2010年9月18日 21時7分 更新:9月18日 21時15分
【北京・成沢健一、上海・鈴木玲子】中国各地で18日、満州事変(1931年)の発端となった柳条湖事件から79年を迎えたのに合わせ、尖閣諸島(中国名・釣魚島)付近での日本の巡視船と中国の漁船の衝突事件に対する抗議行動が行われた。05年春の反日デモのような混乱はなく、一定程度の抗議行動を許容しながらも制御不能な状態に陥ることを防ぐ当局の封じ込め策が功を奏したようだ。
「もういいだろう」。上海の日本総領事館近くで若者ら数十人が抗議行動を始めてから2時間近くたった時、100人近い警官隊がこう呼びかけながら参加者の排除を始めた。反抗する参加者もおり、数人が拘束されたが、抗議は収束した。
北京の日本大使館前でもこの日午前、ネットでの告知を見た若者ら数十人が「船長を返せ」などと叫んだが、当局は二重の警戒線を敷き、迷彩服の武装警察まで出動して市民が合流するのを防いだ。その後、警戒線をかいくぐった市民が合流して約100人が街頭に出たが、05年春の反日デモのように数万人規模になることはなかった。午後には、尖閣諸島の領有権を主張する活動家グループ数十人が大使館前での抗議活動を行った。
遼寧省瀋陽や広東省深センでも小規模な抗議行動やデモがあったが、いずれも短時間で解散した。
中国政府は衝突事件後、日本に対しては強硬姿勢を崩していないが、抗議行動の激化には神経をとがらせてきた。この日も、インターネット上の抗議行動の呼び掛けはほとんどが削除され、反日団体のサイトも接続できない状態が続いており、当局が規制している模様だ。中央テレビは柳条湖事件79年に関連した各地の行事は紹介しているが、衝突事件に関連した抗議行動は報じていない。
当局がデモの過激化を警戒するのにはいくつかの理由があるとみられる。
まず、外交交渉で守勢に立たされることを防ぐ狙いがある。05年には暴徒化したデモ参加者の投石で上海の日本総領事館の一部が破壊され、中国側が修理費を負担した。対日批判の急先鋒(せんぽう)になっている中国紙「環球時報」は17日の社説で「日本人への暴力行為は弱みを握られることになる」と指摘、「秩序ある抗議は中国社会が05年よりも成熟したことを示すことになる」と訴えた。
上海万博の開催中であるほか、11月には広東省広州でアジア大会が開かれることも考慮されているようだ。中国の国際的なイメージダウンは避けなければならず、18日も万博会場の日本館などでは警備が強化された。
さらに、「住宅価格の高騰や深刻な汚職に対する市民の不満は05年よりも大きい」(中国筋)。安定重視の胡錦濤指導部が、反日デモの拡大で社会不安が増すことがないように細心の注意を払っていることは確実だ。