当研究部では大きく分けて

ミトコンドリア病と脳発達障害の2つの研究をしています。

*ミトコンドリア病*

*脳発達障害*


ミトコンドリア病 について

 ミトコンドリア病について、一般の方にもわかりやすく 説明してあります。
 大きな図を見たいときは、 図をクリックしてください。

 

ミトコンドリアの説明1 (1)
わたしたちの身体はたくさんの細胞でできています。
その ひとつひとつの細胞の中にミトコンドリアは存在しています。 ミトコンドリアは細胞が生きるためや増殖するために必要なエネルギーをつくり出しています。そのためミトコンドリアに異常が起きると細胞 の機能が障害され、場合によっては死んでしまいます これを細胞死といいます。
身体のどこの細胞のミトコンドリアが侵されるかで、起きる症状は様々 です。たとえば、骨格筋細胞が大量に細胞死に陥ると細胞の数が減って 筋肉が細くなり、筋力が落ちたりします。

(2)
炭水化物、脂肪、蛋白質などの栄養素は種々の反応を受け、最終的に ミトコンドリア内でATPというエネルギー保有物質に変換されます。
その中身をもう少し詳しく見ると、クエン酸回路と酸化的リン酸化反応に分けられます。酸化的リン酸化反応においては、電子が次々と4つの複合体の中を移動し、酸素が水になる反応で終結します。これを電子伝達系といったり、酸素を消費するので呼吸鎖といったりします。そして5つめの酵素複合体であるATP合成酵素の作用で、ATPが作られます

 

ミトコンドリアの説明2


ミトコンドリアの説明3

 

 

(3)
核 DNAは1つの細胞に1対(2つ)しかないのにミトコンドリアDNA (mtDNA)は数千個が存在しています。なぜならミトコンドリアは1つの細胞に数百個存在し、そのひとつひとつのミトコンドリアの中に5〜10個のmtDNAが存在しているからです。mtDNAのはたらきは電子伝達系酵素の蛋白をつくることです。電子伝達系はそれぞれいくつもの蛋白があわさってできた5つの複合体(I〜V)でできています。
それぞれの複合体の構成蛋白(サブユニット)の数は複合体ごとに違いますが、複合体II以外は全て
核DNAで設計されたサブユニットとmtDNAで設計されたサブユニットでできています。ですから、たとえば複合体IV(別名シトクローム酸化酵素)に機能低下がある時に、その原因は核DNAの場合もmtDNAの場合もありえます。

(4)
どんな細胞にもミトコンドリアは存在しているために、どの細胞や組織に異常がおこるかで、いろいろな症状がでます。1人の患者さんでいくつもの症状を示す場合は、ミトコンドリア病を疑う根拠になります。ただし、エネルギーをたくさん必要とすると考えられ
る脳、骨格筋、心筋などは障害が出やすく、そのため当初ミトコンドリア病は、ミトコンドリア脳症とかミトコンドリア脳筋症と呼ばれていました。
次ぎにあげる、診断の仕方によってその診断名はさまざまです。
ミトコンドリアの説明4

ミトコンドリアの説明5

 

(5)
ミトコンドリア病の診断をするには、いろいろな検査手段を用います。
その目的は2つあります。1つはどの臓器が障害されているかを調べるもの(検査1)。
もう1つはミトコンドリア異常が存在しているかどうかを調べるもの (検査2)です。検査1では心臓の機能が落ちていないかを 心電図や心エコーなどで調べたりして、主に臓器レベルの異常を調べるものであり、個々のミトコンドリアや細胞がどうなっているかを見るものではありません。一方、検査2は病気の本態がミトコンドリア機能異常かどうかを確かめるもので、主に個々のミトコンドリアや細胞レベ の異常を確認するものです。
ミトコンドリア異常のとらえ方は大きく「かたちを見る」「はたらきを見る」「DNAを見る」の3つに分けられます。

ミトコンドリアの説明6

 

(6)
「かたちを見る」は骨格筋をごく薄い切片にしていろいろな染色を行い、光学顕微鏡で観察します。
ゴモリトリクローム変法という染色法が一般的ですが、これはミトコンドリアと小胞体(細胞の中で蛋白の輸送を担当している小器官)が赤く染まり、それ以外は青く染まります。正常の筋では、ミトコンドリアの赤みがはっきりしませんが、ミトコンドリア脳筋症の患者さんの筋では筋細胞の内部に赤い斑点が見えたり筋細胞の周辺部に特に赤く染まる部分が見られます。
これを電子顕微鏡で観察すると巨大化して数を増した
ミトコンドリアを見ることができます。
このような異常な筋細胞(筋線維)を赤色ぼろ線維
(ragged-red-fiber:RRF)といいます

ミトコンドリアの説明7

 

(7)
「はたらきを見る」というのはミトコンドリアのエネルギー産生能を見るということです。
方法としては、新鮮なミトコンドリアで酸素消費量や
二酸化炭素産生量をみる方法、酵素活性をはかる方法があります。
電子伝達系酵素のうち、複合体IVは別名シトクロームc酸化酵素(COX )ともいいますが、この酵素に関しては組織化学的に活性を調べることができます。凍結切片の筋組織にCOX染色を行います。活性があると茶色に染まり、活性がないと染まりません。
ミトコンドリア脳筋症の患者の筋では活性のない筋細胞が散在することがあります。これはCOX部分欠損とよばれ、ミトコンドリア異常を示す大事な所見です。


ミトコンドリアの説明8

(8)
「DNAをみる」は、遺伝子検査のことです。
複合体II以外の電子伝達系は核DNA上にある設計図からできた蛋白とミトコンドリアDNA上にある設計図からできる蛋白の両方から構成されています。ここ10年くらいでミトコンドリアDNA変異の研究は著しく進歩し、その検査は臨床に応用されています。

 

 

 


(9)
治療法は2つに分けられます。1つはミトコンドリア機能異常ばかりでなく、いろいろな原因でおこる症状(たとえば糖尿病とかてんかん)に対して、有効な治療法がある場合に行われる対症療法です。これはとても大事な治療法です。
もう1つは、病気の本態であるミトコンドリア機能低下を改善させる原因療法です。今のところこの治療法で確実なものはありません。さまざまなエネルギー代謝活性化を目的とする薬物が試みられています。
また、ミトコンドリア異常をもつ細胞を、異常をもたない細胞に変える治療や、変異ミトコンドリアDNAを増加させず病気を発症させない治療法などが研究されています。

ミトコンドリアの説明9

 

 


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脳発達障害について    

研究テーマ*ヒト発達期脳形成障害の成因と病態、予防法の解明

 周産期および小児期の神経疾患の原因究明と病態解明、予防法の開発に取り組んでいます。
 この時期は、脳の発達にとって重要な時期です。そして、この時期の脳障害を後遺症として、その子とその家族が生涯背負うことになります。脳性麻痺やてんかん、精神遅滞といった病気がそうです。なぜそのような病気になるのか、どうしておこるのか、そしてどうしたら防げるのか、どうしたらよくなるのかということを解明することが重要です。わたしたちは、こうした問題を解決すべく、研究に取り組んでいます。そしてすこしずつではありますが、進歩しています。

1.周産期脳障害の成因
  周産期脳障害には、未熟児医療の進歩と相まって、胎児・新生児仮死の占める割合が大きくなっています。その重要な因子は低酸素、虚血てあることがわかっていますが、詳細な病態と予防法が未解決です。このことに取り組んでいます。最近、アポトーシスという細胞の核から死んでゆく細胞死のメカニズムが明らかになりつつあり、興味深く研究しています。

2.乳幼児突然死症候群(SIDS)の解明と予防
 乳幼児突然死症候群(SIDS)の研究は全世界で行われています。しかし、脳の解剖学的、機能学的報告をしてきたのは、われわれの研究室だけです。この分野では、先端的研究を行っているといえます。乳幼児突然死症候群(SIDS)は、2歳未満(多くは生後6ヶ月未満)の児に突然の死をもたらす病気です。本当の原因解明までには、まだ時間が必要ですが、脳幹部の神経伝達物質に関わる神経細胞の異常がありそうです。わたしたちが、力をいれて取り組んでいるテーマのひとつです。

3.小児期におこる神経変性疾患の病態解明
 
小児期の神経変性疾患も発達障害をきたします。こうした疾患は数多くありますが、そのうち原因遺伝子がわかっているセロイド・リポフスチノーシス、福山型先天性筋ジストロフィー、ダウン症候群を対象に、その原因遺伝子産物を用いた病態解明を行っています。

4.神経病理学的診断と脳組織利用
 胎児や新生児、乳児、小児から成人まで臨床からは獲にくい神経病理診断を行っています。最近では、これを利用して脳組織バンクを確立しました。現在、われわれの研究室には1200を越える脳組織標本が整理されています。

ヒト脳の発達とその障害に関することであれば、ご質問とご相談にお答えしておりますので、お気軽にご連絡ください。

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