中国、ロシアからの攻勢圧力に吹き寄せられる形で、対米関係の一層の強化に踏み込もうとしている−。そんな印象を受ける。
アジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせて、菅直人首相とオバマ米大統領の会談が行われた。
菅内閣が発足して以来、大統領との会談は3回目だ。この間に尖閣諸島付近で中国漁船の衝突事件が起き、対中関係が悪化した。そこに乗じるかのように、ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土の国後島を訪問した。
会談で首相は、対中、対ロの問題で米政府が日本を支持したことへの謝礼を述べた。米国の支持表明がなければ、首相は今よりもっと苦しい立場に立たされていたはずだ。謝意にはさぞ実感がこもっていたことだろう。
大統領には大統領の事情があった。中間選挙で与党が敗北し、議会を中心に対中強硬論が広がる可能性が高まった。軍事、経済両面で中国を牽制(けんせい)する上で、日本の重要性は増している。
「日本を防衛する米国の決意は揺るがない」。会談で大統領は述べた。先月末にはクリントン国務長官がハノイで、尖閣諸島は日米安全保障条約の適用対象だとはっきり述べた。
力を増す中国を念頭に、日米がそれぞれ関係の密接さをアピールする形になっている。
ただし両国の関係がこのまま、菅首相の期待する通りスムーズに展開していくとは考えにくい。沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題を打開する見通しがまったく開けていないからだ。
沖縄県知事選挙の投票が28日に迫っている。有力候補の現職、新人二人はいずれも、日本政府が目指す名護市辺野古崎地区への移設の可能性を否定している。どちらが知事になっても移設問題の先行きは厳しい。
日米政府は今度の会談に合わせ、日米安全保障条約に関する新しい共同声明の発表を目指したものの、最終的に断念した。菅政権としてみれば、中国、ロシア、普天間など目先の問題に対処するのが精いっぱいで、共同声明どころではない、というのが正直なところだろう。
今度の会談は、菅外交の足元がぐらついていることをあらためて浮き彫りにした。北朝鮮の核や拉致の問題も素通りされた。
難しい時代である。米国に寄り添うだけでは確かな針路は開けない。外交をどう立て直すか、首相の力量が問われている。