2010年9月16日 21時49分 更新:9月17日 1時41分
政府・日銀が15日に実施した円売り介入の総額が1兆8000億円前後であることが16日、日銀の当座預金残高見通しで分かった。日銀は介入で出回った円資金を放置(非不胎化)することを決定。金融緩和に意欲的な姿勢をアピールする。だが、与党内では「非不胎化での資金増は一時的。円高対策には一層の金融緩和が必要」との声が早くも出始めた。一方、米議会からは「日本の介入が中国の人民元改革を遅らせる」との不満が噴出。内外からの批判で、政府・日銀が難しい対応を迫られる場面も出てきそうだ。
政府は17日、今回の円売り介入に使ったドル買いの代金を金融機関に支払う。日銀によると、同日の当座預金残高は前日比2兆円増える見通し。うち1兆8000億円前後が介入資金とみられる。
中央銀行は伝統的に介入に伴って市場の資金が増え過ぎると、オペ(公開市場操作)で介入資金を市場から吸い上げる「不胎化」を実施してきた。政策金利(無担保コール翌日物)が、日銀の設定している誘導目標値(現行年0・1%)を下回る恐れがあるためだ。しかし、総額約33兆円にのぼる円売り介入を実施した03年5月以降、日銀は資金を吸収しない「非不胎化」介入を本格化させる。当時、実施していた量的緩和政策とともに、「市場のお金を増やし、金融緩和効果を高める」ことを市場に示す狙いがあったとみられる。
ただ、今回の非不胎化について、金融市場では「金利低下などの実体的な効果は乏しい」との冷めた見方が多い。政府は日銀に、短期国債(満期3カ月程度)を引き受けてもらい、介入資金を調達。市場で短期国債を発行するなどして資金を集め、日銀に返済する。市場に一時的に放出された介入資金のほとんどは、政府に吸収されてしまうため「資金増は短期的なもので、心理的効果しかない」(短資会社)。
とはいえ、外為市場は常に「日銀の姿勢」を注視しており、日銀も「介入による資金供給増」のアナウンスメント効果をできるだけ高めたい考えで、白川方明(まさあき)総裁は15日の介入後、「強力な金融緩和を推進し、潤沢な資金供給を行う」との談話を発表した。
一方、民主党議員約150人で作るデフレ脱却議連は16日、「介入だけでは効果は一時的にとどまる」として、日銀に大規模な金融緩和を求める声明を発表した。相場次第で日銀に「次の一手」を迫る声が高まる可能性もある。【坂井隆之、清水憲司】
政府が円売り介入すると市場に出回る円資金が増えるが、これを日銀のオペ(公開市場操作)で回収せず、そのまま放置すること。金利低下など金融緩和と同じ効果があり、景気刺激につながるとされる。金利などへの影響をできるだけ小さくするため、介入で放出された資金を日銀がオペで回収することを「不胎化」という。