電波を受信しました。
とある小さな村が悪魔に襲撃されていた。
立ち向かう者も、逃げ惑う者も次々に悪魔に物言わぬ石へと変えられていってしまう。
まさに地獄絵図。
そんな中、一人の少年が己を責めていた。
自分がピンチになれば父が助けに来てくれる。
そんなことを自分が願ってしまったから、だからこんなことになってしまったのだと。
無論、それを聞けば誰もが口をそろえて言うだろう、少年は何も悪くないと。
しかし少年にはそれがわからない。
そして、少年に悪魔の魔法が襲い掛かろうとしたそのとき。
「待てええい!」
筋肉の塊が突然空から降ってきた。
軽く3メートルを超える長身に、鋼のように硬そうでダイヤモンドのように美しい筋肉の鎧をまとった男。
頭はビー玉のようにツルツルとしており日の光を跳ね返し光り輝きそうだ。
腕や足は丸太のように太く、チェーンソーを使ったとしても切れないだろうと思えるほど力強い。
口には鷹の翼の様に雄々しいヒゲを生やしている。
そして何より目立つのはその服装だ。
なにしろ黒いTバック一丁なのだから。
ここに警察がいなくて良かった。
「ぬんどりゃああっ!!」
その男が両腕を広げ少年の盾となり魔法をそのダイヤモンド筋肉で受け止めた。
「ぐうっ! ぬうう……っ!」
しかし、どんなに見事な筋肉といえど流石に悪魔の魔法は無効化できなかったらしく、どんどん美しい筋肉が石へと変えられていく。
その様子はまるで美しい芸術品に泥を塗りたくっていくかのようだった。
それを見た悪魔は正直ホッとしていた。
突然筋肉の塊が振ってきたときは流石に驚いたがこれでもうなにもできまい。
「……な……める……なあっ!」
石化が止まる。
「この程度の魔法で……っ! 我が筋肉を石にできるとでも思っておるのかあっ!」
男が叫ぶ。
すると石へと変わっていた筋肉が瞬く間にもとの美しい筋肉に戻っていくではないか。
おいそんなのありかよ、と流石に悪魔達も心の中で突っ込んだ。
「ゆくぞ悪魔よ! 我が拳を受けてみるがいい!」
男は悪魔の群れに飛び込んだ。
その後、男は悪魔をちぎっては投げ、石化の魔法をくらっては。
「なめるなあっ!」
と、筋肉で治し。
その肉体という名の凶器を思うがままにふるい村を救った。
さらには。
「ハアー……筋肉フラアーッシュ!」
とサイドチェストをしながら全身から、見ればどんなに心が汚れた人間、いや生物も改心してしまうような神々しい光を放ち石にされてしまった人々を治した。
治された人々は少々筋肉がついてしまったが。
男は村の皆から是非お礼がしたいと言われるも。
「いや、マッチョとして当然のことをしただけのこと」
と言い、言葉以上の礼は決して受け取らなかった。
少年は男が去った後に来た父親からもらった魔法の杖をシカトして翌日から体を鍛えはじめ、後に千のポージングをもつ漢、サウザウンド・マッチョと呼ばる伝説の英雄となるのだがそれはまた別の物語。
その数年後、男はどういうわけか日本につき。
「エヴァンジェリンよ! 今我輩がお主を人間に戻そう! そしてこの学園から解き放とう! ――少々マッチョになってしまうが」
「やめろ!」
と、吸血鬼にモスト・マスキュラーで迫ったり。
「スクナよ! 貴様の力も我が筋肉には劣るということを教えてくれる!」
とダブルバイセップス・フロントで突撃したり。
「超! お主がその機械で時を操るのなら我輩は筋肉で時を操ろう!」
「アナタが何を言っているのか全然わからないネ」
とカシオペアに対抗してマチョオペアを発動してみたり。
「超よ、我輩が微力ながらお主に手を貸そう! お主の時代について行くぞ!」
「いや、遠慮するヨ」
「遠慮するな!」
と言って未来へと旅立った。
ちなみに少年、ネギ・スプリングフィールドは立派な魔法使いではなく立派なマッチョを目指したので麻帆良には来なかったり、再会した父親に「誰だお前!?」と言われたりしたそうな。
後悔はしている、でも反省はしていない。