ロシア皇帝アレクサンドル1世と、ウィーンの手袋店の娘クリステル。2人の逢瀬(おうせ)を甘美な映像で描くオペレッタ映画「会議は踊る」は、華麗な舞踏会と別離のシーンが印象的な作品だ▲
時はナポレオン失脚後、ヨーロッパの秩序を再建する「ウィーン会議」の真っ最中。長引く会議をやゆした論評が「会議は踊る、されど進まず」。各国の主張と利害が対立し着地点は一向に見えない▲
会議を縦軸に、サイドストーリーとして皇帝と庶民の娘の恋愛を描いた映画は、痛烈な皮肉とも受け取れる。利己主義に走り、自国の利益を最優先し、可能な限り多くの領土を手に入れたい各国の思惑に、庶民はうんざり▲
あれから1世紀。今もどこかで国際会議。恣意(しい)的な国々が集い、庶民感覚からかけ離れた議論を行う実態は同じ。繰り返される歴史に、自然とクリステルの思いを重ねてしまう▲
アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が始まった。首脳宣言の内容は各国承知済み。成長戦略、貧困削減や食糧不足への対応も盛り込んだ。当時のウィーンにはなかった予定調和。が、会議の本質ではあるまい▲
むしろ会議の合間に行われる、筋書きのない首脳会談にこそ注目したい。日米、日ロ、そして日中会談。儀礼の範囲をちょっぴり超えてでも真剣勝負をしなければ、「されど進まず」状態になりますよ、菅直人首相。