中国漁船衝突事件にロシア大統領の北方領土訪問と、中ロの強硬姿勢に振り回される民主党外交。その対応が厳しく問われている菅直人首相が、背水の舞台を迎えた。
横浜できのうアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が始まった。それに合わせて予定されていた日米、日ロの首脳会談に加え、急きょ日中の首脳会談が実現した。
中国の胡錦濤国家主席との会談は、日ロ会談の前に割り込ませる形でわずか22分間。それでも、トップ同士の正式な会談が開けない異常事態がひとまず解消されたと言えよう。
事件をめぐる中国政府の激烈な反応の背景には、国内での強硬派の台頭や反日感情の高まりが指摘されている。戦略的互恵関係という原点に立ち返るには、両国首脳が難題を乗り越えて進む決意をそれぞれの国民に示すことが第一歩となる。
主張すべきは主張し、信頼関係をどう回復するか。いったん合意した東シナ海のガス田共同開発の実現が試金石だが、道のりは平たんではないだろう。中国政府内の政策決定の行方を注意深く見守る必要がある。
一連の首脳外交に臨むに当たり、菅首相は日米同盟を基軸に中国などとの関係修復を図るという考え方を基本に据えた。鳩山政権時代に米軍普天間飛行場の移設問題で日米間にすきま風が生じ、中ロとの国境をめぐる問題を招いたとの見方を踏まえてのことだろう。
オバマ大統領との日米首脳会談では、尖閣諸島周辺を含めて海洋進出の動きを強める中国をにらみ、同盟関係の「深化」で一致した。
日ロ首脳会談で菅首相はメドべージェフ大統領の国後島訪問に抗議。その上で、領土問題を解決して平和条約を締結したいとの意欲を伝えたという。経済協力を進める考えも示したが、領土問題の仕切り直しにつながるかは未知数だ。
民主党政権は外交経験の不足やパイプの細さも指摘される。鳩山由紀夫前首相が東アジア共同体構想を唱え、「米国抜きか」との疑念を招いたシンガポールAPECからまだ1年。国際情勢の変化があるにせよ、ブレの大きさが気にかかる。
外交立て直しには、的確な情報分析とともに、その場しのぎでない大局的なビジョンを打ち出さねばなるまい。APECに集うアジア、太平洋地域の各国の信頼を得るためにも欠かせないことである。
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