沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突を巡るビデオ映像流出事件で、第5管区海上保安本部(神戸市)の神戸海上保安部に所属する海上保安官(43)は警視庁捜査1課の調べに「映像は巡視艇内の共有パソコンからUSBメモリーに取り込んだ」と説明していることが捜査関係者への取材で分かった。一方で、海上保安庁のコンピューターネットワークは職員なら誰でも無条件で閲覧できるシステムにはなっていないことから、捜査1課は映像の入手方法について裏付け捜査を急いでいる。
捜査関係者によると、映像は第11管区海上保安本部(那覇市)から海上保安庁本庁、海上保安大学校を経由し、5管ともう一つの管区に渡ったとみられる。このルートで入手できたのはこの三つの管区に限られるという。
保安官は流出後、読売テレビの取材に「ほぼすべての海上保安官が見ようと思えば見られる状況にあった」と証言したという。だが海上保安庁のコンピューターシステムはこの証言の通りではない。
海上保安庁のコンピューターネットワークは民間企業や官公庁のネットワークと同様に、限られた組織内のネットワーク「イントラネット」で構築されている。職員に限定されており、個別に割り当てられたパソコン端末からしかアクセスすることができない。
映像など大容量のファイルを職員間でやりとりする場合、(1)職員Aが自分のパソコン端末に共有用ファイルを入れたフォルダーを作成しパスワードを設定(2)職員Bが自分のパソコン番号をAに伝えて登録させ、パスワードをAから教えてもらう(3)Bがパスワードを打ち込むと、Aの共有ファイルをBのパソコン端末で開くことができ、保存すると共有ファイルがBのパソコンにコピーされる--という仕組み。終了後、Aは共有ファイルをフォルダーごと削除する。
電子メールでは時間がかかって非効率なためで、BはAのパソコンに「侵入」した形になるが、共有用に設定されたフォルダー内のこのファイルにしかアクセスできないよう制限がかかっている。
ファイルの共有は1対1も1対複数も可能だが、受け取る側が相手のパソコン番号、ファイル名、パスワードを知っており、かつ自分のパソコン番号を相手に登録してもらわなければならない。
このため海保関係者は「こうした条件を満たしていれば、庁内ネットワークの誰もが閲覧できる。だが、一つでも満たさなければ見ることは不可能で、ファイルが閲覧可能な状態であること自体が分からない限定された『共有空間』になっている」と説明する。
また、同じファイルでもフォルダーを作った時間が違えば、新しいパスワードが設定され、その都度、条件を新たに把握し直さなければならない。捜査部門は専用の別のネットワークが構築されており、捜査部門以外の職員はアクセスできない。
秘匿性の高い捜査資料は捜査部門のネットワークに限定され、秘密度の低い参考資料であれば、パスワードやアクセス制限を厳重にして庁内ネットワークでやりとりされることもありうるという。
巡視船艇内には乗組員の保安官一人一人のパソコンがあるが、ネットワークにはつながっておらず、接続するには陸上の待機所内に巡視船艇ごとにあてがわれているパソコンを使う必要がある。このため条件をどうやって知るかがファイル共有のカギとなるという。
こうしたことから、映像入手に第三者が関与した可能性がある。
【山本太一、石原聖】
毎日新聞 2010年11月12日 2時33分(最終更新 11月12日 2時50分)