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[21048] 殺す者、守る者。(NARUTO 転生)
Name: 伊月◆2b079c92 ID:e4ab1a6b
Date: 2010/08/24 17:01
物語に入る前に、作者挨拶。

はじめまして、伊月という者です。今回「殺す者、守る者。」というNARUTO二次創作小説を投稿させていただきました。
物書きの経験は浅いですが、どうか温かい目で見守ってください。
よろしくおねがいします。

本作品を読むにあたっての注意事項。

①本作品は作者の趣味を全開した小説です。特定のキャラを贔屓した描写が出てくることが予想されます。
②NARUTOにおける設定を独自解釈しているため「これはちげーよ」というところがあるかもしれません。いくらなんでも無理が……という場合は教えてもらえると嬉しいです。
③作者の日本語能力は壊滅的です。辞書を片手に推敲していますが、この作者挨拶や注意書き含めおかしいところがないか不安で一杯です。これも②と同じく、指摘してもらえると嬉しいです。他力本願で情けないですが……。


④作者はいわゆる厨二病です。許して。
⑤作者は最強もの大好きですので、本作品もそうなります、たぶん。ただ、俺TUEEEEEEEどーんばーん、といった感じにはなりません。
⑥一話毎が短いです。文庫でいうと4~5ページ分です。最初のうちはもっと短い。

⑧ちなみにタイトルは適当です。もっといいやつ募集。

長々と書いてしまいすみません。では、目次から、あるいは次を表示を押してご覧ください。



8/15 主人公の名字を侅原から乖原に変更。理由・「侅」は携帯だと表示されない場合があるため。

8/24 感想掲示板に書き込んだ際トリップを間違えていたことに気付いた。すいません、気にしないでください。



[21048] 第一話・第二話
Name: 伊月◆2b079c92 ID:e4ab1a6b
Date: 2010/08/22 20:40
 
 
 
 
 第一話「目覚めたら赤子」
 
 
 
 
「馬鹿が……親より先に死におって……」

 最初、それは自分に向けられた言葉だと思った。

 連日の雨が原因だったのだろう、乗っていたバスが土砂崩れに巻き込まれ、俺の人生は十六年という短さで幕を閉じた……はずだ。最後の記憶は全身に大小様々なガラス片が刺さり、出血多量で意識を薄れさせてゆく中とどめとばかりに燃え上がった赤い炎。

 血と炎、二つの赤は確かに俺に「死」を感じさせた。

 けど、実際問題として俺の意識はいまだ存続している。
 まさかあの怪我、あの状況で助かったのか……有り得ないと思いながらもその後を知るために目を開く。
 闇に慣れ切った目に光は痛い。じっと、馴染むのを待つ。

 十数秒かけてクリアになった視界のなかには、見覚えのない爺さんが一人立っていた。
 さっきの声の主はこの人らしい。そして勿論、俺の親ではない。
 しかし爺さんの目はこちらを向いているように見える、いや、微妙にズレている。見ているのは俺の隣か。なんともなしにその視線をたどってみると、そこには血まみれの女性が息絶えていた。

 バス内がすでに地獄絵図だったので平時ほどではないが、それでも驚いた。よくよく空気の匂いを嗅いでみると、生臭い、激しい血の匂いで一杯になっている。
 不謹慎だがホラーだった。隣を見たら死体、思わず「おぎゃあ」と悲鳴を漏らしてしまった……おぎゃあ?

 まてまて、普通悲鳴ならキャーとかワーとかだろう。なんだおぎゃあって。どこの赤ん坊だよ。
 心の中で突っ込みを入れていると、突然体が重力に逆らって浮き出した。思考にふけっていて気付くのが遅れたが、どうやら爺さんが俺を抱き上げたようだ。

 再び待て。俺は高一だぞ。特別大きくも小さくもない、十六という年齢に似合う体格体重の俺をなんでそんな簡単に持ち上げられる?

 一体どうなっている!?

 混乱に陥り、腕の中でわたわたと暴れているうちに、それは目に入った。
 薄汚れた鏡に映る、爺さんに抱かれた無垢な赤子の姿が――。

 ……は?
 
 
 
 
 第二話「死亡フラグっぽい」
 
 
 
 
 おっす、おら乖原セツカ。
 最近一歳になったばかりの、前世の記憶が残っていて精神年齢が十七という以外はごく普通の赤子だ。え? なんとか以外は~とか言い出したらきりがない、誰だって普通だって? 確かにそうだ、こりゃ一本取られたあっはっはっは………………はぁ………………。

 ……無理にでもテンションあげて現実逃避をしてみよう作戦、失敗。

「おぎゃー!(ちくしょー!)」

 上手く発声できないのがまたむかつく。そもそも普通は何歳くらいに言葉覚えて喋れるようになるんだろう、その辺ちゃんと調整しておかないと。異端扱いはご免こうむる。

「おぎゃおぎゃおぎゃあ(めんどくせーのー)」

 転生、憑依。
 ネット小説などでよくある題材で、今の俺の状況を的確に表す言葉だ。たぶん前者、つーか前者であることを願いたい。本来あるべきはずの人格を押しのける憑依は、作品として読むのはいいが当事者になるのは嫌だ。罪悪感で潰される。

 とりあえず原作キャラではないみたいだが……と窓越しに火影岩を見ながら考える。

 ああ、うん、火影岩。
 ぶっちゃけてしまうとね、ここどうもNARUTOの世界みたいなんよ。
 火の国、木の葉隠れの里、保護者である爺さんが口にしたそれらの単語、そしてとどめがあの顔岩。

 先ほどの現実逃避はこれが原因だ。ただの(?)転生なら俺は喜んだだろう。前世での知り合いに会えなくなるのは悲しいが、元より一度終わった身だ、文句は言わない。

 けど。

 けどなんでよりによって転生先が死亡率の高さで有名なエセ忍者世界なんだよ!? 生まれた瞬間二度目の人生終了のお知らせですかっ。

 しかもだ、火影岩なんだが、よくよく見てみると三代目のまでしかない。
 三代目の統治は、四代目波風ミナトに引き継ぐまでだけでも三十年近く行われる。その間起きた戦争は二回。つまり今は戦争中か、今後確実に戦争が起きるつかの間の休戦期間のどちらかなのだ。

 第二次・三次忍界大戦だったか。熱心な読者がまとめた年表サイトとか見るの好きだったから、原作よりも過去のイベントも結構覚えている。
 どちらか、あるいは両方の大戦に巻き込まれるのは確実。鬱だ。

 しばらくして爺さんたちの会話から、今は第三次忍界大戦の真っ最中であることが分かった。
 現世での俺の父は忍びで、戦って死んだ。そのショックと出産による体力低下で、母もまた。周りからの制止を振り切って俺を産んだらしい。あの時隣で息絶えていた女性だ。

 両親とも居なくなってしまったため、母方の祖父である爺さんに引き取られたというわけ。ちなみに爺さんの名前は乖原カントだ。
 父は婿入りしたのだろうか。俺の名字が乖原である理由はまだ知らない。一歳だし。むしろ会話の盗み聞きだけでここまで現状を把握できたことを褒めてほしい。

 話が逸れた。

 ともかく俺が言いたいのは、二回目の人生は死亡フラグ満載で下手したら前より終わってしまうかもということだ。

 それは嫌だ。断固拒否する。

 原因は不明だが俺はやり直すチャンスを得た、ならば面白おかしく生きて最後には大往生を遂げたいではないか。

 俺は決めた。

 力がものをいうこの世界で、生き残ることを。平穏を乱す死亡フラグをへし折り、蹂躙していけるだけの強さを得ることを!!

「おぎゃー!」(右腕を掲げ雄叫びを上げる赤子の図)

 ……締まらない。
 
 
 
 



[21048] 第三話・第四話
Name: 伊月◆2b079c92 ID:061700fa
Date: 2010/08/22 20:40
 
 
 
 
 第三話「格差社会は異世界でも、それと死亡フラグ」
 
 
 
 
 身体エネルギーと精神エネルギーを混ぜ合わせることで、チャクラは練れる。

 力を得るための第一歩として俺はこの未知の物質について調べることにした。さすがにこの年から肉体を鍛えるのは無理。仮にできたとしてもガチムチの赤ちゃんなんてキモい存在にはなりたくない。

 チャクラを練ることは割と簡単に出来たのだが、俺はここで一つの疑問を抱く。チャクラの保有量って何ぞやと。

 簡単に言えば身体エネルギー=体力 精神エネルギー=気力だ。原作のサクラ曰く細胞の一つ一つから取り出す力と、修行によって養われる力。どちらが欠けても駄目。俺なんかはまだ絶対的に体力不足だから術を使えるだけのチャクラが練れない。

 この理屈だと肉体の体積が大きいかつ根性のある人こそチャクラを多く練れることになる。秋道一族とか最強だ。
 しかし原作にはうちは特有のチャクラ量の多さが~とかの発言があり、矛盾が生じる。

 その辺どうなってんのかねー、と思うもアカデミー生以下の知識しかない自分に分かるはずもなく。
 答えを得たのは、出来る範囲でチャクラコントロールの訓練をしながら、さらに一年がたったころだ。

 セツカは喋れるようになった!(赤ちゃん言葉だが) 立ち歩けるようになった!(すぐに疲れて動けなくなるが)

 たまに見る同年代の子供を観察して、知能面は、神童ってほどじゃないが賢い子と評価されるくらいに調整した。本当は平均的にしようと思っていたんだが、赤ちゃんの生活があまりに退屈で予定を少し早めたのだ。

 で。多少なりとも動けるようになった俺は家の中を探索し始めた。せいぜい本棚から本を引っ張り出すくらいしかできないが、今はそれで十分。

 爺さんは木の葉病院に勤める医療忍者であるため、その系統の書物が大量にある。それらは俺の知的好奇心を存分に満たしてくれた。将来は生き残る確率を上げるためにも医療忍者になってみようか、とか考えている。(なお、人が近くに来た場合はあーあー言いながら本をばしばし叩くと誤魔化せる)

 本職であるため専門的で難解なものが多いが、中にはアカデミーレベルの初心者本もあって、俺はその内容すべてを暗唱できるくらいに読み込んだ。ふっふっふ、今じゃ下手な医者余暇よっぽど詳しいぜ。この体では無意味もいいところだが。

 まあ、そうやって知識をため込むうちに分かったことがある。かねてからの疑問、チャクラ保有量のことだ。

 結論、名家ってずるい。

 細胞レベルから戦闘向きってどんだけ。一つの細胞が保有する身体エネルギー量が常人よりずっと多い。もう努力云々の前に、体の構造からして違う。ネジ君の運命は変えられないという言葉を肯定したくなっちゃうような理不尽。特に例にも出したうちは家は凄まじい。写輪眼というチャクラ消費の激しい目を持っているせいか、名家の中でもさらに頭一つ飛び抜けている。

 え? 乖原? 名家ではないよ、チャクラ量も普通。大抵の人は中忍で終わって、たまに上忍が出るような家系。
 唯一自慢できることとして血継限界を持つことがあげられるが……発現した人がここ六十年間ほどいないんだよね。過去三人しか確認されていない、レア度だけは万華鏡写輪眼並みの、本当に血継限界なのか疑いたくなる能力だ。
 発現した人はそれなりに活躍したみたいだけど、それでも教科書に名を残すほどではないみたいだし。まったくもって微妙である。

「めーけなんて、めーけなんて……!」
「……何を言っとるんだ? お前は」

 うおわぁ! びっくりした!

 背後にはいつの間にか爺さんが立っていて、世の中の理不尽さを嘆く俺を呆れたような目で見ていた。不覚。普通の幼児を装うため接近には気をつけていたのにっ。

「ままなりゃんものよ……」

 呟く俺に対して爺さんはため息。無言で俺を抱え上げ部屋を、というか家を出た。

「どこいくの?」
「んー、ちとワシの知り合いのところにの。お前さんの顔見せだ」
「へー」

 爺さんは戦時中貴重な医療忍者だから、そういった暇がなかなかとれなかったんだろう。病院に来た知り合いにはその時に紹介していたけど(爺さんは1人暮らしだから俺も連れてきていたのだ。最初は渋い顔をされたが、全く手を掛けさせず問題も起こさないで一ヶ月ほど過ごしたら何も言われなくなった)、今日はまだ会っていない数人のもとを直接訪れるらしい。

 ちなみに、一年ほど病院にいた俺だが、病気がうつらないよう子供部屋的なところに放り込まれていたため原作キャラとは会っていない。そこにいたのは俺と同じような病院関係者の子供だけだ(同じっても、二歳児は俺だけだったが)。
 それに、正確な年は分からないが九尾襲来がまだである以上それは仕方のないことだ。主要キャラはまだ生まれてもいない。残念。

(まあ、あんまり深入りしたくもないけどな。死の危険を冒してまで原作介入したいとは思わないし。ヒナタ誘拐くらいならともかく、九尾とかうちは虐殺とか俺にはどうしようもない)

 そんなことを考えていたのがいけなかったのだろうか。

「はじめまちて、うちはイタチです」

 この子も二歳なんだ仲良くしてやってくれ。byうちはフガク・ミコト

 まじですか。
 
 
 
 
 第四話「遠い目をする幼児(俺)」
 
 
 
 
「セツカ! 遊ぼう!」

 三歳になった最近の悩み。イタチの懐き度が半端ない。
 親友という言葉に恐怖感を覚える子供は俺くらいなものだろう……。

 いやね、先のことを考えずに現状だけを見るなら、イタチと仲良くなるのはいいことなんだよ。

 もともと保護者たちが「二人とも大人びてるから会わせりゃ仲良くなるんじゃね?」と考えたことからああして紹介されたわけで、一緒にいるだけで俺の異常性が目立たなくなる。

 趣味も合う。「図解! よくわかる人体の急所」とか「世界毒草大全」とか、絵本代わりに二人で読みふける姿に大人たちはもう突っ込むのをやめた。会わせたの失敗だったかな、そんな目で見られることもあるが無視。きゃっきゃうふふと専門書を漁る俺。

 それに何より、イタチといるのは楽しい。
 主には忍・体・幻術(俺は医術も)の学習と訓練をして爺さんやフガクさんミコトさんに複雑な表情をさせていたが、ちゃんと(?)普通の子供らしい遊びもしている。近所の子も交えて鬼ごっことか、まじめにやると結構盛り上がる。

 うん、ほんといいことずくめだ。

 万華鏡の開眼条件が「最も親しい友を殺すこと」でさえなければな!

 NARUTOは度重なる後付設定によって色々と曖昧になっている作品だが、ここは少し違うらしい。

 例えばチャクラのコントロール訓練や、性質変化。
 どちらも基礎だがナルトはアカデミー卒業後に教わっており、特に性質変化については第二部に入ってからだった。

 しかし、アンチのいい的になっていたこれらは、俺のいるNARUTO世界ではちゃんとアカデミーの教科書に載っている。ついでに言うと卒業試験には筆記もあるらしい。ナルトは大丈夫なのだろうか。

 まあそれは置いといて、その原作との差異から俺は、最終的に「最も親しい者の死を体験」までハードルの下がった開眼条件も矛盾が解消されているかもしれないと考えた。その場合、万華鏡を持つ者が過去数人しかいないという点からして、正しいのは初期の「友を殺すこと」である可能性が高い。

 で、今のイタチにとって最も親しい友って?

 うちはシスイ? ああ、たまに会うね。挨拶してすれ違うだけの関係かな。原作では実の兄のように慕ってたらしいけどね、こっちのイタチはまるで興味を示さない。

 そのキラキラした笑顔を向けられるのは常に、俺。
 はい死亡フラグ。

 さあ今こそ某幻想殺しのセリフを使うときだ。はい、せーの。

「不幸だあああああああああああぁぁぁぁ―――――――――――!」

 神よ、あんたは俺を生かしたいのか殺したいのか、どっちなんだっ。はっきりしろっ。

 ちなみにそれ以前に九尾の件を生き残れるかどうかという問題もあったりする。イタチと俺が同い年ということから正確な年数もわかった、襲来まであと二年だ。

「セツカ、大丈夫?」

 突然奇声を上げ、うーあー唸り始めた俺に驚きつつも心配してくれるイタチ。ほんまええこやー。

 そんな彼も十年後にはS級犯罪者♪

 教科書の内容が変わったくらいでうちは一族滅亡の流れが変わるわけがない。俺という不確定要素があるものの、正直何もする気はないのでその辺は原作どおりになることだろう。
 前にも言ったが、命を懸けてまで介入するつもりはないのだ。いや、仮にその覚悟があったとしても、何かできるとも思えない。下手なおせっかいは余計な悲劇を生むことにも繋がる。

 情が移らないように、俺はイタチ以外のうちはには極力関わらないようにしてきた。たまに家に招かれたときでも、話しかけてくるミコトさんに当たり障りのない言葉しか返していない。

「…………」
「?」

 不思議そうな顔をするイタチにかまわず、俺は白々しい笑みを浮かべて頭をなでた。
 この子がこの先体験する悲劇を、知っている。

 知っているけど、止めない。
 ああ、最低だ。
 
 
 
 



[21048] 第五話・第六話
Name: 伊月◆2b079c92 ID:1ab2402c
Date: 2010/08/22 20:41
 
 
 
 
 第五話「それなんて中二病?」
 
 
 
 
「お前には才能がある」
 爺さんの話は、そんな言葉から始まった。

 ようやくそれなりに体が動くようになり、知識も増え、こっそりとオリジナル忍術の開発とかしながらまた一年がたった。四歳だ。

 誕生日にはささやかなパーティーが開かれ、イタチらからプレゼントを受け取りありがとうを言って、夜になったさあ寝ようとしたところでお呼び出し。
 爺さんと畳の間で膝を突き合わせて座っている。

「えっと……何の話?」
「乖原の血継限界について以前話したことがあったな。能力自体のこともそうだが、その特異な性質として発現した者が極端に少ないといったことを覚えているか?」
「あー、うん。聞いた。過去三人しか居ないっていうアレね」
「あれは嘘だ」

 え、なにその衝撃の真実。
 俺が目を白黒させていると、爺さんはため息をつき、話し出した。

「確かに、うちはの写輪眼や日向の白眼よりも発現する確率はずっと低い。だがそれでも、三人しかというわけではなかった」
「……?」

 話の意図がつかめず、首を傾げる。
 そんな俺を爺さんは鋭い眼光で射竦め、言う。

「その三人以外に発現した者は皆殺されたのだ、他ならぬ身内の手によっての」
「っ!?」

 どういうことだ、それは。

「……あー、えっと、俺、ここで終わっちゃう感じ?」

 意識して作った能天気な声。けれど、微かに警戒心が滲む。
 流れからして才能=血継限界の発現しか考えられない。そして、殺す云々の話。警戒するなというほうが無理だ。

「落ち着け、話は最後まで聞くものだ」

 いやいや、正論なようだけどこの状況だと話し終わった途端ジ・エンドっぽいんですが。
 まあ殺気はないから大丈夫だとは思うけど……ええい、ままよ、あとは野となれ山となれ! 四年間を一緒に過ごした縁で信用したるっ。

「りょーかい、平和的解決がなされることを望んでる。んで? なんで殺したの? 好き好んで身内を始末するとはさすがに考えられないけど。能力があまりに強力だった? それとも、ほかに何か問題があった?」
「後者だ。乖原の血継限界を発現した者は例外なく強い殺戮衝動を抱く。理性をなくし、女子供、敵味方、親兄弟関係なく、ただ近くにいた生き物に襲い掛かるのだ」
「……それはまた。で、俺もそうだと?」
「まだわからん」

 訝しむ俺の前で爺さんは静かに目を瞑り、問う。

「お前の目と髪の色、妙だと思ったことはなかったか?」

 俺の瞳は、真紅。
 髪の色は、銀に近い薄青。

 爺さんの言うとおり、不自然だった。最初はアルビノ(色素欠乏)かと疑ったが、日の光を浴びても害される様子はなかったし、そもそも髪色は純粋な白ではない。青いバラの花言葉が不可能であることからもわかるとおり、生体色素には有り得ない青が混じっているのだ。

 が、その辺は漫画の世界だからということで自分を納得させていた。チャクラによって物理法則すら超越するのだ、今更これくらいという気持ちもあった。

 しかし爺さんの様子を見るに、NARUTO世界でも青色はおかしいらしい。……もっと深い青髪のキャラとかいたような気もするが。おかしいじゃなくて珍しいなのかも。

「その色は、乖原の血継限界が発現した証だ。お前のような子は鬼子と呼ばれ生まれてすぐに一族の監視下に入る……といってももう廃れてしまった家で、残っているのはワシとお前二人だけなのだが」
「え、そうだったんだ。初耳だよ。まあ一族自体のことは置いといて、監視下? 俺もそうだけど、何ですぐに殺さないの?」
「稀に、衝動に飲み込まれない者もいるのだ。それが例の三人だ。前例があるから一族は希望にすがりつき、監視という手段をとった。短い間でも愛情を注いでしまう分、別れが辛くなりかえって酷な判断だったかもしれんがな……」
「…………」
「一応、五歳を過ぎるまでに衝動に飲まれなければ大丈夫だといわれておる。詳しく調べようにも数が少ないから確約はできんがな」
「あと、一年」
「正気を保てるかは、お前の心の強さにかかっておる。ならば、このことをあらかじめ知っておいたほうが戸惑いは少なく、多少勝率は上がるだろう」
「それなら、なぜ今になってその話を?」
「あまり早く話しすぎても、逆に不安をあおり隙を作ると考えたからだ。だが、あと一年」

 ぽん、と俺の頭に手を置いて。

「賢く強い、自慢の孫だ。お前ならできると、信じておる」
「…………」
「満月の夜は特に衝動が強くなるらしい。気をつけろ」
 
 
 
 
 第六話「見られて興奮する趣味はない」
 
 
 
 
 赤。

 木の葉の里が赤に染まっていた。

 地面に倒れ伏す老若男女、ただ一人の例外もなく冷たい屍と化した彼ら。
 俺は血に濡れた地面を蹴り、家へと走る。一歩踏み出すたびに誰かの血溜りが跳ね、湿った音を出し、服を汚す。粘度の高い水音はまるで物質的に足に絡み付いてくるかのように、俺の意思をくじこうとする。

 それを振り切って、走る。

 ああ、見えてきた。

 戸を開けて中へ、奥に向かう。

 最後の戸を開き……固まる。

「オマエガノゾンダコトダ」

 そこにはほかの里人と同じように倒れる祖父と、紅い瞳を爛々と輝かせ、その背に刀を突き立てる俺自身の姿が――

「――――」
 目を覚ます。

 ……寝汗がひどい。悪夢を見たせいだろう。
 あの話をされてからときどき、同じような夢を見る。周期としては満月になる前日あたりで、当日は眠らない。

 衝動が強くなるという話は本当のようで、ときおり意識が真っ黒に塗りつぶされるような感覚を覚えることがある。気づいたらクナイを掴んでいて、離そうにも手がへばり付いたように動かない。まるでそこだけ別の意思によって動いているかのように。

「……気持ち悪い」

 気持ち悪いといえば、汗で濡れたこの体もだ。
 この世界には風呂はあってもシャワーはなく、仕方がなく服だけ変えて外に出ることにした。気晴らしの散歩だ。おまけつきというのが、ちょっと残念だが。

 一応科学が発達してるとはいえ前世ほどではない、電灯の少ない地で見る夜空は美しい。

 ああ今夜はこんなにも月が綺麗だ――冗談です、はい。能力使っても目が青くなったりはしません、むしろ夢で見たように赤く爛々と輝くそうです。それもそれで怖いが。

 満月の近い今時期は、感覚がやけに鋭くなる。家を出た後、普段の俺ではまったく感じられないような微かな気配が一つついてくる。

 暗部――暗殺戦術特殊部隊だ。

 ついこの間、火影が代替わりし四代目火影波風ミナトが誕生した。その四代目は昔爺さんに世話になったことがあるらしく、そのつてで俺の暴走を防ぐため暗部を派遣してもらったようだ。
 ようだというのは、爺さんに聞いたのではなく自分で調べたから。気を使っているのだろう、暗部がついてるなどとは一言も言わなかった。ただ、何かあったら自分が止めると。

 つたない嘘だ。すでに俺の実力は爺さんを超えている、それは本人もわかっているはずなのに。上忍ではあるがそれは医療技術を評価されたためで、病院勤めで、戦闘技能だったら中忍かそれ以下のレベルなのだ。

 今の俺は、たぶん平均的な中忍程度の強さ。妙に感覚が鋭くなっているとはいえ、暗部なら一人いれば事足りるだろう。ちょうど第三次忍界大戦が終結し、戦後処理で忙しいであろうに済まないと思う。それとも実働部隊のほうは暇になるのだろうか?

 どうなんだろう、いっそ本人に聞いてみようか。でも気づかれてるとは思ってないだろうから、プライド傷つけるかも。
 そんなことを考えながら適当に歩いていると、ふと鉄臭さを感じた。

 これは……血の匂い?

 暗部が動く気配はない。気づいてないのか、気づいた上で放置しているのか。

「たぶん気づいてないんだろうな……今の俺の鼻、忍犬以上だし」

 とりあえず匂いのもとへ行ってみよう。血のついでに厄介ごとの匂いもぷんぷんするが、たぶんかなり危険な量の血を流している。なにがあったか知らんが、助けられるかもしれないのを無視するのはちょっと気が引ける。

 チャクラを足に集中させ、跳ぶ。綱手の怪力の応用だ。産まれて間もないころからチャクラコントロールの訓練をしてたから、繊細な操作もお手の物。忍びの肉体は落ちこぼれでも屋根の上を跳んでいけるほど強靭(異常とも言う。俺もそうだが、忍びってやつはほんとに人間やめてる)だが、これによってさらに速い移動ができる。

 背後で驚く気配。それは突然動き出したことに対してか、それとも四歳児の枠にはまらない速度に対してか、たぶん両方だ。……あ、ミスった、ほんとに突然だったから暴走したと思われたかも。まだ様子見みたいだけど、忍具取り出してる。

 まあ、血の匂いを感じ取ったなら大体の事情を把握してくれるだろう。四歳児より遅く気づいたとプライドは傷つくかもしれんが。

「あれは……あれも暗部か」

 里を覆う結界から一キロほど内に入った山中に、動物を模した仮面をつけた男が倒れているのを見つけた。予想通り出血がひどい。戦争が終わったからといっていきなり平和になるわけじゃない、任務で負傷して帰りまで持たなかったというわけか。

 血を見た瞬間、俺の中で何かがうごめいたが理性で押さえ込む。助けるため来たのに、殺してどうする!!

 そういえば衝動は抑えるより受け流すほうがいいんだったか……イメージすると少し楽になった。飲み込まれている暇はない、早く手当てしなければ。
 ただの散歩だろうと、常に忍具と医療パックは持ち歩いている。薬師カブトが使っていたチャクラのメスで服を引き裂き傷の状態を見る。

「おい! お前何をしている!」

 と、そこで衝撃。
 全力ではないだろうが押され、俺の小さな体は吹き飛ぶ。

「ぐっ……」
「ハイネコ!」

 倒れている暗部のコードネームだろう、監視役のほうの暗部は俺に見向きもせずにハイネコとやらに駆け寄る。忍務放棄か、てめ……。

 監視役はハイネコを担ごうとする。その手を俺は止めた。

 仮面に隠れて見えないが、たぶん怒りの表情で反射的に俺を殴ろうとする監視役。しかしその拳は中途半端な位置で止まる。

「貴様……!」
「落ち着けよ。その傷じゃ運んでる間に死ぬ、ここで治療するのが最善だ」

 まともに殺り合えば百回やって百回とも負けるだろうが、仲間の負傷に焦りまともな状況判断を下せなくなった相手なら何とか隙をつくこともできる。それと、もともと俺を抑えるための人員だ、その程度の忍務ならと新人を使ったのかもしれない。暗部なのに、というか忍びなのに感情表に出しまくりだし。

 変化で大人の背丈になった俺は首筋にあてがったクナイを少し食い込ませ、低い声を出して言った。

「忍びなら、合理的に考えることだ」
 
 
 
 



[21048] 第七話・第八話
Name: 伊月◆2b079c92 ID:bb2a13f7
Date: 2010/08/22 20:42
 
 
 
 
 第七話「稼げるときに稼ぎましょう」
 
 
 
 
 結論から言うと、ハイネコ君は助かった。
 俺が頼んで(脅して)監視役の暗部に救護班を要請してもらって、その間に俺は応急処置を施して後はお任せした。

 ただ、この行動によって俺の医療技術のことが上層部に知れてしまった。これは少しまずい。せっかく今まで目をつけられないよう実力をひた隠しにしていたのに。
 見られたのは簡単な縫合と掌仙術程度だが、どう考えても四歳児ができるものではない。将来有望今から教育して暗部へそして使い潰し、とか計画練られてないだろうな。有り得そうで怖いんだが。実際、集めた情報によると俺の事に関して話し合われているようだし。

「クールだ、クールになるんだセツカ。この状況は一見最悪だが、そんな中でも何か利点があるはずだ。さあ、考えるんだセツカ!」

 ……………考え中……………。

「うん、ないね。どれも命を懸けるほどのものじゃあない」

 どちくしょー。いやけど、かなり可能性高いとはいえ、まだ必ずしも要請が来ると決まったわけじゃないし、もし来ても最悪上の心象悪くしてでも断ればいいか。

 そんなことを思っていたのが、一週間ほど前。

 今、俺に選択権はなくなっている。

 むしろ。

「俺を暗部に入れてください」

 自分から四代目に申し入れるくらいで。
 俺の言葉を聞いた四代目は困ったような顔をする。

「セツカくん、君の事はカントさん……お爺さんから頼まれている。お金のことなら心配ない、仮にも火影だよ、君一人養うだけの余裕はある」
「いえ……自分のことは自分でやりたいんです。今の俺では戦闘には役立ちませんが、後方支援で治療ならできます。お願いします、ミナトさん」

 一週間前。
 爺さんが死んだ。癌だったらしい。

 癌に侵されている、そう気づいたころにはもう手遅れで、入院すればもっと長く生きることもできたが、爺さんは寝たきりの生活などごめんだといって薬で体を誤魔化しながら俺と接していたという。

 今考えると、血継限界のことを話した本当の理由はそれだったのだろう。何も知らせずにおくつもりだったが、病気が判明。やむなく適当な理由をでっち上げ乖原の抱える殺戮衝動について警告した。

 遺書はなかった。

 代わりに血継限界に関することが記された巻物を、四代目に預けていた。乖原の血は負の方向に特殊なので、本当に一握りの人にしか教えない。今では知るのは俺と四代目だけとなっており、監視役だった暗部も忍務だけ渡されて詳しいことは伝えられてないはずだ。

 それだけ爺さんに信頼されている四代目は、けれど頼るわけにはいかない。
 なぜなら、彼は、来年には死んでしまうのだから。九尾の封印と引き換えに我が身を差し出して。

 他に身寄りのない俺を引き取ってくれそうなところとなるとうちは家くらいだが、それも危険だ。下手するとクーデターの戦力として数えられてしまうかもしれない。
 となると、上層部の人間と繋がりのある今のうちに自分で稼げる手段を確立させておく必要がある。

「しかし……」

 なおも渋る四代目に、畳み掛けるようにして言う。

「大丈夫です、後方ですから危険はありませんし、子供であることのチャクラ不足に関しては、ミナトさんもご存知の血継限界の能力で補えます。報酬に禁術書を閲覧する権利を求めてみたところ、一定のラインまでなら許可も出ました。俺にとってはなかなかいい待遇の仕事場ですよ」

 これは事実だ、本心からそう思っている。

 相談役のジジババには余りいい印象を持っていなかったが、基本給金、禁術書の閲覧、個人情報漏洩防止、アカデミーの入学許可など大抵の条件は受け入れられた。

 特に禁術書が見れるのは大きい。任務が入ったら真っ先に要求する巻物はもう決めてある、というかもう要求してある。前払いだ。しかも二つ。

 一つは影分身。禁術とはいえ指定理由はチャクラが少ない者が使うと危険というだけで、ランクは最下級。原作でナルトが簡単に盗み出せたのもそのせいで、まず間違いなく許可は出る。チャクラ量の問題は俺の血継限界が解決してくれる、相性としてはナルト並にいいだろう。
 もう一つは逆に禁術の中でもかなり高位に位置するもの。ただ、術者の命が対価なので上の人としてはこんなもん見てどうするのかという困惑のほうが強いだろう。

 四代目には秘密だが、この前払いによって俺は丸一年のただ働きが確定していたりする。まあ、一年くらいなら爺さんの遺産を食い潰して生きられるさ。

「そうか……」

 俺の決意が曲がらないと悟ったのか、四代目は深く息を吐きわかったと言った。

 ちなみに入隊条件とか相談役といろいろ勝手にやっていたが、暗部は火影の直轄部隊であるためここで拒否されていたらすべてが無に帰していた。
 いや、あまりに自然に俺の勧誘に彼らが出てきたものだから、そういうもんなのかなーと考えていたら微妙に越権行為だったらしい。後で文句言ってやる、と四代目が呟いていた。

「ただし条件がある」
「なんですか?」
「月に一度、僕の家に来ること。それと、絶対に死なないこと。いくら後方だって言っても、暗部は暗部なんだからね。それを忘れないで」
「……わかりました。約束します」

 月に一度、その機会が何度訪れるのか、わからない。九尾襲来が何月になるかまでは知らないのだ。俺の誕生日は六月で、それが一ヶ月前。今は七月、早ければあと半年もない。

 できるだけ遅く来てほしい。一つだけ、やりたいことがあるのだ。

 うちはマダラを倒して九尾襲来を防ぐ、そんな真似はできないけれど。
 原作の流れを、ほんのちょっとだけ乱す石ころを投じようと思う。

 四代目との交渉も終わり火影邸を後にしたところで、俺は早速禁術書保管庫へと向かった。原作にあるとおり、影分身のようなランクの低い物は保管庫以外にも火影邸などに予備巻物が置かれている場合もある。しかし、もう一つのほうはあそこにしかない。

 条件の個人情報保護のため俺が直接保管庫に赴くのではなく(変化して入ろうなどとしたら確実に見張りの暗部に止められる)用意された部屋で一人で巻物を読むことになる。
 自慢の記憶力で二つの巻物の内容を暗記し、影分身はその場で習得してしまった。
 もう一つは、まだ死にたくないので試していない。これは研究用だ。

 その術の名は――屍鬼封尽。
 
 
 
 
 第八話「ああ平和が懐かしい」
 
 
 
 
 ついにこの日が来た。
 うちはマダラが裏で糸を引く、九尾襲来事件。
 平和な日常から一転、木の葉隠れの里は混乱の渦に巻き込まれた。

「重傷者を優先的に運び入れろ! 完全に治そうと思うな、とりあえず生きてりゃいい。その分のチャクラを別の患者に使え!」
「班長、新たに重症患者六名! 家屋の倒壊に巻き込まれ、なおも増える見込みです!」
「東側二丁四番地でも同様のケース!」
「南でも三件ほど報告されています!」
「くそったれがっ、今の里に安全な場所はどこにもねえ!!」

 俺も変化して医療班の手伝いをしている。暗部では毒物などの研究が主だったが経験がないわけではない、班長の指示に従い重傷者から優先的に治療をしている。
 激戦区から離れた場所にあるここは、まさに野戦病院そのもの。次々と負傷者が運び込まれてきて、治療も寝かせる場所の確保も追いついていない。血臭と腐臭が混じり合い立っているだけで気持ち悪くなってくる。

 もっとも、今、こんな光景は里のどこででも見られる。俺がいるここは仮設治療所の一つにすぎない。

 確か原作では、生まれたばかりのナルトを人質にとられた四代目がうちはマダラと戦うことになり、その後ガマブン太を口寄せして九尾を里外に弾き出し、屍鬼封尽で九尾の陰のチャクラを自分に陽のチャクラをナルトに封じ込んだはず。

 今はまだ、九尾が里の中にいる状態だ。

 これ以上長引けば医療物資も、治療してる俺たちのチャクラも持たない。そうすれば一気に死者が激増するぞ……!

「まだか、まだなのか……!?」

 爺さんが死んでから一年と少し、一番世話になったのはやはり四代目とその妻クシナさんだろう。その人たちの犠牲を、今俺は望んでいる。
 最低だと思う、けど、他にどうしようもない。俺にできることは後方で少しでも死者を減らすことだけだ。

 ――ばたっ。

 突然、俺の隣で治療していたやつが倒れた。チャクラ切れだ。道具だけで何とかなる怪我はそちらで対応して、掌仙術の使用はなるべく控えていたのだが、それも限界が来たのだ。

「くそっ」

 一人倒れたということは、そろそろ皆まずいということだ。
 チャクラ回復の手段として兵糧丸も使っている。しかし薬である以上、多少でも副作用があるのは避けられない。戦闘に支障が出ないのは二十個までといわれており、俺たちはゆうにその五倍、百個はくそ苦い玉を噛み砕いている。

 これ以上はもう、体に誤魔化しがきかない。
 血継限界を使えさえすれば……そう思う。乖原の能力なら理論上は尾獣並みのチャクラを得ることができる。しかしそれゆえに扱いが難しく、過去に完全発現した三人も名を残すほどの活躍はできなかったときく。ついこの間五歳になり、ようやく衝動を制御できるようになった俺には不可能だった。

「おい、見ろ、化け狐が!」

 誰かが叫んだ。九尾の巨体はかなり距離があるここからでもよく見える。が、それに加えていつの間にか蛙の姿もあった。四代目が到着したらしい。
 蛙が力尽くで狐を外へと押し出す。これで少しは負傷者も減るだろう。

 四代目はマダラに勝った。
 問題はその後、俺の小細工はちゃんとその役割を果たしてくれるだろうか。

 しばらくして、四代目が命を懸けて九尾を封印したらしいと話が聞こえてきた。
 そして、ある程度人々の心に余裕が戻ってきた頃、封印の器になったひとりの赤子のこともまた。

 うずまきナルト。彼が英雄四代目火影の息子であることは、里人はまったく知らされていないようだ。ただ助かったことを喜び、大切な人を亡くしたことを悲しみ、英雄に感謝し賞賛し、九尾を憎み器の子を忌避した。
 
 
 
 
「三代目様……その子が?」

 危機が去り、里の復興が行われる中、俺は四代目殉職によって再び火影となった猿飛ヒルゼンのもとを訪れていた。彼は、俺が暗部に所属していることを知る数少ない一人だ。

 四代目と親しく、クシナさんが出産を控えていたことも知っている俺に隠すことは不可能と判断したのだろう、三代目はナルトが四代目の息子であることも含め、全てを語ってくれた。

「ミナトは、里人がナルトを英雄としてみてほしいと、そう言っておった。だが、それは厳しいじゃろうな」
「戦争が終わったとはいえ、今の情勢はかなり不安定ですからね。四代目に子がいると知れれば……非常に危険です。人手不足で十分な護衛もつけられないでしょうし」
「そうじゃ。そして英雄の息子でなくなったナルトは、単なる忌み子としてしか見られんじゃろう。一応ナルトの正体を口にしないという令を出してはおいたが……」
「効果は薄いでしょうね。態度だけでもナルトは傷つくでしょうし、同年代の子も、親たちの行動を見て真似することでしょう。子供というのは、存外そういった感覚が鋭いものですから」
「おぬしも子供じゃろうに……だが、そのとおりじゃ。全て、そのようになるじゃろう。本当ならおぬしに面倒を見てもらえれば一番よいのじゃが、アカデミーもあるからのう」
「……いや、それ以前に、五歳児に赤ん坊の世話をさせようという、その発想がおかしいことに気づいてください」
「む? できんか?」
「できません」

 あんた子供の世話なめすぎだ、あれか、全部妻に任せっぱなしだったくちか。俺みたいに必要最低限のときしか泣かない、手のかからない赤ん坊なんて普通いないんだよ。夜泣きとかで、何回叩き起こされるのかわかってんのかこら。

 昔、前世で、近所のおばさんに外せない用事で出かけるからしばらく預かってって頼まれたことがあってさ。基本母が世話して、俺は手伝いだけだったのに死ぬほど疲れた。

「まあ、たまに様子見るくらいならしますよ。護衛に暗部つけるって言っても、その暗部がナルトを憎んでないとも限らないですし」

 俺がそう言うと、その可能性は考えていなかったのか三代目は頭を抱えだした。正直、最低限の仕事だけはするが、死なない程度なら里人の暴力を止めたりはしないだろうと思っている。
 二次創作では結構あるけど、原作ではナルトに暴力振るわれるシーンってあったけ? 覚えていない。けど、適当に暗部つけるだけじゃそうなるだろうな。

 問題は山積みだ、がんばれ三代目。

 ……火影邸を去る前に、ひとつだけ確認をした。今はすやすやと穏やかな顔で眠るナルトを抱き上げ、その心臓部を見る。

 そこには原作にはなかったはずの印があった。

 どうやら、四代目は俺を信用してくれたらしい。多重影分身によって無理矢理に研究スピードを高めたかいがあったというものだ。

 俺の手により改造された、屍鬼封尽の術。その効果がこの先にどんな影響をもたらすのか、誰も知らない。
 
 
 
 



[21048] 第九話・第十話
Name: 伊月◆2b079c92 ID:d267fe23
Date: 2010/08/22 20:42
 
 
 
 
 第九話「友達百人できるかな♪ いらんけど」
 
 
 
 
 忍者アカデミー入学式。

 火影と校長を兼任している猿飛の退屈な話が終わって、六歳の少年少女がぞろぞろと指定された教室へと向かう。わいわいがやがや、歳相応の騒がしさである。

 精神年齢がすでに二十二歳である俺はその空気になじめず、教室の隅っこのほうでぽつねんと座っている。はぁー、とため息をついて窓の外を見ている姿は、傍から見れば爺むさいことこの上ないだろう。
 そういえば、近所の子たちとも遊ぶことはあったけど、ちゃんとした友達といえるのはイタチだけだった。そしてそのイタチとは暗部の仕事とかで忙しく、最近あまり会っていない。
 彼もこの学校にいるはずなので探してみようか。そんなことを考えていた矢先に背後から声をかけられた。

「久しぶりだね、セツカ」
「あ、イタチ」

 ちょうど思い浮かべていた人物の登場に、俺は驚く。
 しばらく見ない間にまた一段と大人びたイタチがそこにいた。そういえば四歳のころに悲惨な戦争を体験して、それがトラウマになったんだったか。その影響かもしれない。

 イタチは、昔のきらきらした笑顔ではなく、女性を虜にしそうな微笑を浮かべていた。あれだね、さすがサスケの兄だよ。彼はこのあと飛び級を繰り返し一年でアカデミーを卒業してしまうわけだが、ちゃんと六年間在学すればサスケ以上の規模のファンクラブとかできるんじゃないだろうか。
 そしてその場合俺は、ギャルゲーでいう主人公の友人Aという役割に落ち着くのか。イタチがフラグを立てていくのを歯軋りしながら見守るんですね、わかります。イケメン滅びろ。

 ……いや、客観的に見て、俺の顔もそう悪いわけではないんだがな? むしろ羨ましがられる立場にあると思うんだが……ちょっとね、そのベクトルがおかしいんだよ。

 癖のない髪、艶のある髪、薄青という色が見る人に無駄に神秘的な印象を与える。肌は透き通るように白く、それを唇の桜色が華やかに彩る。
 人形のような、という形容が見事に似合う。

 ふっ、俺のあまりの美しさに嫉妬と羨望の視線が感じられるぜ……女子の。

 全く嬉しくない。

 いやね、実は俺前世でも童顔とか女顔とか、結構言われてたんだけどさ。もはやこれはそんな次元じゃあない。まんま女。俺と目があって、顔を赤くしたませガキを見たときにゃあ、死にたくなったね。

 俺が未来のイタチの真似をして、髪を伸ばして後ろでくくっていたから、それも誤解を広める一因となったっぽい。それと、その髪型は元ネタである彼に当然のごとく真似された。「セツカとお揃い」だってさ。わーい、ペアルック……うあ、自分で言ってて吐き気が……。

 くっ、女顔キャラは白だけで十分だろうがっ。
 そんな俺の心の叫びが聞こえるはずもなく、いたちは純粋に再会を喜び笑いかけてくる。

「最近はなかなか会う機会がなかったね」
「あー、そうだな。爺さんが死んでから、いろいろ忙しかったから」
「そっか。あ、でもクラス一緒になれてよかったよ」
「すぐ離れ離れになるけどな」
「え、なんで?」
「お前は優秀だから、飛び級してすぐ卒業できるさ」

 イタチは言葉に詰まった。自慢するタイプの人間ではないが、しばらく一緒に修行していた俺は、イタチの実力が二年前の時点ですでに下忍レベルを超えていたことを知っている。度の過ぎた謙遜はかえって嫌味、それを理解しているが故に反論できない。

 ちなみに、俺はアカデミーの上級生程度であるように見せておいた。それでも三歳のころの話なので、俺もまた天才と評価されているようだったが。

 実際のところは、今イタチと一騎打ちしたらどうなるだろう、引き分け? くらいだ。ほら、俺は戦闘より医療忍術の修行に比重を置いているからな!(年上のプライドとして負けとは認めない)。

「でも、セツカだって凄いじゃないか」
「ま、昔から修行してたからな、それは否定しないが。けど俺とお前じゃ凄いのレベルが違うんだよ。そーだな、お前は一年俺は三年ってところかな」
「なにが?」
「卒業までの時間」

 イタチは真面目だから、俺と一緒に居たいという理由だけではわざと成績を落としたりはしないだろう。原作どおり一年で主席卒業を果たすはずだ。

 一方俺は、イタチに言ったように三年ほどかけて出るつもりである。俺のアカデミー入学理由は、表向き(三代目や相談役への説明)は同年代の子と交流を深めるためだが、真の目的はイタチに俺の実力を誤認させることにある。

 このままいけば、万華鏡写輪眼開眼の礎として、五年後に俺は殺される。
 それを防ぐために、彼には俺のことを優秀ではあるが自分よりもずっと弱いと認識してもらう必要があるのだ。

 隙を突ければ、勝機はある。

 そんな内心をひた隠しにして、すっかりお馴染みの作り笑いを浮かべて会話を続ける。サイじゃないが、案外皆騙されてくれるものだ。

「ま、なんだ、そのうち合同忍務とかもあるかもしれないだろ。そんな残念そうな顔すんなって」

 もっとも、その頃にはイタチは中忍になっているだろうが。
 
 
 
 
 ――そんな会話を交わしてから一年間、特別なことは何も起こらなかった。
 そういえばもう大蛇丸は里を抜けたんだっけかとか、記憶が鮮明なうちに作っておいたNARUTO年表を見て確認したが、それだけだ。関わる気は皆無。イタチが卒業して、おめでとうを言って、実力を隠しながらアカデミーに通い修行や新術開発をしながら過ごしていた。

 つかの間の平和。嵐の前の静けさ。
 それからさらに半年後。

 木の葉と雲の同盟話を聞いて、あーもうそんな時期かあと思ったり。イタチが、写輪眼が開眼したんだと嬉しそうに言ってきたりした。
 さて、この時期最大のイベント、日向ヒナタ誘拐事件。これに対して、俺はどのように動くとしようか。
 
 
 
 
 第十話「罠に掛かったときの敵の表情が大好きです」
 
 
 
 
 ――キンッ、キンッ、ギンッ!

 月明かりが照らす山中で、クナイ同士がぶつかり合い鈍い音を響かせていた。

「意外としぶといね」
「…………」

 俺の挑発に、雲隠れの額宛をした忍びは答えない。否、答えられない。そんな余裕などない。

「ま、忍頭とは言っても使い捨てのため用意された哀れな奴なんだろうが」

 言いながら、また糸を切る。仕掛けておいた罠が起動し、地中を含む全方位から殺傷能力の千本が放たれた。

「くうっ!」

 雲の忍びがうめく。すでに他の罠によって満身創痍といった様相ながら、足に向かう、機動力を奪おうとする千本を優先的に叩き落し粘っている。麻痺毒のクナイを喰らわせたから弱っているはずなのに、よくやる。

 スケープゴートとはいえ、上忍であることには変わりないか。彼は、塗られているのが即効性の毒と見るや、自らの傷口を抉ったのだ。
 最善は不意打ちで麻痺させ終了だったのだが、さすがにそこまで甘くはないようだ。

 しかし全く効いてないわけでもない。動きは明らかに鈍っているし、時折放たれる術もチャクラが練り辛いのか脆い。

 誘拐計画について徹底的に調べ上げ、逃走ルートを把握し、罠を張り巡らせていなければこうも上手くは行かなかったろう。情報を制するものこそが戦いを制する、これが俺の考えだ。暗部に入る以前から築いてきた俺の情報網は、原作知識と合わせればほぼ無敵だ。
 何かあると分かっていれば存外調べられるものである。

 ちなみに、その誘拐されたヒナタ張本人は最初の一手ですでに奪還している。騒がれると面倒なので、ちょっと眠ってもらって少し離れたところに置いている。

「へえ、百は用意しておいたんだけどな。二本しか刺さらなかったか」

 雲隠れの忍頭は右肩と左わき腹に千本を生やし、憎々しげに俺を睨みつける。

「この、糞ガキが……!」
「おやおや、怖い怖い」

 我ながらむかつく口調で喋りながら、ひらひらーと右手に持ったものを見せ付けてやる。それは、日向嫡子を抱えて里の外に向かって走る、雲隠れの忍頭の姿をとった写真だった。ビバ・インスタントカメラ。NARUTOの世界って地味にこういう機械も発展してるんだよね。

「くく、逃げるわけにはいかないよなぁ。こんなもんがあったら、条約違反って難癖つけて白眼を手に入れるどころか、逆に非難されちまうもんなあ」

 けらけらけら。意識して相手の神経を逆撫でするような喋り方をする。
 ほら、次だ。

「っ、幻術か!」

 札にチャクラをこめることで起動するタイプの幻術だ。一週間かけて作ったものだが相手は腐っても忍頭、俺がこの系統の術を苦手なのもあってすぐに解かれてしまう。

 が、問題ない。

 奴に見せた幻は平衡感覚を狂わせる。その影響は術を解いた後も一秒以下のわずかな間だが、残る。

 その隙に。

「詰みだ」

 クナイを投げる、ただし敵にではない。
 最後の仕掛け、捕獲用の罠を発動する。原作第二部、シカマルが飛段相手に使ったワイヤーによる拘束、それの起爆札なしバージョンだ。

 そして。罠の発動と同時に駆け出し、距離をつめた俺はその男の顔をがしっと掴んだ。
 男はしばらくじたばたともがき、印を組んでいる素振りもあったが術は発動せず、驚愕の表情を浮かべたのち気絶した。

「上手くいったか……」

 完全に動かなくなったことを確認して、手を離す。

 ――これが俺の血継限界、チャクラの材料たる身体エネルギーの操作。その一つ、吸引だ。

 形としては原作の、暁のメンバーである鬼鮫が持つ忍刀鮫肌に似ている。
 鮫肌が相手のチャクラを削り取るように、乖原の血継限界は触れた相手から身体エネルギーを吸い出し、そのまま自分のものにできる。これによって俺は、精神エネルギー=気力が持つ限り無限にチャクラを練ることができるのだ。

 そして、吸い出された相手は、この雲隠れの忍頭のようになる。
 今のこいつに残っているのは、生命活動を維持する必要最低限の分だけだ。それも強制的に奪うことができるが、今回の目的は生け捕りなためそれはしない。

「いやー、なかなか便利だわ、これ」

 上忍一人分のエネルギーを取り込んだため、気分が高揚しているのがわかる。この力をどこかにぶつけたい、そんな衝動に駆られるが、理性でもって押さえつける。

 どうやらこの、力を振るいたいという気持ちが乖原の持つ殺戮衝動の根本らしい。なるほど確かに、この衝動を押さえつけるのは子供の精神ではきついだろう。前世の記憶を持たず生まれ変わって、この力が発現していたら百パー暴走していた自信がある。

 情けない自信である。

 ……まあ、それは置いといて能力の考察だ。
 鮫肌のようにチャクラでなく、その材料である身体エネルギーを取り出すこの能力の利点はとりあえず二つ考えられる。

 一つは、相手がチャクラを練っていなくても、つまりは戦闘時以外でも関係なく使えること。そしてもう一つは、純粋な身体エネルギーであるがために、溜め込むことで身体能力の上昇が見込めることだろう。
 吸い取るほどに力を得、さらにその力に耐えられるよう肉体構造が書き換わっていく……と爺さんの遺品である巻物には書いてあった。

 ただ。それだけ聞くと、え、無敵じゃんとも思えるが、あまり急激にエネルギーを取り込むと、五歳を過ぎて一度安定した者でも殺戮衝動に目覚めることがあるという。事実、過去の発現者三名のうち一人は深い傷を追った際治療のため身体エネルギーを過剰に取り込み暴走、味方を全滅させる事件を起こしたらしい。

「諸刃の剣でもあるか……」

 それと。逆に、吸い出すのがチャクラでないことによる欠点もある。簡単なことで、精神エネルギーが尽きない限り力を振るえるというのは、尽きたら使えなくなるのだ。

「うーん、となると忍術より体術中心に鍛えたほうがいいのかね。じゃあ師事するのはガイ先生か? 熱血は苦手分野なんだがな。あ、でも上手くいけば八門遁甲とか教えてもらえるか……っと、来たか」

 こちらに向かってくる気配が一つ。たぶん日向ヒアシだろう。
 今回の件に関わったのは善意ではなく、ちょうどいい血継限界の実験台が居たからだ。そのため偽の情報を流したり対白眼用結界で居場所を誤魔化したりして到着を遅らせていたのだが、さすがに時間切れのようだ。

「さ、面倒なことになる前に逃げますか」

 変化はしてないが、暗部の面をつけてるから人相はばれないだろう。夜だし、透視できるとは言ってもせいぜい子供くらいの背丈であることしかわからないはずだ。ヒナタと、捕縛した雲隠れの忍びのこともあるから、ヒアシ一人なら追ってこれまい。ふはははははは。さらばっ!
 
 
 翌日。

「昨夜は世話になったな」

 日向ヒアシに頭を下げられる俺。

 あれ?
 
 
 
 



[21048] 第十一話・第十二話
Name: 伊月◆2b079c92 ID:203ec702
Date: 2010/08/22 20:44
 
 
 
 
 第十一話「誰か! 誰か胃薬を!」
 
 
 
 
 昨日戦った雲隠れの里の忍頭を、俺は決して舐めていなかった。
 結果的には罠に上手くはまってくれたが、失敗したときのことも考え変化に使うわずかなチャクラも惜しんだし、もしものときに応援を呼べるよう対日向の目くらましも一瞬で取り除ける用意をしていた。

 だが。

 日向家のほうは少々舐めていたのかもしれない……。

「あの、何のことd「娘が、自分を助けたのは綺麗な薄青の髪をした人だったと言っていてね。そして昨日、私が見た彼は変化をしていなかった。薄青の髪でしかも子供となると、この里には君くらいしか居ない」……さいですか」

 とぼける暇も与えてくれなかった。厳しい。

 つーかヒナタさん、あなたいつの間に起きてたんですか。しばらくは起きないように気絶させたと思っていたんですが。

 物的証拠は皆無だけど……ここは日本ほど三権分立できてないから、名家の権力があれば状況証拠でも十分なんだよな。で、ヒアシのおっちゃんはもうすでにあれが俺だって確信してるみたいだし、下手に誤魔化すよりちゃんと謝ったほうが心象はいいか……? くそ、やっぱ変化くらいはしておけばよかった。
 名家嫡子の捜索妨害って、どの程度の罪なんだろう。まだ七歳だし、結果的には無事解決したわけだから死刑にはならないと思うが……牢屋くらいは覚悟しておこうか。

 はっ、待てまさか牢屋入りした状態で万華鏡イベントが起こる可能性もあるのか? まずいよ逃げ場ないじゃん、看守なんて奴ら相手にゃ全くあてにならんし、俺死亡確定!?

 ネガティブな想像をしていく俺に、しかしヒアシさんは不可解な言葉を投げかける。

「ふっ、なにも君の正体を詮索するつもりはないさ。興味はあるがね。逃げたということは聞かれたくないのだろう?」

 は? 詮索する気がない?
 どういうことだ……そりゃあ聞かれたくはないが、昨日の件のことで訪ねてきたというのなら、まず真っ先に何故俺のようなガキが暗部の仮面をつけていたのかを聞くべきだろう。
 あれは最悪正体がばれた場合――まさに今のような状況に陥った際、実はアレ暗部のお仕事でしたって言い訳するためにつけていたんだが、それを詮索しない……?

「あー、まあそうしてくれると助かりますが。では何故ここに?」

 意味が分からないまま話をあわせる。表面上は全て理解してますよーという態度をとるが、内心は疑問符で一杯だ。詮索しない……わざわざ聞くまでもなく全て調べてある? いや、あの言い回しだと俺を気遣って聞かないというように取れる……ああもう、わからんっ。

 演技の中で、ここだけは本音で訪問の理由を尋ねる。

 一番可能性が高いのは、捜索を妨害したことについての責任追及。時間稼ぎが目的だったから命を奪うような罠は仕掛けなかったが、そんなことは言い訳にならない。
 罠は、当たり前だが敵が来る前に仕掛けるものだ。これはつまり俺が事前にヒナタの誘拐計画の情報を掴んでいたことを意味する。上手くいったからまだいいものの、これで誘拐を止められていなかったら普通に首が飛ぶ。物理的に。

 自分の力を試したかったが為だけに、名家の子の誘拐を止めなかったのだ。こんなことは前代未聞だろう。

 故に、軽率な行動をした俺に対して何かしらの罰を与えるための来訪だと考えていたのだが――思考に耽ってうつむきぎみだった頭を上げると、そこには何故かとても好意的な笑みを浮かべるヒアシさん。んむ?

 彼は言う。

「無論、礼を言うためだ。君のおかげで日向の血継限界が外に出るのを防ぐことができた。敵は幾重にも罠を仕掛け、白眼を無効化する結界まで用意していたのだ、君が捕まえてくれていなければ確実に娘は連れ去られていただろう。本当に、感謝する」

 ほとんど土下座に近い格好で頭を下げるヒアシさん。

 状況を理解した。

 俺、汗だらだら。

 まさかそこまで俺に都合のいいように誤解してくれるとは予想外すぎるぜ!

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。その罠仕掛けたの俺です! 雲隠れの忍頭はむしろわざと殺されて、それを条約違反だ何だと難癖つけてあなたの死体を要求するのが目的だったので、罠なんてひとつも仕掛けてませんでした! ほんとすいませんでした!

 むしろ俺が土下座したい。真実知ったら殺されるだろうから言わないけど。

「え、えっと、頭を下げられても困るというか、その……」
「そうはいかない。これはけじめだ」

 何のだ。思わず突っ込みたくなる。
 しかも、ヒアシさんはさらにこんなことを言ってきやがった。

「ああ、そうだ、感謝の気持ちが言葉だけというのも味気ない。何か望みはないか? 日向にできることなら何でもしよう」

 いえ、結構です。そんなもん受け取ったら本格的に心が潰れます。ああ、胸が痛い。胃薬プリーズ。

 ああでも、ヒアシさんも一歩も引かない構えだ。(誤解だが)俺に感謝しているというのはもちろん本当なのだろうが、たぶん、面子とか色々めんどくさい事情もあるんだろう。たとえばここで俺が遠慮してなにも言わなかったら、日向はろくに恩を返さない家だと思われるとか、そんな感じで。

 どうすっかねー……向こうの面子も俺の胃も守られる回答は……んー、あー、そうだ。

「では……日向の柔拳を教わることは可能でしょうか?」
「柔拳を? しかしそれは……」
「はい。確かに柔拳は白眼によって経絡系を見ることを前提としたものでしょうが、しかし純粋な体術としても優れたものだと思います。俺はその動きを知りたいのです」

 真実を知らない彼にそんなことを要求するのにはかなり抵抗があるものの、金品を受け取るよりはましだろう。このままお礼を拒否し続けて、後から無理やり大変なもの押し付けられても困るし。

 そう自分を納得させ、俺は昨日の戦いで考えた体術の師をヒアシさんに引き受けてもらおうと頼み込む。

 彼はしばし考え込んでいたが――渋っているわけでなく、その程度の礼で良いのかと悩んでいるようだった――頷いてくれた。

「……そうか。わかった、そこまで言うなら教えよう。しかしやるからには厳しくいくぞ?」
「望むところです」

 そう答えるとヒアシさんは……いや師匠はニヤリと笑った。

 俺は思った。

 ……ちょっと早まったかもしれない。
 
 
 
 
 第十二話「傷は男の勲章、とでも思わなきゃやってられない」
 
 
 
 
 乖原セツカ、九歳。
 ばれたことを不運とするか、なんかいい方向に誤解されたのを幸運と思うか悩むあの誘拐事件から大体一年半。
 現在師匠――日向ヒアシにボコボコにされております。

「脇が甘い」
「がっ……!」

 あ、吐血した。とか他人事みたいに考える。

 腹部に拳を当てられ、五メートル近くぶっ飛ばされて道場の床をごろごろと転がる……あれ、柔拳って純粋な打撃技ありましたっけ? え、戦場でそんなこと関係ない? 正論ですね。
 正直このまま寝ていたいが、師匠の容赦ない(といっても手加減はされてるが)追撃が迫ってきているので、転がる勢いを利用して起き上がる。って、今度は蹴りっすか!

 慌てて飛びのく。

 日向での修行は想像と違い泥臭かった。白眼を持っていないため、そうっいた修行をしていないことを差し引いても、なんというか、荒々しい。

 型を覚えた後はひたすらに組み手、それと成長を阻害しない程度に体力づくり。
 幼少期から筋肉つけすぎると背が伸びないからね。この世界の忍びはあんまり忍んでないので、スパイみたいに身長制限とかないのです。むしろ正面対決のため体格は必要になる。

「え、あの、師匠?」

 吹き飛ばされてから何回か攻防が入れ替わって、今は再び俺が防。師匠は重心を前に、手を人差し指と中指を残して握り、前後に構えて。

「八卦六十四掌」

 ちょっ、ま。

 ――二掌、四掌、八掌、十六掌、三十二掌、六十四掌! フィニッシュ!

 十歳のガキになんて大人気ない技使いやがる!

「……三つか」

 師匠が抑揚のない声で呟く。三つとは、今の攻撃で突かれるのを防いだ点穴の数だ。三つもと感心しているのか、三つしかと失望しているのか。たぶん後者だろうなあ……師匠、かなり手加減してたし。
 つーか、防いだっても突かれる場所をずらせただけで、攻撃自体はしっかり食らっている。あんな握り方でよく突き指しないなと思うが、かなり痛いのだ。

 うむ。弟子入りしてから一年と半分、アカデミーに通いながらとはいえ最近は暗部の仕事も少なくほぼ毎日修行しているのに、我ながら進歩がない。才能がないとも言う。

 ガイやリーの熱血が嫌でこちらに来たのだが、失敗だったろうか。日向が経絡系を攻撃するのと同じく乖原の血継限界もまた、相手に触れることで効果を発揮するものだから相性はいいと思うんだが……。

「今日はこれで終わりだ。掃除をしておけ」
「ありがとうございました」

 ぺこり。痛みに顔をしかめながらも立ち上がり、頭を下げる。
 武術というもの全般がそうなのか、あるいは名家だからなのか、礼節にはうるさい。一度へばって床に寝たまま返事したらぶん殴られた。確かに失礼な行為だったとは思うが、床が陥没するほどの威力はやりすぎだと思います、師匠。

「あー、痛ってえ」

 点穴を突かれたためチャクラが流れない。不思議物質チャクラを大量に練って循環させるとあら不思議、体の傷がみるみる消えていくではありませんか! が、できない。きつい。マジ死ぬ。

 血継限界で身体エネルギー操れば普通の傷は修復できるんだが、なんか経絡系は例外っぽいんよ。チャクラが通る路だからなのか、はじかれる。
 身体エネルギーをただ取り出すだけでなく自在に動かすなんて真似、乖原以外にはできないので、いくら医学書を見てもわからない。綱手とかに話せば解明してくれるかもしれないが、そんな気はさらさらないのでやっぱり不明のままだ。

 こうなると、自然に点穴が開くのを待つか、ネジと戦ったときのナルトみたく莫大な量のチャクラでもって無理矢理こじ開けるかしかない。ちなみに、一度後者を試してみたところ激痛に見舞われ気を失った。

 というわけで、俺は必然的にこの状態で掃除をすることになる。
 そうだな、素人がフルマラソン――いやトライアスロンのほうがいいかな、まあとにかく全身の筋肉を酷使した翌日を思い浮かべてくれればいい。地獄だ。

「あの……」
「ん?」

 くいくいっと服を引かれ後ろを見ると、日向ヒナタが何かを持って立っていた。

「どうしましたか? ヒナタ様」

 年下とはいえ師匠の娘さんなので一応敬語を使って様付けして呼んでいる。強制されたわけではないがなんとなく。

「あの……これ、つかって……」

 そのヒナタ様は俺に、手に持っていたものを差し出してきた。救護パックだった。
 点穴の即時開閉は日向家くらいにしかできない。というか、こんな道具で対処できるくらいなら日向は名家と呼ばれることはなかったろう。

 気持ちは嬉しいが……。

「ありがとうございます。ぜひ、使わせていただきます」

 ああ、生まれ変わってから表情を取り繕うのがとても上手くなったな。なんかもう、どこに行っても立派にスパイ活動できると思う。

 俺の言葉を聞いたヒナタ様は嬉しそうに笑み、しかしすぐに顔を真っ赤にして走り去っていった。なるほど、この時期からすでに原作の性格はできあがっていたわけか。

 優しい、それ故に戦いに向いていない……。

「ネジとのあれこれはどうなるのかね……」

 俺が誘拐事件に介入した結果、日向ヒザシは身代わりにされることなく健在である。そのためネジの宗家への憎しみもなくなった……かと言うとそうでもなく、呪印の件もあって、まったく恨んでないわけではなさそうだ。原作通りの流れになる可能性もある。

「ま、その辺のことは俺が悩む必要はないか」

 仮に原作通りいっても誰が死ぬわけでもないし、最後にはナルトが円満解決してくれるだろう。それより俺には、もっとずっと切迫した問題があるのだ。

 イタチの、原作ではうちはシスイ殺害事件が二年後に控えている。
 彼が一足先に下忍になってからはまた会う機会が減ったが、代わりに誰かと親しいという話も聞かない(むしろ近づき難い存在として認知されてるっぽい)のでやはり標的となるのは俺だろう。

 とりあえず現時点で打てる手は打っておいた。イタチは何とかなると思うが、不確定要素はマダラだな。
 彼はあの事件、どう関わっていたのか。少なくともうちは虐殺には手を貸していたはずだ。いくらイタチが優秀でも、里のエリートであるうちはを一人で始末することは難しい。

「はぁ……」

 これからどうなるかねえ。
 
 
 
 



[21048] 幕間・第十三話
Name: 伊月◆2b079c92 ID:b0f3136c
Date: 2010/09/28 01:12
 前書き
 幕間といっても別に時間軸がずれてたりはしない。ただ、日記形式で書いたため(そのわりには…とか―とか普通に使われているが)作者が素直に第十三話として入れるのに抵抗があった、それだけです。

――――――――――
 
 
 幕間「セツカの日記」


 
 
 三月十八日

 卒業試験に合格した。そして、明日の結果次第で下忍となる。
 本来なら俺は卒業と同時に暗部へ戻るはずだった。しかし、卒業できたにも関わらず下忍になっていないとイタチに知れると怪しまれる。それを回避したい俺と、俺に普通の子供のような生活をさせたい三代目の思惑が重なり、一時的に暗部から除名されることになった。
 俺を勧誘した相談役たちの意向でたまに仕事を回されることもあるようだが、基本は普通の下忍として生活できるようだ。なんとも都合のいい話だが、三代目の性格を考えれば十分予想できたことでもある。今はただ状況の推移を喜ぶことにする。

 さて、試験だが、俺の成績は筆記・実技ともに満点だった。といってもこれはそれほど珍しいことではない、本当に下忍になれるかどうかは明日に判断されるため、ほとんど形だけの甘い試験である。俺の他にも何人か満点合格をした者は居る。
 今年はというか今年も不合格者は出ていないらしい。ナルトには悪いがこれに落ちるのは本当に落ちこぼれだけだ。
 明日はスリーマンセルのメンバーと担当上忍が発表される。その後、原作と時期が違うため断定はできないが、おそらくは上忍との演習だろう。
 どのような形になるのか。カカシ、猿飛らは腰に着けた鈴を取るという内容だった。あれは三代目の系譜に伝わる方法なのだろうか、それとも全員同じなのか。記憶力には自信があるが、さすがに十年近くも経つと忘れていくこともある。

 まあ、どのような試験であっても落ちるつもりは無い。日向に弟子入りしてから、体術の才能が無いなりにも努力して強くなったつもりだ。忍術や血継限界の能力を駆使して全力で行けば上忍相手にも引けは取らないと自負している……無論、本当に全力を出すような真似はしないが。
 俺の全力は誰にもばらしていない。ヒアシ師匠との鍛錬には忍術を使っていないし、暗部に所属している――正確にはしていたことを知っている三代目や相談役、ダンゾウらもせいぜいが中忍レベルと認識しているはずだ。

 イタチのことを考えるとたった一年の短い付き合いだとはいえ、おそらくは今までの誰よりも深い付き合いをすることになる班員・担当上忍に実力を隠しながらの生活。なかなか疲れそうである。

 全員シカマルみたいな面倒臭がりだと楽なのだが。
 その辺のことは実際にメンバーが決まってからでないと分からないだろう。
 今日はこれで筆を置くことにする。
 

 三月十九日

 鮭野スジコ・鯖井アオ。

 ……なんで海鮮類?

 昨日書いたように、今日はスリーマンセルのメンバーが発表された。それが一行目の彼ら(二人とも男だ。むさい)なわけだが……つくづく思う、この世界のネーミングセンスは異常だ。
 この二人が特別なわけではない。クラス名簿を見れば分かるが、大半はそういった名付け親の頭を疑うような名前が並んでいる。大丈夫かこの里。

 ちなみに、大変不本意ではあるが、俺の名前もまた妙な部類に入る。

 乖原セツカ。

 一見まともだが、名前も漢字にするとこうなる。

 乖原啜冎。

 何だこのおどろおどろしい字面は。

 意味は、苗字のほうの「乖」が、人間から乖離した一族であることを示している。名前のほうは、「啜」のほうが喰う喰らうで「冎」が抉るである。何を、とは言うまでもない。
 当然、俺の感性はその名前を拒否したが、会う間もなく死んでしまったとはいえ現世での両親が残してくれたものでもあり、仕方がなくカタカナ表記で使っている。セツカ。雪華とか脳内で変換すればOK。ちと女っぽいが啜冎よりはマシである。

 主人公からしてうずまきナルトだもんな……しかも名付け親の自来也がラーメン食いながら適当に考えた名前って公言しちゃってるし。

 それと、担当上忍は山木こだまと言った。最初はああやっとまともな名前かと思ったが、よく考えてみるとこれも安直だった。もう諦めることにする。

 ……何故俺は日記で名前について考察などしているのだろう。

 書いていてどうしようもない虚しさを覚えたので、さっさと本来の題である上忍との演習について記すことにする。
 まず演習の方法だが、鈴は使わずに時間内に有効打を一本当てられればいいというものだった。
 予想の範囲内だったのであらかじめ準備していた作戦を二人に伝えた。引かれた。
 一体何が不満なのだろう。仮にも上忍、格上相手なのだから卑怯とか言ってられないと思うのだが……。

 その辺のことをふまえ、俺達が勝つにはこの手しかないことを力説した結果「とりあえず事前に演習場を地雷原にしてみました作戦」は可決された。地雷(起爆札)にチャクラを込める際の震える手、青い顔が印象的だった。

 開始の合図から二分、俺達は勝った。

 担当上忍が重傷を負ったため一ヶ月ほど任務を受けられないという弊害もあったが、まあいいじゃないか勝ったんだから。

 大丈夫罪には問われない、俺はちゃんと「あのーすみません、この演習ってどんな手を使ってもいいんですか?」「ああもちろんだ、君たちの全力を示してくれ」「全力ですか……それは例えば、あなたを殺すくらいの気概で?」「そうだね。そのくらいの意気込みがないと僕は倒せないよ(ニヤリ)」「ほほぉー、言いますねえ(ニヤリ)」と、言質は取ってある。

 と、説明したのだが、スジコ君やアオ君から避けられている気がする。なぜ?
 前世でも現世でも、人の心というのは分かりにくいものだ。
 

 三月二十日

 猫の捕獲や芋ほりをしているのと自主訓練をしているのとではどちらが有意義な時間の使い方か。
 普通は後者であると思うのだが、スジコとアオ(以下海鮮コンビと記す)は違うらしい。直接は言ってこないものの俺の作戦が原因で任務が受けられなくなったことを不満に思っているようだ。
 時折二人でぶつくさ言っている様子がうかがえる。うざい。
 本人らは聞こえないようこっそりと話しているつもりのようだが、五感が獣並みに発達している俺には丸わかりである。
 まあ、正直やりすぎた感はあるから別に陰口をたたかれるのはいいんだが……うざい。聞こえすぎるというのも問題だな、俺にとってあの距離での会話は、前世の感覚で目の前でぺちゃくちゃ喋られるのと同じだ。そういう意味でうざい。

 なので、その辺のことを二人に直接言ってみた。

 全部聞こえてる、うるさい、話しなら俺のいないところでしろ、と。

 全部聞こえてる、まで言ったところで二人は全力で走り去っていった。最後までセリフを言いきっていないので追いかけると、彼らは青を通り越して白い顔で俺を見た。ホラーだった。追いかけるのをやめた。彼らは逃げた。
 

 三月二十一日

 今日も自主訓練である。
 海鮮コンビは来なかった。ったく、忍務受けれないくらいで拗ねるなよー……。
 

 三月二十二日

 昨日と同じ。
 

 三月二十三日

 昨日と同じ。
 

 三月二十四日

 昨日と同じ。
 

 四月二十二日

 山……山……やま……あれ、あの人名前なんだっけ?
 まあいいや。とにかく我らが担当上忍、ヤマ何とか先生がついに退院したらしい。これでようやく忍務を受けることができる。へそを曲げて訓練に来なくなった海鮮コンビも機嫌を直すことだろう。
 俺は心なし軽い足取りで集合場所へと向かった。

 誰も来なかった。

 最初は集合場所を間違ったのかと思い慌てたが、三十分ほど経ったころに連絡役を名乗る中忍が現れた。なんでもヤマ何とか先生は身体的には完治したのだが、心がまだ回復しきっていないらしい。簡易地雷原がよほどトラウマになったのか一年ほどリハビリが必要だとか。
 さらに。班員である海鮮コンビもなぜか精神に軽い異常をきたしていて、特に水色の物を見ると震えだすという。先生はともかくなんであいつらまで? 中忍に聞くと無言で一歩下がられた。いや、なぜ?

 謎は多いが、唯一つはっきりしているのは、これで我が班は壊滅したという衝撃的事実だ。

 俺の今後の処遇については保留とのこと。訓練でもしとけってさ。何その投げやり。
 帰り道で偶然イタチに会った。普段なら当たり障りのない会話だけして終わらせるのだが、今は将来の危険よりも愚痴を言う相手が欲しかったので一楽に連行した。
 食いながらことの成行きを話す。イタチはずっと微笑みながら俺の話を聞いてくれていた。ああ、今だけは素直に言おう、持つべきものは友だね。

 ところでイタチよ。帰り道普段より一メートルほど離れて歩いていたのはなぜだい?
 

 四月二十三日

 班が正式に解散、しばらくは訓練でもしてろと通達が来た。
 

 五月二十三日

 訓練。いまだ俺の処遇は保留状態、宙ぶらりんである。
 

 六月二十三日

 訓練。先月と同じく。
 

 七月二十三日

 訓練。実はもう俺のことは忘れ去られているのではないだろうか?
 先月と同じ。
 

 八月二十三日

 訓練。うん、絶対に忘れ去られている。この四カ月間訓練と研究と、あとは暗部の仕事を少しだけ。それだけしかしていない。
 

 九月二十三日

 三代目に久々に会いに行ってみた。俺の処遇について聞いてみると、案の定忘れていたようだ。本人はしきりに忘れてない忘れてないと言い張っているが、俺が話を持ち出したときに「あ」とはっきり言っていたのでまるで信用に値しない。
 まあ研究の時間がとれるからと自分から動かなかった俺も悪いんだけどさぁ、けどねえ?
 ……結局俺は今まで通り訓練と研究と、あとたまに回ってくる暗部の仕事をすることになった。戦争も終わったので大きな仕事もなく、ぶっちゃけ里全体が暇ってほどでもないがさして忙しくもないらしい。芋掘りしたいなら忍務回すがとか言われたが、丁重にお断りさせていただいた。
 

 三月四日

 ここ半年間のまとめ。
 色々あった。

 まああれだ、訓練と研究と以下略の生活が続いている。いちいち日記につける価値が見いだせなかったのでしばらくサボっていた。
 ぶっちゃけ、今日も特に書くことはない。
 だがこれだけというのも味気ない、研究の進度についてでも記しておくか。例の書物にもあったように人間の体は二十九種類の元素からできており…………中略…………以上のことから、完成形ができるまであと数週間程度と思われる。
 む、もうこんな時間か。書き物をしていると時が経つのが早いな。今日はこれで筆を置く。
 

 四月七日

 久々にイタチと会った。といっても道端で挨拶を交わしただけなのだが……どうも様子がおかしい。俺の顔を見たとき、一瞬だけ泣きそうな表情をしたのを俺は見逃さなかった。なぜ? 一番妥当な線は、やはり万華鏡写輪眼のことだろう。
 彼が動くと思われるのは、今年。明日なのか、一週間後なのか、一月後なのか、それは分からないが、原作知識からすると今年中に動くのはほぼ間違いないだろうと思う。無論俺というイレギュラーが存在する以上、バタフライ効果で全く異なる道筋を描くと言う可能性もなくはないが。まあどちらにせよ警戒を高める時期であることは確かだ。

 イタチとマダラとはすでに接触しているだろう、そして万華鏡写輪眼の開眼方法について伝えられているだろう。
 イタチは殺戮者ではない。友を殺すという行為に多大な抵抗を抱くことは想像に難くない、さらに言えば俺は原作でのシスイと違いうちはでない、つまり完全に無関係な人間だ。その無関係な親友を自分の目的のためだけに殺す……原作よりも迷いは大きいのではないだろうか。
 

 五月十二日

 イタチに会った。
 軽く微笑んで話しかけてくるその姿は、一見元通りになったように見える。しかし……
 その瞳に、もはや光は映っていなかった。目を合わせる、ただそれだけの行為が恐ろしくなるほど深い闇があった。
 あいつはきっと決めたのだろう。
 目的のために、俺を殺すことを。

 ならば俺は。
 

 六月二十日

 入れ替わった。
 

 七月十日

 そろそろだろうと、イタチの姿を見ていて思った。
 こちらも最終段階に入る。五年の月日を費やし用意したトラップだ、悪いが俺は、お前の決断を踏みにじる。容赦はしない。俺は、黙って殺されてやるほどお人好しじゃあない。
 うちはイタチ。お前は俺が生き残るための、踏み台だ。
 

 七月二十七日

 イタチに呼び出された。


 
 
 第十三話「目指せ主演男優賞」


 
 
「……どういうつもりだ、イタチ」
「…………」

 首筋につけられた傷に触れ、俺は尋ねた。
 答えは――白刃の煌きだった。

「イタチッ!」

 上段から振り下ろされた忍刀をとっさにクナイで受けるが、堪えきれず弾き飛ばされる。月のない夜闇の中、火花で一瞬だけ見えたイタチの顔は空恐ろしいほど無表情だった。

 刀とクナイ。どちらが有利かなんて素人でもわかる。接近戦でこの獲物の違いは大きすぎた。とはいえ、親友からの呼び出しに戦闘用の装備なんて持ち出しているはずがない。

 地べたに倒れこんだ俺に、イタチは追撃を仕掛けてくる。
 やむなくこれを転がって回避。さらにそのまま、これだけは常備しているポーチから手裏剣を取り出し投擲――しようとして、止める。

 すばやく立ち上がって距離をとり、再び問いかける。

「イタチ……お前は、俺を殺そうとしているのか?」
「……そうだ」
「何故!? 何のために!」
「…………」
「答えろよ!!」

 夜目がきく忍びの目でもほとんど見通せないほど、今日は暗い。ただそれでも、彼が「冗談だ」と言ってこの件を終わらせる気がないことは痛いほどわかった。姿が見えなくとも、本気の殺気を発しているのが感じられる。

「何で……こんなこと」
「……力が、必要だから」
「力……?」
「そしてそれを得るには、お前の死が不可欠」

 予備動作なく、手裏剣が投擲される。慌てて打ち落とすも、その隙に離していた距離を詰められてしまう。
 右からの切り払いを屈んで避け、返す刀をクナイで無理矢理そらし、流れるような動作で放たれた強烈な蹴りを食らった。

 再び距離が開く。

「ぐっ……俺の死が不可欠……?」
「最も親しい友を殺すこと……それが、万華鏡写輪眼の開眼条件」
「万華鏡……?」

 聞き返すも、それ以上答える気はないようだった。俺はとにかく立とうと足に力を入れ、そこで違和感に気づいた。

 視界の歪み、平衡感覚の狂い、痺れ……。

「毒か……!」

 ゆっくりとこちらに歩いてくるイタチ。しかし逃げられない、さっきの戦闘は殺すためじゃなく、動かせることで毒を全身に回すため……!

「いた…ち……」

 ゆっくりと、意識が薄れてゆく。


 
 
〈Side イタチ〉

 首筋の脈を取り、セツカが死んだことを確認する。
 予定より時間がかかったが問題ない。人気のないところを選んだため、目撃者は皆無だ。

 火遁など派手な術、あるいは閃光玉の使用が懸念材料だったが、前者は、彼がまだ大規模な術を使えるほどのチャクラ量がないため不可能であることを。後者は常備しているポーチには煙玉しか入ってないことを知っていたため実行に踏み切った。

「終わったか」
「……ああ」

 背後に音もなくうちはマダラが……俺に万華鏡写輪眼を開眼する方法を教えた男が現れる。

「……泣いているのか?」
「……?」

 言われて始めて、自分が涙を流していることに気がつく。
 忍びの心得第二十五項、任務を第一とし何ごとにも涙を見せぬ心を持つべし……感情を表に出さない訓練は受けてきたのに、俺の中でセツカの存在はそれほどまでに大きかったということなのだろうか?

 涙をぬぐう。また溢れる。ぬぐう。

 マダラは何も言わずに待っていた。こいつもまた、万華鏡写輪眼を開眼させた男だ。同じような感情を抱いたことがあるのだろうか。

 ……悲しい、と。

 自分で手にかけたにも関わらず……。

「……最初に催眠眼を破られたのは予想外だったな。首筋と腹部、切り傷と打撲か。蹴り跡はあざになってるな……まあこの程度なら何とかなる。傷を消したあと、予定通り水死体に偽装するぞ」
「……ああ」

 おそらく俺は容疑者として疑われることだろう。遺書も用意したが、同じうちは一族ならば写輪眼で筆跡を真似することなど容易いとすぐにわかる。

 だが、決定的な証拠さえ、物的証拠さえ掴ませなければいい。
 どうせ俺は近いうちに、どういう形であれ里抜けすることが決まっているのだから。
 
 
 ――翌日、身投げした乖原セツカの水死体が発見された。

 死体に外傷はなく、遺書が見つかったことから自殺と断定される。彼を知る人々は有り得ないと口をそろえて言うものの、表向きはこの事件の捜査は打ち切られた。
 ただ、一族内からは俺を疑う声が数多く出ているようだ。事実、シスイが俺の監視をはじめた。しかしあんな杜撰なやり方でばれていないとでも思っているのだろうか……。

 
〈イタチ Side Out〉


――――――――――
 後書き
 どうもお久しぶりですごめんなさい。感想掲示板で定期更新を宣言した翌日からパソコンが使えなくなった馬鹿です。
 受験なんて……受験なんて……! ええそうです、この小説書いてるのはぶっちゃけ現実逃避ですねHAHAHA。けどもう十月間近、お前いいかげんにしろよと。
 えーっと、まあそんな感じで、大変勝手ながら今後の更新速度はこれまで以上に亀になります。ほんとすいません!
 また、板をチラ裏に移動しようかなーとも思っています。
 理由ですが、以前に文章量の少なさからチラ裏に行くことを勧められたのですが、その時はまだストックが五話分ほど残っており、更新速度で補えばいいじゃんと思っていたのですが、上記の身勝手な理由でそれが不可能になったためであります。
 急に移動すると削除したようにも見えるので、移動は次回の更新時にしようと思っています。




[21048] 第十四話・第十五話
Name: 伊月◆2b079c92 ID:20af7cd6
Date: 2010/11/13 22:49



 
 第十四話「嬲られて興奮する趣味もない」



 
 ぎゃああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁいってええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ―――――――――――っっ!!

 ちょっ、まっ、助けて、いやホント助けて! 苦しい、苦しすぎる、テメェこら一体何の毒使いやがった!? 体が痺れて動けないと思ったら、今度は全身に激痛がっ! しかも叫べない、こういうのは内側に溜め込んで我慢するほうが辛いというのに! いや大声出されると困るからなんだろうけどさあ!

 苦しすぎるわっ! いっそ一思いに殺せよ! それがせめてもの優しさってもんだろうが!! 同じ毒使うならもっと穏やかに眠るように死なせろっ、動けない友人に激痛をプレゼントってどんな神経しとんじゃこらああああああああああああ!

 次会ったとき覚えてろよイタチこの野郎おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ――――!!
 
 


 ――という「分身体の経験」を、俺は短冊街のとある宿とある部屋の中で受け取った。
 
 


 それはもう見事に、どういう風に呼び出されたか、どんな攻防の後どのような手段で殺されたか、そして死ぬときにどんな苦しみを味わったかまで全て。

「……………………………………」

 へんじはない、ただのしかばねのようだ……じゃなくて。

 ええと。
 うん。
 その。
 なんだ。

 ……回想スタート。


 ことの始まりは、今から五年前に遡る。

 第一の死亡フラグ・九尾襲来を乗り切り、里も自分もある程度落ち着いてきた頃、その忍務はきた。

「死ねよ糞爺」
「ふぉ!?」
「あ、間違えました。つい本音が。ええと、改めて、死んでくださいませんか三代目」
「本音て、というか改めた内容も全く変わっとらんし、おぬし今までの丁寧な態度はどこに行ったんじゃ!?」


 んなもんこの忍務を受け取った瞬間に旅立ちましたよ。

 目の前の猿から受け取った紙には短くこう書いてあった。


『里抜けした大蛇丸が残していった研究施設の調査』

 ざけんな。

 そりゃあ確かに、俺の暗部での活動は戦闘ではなくその補助、前にも言ったが毒などの研究分野である。それで給料をもらっているのだから、ある意味その調査班のメンバーに俺が加わるのは当然と言えるのだが……。

 理屈はともかく、感情で納得できないものってのがある。
 あのさ、俺あいつに関わる気は皆無って言ったよね。第九話(なんのことだろうね?)あたりで。なのに調査? ふ・ざ・け・ん・な! あのオカマに間接的にしろ関わってたまるかっ!
 そんなことを思っていた時期が、俺にもありました。

 具体的に言うと、渋々ながら研究所に向かって、置いてあった巻物を手に取るまでの間。

「不覚……思わずあの蛇野郎に尊敬の念を抱いてしまったぜ……」

 あんなオカマに、あんなオカマにっ、口からゲロゲロと出てくる変態に! ちくしょうっ、でも凄いよあんた! 人間性は終わってるけど、すげえよ!

 彼の研究内容は、外道。その一言に尽きる。しかし同時に素晴らしいものでもあった。
 被害にあったヤマト(別名テンゾウ、当時十歳)ら子供たちには悪いが、大蛇丸はまさしく天才だった。

 科学の進歩にモラルは不必要、倫理観という名の足枷はその発展を鈍らせる――完全に割り切ることはできないが、そういった目で見てみると、ちょっとした走り書きやメモの切れ端などからもその才覚を感じられる。

 着眼点が違うとでも言うのだろうか、彼が正しい方向に目を向けていれば木の葉の忍術は著しい発展を遂げていたと断言できる。

 特に俺の興味を引いたのは肉体の複製――クローンの作成方法。これは新しい生命という意味ではなく、肉体だけ同じものをつくるだけだが、それでも。

 凄いぜ大蛇丸。凄いぜ謎物質チャクラ。つか思うに、この世界では頭にチャクラとつけてれば何でも有りなのではないだろうか?

 ……いや、その辺は考えるだけ野暮ってもんか。漫画の世界で常識とか語っても空しいだけだ、うん。特にNARUTOは。

 さて。それが本当に可能なのかはともかく、何故そんなものを造るのか。実験結果のまとめは暗号化こそされていないものの重要な単語は意図的に避けられていたため、他の調査班の面々には分からなかったようだが、原作知識を持つ俺にはわかった。

 転生の儀。

 これは自らの全盛期の肉体を作り出し、それに転生する。そういう目的だったようだ。まとめによると作成した肉は一定時間経過後に急速に崩れ始めてしまうらしく、途中で断念したみたいだが……。

 ――これは使える。

 思い浮かべたのは、五年後に起こるであろうイタチとの対決。
 死なないためにはどうすればいいのだろうか? ずっと前から考えていたことだが、未だ現実的な解決策は見つけられていない。

 相手はうちはだから、下手に絶交なんてすると大問題になってしまう可能性がある。徐々に距離をとろうにも、イタチはやたら俺に懐く。

 じゃあ殺される前に逃げれば? イタチはともかくマダラが草の根分けて捜すだろうし、木の葉からも抜け忍として追われる。バッドエンド。

 殺られる前に殺れ! Let‘s 暗殺。はい無理、成功したとしても捕まって牢屋に。バッドエンド。呼び出されたとき返り討ちにすれば正当防衛を主張できるかもしれないが、たぶんその場にはマダラもいるのでやっぱり無理。死亡。バッドエンド。

 三十六計逃げるに如かず……あの、逃げることもできない場合、どうすれば? まさに手詰まり。

 しかし、大蛇丸が残したクローンの作り方を見て、俺はある策を思いついた。
 題して、「絶交も逃亡も暗殺も駄目なら諦めて殺されちゃえばいいじゃない」大・作・戦!

 ……とりあえず自分のネーミングセンスのなさに絶望した。つか長い。

 まあそれはどうでもいい。

 殺されるとは言っても、本当に俺が死ぬわけではない。身代わりを用意するのだ。
 要するに、イタチらに乖原セツカは死んだのだと思わせればいい。重要なのは認識。万華鏡写輪眼の開眼に、殺した「友」の死体を使ってどうこうという描写はなかったから、殺したという認識さえあれば高確率で開眼すると俺は踏んでいる。そして開いてしまえば、もう俺を殺す必要はない。

 影分身では攻撃を受けた途端消えてしまう。
 幻術ではどうやっても違和感が残る。月読ならあるいはとも思うが、あれは現実時間では一瞬で終わるしなにより俺には使えない。
 薬師カブトのように死体を加工する? いや、鼓動もない操り人形ではイタチの目を誤魔化すことはできない。

 しかし、だ。

 イタチの、そして写輪眼の前では生半可な偽装は意味をなさないとはいえ、遺伝子レベルで同一なものをはたして異なると見破れるだろうか。

 答えは否! むしろ写輪眼どころか輪廻眼でも騙せるんじゃね? あれだってナルトの影分身は見破れるのに変化は駄目という微妙さだし。

 俺はこの計画を採用することを決めた。

 大蛇丸の研究に興味を示すというのは、ひいては禁術に興味があると捉えられる可能性があるため、俺はこのクローンの作成方法の書かれた紙を秘密裏に持ち出した(良い子は真似しないようにね☆)。
 なあに、この調査の目的は「使えるもの探し」だから(え、矛盾してるって? はっ、組織なんてそんなもんだって)、失敗作について書かれたものになんて誰も注目していない。簡単に盗み出せた。

 ここから三年かけて、俺は肉体崩壊の原因(分子結合の甘さだった)を現代知識で消し去り、その複製された肉体(完成形)と影分身の術を合わせ、新しい分身の術を作り出すことに成功する。ベースは大蛇丸がほとんど作っていてくれたから、俺はそこに少々(といっても三年かかった訳だが)手を加えるだけでよかった。

 心臓を脈動させ怪我をすれば流血するように、そしてチャクラを分け与えて術を使えるようにした。これを偽者と見破るのは白眼だろうと写輪眼だろうと不可能! たぶん!

 とりあえず実験として分身体に師匠との鍛錬に出させてみたところ、白眼の発動中でもついに見破られることはなかった。

 それをもって、俺はこの新・分身の術(手抜き? 何とでも言え。俺のネーミングセンスだと肉分身とかになるぞ)が完成したと判断し、暗部の仕事で里外に出た際、本体と入れ替えて分身体を帰還させた。

 ついでに二十体ほど影分身を送り込み(こういうとき血継限界に感謝だ。生まれつきのチャクラ量だと二、三体が限界。ナルトは軽々とやってるけど、消費チャクラ量が半端ないんだぜこの術)、分身体が消えると同時に術者に経験を送信する性質を利用して、一ヶ月に一体のペースで消して日常を報告させていた。
 しかも俺は万が一を考え、このためだけに実力の偽装をしてきた。そんな高度な術を使えるとは夢にも思うまい。多少の不自然さなら自分で理由をつけて納得してしまうはずだ。
 
 
 ――――回想終了、今に至る。というわけであります。

「…………………………」

 あー、俺がこうやって倒れている理由? それはさ、最初にも言ったけど、分身体が味わった「痛み」や「死の経験」までが伝わってきちゃったからさっ。

 ふふふ、この新・分身の術はね、俺の普段の総チャクラ量のおよそ八割を消費するというとんでもない代物なのだよ。ほら、せっかく肉体が同じでも、チャクラ量がいきなり激減していたら不自然だろう? 血継限界でチャクラ増やすのも限界があるからね。

 で、それだけチャクラを使うとなると、比例して分身体との繋がりも深くなるわけよ。影分身はそこらへん上手く作ってあるんだけどね、新・分身の術は分身体が経験した「全て」が術者に返ってくるのさ。

 ほら、今日は俺「……」しか台詞ないだろ? てか台詞ですらないだろ? 浅く切られた首筋はみみず腫れになって、蹴られた腹部には鈍痛が残って、毒なんて入っているはずがないのに体が痺れて動かないのだよ。HAHAHA。

 精神が肉体に及ぼす影響というのは馬鹿にできない。腕を切られたと錯覚すれば、肉体的損傷がなくとも腕が動かなくなることもあるという。

 そのせいか痛みで意識が朦朧としてね、さっきから心の中で居もしない誰かと会話してるような口調になってるんだぜ。ああ、どっかから説明乙とかいう幻聴が……。

 ……重症だ。

 もう寝よう。ぐっすり眠れば、幻痛も幻聴もきっと治るさ。うん、そうに違いない。
 おやすみ。
 
 
 ――幻聴はともかく、幻痛はこの後丸三日間にわたって俺を苦しめ続け、やっと立ち歩けるようになるまで回復するもしばらくは生まれたての子鹿-可愛らしさ=俺という方程式が続くことを、このときの俺はまだ知らない。


 
 
 第十五話「やったぜこれで死亡フラグは完全回避!」


 
 
 考えた末、ヒアシ師匠にだけは俺が生きていることを伝えることにした。

 まだ十数体残っている報告用影分身を使い、詳しい事情は伏せつつ、狙われているためしばらく身を隠すこと、修行は一人でも続けること、制裁は帰った後受けること、それと俺が生きていることは誰にも言わないで欲しいことを伝える。

 話をしたときの反応は予想通りのものだった。簡単にまとめると、日向の力で守ってやるから帰ってこいと。

 確かに、うちはと並ぶ名家、木の葉の双璧なわけだから、その庇護の下ならば大抵のことは何とかなるだろう。しかし今回は数少ない例外、うちはマダラが関わっている以上その申し出を受けるわけにはいかなかった。
 日向の実力は身を持って知っているが、相手はあまりにも未知。
 頑として断り、三時間ほど押し問答を続けた末、師匠は渋々ながら了承してくれてその後互いの近況報告などをしてから影分身を消した。

 いや、ほんと便利だね影分身。遠く離れたところからでも、新しく影分身を一体作ってすぐ消せば、全員に経験が行き届くから簡単に指示が出せる。

 最近は血継限界をある程度扱えるようになってきて、より多くのチャクラを練れるようになった。これからますます影分身は活躍していくだろう。

 また、外から身体エネルギーを吸い取る機会が増えたことによって、それに伴い肉体改造も進んでいるようだ。

 俺が外から取り込んだ身体エネルギーは、使わずに余らせておくと、チャクラを練るときとは逆に細胞の一つ一つへと流れ込んでいく。しかし、一つの細胞にある身体エネルギーの量は決まっているため、戦闘時で自分のを使っているならともかくそうでない場合は、すでに水の満ちたコップにさらに注ぎ込もうとするようなものである。
 それでもエネルギーを使わずに溜め込んでいると、人間の環境適応力というやつがその状態でも問題がないように肉体を変化させようとする。先の例えに沿うと、コップを大きくするのだ。

 これが乖原流肉体改造。お手軽なようだが、エネルギーを溜め込む=破壊・殺戮衝動が強くなるなので、かなりの精神集中が必要とされる。簡単な理屈とは裏腹にとても危険な修行だ。やると決めたら丸一日瞑想デス。

「一度理性が崩壊すると何やっても戻らないらしいしねー」

 究極的には動物や植物からも奪い取れるらしいので、暴走した乖原は鬼鮫と同じ尾のない尾獣である。俺が修行してるとき近くにいる皆さん、暴走しちゃったらごめんねっ☆
 ナルトに対する初代火影の木遁みたく対抗策はあるんだけどね、いかんせん発現した個体が少ないので不安が残るのだ。

「ま、たちの悪い冗談はともかく、いい加減真面目に今後の身の振り方について考えないとな」

 悪い癖で、迷走しかけていた思考を元に戻す。

 とりあえず里のことは影分身と師匠に任せるとして……少なくとも俺は、イタチが虐殺事件を起こして里抜けする二年後まではこっそりと(誰も追ってこないが)抜け忍やってなきゃならんわけだ。

 木の葉隠れの里にはそれなりに愛着があるし、できれば帰りたいと思う。

 ちなみに、帰っても居場所がないんじゃ……という問題はクリアできる。
 どこにでも裏世界というのはあって、そこの住人を頼れば戸籍の偽造なんて朝飯前だ。俺は書類上では死人なので、変化で別人に成りすます必要はあるがただ住むだけなら何の問題もない。

 なお、どうせ変化するなら今から里に居ても良いのでは、という案は、それでも可能な限り危険を減らしたいため却下。油断は禁物だ。

 ん? そういえば来年には原作主要キャラたちがアカデミー入りするのか……せっかく新しい立ち位置は自由に選べるんだから、これに混じるのもいいかもしれないな。

 上手く立ち回ればより近くで原作を体験できる。それに下手に物語の主軸から距離をとると、俺という存在がどこまでズレを生み出しているか分からなくなり逆に危険かもしれない。ちょいちょいと細かいところで原作介入しちゃってるからね。

 いつもの方法で影分身に指示を出す。貯金崩していいから戦災孤児(五歳)の戸籍を一つ作成、その後適当な姿に変化し、来年にはアカデミーに入学せよ。いくら影分身が消えやすいとはいえアカデミー生の組み手に耐えられないほどではない、技術的には大丈夫だ。

 適当な時期になったら入れ替わるとしよう。

「とりあえず七年後までに帰還は確定っと。さすがに上忍との演習で無傷でいられる自信はないね」

 なんでも俺が例の事件を起こした後、演習場に事前に罠を仕掛けることは禁止されたらしい。
 なのでどうしても直接戦闘になる。攻撃したら影分身、そして彼は行方不明……怪奇事件だ。

「里での新しい居場所は確保……なら、本体は逆に、里の外でしかできない体験をしておくべきじゃないか? 例えば旅してみるとか、リスクはあるが他里で忍術の勉強するとか……あ」

 忍術の勉強、で思い出した。そうだよ、あの人は今里の外にいるはずだ。
 何も危険を置かして他里にまで行かなくてもいいではないか。そもそも俺の専門は医療忍術であって、それなら最高の先生が木の葉には居る。

 伝説の三人の一人、綱手。

 原作ではちょうど今俺の居る短冊街にいたが、さすがに七年も動いていないわけがないから居るとしたら別のところだろう。とりあえず賭け場の多い場所を虱潰しで行けば見つかるか……?

 どうせ時間は有り余っている。綱手探しに旅に出てみるのもいいかもしれない。

 見つけたとして弟子にしてもらえるかどうかは分からないが、まあそれはそのとき、実際に見つけてから考えればいいことだ。原作キャラと会うということだけでも、十分動機にはなる。

 うん、決めた。

 俺は少ない荷物をまとめると、さっそく伝説のカモを捜しに行くべく宿を去った。


 
 
「あなた、なかなか面白いわねえ」

 フウンナメクジを探しに出たらオカマヘビに会った。何故。



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