠唱を、後を追うように気合の入った声で行う速人。

煌めきたる天神よ、今導きの元、降りきたれ

「煌めきたる天神よ、今導きの元、降りきたれ」

魔力の集中をさせるが為に両目を閉じて呪文の詠唱を続ける。

アルカス・クルタス・エイギアス

「アルカス・クルタス・エイギアス」

空は局地的ではあるが雷雲が立ちこみ始め、雷が周囲に発生し始める。

速人は意識の集中を更に研ぎ澄まし両目を見開き発動キーを口にする。

「サンダーフォール!!」

速人が叫ぶとカミナリが落雷をし周囲は静かになり雷雲も消えていった。フェイトはそれを見届け、速人に向かって笑顔で言った。

「訓練お疲れ様、これで私が教えれるものは全部教えたよ、頑張ったね? 速人」

「ありがとうフェイト、君が僕に力に怯えず共に生きることを教えてくれたからだよ」

あの時の速人とうって変わり、今の速人は力に怯える様子は微塵もない。フェイトは魔法を教えてよかったと心から思った。





二人がいつも訓練後にやる反省会での事。

ベンチに座り、サンダーフォール以外の儀式魔法も伝えられた速人は体中汗をかいている。

フェイトからタオルを受け取り、それをふき取る作業をするが。今のサンダーフォールの感想を速人が喋りだす。

「でも、不思議なことがあるもんだな」

「何が不思議なの?」

フェイトは持ってきたアイスココアを二人分用意して先に飲みながら聞く。汗のふき取り作業を半ば中断しフェイトの隣に座り、アイスココアを飲みながら話す速人。

「さっきの魔法の詠唱さ、前に聞いた覚えがあるような? 気がする……気のせいだと思うんだけどね、自分が自分でない感覚で今の呪文を聞いたような?」


フェイトはハッとする、自分がこれと同じ呪文詠唱を使ったのは、ミルズと組んだ氷の世界でのファランクスシフト行使の時だ!


(やっぱり速人とミルズはどこかで関係が……ある?)


速人とミルズが別人と言うことはすでにわかっていたことである。だが、それでも今の発言を聞くとその考えが増してくる……


「ここにおったんか?」


訓練を終えた二人の所に、関西弁の少女の声が聞こえた。声の方を見ると八神はやてとリィンフォースが歩いてくる。

「!」

フェイトはリィンフォースに目がいく、しかし良く見ると瞳は青い、リィンフォースは赤いはずだ。

「ちがうひと……だよね?」フェイトは呟く。










「え! はやても魔導師?!」

速人がすごい驚いたのも無理もない、なのはとフェイトの魔導師姿は見たことがあったが、彼女とは今までそういう接点が無かったからだ。

「そうや、驚いたか?」

はやては速人の隣に座りニヤニヤ顔で言う。

「なのは、フェイト、はやてもってことはさ……アリサとすずかも?」

速人の疑問ももっともかもしれない、アリサもすずかも今にして思えば彼女達三人の事を本当の意味で理解してるという感じに取れていたから。

「いや、二人は魔導師の存在は知ってるけど、魔導師は私等三人だけやよ」

速人の疑問にすんなりと答えるはやてであるも、短期間に嘱託試験まで持っていける力をつけた目の前の友人に、個人的感想を送る。


「でも私は、速人クンが魔導師の力、持ってることのほうが驚いた。かなりの速度で力つけたいう話やんか?」

そうなのである、速人はフェイトやなのは、クロノのスパルタではあるが実のある訓練を続けて、わずか三週間という期間で嘱託魔導師試験受験というイベントを控える身でもあった。


「それは、フェイトやなのはの教え方が良かったんだよ、きっとね」

速人が少し離れた所に居るフェイトと女性の方をみる。










カレンとフェイトは二人で話しをしている。

速人やはやてから離れたということは彼女がこれから話す内容は二人に聞かれてほしく無いというところか。

「先ずは自己紹介をしておきますね、私はカレンといいます、はやてさんの所にお世話になってるミルズの知り合いです」

フェイトは驚く、リィンフォースにそっくりな人がミルズの知り合いと言ってきたのだ。

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです……」

フェイトも名乗る。カレンは自分とミルズの関係や満月の夜のことを話した……

「ミルズがエルヌアークの騎士……」

フェイトの信じられないという表情をみたカレンは頷く。

「そして、ミルズから貴女宛にこれを預かってます」

ミルズから手渡されたふたつの物、手紙と黄銅色のリストリングをフェイトに手渡した。


「これは?」

「私にも分かりません、ただ、二日後に手紙の内容を貴女の手で実行してくれ、そういわれただけですので」

伝える事をしたカレンは、はやての所に戻っていった。








その日の夜のハラオウン家では。自分の部屋で後は寝るだけ状態のフェイトがベッドに座り込み、カレンから受け取った手紙を読み始めていた。ミッドで使う公用語で書かれた丁寧な文面は、送り主であるミルズの性格を表現している。

「これは……」

フェイトが見た内容、それはミッド式でもベルカ式でもない魔法の構築式だった、内容の最後にこう綴ってある。  


【アーク式構築、実行方法】と。



翌日速人の嘱託魔道士認定試験が始まる、午前中筆記、午後から実技が行われた。

さらに翌日、速人は試験に合格、晴れて嘱託魔道士になった。

ハラオウン家では試験合格のお祝いとして、なのは、フェイト、アルフ、速人の四人が同席していた。

「まさか、クロノ君をダンシングエッジのサイクロンシフトで倒しちゃうなんてね~」

お菓子をつまみながら試験に同席したなのはが試験時の感想を言い出した。

「アレは、凶悪だよ……」

同じ様に同席したフェイトも感想を述べる。フェイトの凶悪という単語に試験に同席しなかった彼女の使い魔アルフが興味ありげに主人に質問する。

「そんなにすごかったのかい?」

フェイトは試験時の内容を思い返していた。

速人のデバイスは未だ「S2U」なのだが、試験は急いだほうがいいとのことで、試験官は義兄クロノがつとめた。

「お前の力を全てぶつけてくるんだぞ?」

「じゃあ、まだ試してないヤツも使いますね?」

クロノの全てのものをぶつけて来い! という台詞に口元をちょっとニヤつかせた速人が応え、クロノのスティンガーブレイドエクスキューションシフトと速人のダンシングエッジの新シフトの対決決戦となった、以下状況を抜粋。



クロノが出したブレイドは150、対し速人が出した数は250であるが、フェイトのランサーの大きさよりも五分の一から十分の一位と大小様々に出現させた。

クロノがブレイドを射出、速人はそれを大きいランサーで相殺し、自分は高速機動で動き回りクロノを霍乱、クロノもそれに対してブレイドを出しつつ応戦。

速人は移動中に自分の周りにアクセルシューターを4つ出し、自分の周りで回転させつつ維持しながら尚も動き回る。

ランサーの弾幕を潜り抜けたブレイドをそのアクセルシューターの回転で阻止。

小さいランサーをクロノの足止めに使いもたつかせ、のこりのランサー全てをクロノに発射、もたついたせいで反応が遅れたクロノに命中する。

これを見たレイジングハート、バルディッシュが同時に、こう名付けた。

<DancingEdge CyclonShift>(ダンシングエッジサイクロンシフト)





「ランサーの大きさまで変えるなんて凶悪だよね……お義兄ちゃん可哀想だった」

「だってさ、もてるもの全部つかってこいっていうからさ~」

義兄を同情するフェイトに抗議をする速人は、口を尖らせ、座ってるソファに思い切り体重をかける。

「でも、クロノ君のバリアジャケットが2つ動き回るのっておっかしかった~」

そのネタを今でも引っ張るなのは、速人はそれに対し崩していた姿勢を正し笑顔で言う。

「なのは……あんまりソレ言うと、君にサイクロンシフトかけるよ?」

その笑顔は恐ろしいくらいの完璧さだった。

「その、笑顔……怖いよ……速人君」

なのはも流石に言い過ぎたかと青くなる、つきあいの長いなのははこの笑顔の意味するところを知っている、怒る寸前の笑顔だ。










本局でクロノは速人の試験内容を確認して嘱託魔導師としての正式手続きを済ませた所だった。

嘱託魔導師名 飛鳥速人。 

魔導師ランク 空戦AAA ミッドチルダ式中距離射撃型。変換資質 無し。

出身世界 管理外世界97番 日本。 

速人の書類をもう一度見直し、試験内容を振り返るクロノ・ハラオウン。

「しかし、速人があれほどのセンスをもつとはな……」

試験のときの新シフトのコントロールもさることながら、空間把握の高さでクロノを追い込みあまつさえ命中ということをやってのけたのだ。

クロノは速人の事を、弟の様に気に入っていた。義妹の友人、なのはの古い知り合いと言うこともあるが。今日の試験結果をかえりみてクロノは思う。

「ミルズが見つかってない今、速人に参加してもらうほうがいいのかもしれんな……」










「じゃあ私、明日も教導あるから帰るね、お休みフェイトちゃん、アルフさん」

なのはがフェイト達に別れを告げた。

「おやすみ、なのは」

なのはを送り出し、二人がリビングに戻ると、速人は完全に爆眠していた、試験の疲れとか色々出たのであろう。

「やれやれ、完全に夢の中かい?」

アルフが速人のほっぺたをつつく、速人はムゥーとむずがるが、おきない

「で? フェイト、やるのかい?」

アルフが表情を強張らせてフェイトに聞く。リビングの壁時計はそろそろ10時になろうとしている。

「そうだね、時間もそろそろだし……私の部屋に速人運んでくれるかな?」

人形態のアルフが「ハイョ」と答え、速人をおぶってフェイトの部屋に連れて行きベッドに仰向けで寝かせる。

スゥスゥ……

速人は未だ起きる気配が無い、フェイトはその寝顔をみて少し微笑むがすぐに表情を強張らせた。

「アルフ結界を、お願い!」

アルフは言われたとおりに結界を張る。

フェイトはバルディッシュのみを起動させ呪文を唱え始める。

フェイトの足元には【金色の六角形の魔方陣】が現れる。


「ジークガイフリーズ……ジークガイフリーズ……時の理を外れる英霊の魂よ呼び声にこたえ、ここに姿を現せ……ジークガイフリーズ、ジークガイフリーズ……」

詠唱が終わり、フェイトは声を小さく、しかしはっきりと口にする。

「ネクロマンシーアクティベート」


魔法が発動し速人の体が金色の光に包まれていく。

フェイトはその光の動きを観察する、速人を包んだ光はやがて人の形となって、青年の姿になっていく。

「それがあなたの本当の姿ですか? ミルズ」

フェイトは姿を現した青年にそう問う。

青年は本局の青い制服姿、短い銀髪と蒼い瞳そして180はある背丈でフェイトを見つめて頷く。

「何故私にこの魔法を?」

「貴女なら、アーク式を構築し実行できると思いましたよテスタロッサさん」

ミルズは声をだした。フェイトはジッとミルズの目を見つめる。

「あまり時がありません、すぐに話しを始めましょうか」

ミルズが話し始めようとするのを、フェイトがさえぎる。

「その前に貴方が何故、速人の中に居るのかを聞きたい……」

「そうですね、それから話しましょうか……」

ミルズはフェンリルと契約した直後、今から七年前のこの世界に移され、丁度三歳になった速人の元に現れた。

ダム決壊事故の中で速人は【力】を発動させていた所だった。その【力】とは以前エナがいっていたモノであるが。ミルズが言うには生まれ出る命とも関係しているのだと言う。

その正体は【失われし世界といわれる、アルハザード】で作られた【魔力兵器】世界を消去させる力をもつ【スターロードイレイザー】の力だった。

イレイザーの力を押さえ込む為、ミルズは三歳の速人に【ユニゾン】を強引に実行してイレイザーの力を押さえ込んだという。しかし、イレイザーの影響でミルズのリンカーコアが変調をきたし、ユニゾンの解除が不能となった。

ミルズ自身もそのさき5年間は目覚めることができなかったと言う。

「速人が……魔力兵器……そんな……」

フェイトはこの事実を受け入れることが出来ない。目の前の少年はどこにでもいる普通の少年だ、確かに魔力は高いが。

「大丈夫ですよ? テスタロッサさん彼、速人君はちゃんとした人間ですよ」

フェイトの不安を取り払うかの様にミルズは優しく話す。本当ですか? とミルズの青い瞳をじっと見つめて聞くフェイト。

「確かに、彼は前世は兵器だったかもしれない、でも、アイリス王女に出会い、【転生の理】を受けこの世界に生を受けたのですからね」

フェイトはミルズの説明を受け安堵した、自分も人とは違う生まれ方をしてきている、速人にもそういう部分があるとは思いたくなかったからだ。

だが先日、速人が言っていた自分の儀式魔法の詠唱を聞いた気がするという疑問が浮かんでくる。

「今までの貴方の姿はもしかして……」

フェイトの推察の通りの答えを返すエルヌアークの騎士。

「そうです、彼の体を借りて意識だけわたしが出ていました、その時の姿はフェンリルの戒めとした姿ですけどね」

ユニゾンと言うミルズの言葉にフェイトはクロノから以前聞いた古代ベルカの融合機の話を思い出した。

「ユニゾンできるってことはミルズは……」

そこまでいってフェイトは口をつぐみ視線をミルズから外した、つまりはミルズは人ではない存在。


「そうです、私はエルヌアークで生まれた、守護騎士プログラムですが、シグナム達とは違い独自で行動できる自律型なんですよ」

フェイトに自分の正体を伝える黒翠色の騎士。

ミルズがプログラムと言う事実に、フェイトは動揺を隠せない、ヴォルケンリッターという前例を知ってはいるがそれでもやりきれない思いが心の隅にある。


「貴女にはお礼をいわねばなりません、テスタロッサさん」

ミルズのその言葉に、どうしてですか? と外した視線を戻し、返事をする。

「先ほど言った生まれ出る命とは」

ミルズは話す、転生の理(てんせいのことわり)【リンカーネーション】を受けたスターロードイレイザーが人として生を受け。

10年たつ頃に、人としてのリンカーコアを生誕させることを意味する。

「彼は、貴女を助けたい、この一心でイレイザーの力を呼び出しました。ですが、人としてのリンカーコアも同時に生み出せたのです。エルヌアークの王子としての力に目覚める事ができたんですよ」

速人の王子としての覚醒を、自分の事の様に喜ぶミルズ。

「しかも魔法の手ほどきまでしてくださいました、本当に感謝します」

ミルズはフェイトに深々と頭を下げる。

「私は、速人に魔法の使い方を教えるって約束したから……」

ミルズの行動に少し照れて今の返事をする。ミルズはそんなフェイトを見て心から思う。この少女に【アーク式】を伝えたのは間違いでは無かったと。

するとミルズの姿が少し歪む。

「そろそろアクティベートが切れますね、テスタロッサさんもう一つの物を王子速人に渡してもらえますか?」

フェイトはリストリングを見せ「これですか?」とミルズに確認を取る。

小さく頷くミルズは徐々に光だし、ネクロマンシーアクティベートの効果が切れ始めた事を無言で知らせる事になった。

「これはなんですか?」

時間一杯まで何とか話をつなげていくフェイト。

「わたしが使っていたデバイス、グラットンソードですよ、私にはもう必要が無いので、王子にお返しするのです……」

「必要がないってどういう?」

「王子がリンカーコアを生誕させたことで、私の方はおそらく変調したコアのせいだと思いますが、同化します……」

「……」

「でも、本意識は王子ですから、私の記憶と魔力が彼に残り、わたしの意識はじきに消えるでしょうね、正直もうそれは始まっています、私の魔法知識を無意識のうちに彼は使い始めていますから」

「そんな……」

フェイトは悲しい顔をする。フェイトの優しい心に触れたミルズは、自分の願いを彼女に託す。

「いいのですよテスタロッサさん、私はそのためにこの世界に来たのですから、最後にお願いします王子を人としてより良い方向に……」

そこまでいった所でミルズは光の粒になって消えていった。

「ミルズ……」

フェイトは消えた光の中でたたずむしかなかった、外は新月の月が浮かんでいた夜のことだった。









同時刻、本局ロストロギア管理室。

ヴォルケンリッターを始めとしたクロノ、はやて、ユーノはモノリスのところに来ていた。

「これがモノリスか」

シグナムが呟く。本来なら回収されたロストロギアは厳重に保管され遺失物管理部扱いになる。だがモノリスはエルヌアークの謎の解明のために本局アースラチームが持っていた。

ミルズが言っていた、カレンも見れば何かを思い出すかもしれませんの一言。

はやてが捜査のプラスになるだろうとモノリスの検分をクロノに申し立てた訳だ。

カレンは文字を読み解いていく、読み解いていくうちに表情が青くなっていく。

「どうしたカレン?」

はやては心配になり様子を伺う。

「光のプロトクリスタルは本当に回収したのですか?」

一言そういったカレン。クロノ、ユーノが疑問に思う。

「始めの調査の時に回収したものがそれだと思いますけど?」

ユーノにしてみれば自分が調べたプロトクリスタルであるこのような言葉がでても当然であろう。カレンは文字の方を見つつユーノの答えに自分が青ざめた理由を述べる。

「ミルズは見落としたのかもしれません、本物は管理第6世界アルザスにあるとここに書いてあります」

「何だって!」

その場にいる全員が声を上げた。

「じゃあ……今あるのは?」

シャマルがカレンに質問をする。

「よくできていますが偽物かと……」

残念な表情でシャマルの疑問に答えるカレン。

「なんてこった! あたしたちがクーザーの場所特定出来てもそれじゃ意味がねーじゃんか!」

ヴィータが怒鳴るのも無理も無い、別働隊に参加したヴィータは、それこそ必死の思いでクーザーを探し出したのだから。

本局に有る光のプロトクリスタルが偽物になると、本物は既に番人側に落ち、イニシアチブを取られたと考えるしかない。

「それについては、平気だとは思いますが……」

皆を不安にさせた当人が今度はその心配は無いといい始める。

「どういうことだ?」

シグナムはカレンの考えがわからずイラツキ気味に質問をする。

「ええとですね」

カレンの話によると。封印城クーザーはエルヌアークの魔法研究施設であると同時に強固な城塞でもあり。時の王女アイリスを守る十四人の魔導師により守られていた。

十四人が同時にクーザーに存在しなければ心臓部であるクリスタルグレイブは起動することがないとのこと。

その十四人とは【天の騎士エインリッター】と呼ばれ。

ナイツオブゴールドのグリフィンドールを長に

副団長ナイツオブブルーミルズ。

ユーリル、ミネルヴァ、リアリエーター。

スリザリン、レイブンクロー、クーフーリン。

シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル。

それにカレン(シーレン)と今は亡きリィンフォース(エヴァ)の事で。

この場に居ない他の人物も戦乱で存在が消えていてクリスタルグレイヴが起動することはできないと語る。

「だとしたら、ミルズが言っていた光天の書のインデックス開放はどうなるんだ?」

クロノがカレンの説明に理解は示すも、疑問も残っている事を主張する。今までの番人達の動きは主にクリスタルの略奪とかなり数の命を散らせた蒐集活動。

光のクリスタルのエネルギー代用と予測されていた光天の書の存在。

クロノは考えが纏まらない。

「番人の動きが読めない……」

「もう一度情報を一から洗いなおすしかない! 徹底的に!」

クロノに代わり、はやてがそう叫んで全員を叱咤激励する。クロノはクーザーの特定とあわよくば破壊をミルズに頼まれていたのだが。

クーザー自体が巨大ロストロギアのために管理局上層部が破壊を認めずに今現在残っている事に歯噛みするしか出来なかった。










ハラオウン家フェイトの自室。

速人がフェイトのベッドで目を覚ますとフェイトが速人を見つめていた。

「目が覚めた? よくねてたね?」

フェイトは速人にささやく、今は深夜の2時を回った所だ。月明かりに照らされたフェイトの目尻には涙の痕が見える。

「フェイト、泣いてたの?」

彼女の顔を見て速人が問いかける。

「ん……ちょっとね」

フェイトは先ほど消えたミルズの事を思い出しながら答える。

「ごめんね、恥ずかしいところ見られちゃった」

涙の痕を服の袖で擦って消そうとする。フェイトのその行動を自分の左手で止めた少年は彼の事を口にした。


「ミルズのことで泣いてくれたの?」


「!」

フェイトは驚き速人の方に向き直る。

「そっか……」

速人はフェイトの腕から自分の手を離し、窓に浮かぶ月を見つめてポツリポツリと話しはじめる。

「僕の中のミルズが僕の正体を教えてくれたよ、この訳の解らない力もアルハザードって所で創られたものなんだってさ」

ミルズがフェイトに伝えた事を話す速人、フェイトは黙って聞く。

「でね、僕の人としての【力】はねエルヌアークのこれからに大きく関係していくって言ってた」

速人はさらに話す。エルヌアークはアルハザードの従属世界で、魔法の研究やマジックアイテムの作成をしていた世界。

主に人々がより良い未来を暮らせるようにするためのデバイス開発をしていた所。

王女は自分を慕う臣下や国民と平和に暮らしていたのだと。そして速人の前世であるスターロードイレイザーがアルハザードで創られ、エルヌアークで再調整される事になった。

世界そのものを消し去る力、それをよく思わなかったアイリスはスターロードイレイザーの希望。

【人の枠に入り暮らしたい】を聞き入れ【転生の理】をもって自分の体内に納めた。エルヌアークの王子として転生させるために。

アルハザード世界は、その王女の行為を反逆とみなしエルヌアークを滅ぼす戦乱を巻き起こす。

アイリスはまず、ヴォルケンリッターとの契約を解除、次元転移魔法を使い次元の彼方に飛ばした。

ミルズ、カレンには、やがて転生するであろう命の守護を命じ、(速人)を魂のままで次元に転送させた。

残りのエインリッターと共にアルハザードに抵抗したが、アルハザードの力に勝てるはずが無く。

最後に自らの命と引き換えにトレースコフィンという広域魔法によってエルヌアーク自体を封印した。

フェイトは黙って聞いていたが、速人に疑問を投げつける。

「どうして、今の時代になってエルヌアークの事柄が動き出したの?」

速人はフェイトに向き直り、ハッキリとした口調で答えた。

「僕の誕生をまっていたんだよ、おそらくね……」

フェイトがいままで見た事がない凛々しい表情で速人は自分の覚悟を伝える。


「フェイト、僕はまだ、君の力を借りないと何も出来ないけど、この訳のわからない戦いを僕の手で終わらせたいと思うんだ、力を貸してくれる?」

フェイトはベッド上の速人の右隣に座り。

「ミルズがこれを君にって……」

フェイトから差し出されたリストリングを受け取る速人。フェイトは速人の願いを次の言葉と行動で応えた。

リングを中心にして、フェイトは速人の手を両手で包み。

「私は、君と一緒に……戦うよ……」

二人の手と、想いが、つながった夜。

  ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
       エルヌアークと言う世界



あとがき

南です、ここまで読んでくださりありがとう御座います。

作中出てきた【天の騎士エインリッター】に関して言い訳をいたします。

本来はドイツ語で 天の騎士は {Ein Ritter des Himmels}となり単にエインリッターだけでは騎士という意味になります。

この話を構想中にヴォルケンリッターをこのエインリッターの枠に入れるという事を考えたのですが、雲に対してその上は何? という自問の答えが天又は空という答えになりました。

空ではひねりがないかな? と思い天の方を採用し表記をエインリッターという事にいたしました。

では次回にお会いいたしましょう。



[21490] 第十五話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/11/05 14:20
スプールス夢幻回廊。

勢揃いしたアルハザードの死刑執行人達。その名を七罪の番人という。

傲慢、嫉妬、暴食、色欲、怠惰、貪欲、憤怒の名前を冠した魔導師達。

彼等は、アルハザードの存在を脅かす様な文明世界を排除、又はアルハザード世界の支配下に入れる為に遣わされる者達である。

アルザスから戻った彼等は、炎の魔法使いプライドの広域探査魔法を使用し何かを調べているようだ。

七人の足元にはそれぞれの系統の魔方陣が展開されており、プライドの足元に魔力を送る道が出来ている。全員の魔力をその身に受けた赤髪の女性は両目を閉じている。長い時間が過ぎ、彼女の足元の魔方陣が消えると全員の魔方陣も消えていった。

プライドの返事を静かに待つ面々、彼女は黒い虚ろな瞳を開け、口を開いた。

「エターナルクリスタルの精製法は手に入れた、クーザーを使用せずとも私なら作れる……ただそれのエネルギーを使うとなるとクーザーの王座で制御しないことには運用はできない」

「となると……やはり14人必要か……」

いかにもな杖、いかにもな法衣姿な老人ラストが声を出す、姿と声のマッチした老獪な存在の含んだ物言いに、エウリュトスは又面倒くさい事になったと言わんばかりのため息交じりの声をだす。

「そうですか……エインの生き残りなど、果たして見つかるのですかね……」

エウリュトスを筆頭に大人姿の番人達は、クーザーの解除キーとして存在する天の騎士エインリッターの存在をこれから突き止めなければ行けないのかと落胆する。

大人達の落胆した雰囲気を破る者がいた、グリードである。

「それよりよ、イレイザーの方はどうすんだよ!」

速人に酷い目に逢わされ、ただではおかないと言った感じなのであろう。大人達の心配事を他所に、子供らしいストレートな感情を顕にして、利き手である右手に拳を作りエウリュトスに吼えた。

同じ年齢の少女ラースは静かに右目を閉じ、左目だけを開け腕を組み、静かにただ全員を見つめる。

とはいえ、天の騎士の一人であるミルズの存在は彼等も知りえている所だ、一度剣を交わしている剣士は鞘に収められたダインスレイフを握りながら呟く。カチャリと音を立てた愛剣。

「ナイツオブブルーともう一度というところか……」

会話に入っていなかったグラトニーがエンヴィーの呟きを聞き、海鳴に出向く準備をし始める。

「エウリュトス、ラースとグリードを使うぞ? ナイツオブブルーのいる世界に出向くとする」

「まずは、存在が分かっている所から攻めようってわけかい? いまさらな気もするけどね……でも、扉を開けるなら、アレの存在も必要なのかな?」

ほっておいても良いような口調で言うが、彼の手に握られている【完成された光天の書】を持ち直し、プライドに訳知り顔の視線を送るエウリュトス。

「私も、ついていくことにしよう……」

エウリュトスの視線の真意を読み取ったプライドがグラトニーに申し出る。

彼等とて馬鹿ではない、時空管理局と言う存在が、この時代にどういう影響力をもっていて、どのような行動を起こすのかは理解している。グラトニーが向かうとする世界は、水のクリスタルの回収とラストの封印解放の時に出向いた世界ではあるが、どの世界のクリスタル回収の時よりも相手の対応が早かった世界。それが管理外97番とされている地球だったのだ。

「俺も行こう」

スロウスも自分のすべき事を理解していた、ゲイアサイルを右手に携えプライドに続いた。

「では、行くとするか……」

グラトニーが行動開始を宣言する、多くは語らなくても番人達は分かっていた、ミルズの居る世界に出向くと言う事は必ず管理局という邪魔が入ると言う事を。

プライドの次元間転移魔法によりラストとエウリュトス以外の番人達は地球に存在を転移させた。

「エターナルクリスタルとスターロードイレイザー……これを手に入れて本国への帰還を果たさないとね?」

エウリュトスは小さく呟くと、呟きに応えるかのように虹色の光を一瞬はなった光天の書。


老人ラストと弓士エウリュトスの居る空間の奥には【八種類】のプロトクリスタルが其々光を放っていた。










次元の海に浮かぶ巨大な大岩の塊。周りはまさに宇宙のような広がりをみせる空間。

巨大な岩の塊からは幾つもの色の光の点線があらゆる方向に放射されている。船を向かえ入れる為のガイドビーコンが出ているあたり、この岩の塊がただ浮かんでいる訳でないということを意味つけている。

それもそのはず、この巨大な岩の塊は時空管理局本局が存在する島なのである。通称【海】と呼ばれる次元航行艦隊を従える時空管理局の心臓部。

艦隊を迎え入れる港が少なくとも8箇所。それ以外に内部には魔導技術の粋を凝らしたエリアが多数存在し、岩の内部だというのに重力が存在し天気もその日によって変わるという居住エリアは、本局で働く人々にストレスを感じさせる事無く活動させる事が可能となっている。

管理局エリアのほうは無重力空間もあり代表的なのが無限書庫の存在するエリアだ。

このような状況に置かれ、ワクワクしない男の子などいるのであろうか? 少なくとも彼、飛鳥速人はワクワクする方の部類に入る。

フェイトの案内により本局の管理局エリアに入り外周部分に位置する窓からは広大な次元の海が彼の目に入ってきた。思わず声をだす新米嘱託魔導師。

「うわー! ここが時空管理局の本局なのか、まるでアニメに出てくる宇宙要塞だよね!」

速人は少し興奮気味のようだ。案内しているフェイトにとって速人の興奮ぶりは予測ができていた事であり、クスリと笑って受け答えした。

「男の子って、こういう所に興味がわくって本当なんだ?」

「これはもう、趣味の世界だよね!」

二人が何故本局に出向いているのか。嘱託になった速人にクロノが正式に仕事を要請したからである。

もちろん【セブンギルティアサルト】関連の仕事だ。

話ながらクロノの待つ執務室に向かう二人。本局に出向く時のフェイトの格好は、黒い色の管理局制服、執務官関係職が使う専用色である。嘱託の速人には制服着用は義務付けられていないため、星祥小学部の制服という格好であった。

速人自身、白いTシャツと青いジーンズで出かけようとした所、姉のエナに学校の制服で行きなさい! と雷(拳骨)を落とされたのだ、心なしか彼の頭頂部はやや膨らんでいた。

外周エリアの通路から中心部に向かうための通路に入り、一つ目の十字路に差し掛かる頃。正面から管理局本局所属を意味する青い制服を着込んだ少女が歩いてきた。

特別捜査官補佐八神はやて、彼女はフェイトと速人を確認すると近づいてきて二人を茶化した。

「お~ ご両人のおでましや~ 仲がよくて恋人同士みたいやね~?」


「はやて! ボクとフェイトは、そ、そんなんじゃないよ」

速人は茶化した本人にかなり焦って言い訳をした。隣に居たフェイトも否定意見を出した。

「そうだよ、はやて……本局に慣れてない速人を案内してるだけなんだ」

二人の反応を中年のオッサンの様なニヤニヤとした顔で八神はやてはフェイトに耳打ちした。

「ふ~ん? まぁそう言う事にしといたる」

オッサンはやての耳打ちに少し顔を赤らめたフェイト。三人が十字路のど真ん中で話しをしていると。

「フェイトちゃん、はやてちゃん、それに速人君も?」

三人にとっては聞き慣れた、あの少女の声が右の通路から聞こえてきた。フェイトもそれに気がつき声のした方向に顔を向けた。フェイトが嬉しそうに声をだす。

「なのは! なのはもクロノに呼ばれたの?」

フェイトに聞かれ、うん、そうだよ、と答えるなのはの格好は、武装隊でも極限られた人物しか着用ができない教導隊制服。白を基準として各所に青い色がバランスよく配色されたそれはその人物がエリート局員である、と言う事を無言で語る。

僅か10歳の少女がこの制服を着用した実例は高町なのはが最初であり、おそらく最後であろうと言う感想を述べたのはジュエルシード事件でなのはの魔力と魔法運用をみたクロノの言葉であった。馬鹿魔力と当時は称したが、彼なりの驚きの表れでもある。

「とうとう、クロノクンも本腰いれたか?」

はやてがオッサン顔のまま顎に手をあて、声に出した。



クロノ専用の執務官室、クロノと先ほどの四人が居る。デスクを挟んで立って向かい合う一人と四人。いつに無く緊張した雰囲気をだすクロノ・ハラオウンの表情に速人はゴクリと唾を飲み込んだ。

「それでは高町なのは教導官補佐、飛鳥速人嘱託魔道士の両名、セブンギルティアサルトへの任務に就いてもらう」

クロノが着任確認をし任務目的を述べて二人に声をかけた。

「高町なのは、了解です!」

「あ……あすか…はやと…りょ…りょうか……いです……」

緊張のあまり声がどもった速人、笑いながら突っ込みを入れる青服をきた少女。

「緊張すること無いで~速人クン」

「クロノが事件担当のトップだから、緊張することないよ?」

はやてフェイトの二人から自分の欠点の1つ緊張するととたんに声がどもるのを見抜かれる速人。普段ハラオウンの家で兄貴のような表情を作ったクロノは椅子に腰掛けて速人に言った。

「少しは緊張も必要ではあるがな、しすぎじゃないのか?」

腰掛けたクロノがセブンギルティアサルトの捜査の現状を伝える。

「まぁ……とりあえず今は、エルヌアークの情報整理中なんだが……番人の行動目的がわからない。ユーノが今調べているんだが人手が足りないと泣きついて来てる、君達にはその応援に入ってもらおうと思う」










(Est-ce que vous êtes connu?){聞こえますか?}

四人がユーノの所に移動中に声が聞こえた、声と言っても念話の類である、速人が不意に周囲を見る。

少年のこの行動があまりにも変だったのであろうかなのはを先頭にフェイト、速人、その少し後ろにはやてという順番で目的地である無限書庫に向かっていたのであるが、少女達は立ち止まり変なリアクションを起こした少年を見つめた。

「どうしたの?」

三人を代表してフェイトが聞くと真剣な青い目を彼女に向けて少年は答える。

「今さ、念話がこなかった? きこえますか? って」


「いや? きこえんかったよ」

「私もきこえないよ?」

はやてとなのはの二人は彼に対し否定意見を述べる。速人は耳を澄ませるが、念話は聞こえない。

「僕の気のせいかな?」

気のせいであろうという個人的な答えを見つけ、先導者であるなのはよりも前に出て歩き出す。

「変な速人君、そして道わかるんですか? 嘱託魔導師さん」

弟、速人に突っ込みを忘れない、姉なのは。そんな中クロノから通信が入る。彼等の前方に電子音と共に空間ディスプレイが出現する。画像の中のクロノはかなり慌てた様子だ声のトーンも高い。

「みんな、海鳴に番人が現れた!」

四人はディスプレイに集まる。映像に出てるのはグラトニー、スロウス、グリード、ラース、エンヴィーそして赤髪の番人プライド。

画像を見たはやては今までの番人の特性を思いおこす。

「六人か……広域型が一人おるんか……」

自分と似たようなタイプの番人が居るということをシンフレア蒐集時の画像で見知ってはいたが、ライブで送られて来る映像の広域型の番人から、得も言われぬ威圧感を感じた。

(リィンフォースがおったらな……)

今は既に存在しない、彼女の家族の一人で夜天の書の管制人格であった、リィンフォースの事を思い出すはやて。

現状での彼女は、自分の大きすぎる魔力をシュベルトクロイツの八番機で制御しているのであるが、全力運用となるとどうしてもリィンフォースのような存在のサポートが必要になってくる。

(……今は嘆いてる場合ちゃうな)

余談であるが、アースラチームでミッド式対ベルカ式のチーム模擬戦を行った時の事である。シュベルトクロイツが彼女の魔力を制御しきれずに暴発し溶けたという事があったのだ。

これ以降彼女は騎士甲冑を纏い前線に出ると言う事をしなくなった。彼女がリィンフォースを思い出すのも必然なのかもしれない。

しかし今は目の前の番人の対応である、はやては画面先のクロノに海鳴に待機してるであろう家族の出動を頼んだ。

「クロノクン、シグナム達を向かわせて、私らも向かう!」

「頼むぞ、現場指揮は君が執ってくれ」

執務室から動けないクロノが出撃命令をだす。

「なのはちゃん、フェイトちゃん」

はやては友人である二人に目で確認をとる。二人はすでにエース級魔導師の目だ。

次に夜天の主が問いかけたのは新米嘱託魔導師。

「速人君、ちょ~急やけどいけるよな?」


「いつでもいける!」

夜天の主の目をしたはやてに応える速人。八神はやては声を張り上げた。

「それじゃあ、出動や!」





クロノから要請を受けたヴォルケンリッター達はすぐさま行動を起こし、番人が現れたと言う海鳴の海上に急いだ。新たに家族となったカレンも又一緒に行動を共にする。

クロノから送られた映像を見た彼女は、最悪の事態も想定し自分も力になれば協力をするつもりなのであろう。彼女の右手首に付けられている黄銅色のリストリングが鈍く光を放つ。

月村邸のトランスポーター上で、転移を済ませた四人、はやてが矢継ぎ早に指示を出していく。

「私は地上から指揮を執る、三人は空に上がってシグナム達と合流いそいで!」

三人は頷き、各々の相棒であるデバイスを起動状態にする。

レイジングハートが彼女特有の音をだし、宝石部分にSET UPの文字が浮かび上がった。続けて金色のレリーフを取り出し右手を高らかに上げられたバルディッシュも起動状態へと準備をした。

彼等のマスター達もまた声を張り上げた。

「レイジングハートいくよ!」<yes my master>

<get set>「バルディッシュアサルト!」

「「セーットアーップ!」」

<<set up>>

魔法少女となったなのはとフェイトは互いの愛機を握り締めた。

もう一人の少年。飛鳥速人はこの先愛機となるデバイスを見つめ、声をかけた。

「これから頼むよ……グラットン!」

バルディッシュ以上に無口なグラットンは呼び声に応えるかのようにリストリングを光らせた。そのように速人には見えた。

自分の左手首にそれをはめて左手を高々と振り上げ叫ぶ。

「グラットンソード! セットアップ!」

<set up>

バルディッシュと同じバリトンの男性様の声が響き、少年の思いに応えたデバイスは白金の光を派手に輝かせ、マスターとなった速人を光で包み込んだ。

バスタードソード状態になったグラットンは次にバリアジャケットの展開に入った。

速人の身体に纏われていく物は、かつてミルズが着用していた黒翠色の騎士甲冑であるヘヴィキュイラス。纏われた甲冑をみたフェイトは思わず呟く。

「ミルズの甲冑……」

<Drive Ignition>{ドライヴ・イグニッション}

グラットンが発声し起動開始を宣言、速人の足元に白金のミッド式魔方陣が展開する。

「フェイト、なのは、行こう!」

バスタードソードを左手に握り、気合を入れて言う速人。

二人は頷き三人同時に大地を蹴った。桜色と金色そして白金の光が大空に飛び立つ。

はやてはそれを見届け。今は飛べない自分の迷いを断ち切る様に首を振り念じた。

(私は私で……出来る事をする!)

八神はやては一人走って、海鳴の防波堤に急いだ。





すでに現場ではシャマルによって結界が張られており、総勢十人での睨み合いが開始されていた。ヴォルケン達と番人六人の構図。

シグナムとヴィータが同列に身体を並べ、その後方にザフィーラ、最後方にシャマルといういつも通りの陣形を作る雲達、対し死刑執行人達は最前列にグリードとラース、中衛にエンヴィーとスロウスが立ち、最後列にグラトニーとプライドという布陣であった。

「そちらからお出ましとは、探す手間が省けたと言うもの……此処で逮捕させてもらおうか」

臨戦体勢のシグナムが静かに語る、逮捕の言葉に対してなのか、それとも自分の欲望に素直なのか、番人側の少女が彼女の言葉に反応した。

「そうはいきませんですわ~ アイゼンさんを手に入れて、さっさと戻るんですわ~」

グラーフアイゼンに勢い良くビシッ! と中指を突きつけヴィータの方を向きニヤリとする。

「ア? 簡単に渡すと思ってんのか?」

アイゼンを肩に掛け、ですわ少女を睨み、ヴィータも言い返す。

ザフィーラは現場に来るまでの間に今までの番人の行動と言うのを自分なりに考えていた。

この世界には彼らの目的とする物は既に無いはずである、仮に蒐集活動の為に現れたにしては、ずいぶんとお粗末な登場の仕方である、自分が蒐集するのであれば、こんな面倒な相手が直ぐに登場するような世界での蒐集活動などリスクが高すぎるし、ありえない、と言うのが感想として出てくる。

おそらく蒐集ではなく何か別の目的があっての事なのだろうと彼は推察した、番人に問いかけるザフィーラ。

「この世界で、何をしようというのだ?」

人形態のザフィーラの問いかけに又もラースが反応し、何処かの魔法少女がやる様な中指をクルクルと回して【おまじない】の格好で口を開いた時に、シグナムが言う。

「まぁ、素直に言うタマでもあるまい……聞いたところで納得の行く返事など返ってこないだろう」


「ムキー、わっちのセリフ、とられましたですわ!」

悔しがるラース、それはもう空中でジタンダ踏むくらいに。このやり取りにグリードがしびれを切らして言う。


「てめぇらには用はねぇ! 変な頭ズとイレイザーはどこだ!」


その声を聞いたプライドがバカ言っちゃったよコイツ的な表情をし、短く一言いう。

「だまれ、グリード」


「彼等の目的なんて、どうでもいい事よ、逮捕がこっちの最優先事項……三人とも行って!」

シャマルのこの言葉を切っ掛けにに各自が行動開始する。海鳴の海上では同時に六つの光が流星の如く動き出した。

動き出した光の一つ。筋肉質の大男グラトニーが指示を出す。

「プライド、索敵いそげよ、スロウス、グリード、プライドを守ってやれ」

炎の魔法使いはその場から動かずに探査魔法を使用している様である、その為の護衛をしろと槍士と少年魔法使いに命令し、自分はザフィーラに狙いを絞った。シグナムやヴィータといった女性タイプよりは男を選択したのは武人である彼の考え方なのであろう。

シグナム対エンヴィー、ヴィータ対ラース。そしてグラトニー対ザフィーラで戦闘が始まる。

動き出した流星のうちの二つ、シグナムとエンヴィーのリターンマッチ。まずは挨拶代わりの数回のヒットアンドウェイでの剣の打ち合いを経てお互いが静止する。

「貴女とはニ度目ですか、シグナム……」

青い剣身、ダインスレイフを右手に持ち、海上10mの所で空中に浮かんでいるエンヴィーが声をだす。

「何故……貴女が私の剣と同じなのか? 今日ここで……はっきりとさせる!」

同じ高さの所でレヴァンティンの剣先をエンヴィーに向け、シグナムも応える。

赤い流星と黒い小さな流星も先の二人と同じ様な展開となっていた。だが此方は常に動き回り度重なる衝突を繰り返す。

巨大なハンマーデバイスを両手で持ち、猛然と鉄槌の騎士ヴィータに迫る魔法少女ラース。彼女の血の様に赤い瞳に映るは鉄の伯爵。三つ編み髪のヴィータ。

「グリンタンニ! 目の前の方をかち割るですわ!」

<yes>

ラースの突っ込みのパワーにも遅れを取らない鉄槌の騎士は、前回(土のクリスタル回収失敗の時)の二の舞にはならないという意思を表に出し、迫りくる【怪力ですわ少女】と真っ向から戦いはじめる。

「この前の様にはいかねぇ、アイゼン!」

<Jawohl>




戦闘エリアになった海鳴海上に向かっている三色の魔力光の帯。いうまでも無く、フェイト、速人、なのはである。

派手に光を放つ海上上空をみたフェイトが呟く。

「始まっている」


「いそがないと」

フェイトと同等の速度で飛ぶ速人も彼女の呟きに応える様に声を出した。

二人の全速力に近いスピードに着いていくなのはには声を出す余裕が無い。

高速機動戦を身上とするフェイトはもちろんの事、その人物から教えを受けた速人も又高速機動の動きを習得している、砲撃戦を主眼にしているなのはとでは速さの質が違う。

二人の基本飛行速度が速いのはそのせいで、なのはでもついて行くのがやっとである。離されまいと必死に飛行に集中せざる得ない。

三色の魔力光が飛行機雲のような帯を海鳴の大空に描いた、その光の帯を地上の防波堤で見つめる女性カレン。

向かっていった三本の光に祈るように呟いた。

「ミルズ……王子を……頼みましたよ」


  ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
       ドライブ・イグニッション



あとがき

南です、ここまで読んでくださり有難う御座います。

かなり更新遅れましたが十五話お届けします。次回は戦闘タップリでお届けいたします。

ではでは



[21490] 第十六話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/11/10 20:09
海鳴の海上では六色の流星が入り乱れ飛び交う、黒いボディスーツを着込み腰まである銀色の髪を風に舞わせながら祈るように戦況を見つめる女性、カレン。

ミルズがカレンに託したリストリングは、エルヌアークの正当なる王子が着用すべきデバイス。王子を守護する役目にあったミルズが何故ソレを使っていたのか、それはデバイスに経験をつませ着用者が危機的な状況下でも、しっかりとサポートさせる目的の為に使っていたのである。

リストリングの起動状態である黒いバスタードソードを携えた白金の魔力光を輝かせる少年を見つめ、彼がエルヌアークの王子になった事を理解したのであった。同時にミルズの存在が消えたと言う事も。

ミルズが撃墜され彼女が助け、手紙とリストリングを受け取り、二人だけで話した時の事を思い返すカレン。

「カレン、私はおそらく存在が消えると思う……生まれ出る命はまだ見つかっていないが、その器たる少年は君の目の前に居る、私はフェンリルによって7年前のこの世界に飛ばされた、その時にスターロードイレイザーを発動させようとしているこの少年を見つけた」

カレンはミルズが何故少年の姿をしていたのか本当の意味で理解した。

「そう……それでユニゾンし、その力を押さえ込んだ結果、解除できなくなったのね」

本当の意味を知ったカレンは少年ミルズを抱きしめて涙を浮かべて話す。

「ミルズ、御免なさい、私では貴方のリンカーコアの変調を修復させる事ができない……騎士団長であれば出来たでしょうに」

今は存在が知れない彼らの長ナイツオブゴールドであるグリフィンドールを想うカレン。

共に王子になるであろう速人の守護を主目的とした二人。フェンリルの気まぐれが無ければ同じ時代に飛ばされたであろう。しかし現実はそう都合よくいかなかった。

7年という時間の誤差は、それほどまでに大きかったのだ。カレンに抱かれたままミルズは彼女に頼んだ。

「私が消えたら……カレン、君が王子を導いてやってくれ、頼むぞ」

防波堤で上空を見上げ、もう一度、彼女は祈る。

「ミルズ……王子を……護ってあげて」






彼女の居る防波堤に一人の少女が駆けて現れた。

「カレン! みんなはどうなってる?」

はやての掛け声のした方向に体と顔を向けて彼女は答えた。

「つい先ほど戦闘が開始されました、まだ大きな展開はありません」

「さよか」

カレンの隣まできたはやては、上空で動き回る流星を一緒になって見上げた。



無骨な全身鎧を着込んだ大男とベルカの守護獣との接近戦。

大空という限りないスペースでの戦闘であるのに男達の戦いは女性陣の派手な動きとは逆に限られた空間での間合いの見切りから始まっていた。


女系家族の八神家において犬という位置に甘んじているザフィーラであるが、やはりヴォルケンリッターの一人である。フェイトとミルズを相手にしても相手の間合いに入らせなかったグラトニー。

その人物相手に得意の格闘戦術でもって猛然と襲い掛かっていく。

無言でその猛襲を盾で防ぎ、自慢の太い右腕で剣を振りかざすグラトニー。ザフィーラはその剣閃を最小範囲の動きで交わし己の両拳で攻撃につなげていく、彼の得意技である円での動きは無限に攻撃のチャンスを生み出していく。

犬形態の時は魔法中心に行動をするが、人形態のときは逆に体術を持って事に当たるのがザフィーラの特徴でもあった。

派手な動きは無く一見すると地味ではあるが、この二人の戦いはかなり高度な戦いだ。格闘ファンが居るならば彼等の戦いに諸手を叩いて絶賛するであろう。

3ON3の戦いが始まった頃、プライドが声をだす。


「……来ますイレイザー反応あり」


「じゃあ、俺がアニメーガスだな。グリードきっちり仕事をこなせよ?」

スロウスは魔法少年にそういうとザフィーラの方に向かう。

「わかってるって!」

グリードも応えフェイトを探すために行動を開始しようとすると、上空より少女の叫び声が聞こえてきた。

「ディバインバスター!」

グリードの目の前を桜色の砲撃が通り過ぎる、その方向を少年が睨み叫んだ。


「きやがったな変な頭! それにイレイザー!!」

グラトニーはスロウスにザフィーラを任せ、自分は速人に狙いを絞り接近していく。

「あれの中か……」

剣と盾を構えて魔導師なり立ての少年に接近していった。速人はそれに気がつき自分の周りに射撃スフィアを4つ展開しグラトニーに放つ。

(速人!)

フェイトは念話で叫ぶ。過去に一度対戦した経験がある彼女は初の実戦で筋肉質の大男相手では分が悪いと思ったのだろう。

(この人は僕とやりたいようだ何とかする、君は自分のことを)

速人の落ち着いた返事を聞いたフェイトはその言葉にミルズの面影をみる、速人にはミルズが付いているんだと考えをまとめた。

ミルズが居るなら大丈夫、速人に頷いてグラトニーの脇をすり抜ける、目指すはグリード。

シグナム対エンヴィー、ヴィータ対ラース、フェイト対グリード、スロウス対ザフィーラ。

そして速人VSグラトニー。なのはは、それを注視してプライドに目を向ける。

(私がやるべきこと、それは……あの赤い魔法使いと戦うよりもみんなのフォローだね……それなら!)

その場でとどまり桜色の魔方陣を展開し足場を形成していくなのは。





はやては海の防波堤でカレンと戦いの様子を見ていたが戦況の混乱具合に不安を覚えた。隣で同じように戦いを見守っている家族に一言いう。

「場合によってはカレン、あんたにも出てもらうで?」

空の戦いを見ながら言う夜天の主に対し、同じく視線は戦いの場を見ながらうなずくカレン。


スロウスとザフィーラはお互い槍と拳で互角の戦いを繰り広げ、ヴィータとラースはハンマー同士で討ちあい、グリードとフェイトで高速戦闘の戦いを大空で繰り返す。そして剣を従える者同士、お互い剣で打ち合うも決定打にならず。

シグナムはエンヴィーと少し距離をとり愛機のカートリッジを1発ロードし叫ぶ。

「ならば……これでどうだ! レヴァンティン!」

<Schlange Form!>{シュランゲフォルム!}

愛機が叫ぶと剣身が崩れて鞭の様な状態へと変化した。

「刃の連結刃(やいばのれんけつじん)……うけてみろ、飛竜一閃!」

シュランゲバイゼンでエンヴィーに仕掛ける。蛇腹状となったレバンティンが青い騎士服を纏った女性に容赦なくその牙を向けた。

牙を向けられたエンヴィーはダインスレイフを鞘に収め、瞳を閉じて白色のベルカ式魔方陣を展開。

「攻撃にその力を裂いたか……こちらは……」

鞘に収めたダインスレイフを居合い抜きの様に引き抜き、高速の円閃撃を繰り出す。

「ダインスレイフ……結界閃サークルブレード……」

周囲に魔力が付いた空気の気流が巻き起こり、シュランゲの攻撃をそれで往なす。

「く……」

これでもだめか、エンヴィーが行った技は陣風(じんぷう)の変形とも言ってもいい技だった、どこまで剣のタイプが同じなのだ……シグナムの脳裏にはそれが繰り返される。





速人とグラトニーは中距離の速人の間合いであるのだが、速人も攻めきれないでいる。

アクセルシューターで自分の得意距離で挑んではいるのだが、グラトニーの剣と盾でそれを防がれ、距離こそ有利なものの追い詰められるというような感じになっている。

(うまく距離を保ててもあの盾で防がれる……このままじゃこっちの魔力が尽きる、どうする速人……ダンシングエッジを仕掛けようにもその隙がつくれない……)

速人は自分がこれから相手にしていく番人というものの強さを肌で感じとるも不思議と怖さは出てこなかった、初の実戦であるのに関わらず自分でも驚くくらいに落ち着いている。まるで過去に戦闘の経験が有るかのような錯覚させ感じられた。

速人の動きを見つめていたなのはは、少年にミルズの姿をダブらせた。

(速人君の姿に、ミルズさんが被る……でも、まだ動きが甘い……助けなきゃ)

他の仲間と比較して、やっぱりまだ動きが甘い速人には自分の手助けが必要だと判断した姉は、弟が相手にしている人物に砲撃態勢を取った。続いて回りに桜色の球体をいくつも出現させて動かした。

速人の頬をかすめるようにして、桜色のアクセルシューターが速人の脇をすり抜けグラトニーにむかっていく。

「む?」

速人との戦いを本気ではなく小手調べ的に対応していたグラトニーはそれに気を取られた。なのはの念話が速人にくる。

(今よ! 速人君!)


(なのはか、ありがたいよ!)

なのはが作ったこのチャンスに速人はダンシングエッジの構築に入る。動きを止めて足元に白金の魔方陣を出現させ12発のシューターを出した。

戦闘経験が少ない速人には動きながら魔法を構築展開させるマルチタスクの能力はまだない、なのはの助け舟はクリティカルといえるほどの良いタイミングであった。

「いけえ! ダンシングエッジ!」

<Dancing Edge>{ダンシングエッジ}

グラットンが発声し白金の球がグラトニーに向けられる。

グラトニーはなのはが放った桜色球を剣と盾で打ち下ろしながら速人の出したシューターも対応していく。

「なかなか、楽しませてくれる……」

グラトニーがダンシングエッジのシューターを盾で打ち下ろそうとした時に。

「ディバインバスター!」

本日ニ発目のバスターがグラトニーに襲い掛かる、ランサー化したダンシングエッジとバスターがほぼ同時にグラトニーに命中する、なのはと速人のコンビプレイが決まった。

「クリーンヒット!」

愛機レイジングハートを水平から垂直に構えなおし、手応えを感じたなのはが叫ぶ。

<It is my mastering though does>{さすが、私のマスターです}

カートリッジシステムの薬莢(やっきょう)を薬室(チャンバー)内部から排出し余剰魔力を噴出口から吐き出しレイジングハートが主人に呼応する。

「これが……なのはの力」

海面に落ちていくグラトニー。姉とも言うべき存在の少女の力を目の当たりにした速人はゴクリと唾を飲み込み呟いた。

その光景をみてプライド以外の番人が叫ぶ。

「グラトニー!」

「あれしきのことで……グラトニーが堕ちるものか、うろたえるな!!」

プライドは今までの戦闘をみて、先に倒すべきはなのはと判断した、自分の魔力を解放し始めた所で番人を一括する。彼女の声の威圧感はフェイト達も飲み込まれそうになるほどだった。

(グリード、ラースあの白い子供を倒しなさい、わかりましたね?)

遠話{ログ}で指示をだす彼女は、番人サイドの指揮官でもあるようだ。グラトニーの落下点を一瞥したプライドはラースとグリードに行けと、アゴで指示する。

自分は【赤い六角形の魔方陣】を足元に展開しデバイスを実体化させるワードを綴る。

「グリモア、セット」

彼女の声に呼応してプライドの右手に真紅の本が出現しページが捲られていく。

フェイトを引き離しにかかるグリード、同じくヴィータにキーンエッジを仕掛けて離脱するラース。

この前よりも速い! フェイトはそう思い、黒い針の雨で足止めされたヴィータも、くそ、おいつけねー! と悔しがる。

「なのはを……狙っている?」

速人は言うや否やランサーを大小数十個だしグリードに向けて放つ。

フェイトから教えられたプラズマランサー。彼なりのアレンジでスロウランサーと名づけられたソレがグリードに向かって飛んでいく。

「そんなの、とろくせーんだよ!」

グリードは速人が仕掛けた魔法槍(ランサー)全てを自分の電撃魔法で打ち落とす。

「ラース仕掛けんぞ! 遅れんじゃねーぜ!」

吼えるグリードに対して、いつもの調子で愛機を構え応えるラース。

「誰にものを言ってるのですわ!」

なのはに狙いを定めたグリードの周囲に炎の車輪状態の魔法効果が浮かび上がる。

「本当はがらじゃねーんだけどよ! バーニングブレイド!」

グリードが叫ぶとイモータルシミターに炎が宿りなのはに向けてグリードの炎が蛇の様に襲い掛かる。

「く! はやい」

<Protection Powered!>{プロテクションパワード!}

なのはが一言漏らすとレイジングハートが発声し、避けれないなら耐える方を選択した。

「続いていきますですわ! アーマーブレイク!」

<Armor Break>

グリンタンニも発声し巨大なハンマーが巨大な両刃斧(バタフライ型)に姿を変えた。なのはに打ち下ろされる巨大戦斧。

ラースの力と相まって、なのはのプロテクションにぶち当たるとゴキン! と鈍い音がして、プロテクションを破壊する。

二人はすぐに離脱する、破壊されたプロテクション、今の連続攻撃でさらに追い討ちがなのはに迫る。周囲の温度が急上昇しなのはのそばに炎が発生! それが彼女に向かって収縮していき爆ぜた。

まるで核爆発を起こすかのように、派手な光と熱を発生させ標的になった少女の命を奪い取ろうとする。フェイト、ヴィータ、速人の三人が同時に叫んだ。

「なのは!」

「まだ、終わりませんよ……マハリト、発射……」


プライドは自分の周りに炎の玉を四発出現させフェイト、ヴィータ、速人、なのはに向けて放った。


周囲の酸素を消費し唸りをあげた四発の火の玉は別々にターゲットに向かっていく。

「それは私が止めます! クラールヴィント!」

シャマルが風の護盾を使い四人に放たれた火の玉を防ぎにかかる。だが、なのはに向けて放たれた一発は強力らしくそれをも破壊しなのはに命中する。

「ハハハ! 連携を食らってなおかつ魔法の追い討ちだ、これでおちなかったらそいつは化け物だ!」

グリードが勝ち誇るようにいう、手ごたえを感じているんだろう。魔力の煙が晴れてくると、勝ち誇っていたグリードの顔が青ざめていく。

そこにはなのはが立っている、上半身のバリアジャケットは消えていてアンダースーツの黒い色になってはいるが。レイジングハートを両手に従えその瞳はまだ戦意を喪失していない。

「危なかった、ジャケットパージ。遅れてたらやられてた……」

流石に天才と謳われるだけはある、あの瞬間に自分のジャケットをパージして核熱の魔法効果を打ち消したのだ。並みの魔導師ならばグリードの言う通り堕ちていたはずだ。

「こいつ化け物か……」

唖然とし動きを止めたグリードに、速人のダンシングエッジがせまる。

「うお?」

対処にグリードは海面スレスレまで高度を落として逃げる。狙いを外されたダンシングエッジの効果は海面にぶち当たり周囲に水柱を高く発生させた。

この水柱の影響を受けてしまう二人の人物がいた、正確には水柱が起因して起こった高波であるが、はやてを急いで抱き寄せ、防御魔法を使ったカレン、水柱が発生させた波を受けきった。

「あれは!」

カレンのすばやい判断で無事だったはやてが叫ぶ。プライドの力を見たはやては、自分が出ないとこっちが劣勢ということを見抜いてしまった。

「私がでれれば……」

はやてをみたカレンが、瞳を閉じてはやての両肩に自分の両手を置く。肩に手を置かれたはやては出れない自分に代わり彼女にお願いをする。

「カレン、でてくれるか?」

だが彼女は首を横に振った。

「いいえ、はやてさんも一緒に行きましょう?」

「でも、私は今、魔力のコントロールが……」

目を開いたカレンの瞳が赤く変わっている。生前のリィンフォースを思い出させるものへと。彼女は自分の魔力を少女に少しずつ送りながらやさしく語りかける。

「大丈夫ですよ、貴女なら出来ます、私もお供しますから」


「どういうことや? カレン」

カレンの言葉に疑問を持った方はやては体をむけようとする。この行動を今まで彼女に強く言ったことがないカレンが制する。

「うごかないで!」

はやてはその語気の強さにとまどうも、体を動かすのをやめ赤い瞳のカレンを見つめる。そんな彼女の素直さに微笑みをかけながらも静かに、威厳のある声で、彼女の中に眠るあるものに話し掛けるカレン。

「そろそろ起きなさい、夜天の書……」

カレンが魔導書本体に語りかけると、はやての体が光始め、はやての騎士甲冑と杖(シュベルトクロイツ)が出現し、はやての体に纏われ、杖が右手に収まる。

「グリモア、オープン」

カレンが声に出すと、魔導書である、夜天の書がはやての左手に出現し収まる。

「これは……?」

自分が命令していないのに勝手に出現した夜天の書。それの起因となったのがリィンフォースにそっくりな女性。

はやては彼女に何故こんな事ができるの? という視線を投げかけた、だがカレンは少女に微笑みを崩さず空中に踊り出た。

「さぁいきましょう? 炎の番人を止めれるのはあなたしかいません」

はやてを戦いの空に誘うリィンフォースに酷似したカレン。

「カレン……そうやな、とにかく戦いとめるのがさきやね」

はやては頷き六枚の黒い羽を羽ばたかせ、夜天の主は海鳴海上に舞い飛んだ。



スロウスの槍の突きを拳でかわしながら間合いにつめより拳撃を打ち込むも、槍でうまく往なされるザフィーラ。逆にスロウスから仕掛けても同じ結果になっている。呆れた様に相手に言葉を送る槍士。

「ゲイアサイル相手に、よくもつものだな……」

「なにが相手でも、我はひかぬ……」

盾の守護獣ザフィーラは拳を構えてそう応じる。





魔導騎士となったはやての威勢の良い声が戦いの場に鳴り響く。

「なのはちゃん! 一旦下がって! ザフィーラ私の護衛、速人くんとフェイトちゃんで番人のかく乱! シャマルは私のサポートや、私が決める!」

はやての声にザフィーラとフェイトがまず反応し、ポジションを入れ代える。

速人は自分の周りに4つのシューターを展開しダンシングエッジをグリードとラースにむけて放つ、その間にヴィータがラースと対応。

「シグナム! 突っ込みすぎやもどれ!」

声を張り上げメンバーに適切な動きを指示していく夜天の主。自分と同じ様な魔導書を手に持った少女に虚ろな瞳を向けたプライドが呟く。

「相手も指揮官がお目見えですか、此方も私が決めるとしますか」


はやての後ろでは、彼女の両肩に両手を載せたカレンがおそろいの黒い六枚羽を生やし彼女の魔力をコントロールしていた。その為に、はやてはその場で動かずに声を張り上げ管理局勢に指示を出していた。

瞳を閉じたカレンの額からは僅かに汗がにじみ出ている、はやての持つ魔力の強大さに調整が少し手間取っている感じである、全力運用は今の状態では無理と判断した彼女は念話で伝える。

(夜天の書、パワー80%で起動させます。起動安定後は空間砲撃可能レベルです、はやてさん)

(それだけあれば充分や、コントロール頼むよカレン?)

80%と言う数字を聞いたはやて。自分ではそこまでのコントロールが出来ない、できても彼女個人では30%が関の山であり、後ろの人物の魔力運用の旨さに感謝した。

(はい、タイミングは私が……トリガーをそちらに……)

「それじゃ大きいのいくで! 巻き込まれんでな!」

はやての【大きいの】掛け声にシグナムはシュランゲでエンヴィーをけん制しつつ離脱。

ヴィータもラースとの距離をシュワルベフリーゲンで開き、ですわ少女から離脱。

速人はグリードにランサーを叩き込み離脱しようとするが、フェイトはスロウスの攻めをうけて離脱のチャンスが無いどころか押され始めている、ザンバーでゲイアサイルを裁ききるので必死だ。このままでははやての【大きいの】に巻き込まれてしまう。

「フェイト!」

速人は叫びフェイトの元に急いだ。

グラットンをスロウスの槍に叩きつけ、自分の周りの4つのシューター全部をスロウスに叩き込んでスロウスの動きを止める。すぐさまフェイトを抱きかかえその場を急速に離脱する。

「え?」

その行動の早さに、いつの間にか抱きかかえられたフェイトは吃驚する。

(はやてがなにかするらしい、ちょっとおとなしくしてて!)

念話でいわれフェイトはそのままの体勢でいた、速人にお姫様抱っこされた感じのままで離脱。

プライドは、はやての魔力開放にあわせて自分も魔力開放し広域魔法の対決の様相になっていく。

「グラトニーがそろそろか……」

海に落ちた大男の帰還を呟き、彼女は呪文の詠唱を開始する。同じ様に八神はやても又あの魔法の詠唱を開始していた。

「遠き地にて、闇に染まれ、ディアボリックエミッション……」

はやてが口にした魔法は闇の書事件でリィンフォースが管理局に対して使った魔法、ディアボリックエミッション。

(ディアボリックエミッション発動まで残り8,7,6,5……)

カレンのカウントダウンが始まる。速人とフェイトはその範囲から逃れるために急いで離脱中。安全エリアまでとにかく急ぐ。

「まにあえ!」

声を張り上げて飛行速度を更にあげる速人にバルディッシュが答える。

<Even the safety area is past-soupcon>{安全圏までもう少しです}


「いけー! ディアボリックエミッション!」

はやてが魔法のトリガーを引く、巨大な魔力の黒い塊が番人に向けて放たれた。

速人とフェイトはギリギリで範囲から離脱、番人の方を見る二人。

「何あれ?」

フェイトが驚きの声を出す。プライドの前にはやてと同じような魔力の塊が出現している、こっちは炎の塊だ。

「ティルトウェイト・バースト!」

プライドもはやてと同じタイミングでそれを発動させた。

「いけない! あの二つがぶつかりあったらその位置じゃ駄目よ! みんなもっと下がって!」

なのはの回復をしていて一番後方にいたシャマルが自分の位置まで下がれと皆に警告する。

全員がそれに呼応してシャマルの位置まで動き出す。

「速人、もう大丈夫だから……でも、ありがとう」

フェイトは速人から離れお礼を言い、付け加えた

「いそいでシャマルの所に行こう」

速人も頷き二人でシャマルの位置まで離脱行動を開始する。










海面で大きな金色の光が発光しグラトニーが姿を現す。その姿は無骨な全身鎧ではなく、輝かしい金の全身鎧と金の盾そして金色の剣を携えている。

「この世界の魔力では変換が遅すぎるな……」

自分の本来の力を発動させるのに時間がかかり過ぎた事に不満をもらす。

(グラトニー今ならイレイザーに仕掛けられますよ)

プライドから遠話が入る、速人を確認をすると離脱に気をとられていてこちらの気配には気がついていない。

「ナイツオブブルーには戻ってきてもらわないとな」

黄金の剣を上空で動いてる速人に構える。彼の足元に【金色の六角形の魔方陣】が展開される。

「気魂回生{きこんかいせい}サベッジブレード」

発動キーを口にし剣を上段から一気に振り下ろす。

風を切る音が鳴り、剣閃がまるで三日月のような金色の光となり速人に向けて放たれた。

速人は離脱に必死でそれに気が付かない、巨大魔法同士の激突、効果が現れはじめる時、速人はその剣閃を背中から浴びた。

「うあ!」

背後から少年の体の中を突き抜けた三日月は彼の前を飛ぶフェイトの視界に入ると急速に光を弱めて消えた。叫び声を聞き後ろを振り向いたフェイトがみて叫ぶ。

「速人!」

ティルトウェイトとディアボリックエミッションの激突で辺りは光に包まれていき視界が真っ白になる


サベッジブレードの効果を確認したグラトニーは他の番人達に命令を出した。

「こちらの目的は達した、皆のものよ引くぞ!」


――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
     夜天の主VS炎の魔法使い





あとがき

どうも南です、ここまで読んでくださり有難う御座います。

今回は前回言った通りに戦闘シーンタップリでお届けいたしました。

では次回でお会いしましょう。 



[21490] 第十七話
Name: 南 透◆492956fc ID:9ac60c94
Date: 2010/11/14 16:55
白い光が収まり周囲に静寂が訪れた、夏草や兵どもが夢の後、この表現がピタリと当てはまる光景。

管理局アースラチームと七罪の番人達のチーム戦はそれほどまでに激しかったのである。

巨大魔法同士の激突。それから来る威力の反動は番人達に転移魔法を使わせる好機となってしまった。だが、幸いアースラチームの方も深刻なダメージを負った者は居なかった。

いや、一人はいたはずである、嘱託なりたての飛鳥速人。シャマルの所に集合中の刹那の出来事。グラトニーの剣閃魔法、サベッジブレードを背中から受けたのだ。集まった全員が速人の様子を心配している。速人は苦しそうにその場でひざまづく、それをフェイトが介抱している状態である。


「ハァハァ」

「速人、しっかりして」

フェイトは名前を呼びかけ速人の意識を保とうとする。

「フェイトちゃん、速人君はどうしちゃったの?」

自分も無傷ではないが、なのはも速人が心配だ。

「わからないよ……でも剣閃を受けて……」

フェイトは首を横に振りそう答えるだけだ。外傷はなくただ苦しがる速人である、応急的ではあるがここは癒しを得意とする人物に見てもらった方が良い。はやてはそう考えて彼女に診るよう声をかける。

「シャマル診てやって」

シャマルは速人に向かいフェイトから速人を受け取り治療を始めようとするが、速人がそれを左手で制する。

「大丈夫です……体はなんともない…よ」

治療を拒んだ速人は不調の原因を答える。

「でも……あの攻撃で、僕の中のミルズと分断された……」

胸の辺りを押さえた速人の体が金色の光に包まれていく。

「え?」

フェイトとシャマルが同時に声をだす、金色の光が徐々に人の形になっていく。

「これは……」

「もしかして……」

今度はカレンが声を出し続いてフェイトが呟く、青年ミルズを見たことがあるフェイトとカレンはその光の形がミルズになっていくのを予見できたのかもしれない。

光が収まり、ひざまづく速人の脇には、本局の青い制服を着た青年ミルズが現れた、信じられない顔をして自分の両手を見つめるミルズがたたずんでいる。

グラトニーが使用した魔法は剣閃魔法(けんせんまほう)と呼ばれる類のものであり、彼が使ったのは魔導師の魔力の源といえるリンカーコアそのものを分断させる効果があった。ミッド、ベルカの両方式では構築が出来ないものである。

「……私は、何故戻れたんだ……」

青年ミルズの第一声は当然である、彼はこのまま速人の記憶の一部として残り魔力も彼に吸われ意識は消滅する覚悟だったのだ、それが現在、一個人として存在を確定させているのである。

「魔力反応!」

クラールヴィントがその反応にいち早く気が付きシャマルに伝え、シャマルが声をだした。その方向に体を向ける全員。

やや離れたところにラストとエウリュトスが現れた。ミルズがエウリュトスを睨む。

「エウリュトス……」

「ふふ、ナイツオブブルーミルズ、復活おめでとうと言っておきますか?」

エウリュトスは心がこもっていない乾いた拍手をニ、三度叩いた。不敵に笑い喋り続ける。

「君がそこのイレイザーに取られる前に救ってあげたんですよ? 感謝していただきたいくらいですね?」


「私は、そのようなことは望んでいない!」

感謝してもらいたい、その言動に対し自分の意見をぶつけるミルズ。そんなことはお構いなしに弓士はミルズ分断の理由を敢えて敵に教える行動を取った。


「貴方が望んでいなくても、此方にはいてもらわないとまずい理由があるんですよ、封印城クーザーの解除キーのひとつである、あなたにね!」

エウリュトスは語気を強めていう。

「何だと?」

その言葉にヴォルケンリッターとはやて、ミルズも驚き、ヴィータは弓士に対し身構えた。カレンは思う、エウリュトスという人物はいったい何者なのか? 

(あの男……何者? クーザーの事はエインリッターと王女しか知り得ない……)

王女とエインリッターしか知りえない事を知っている目の前の敵は、飄々とした態度で全員を見渡し尚も喋る。

「まぁまぁ、そこまで身構えないでくださいよ? 私は君たちに攻撃するつもりはないんですからね?」

攻撃の意思はなくとも、弓は背中に背負ってはいる。ヴィータがそれに対して意見を述べる。

「ベルカの古い言葉に、和平の使者は槍を持たないって言葉がある、お前の言葉は信用できねーな?」

ヴィータのドスの効いた声にも動じず挑発する弓士。

「此方は二人そちらは十人ですよ? やろうと思えば捕らえれるのでは?」


「なにぃ!」

瞳の色を変えてヴィータはアイゼンを構え突っ込みをかけようとした、しかしミルズが割って入り腕を出してヴィータを止めた。制止をしたミルズを睨むヴィータ。

「おい! なんで邪魔しやがんだ?」

「今は、向こうに攻撃の意思はない、勝気なのはいいことだが、君はそれで痛い目にあってることを未だ学習していないのか……」

ミルズは遠いエルヌアーク時代のヴィータを見抜くような感じで、今は抑えろと、青い瞳で訴えている。

その瞳に何故か逆らえないヴィータ、記憶が無いといってもエルヌアークではミルズは自分たちをまとめていた人物の一人、心のどこかで従わないといけない、そんな感情にとらわれたのか。

「わかったよ……」

ヴィータはアイゼンを下ろしミルズに従った。ミルズは、素直に言う事をきいたヴィータに妹みるような視線を落とし、エウリュトスに視線を向けてきつい睨みと声をだす。

「私と王子を分断して……クーザーのことを知っているお前は何者だ?」

「今は、解析者……とだけ、言っておきますかね」

ミルズの疑問にすんなりと返答したエウリュトスは更に自分達のこれからの行動を管理局側に暴露する。

「それと、此方には全てのプロトクリスタルが集まっているんです、ここから先……何をするのか君なら理解(わかる)はず……ですよねぇ?」

エウリュトスの顔はその中性的な顔から狂気のような物が漂い始める。

「全てだと? 光のプロトクリスタルは此方が握ってるはずだ! ありえん!」

「ミルズ、その本物はアルザスという世界にあったようです……すでに番人側におちています……」

自信をもってあり得ないと言い放つミルズにカレンが伝えた。

「何だって! じゃあ本局にあるアレは?」

「フフフ、とんだ偽物を本物と間違うとはね、やきがまわりましたか? ナイツオブブルー」

驚愕するミルズ、カレンも判らないと顔を背けるしかできない。二人のやり取りをみたエウリュトスは勝ち誇る。

「まぁいいですよ、君たちに伝えましょうかね、近いうちに我々はエルヌアークでプロトクリスタルを精製し、エターナルクリスタルを創り出し、そして破壊しますよ? その破壊エネルギーは全次元世界を消去できることが可能と言っておきましょうかね?」

その言葉に全員が反応する。ここでコイツを捕まえればそれで終わる。その反応を見たエウリュトスは次のセリフを彼等にお送る。

「おおっと、今はこれにて失礼させていただきますね」

流石にエウリュトスと言うべきかラストが転移魔法を構築しており、既に発動させていた。

「阻止したければ、そちらの全員でかかってくるんですね……フフフ」

エウリュトスは最後に全員でかかって来いと言い残し消えた。

「全域次元世界の消滅だと?」

ミルズは本当にそれが狙いなのか判断付きかねる。険しい表情のまま、その場に立ち尽くす。

「ミルズ!」

フェイトが考え込むミルズに向かって叫ぶ、彼女は速人に肩を貸して青年を見上げていた。ミルズは二人を見てから他の全員を見回し。全員に頭を下げる。

「何故か、私本来の姿で戻ってきてしまいた……その、又共に戦わせていただけるとありがたいです」


続けて速人の前に行き、ひざまづく、カレンも同じようにする。二人とも自分の胸に右手をあてて頭をしっかりと下げて声をだす。

「天の騎士が副将、エインリッター二番騎、ミルズヒューディー」

「同じく、三番騎エインリッターカレン、王子のお目覚め、お待ちしておりました」


「これから先、貴方様の下僕としてお使いください」

はやてはその光景をみて自分とヴォルケンリッターの始めての邂逅を思い出す。

速人はフェイトの肩からすり抜け、彼等と同じ視線の所に体を持っていく。二人の手を取り自分の気持ちを素直に喋った。

「僕は飛鳥速人、時空管理局嘱託魔道士で、王子ではないですよ? それに貴方(ミルズ)は僕の事をずっと今まで守ってきてくれたのでしょう? 下僕(しもべ)とか言わないでよ? 感謝してるんだ、だから頭を上げてください、これからは同じ仲間として頑張りましょう、ミルズそれにカレン」

ミルズとカレンに笑顔を向ける少年に、しかしと二人困惑する。主に仕えるのが騎士の役目である、仲間という言葉に困惑するのも当然だ。

仲間と家族というベクトルは違えど、似たような経験があるシグナム達でさえ最初ははやてという少女に戸惑ったものなのだ。それを察してか、はやてが困惑してる二人に言う。

「速人クンが、それでええ、言うてるんですし、それでいいやないですかミルズさん、カレン」

速人ははやての言葉に大きく頷く。

この場でやるべきことはもう無い、そう思ったはやてが帰還を命じる。

「ひとまず戻ろうやないか、番人の目的もわかったんならすぐに対処せないかん」










数時間後、時空管理局本局の医療部で、先の戦闘の後遺症が無いか診断を受けた速人とミルズだったが、ミルズとのリンカーコア分断の影響を速人は受けていなかった。

鋭利な刃物で綺麗に切られた傷と言うのは傷の治りも早い。速人のリンカーコアは既に完治まで届く勢いで治り始めていた。

ミルズの方が変化という意味では変わっていた。

まずは彼のコアの変調がしっかりと修復されていた事、それにより魔力の質が向上した、少年時代はAA+のランクであったが、現在はS+というところにまで匹敵するランクまで上がっている。

専門医に言わせるとグラトニーの剣閃魔法は、ある意味治療魔法の類ではないか? と言わせたほどだった。



(Est-ce que vous êtes connu?){聞こえますか?}

(S'il vous plaît répondez si connu){聞こえてるなら返事をしてください}

(またこの前の声だ、僕にしか聞こえてないのかな?)

速人は本局に来る度にこの声を聞く、他の人には聞こえていないこの声に得体の知れないものを感じるのだが今はそれどころではない、無限書庫という所になのはと向かってる最中だった。


ミルズとクロノは再会を果たしていたが。

「…………」

二人とも口を開けないでただお互い視線をぶつけ合っている。

クロノからしてみれば今まで自分と同じ位の背丈だった黒髪少年が今は銀の短髪でしかも180もある青年なのだあまりの変わりように面も食らうであろう。

フェイトがこの姿のミルズと面識があり連れて来たのだが、アーク式という今までない魔法構築理論で会っていて、しかも無許可で管理外世界でそれを行使する、という馬鹿げた事を目の前の人物によってしていたと言うのだから、飽きれてきて頭が痛くなってくる。

「ごめん、クロノその……」

フェイトがクロノに罰が悪そうにしている、その義妹の声を聞いてため息をつき。クロノから声をだす。

「それが、君の本当の姿なのか?」


「すまないクロノ、騙していた事は謝る」

頭を下げるミルズ。

「クロノ……ミルズも理由が在ったんだよだから……」

ミルズの肩をもつ義妹に対し右手で制止をかけた義兄。

「フェイトもういい、新魔法構築実行の件は今は保留だ、それよりもミルズ、君には今知っている今回の事柄全部話してもらうぞ?」

ややきつい表情でクロノはミルズにいう次に言った言葉のクロノは友人を見る時の顔になった。

「君は以前、僕にこういわなかったか? ケジメをつけたいって、それは果たしてもらうからな」

クロノから差し出された右手にミルズも右手で応えお互いに握手を交わす。

「ありがとう、クロノ」

「わたしもがんばるよ? ミルズ、お兄ちゃん」

フェイトもその握手に手を添え。二人に笑顔を向ける。そのアクションにクロノは顔を真っ赤にし照れ隠しの反応をする。

「フェイト、今は仕事中だぞ……お兄ちゃんはやめろ」

「義妹には、流石のアースラの最終兵器もタジタジだな? お兄ちゃん」

真っ赤になったクロノからかうミルズ。執務官室に似合わない笑い声が響いた。










「ユーノく~ん」

なのはが無限書庫のユーノを呼ぶ、ユーノはそれに気が付き彼女の声の方向を向く

「なのは! ……と?」

はのはの隣にいる少年に気が付く、無重力下で動きがおぼつかない少年にユーノは近づき。手を差し伸べた。

「ここは慣れないと、バランス崩しやすいから足に力を入れて?」

少年にアドバイスをしていく、少年も素直に聞き入れ体勢を直して行く。落ち着いた所でユーノに礼をいう少年。


「ありがとうございます」


「いえいえ此方こそ、話には聞いていますよ、飛鳥速人嘱託魔道士ですね? 僕はユーノスクライアです、ここの司書をしています」

握手を求めるユーノ、速人も握手で返しユーノに伝える。

「飛鳥速人です、速人とよんでもらってかまいません、それと、同じような年みたいなので敬語もいりませんよ」


「なら、ボクもユーノで、なのはから速人のことは聞いてるから、僕にも敬語はなしでね?」

それをみたなのはが微笑み言う。

「二人ともなんか仲良くなれそうだよね~、男の子って、こういう時なんか格好いいよね~」

なのはの言葉にまんざらでもない二人であるも彼女は当初の目的を思い出し言った。

「ユーノ君、お仕事手伝いにきたんだよ!」






はやてとヴォルケンリッターはカレンと共に別部屋で話しをしている、先の戦いの事を。



「この前の事で、我々がエルヌアークで生まれたことは教えてもらったのだが……」


「それにしては、番人と我々共通することが多すぎるのだ……カレンは何か知っているのであろう?」

最初にザフィーラ、続いてシグナムが声を出す、シャマルヴィータも同じ事を言いたいらしい、二人の言葉に頷く。

はやては先の戦いでのカレンの力を垣間見た。

カレンは夜天の書をショートカットで起動させた、本来なら自分以外は起動させることはできないはず。

エルヌアークで作られたのだから、その記憶をもつカレンならそれもできるのであろう、姿もリィンフォースそっくりだし、そんなことを考えた。なのでヴォルケン側の助け舟を出した。


「カレン、うちの子たちに知ってる事を話してやって、これから先、それで道が開けることもあるかもしれんし……」

カレンは少し考え、答える。

「解りました、ですが、ミルズも居たほうがいいと思うので、彼にも同席してもらってからお話し、いたします」

(ミルズも私と考えてることが同じなら、グラトニーと言う番人が使った技、あれには見覚えがある)

カレンは番人の正体にある仮説を立て始めていた。










アースラチームの全員は同じ場所で会議中である。

なのは、速人、青年ミルズ、カレンを加え、エウリュトスが言っていたエルヌアークでのエターナルクリスタルの精製と破壊。それによる全次元世界の消滅の可能性について。

ユーノ以下三人で調べ物をした結果、全種のクリスタルのエネルギー値(本局にある光のクリスタル様の物体から計算)を融合し、それを破壊するなら次元世界の消滅は充分可能との答えが導き出された。

速人に溶け込んだミルズの記憶から多分にアルハザードの技術が使われているとの証言だったし、その信憑性は真実味を増した。

次に、カレンが証言した封印城クーザーの心臓部。永遠の水晶精製装置であるクリスタルグレイヴの起動キーとなるエインリッターの存在。

現在確認できるのはヴォルケンリッターに加えてカレンとミルズの六人。それと故リィンフォースを入れて七人となるが彼女がいない以上精製はできないはずである。

しかし、エウリュトスが【精製させる】と言った言葉にその可能性は低いと判断するしかない。

「此方で確保している光のクリスタルの偽者といっていいのだろうかな? エネルギー値は現存するどのロストロギアよりも高いのでそのまま管理局で保管することになった」

クロノがエウリュトスが言ったクリスタルの偽物のこれからの扱いを報告した。

いままでの会議で、ある結論を見出したクロノが一呼吸おいて全員を見渡し言う。

「そこでだ、僕としては前にミルズが提言していたクーザーの機能の破壊を勧めたいのだがどう思う?」

「それは、以前上層部にとめられたんじゃないんか?」

はやてが疑問に思って声にした。番人の二度目の海鳴出現の時にクロノが動かなかったのは理由があったのだ、彼は一人上層部に掛け合い、クーザーの危険性を説明しに言っていたのだ。その結果を伝える。

「上は、エウリュトスが言った言葉と、今回ユーノたちが結論つけた報告書をみて、クーザーを破壊することで次元世界の消滅を防げるならやむ終えないとの判断をやっと下したよ」

それならと全員は頷く、異論をだすものは居ない。クロノは全員の表情を確認をし号令を出した。

「よし、皆いい表情(かお)だな、アースラはこれよりエルヌアークに出向き、クーザーの機能破壊を目的として動くとする、出発は明日早朝だ、各自準備をしてくれ」

アースラチームに決戦の雰囲気がクロノの号令により伝わっていく。



  ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼――
         ミルズ帰還






あとがき

南です、此処まで読んでくださり有難う御座います。

海鳴での戦闘を経て、決戦へと話は進んでいきます。完結まで頑張りますのでどうかお付き合いください。

ではでは


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