西日本新聞

首脳会談 話しただけで「前進」とは

2010年11月14日 10:51 カテゴリー:コラム > 社説

 22分という時間は、正式会談としてはいかにも短い。日本側にしてみれば、今回は会談にこぎ着けたことだけでも成功、と言いたいのかもしれないが。

 菅直人首相は13日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が行われている横浜市で、米国のオバマ大統領、中国の胡錦濤主席、ロシアのメドベージェフ大統領と相次いで個別に会談した。

 中国との間で尖閣諸島問題、ロシアとは北方領土問題がそれぞれ顕在化する中で、日本が同盟国の米国も含めた米中ロ3カ国との関係をどう構築するか、菅政権の外交力が問われた一日だった。

 この中で最も注目されたのは、胡主席との日中首脳会談が実現するかどうかであった。この日夕に中国側がようやく応じる姿勢を示し、両首脳は午後5時すぎから約20分間、会談した。

 会談では、菅首相が尖閣諸島について「日本の確固たる立場について発言した」(日本側の説明)という。胡主席も「中国の立場について表明」(同)し、従来通り、双方が領有権を主張したようだ。同時に両首脳は、日中両国の「戦略的互恵関係」の重要性を確認し、政府間と民間の交流促進で合意した。

 段階的な関係修復を前提に、双方の首脳がそれぞれの役割を慎重に演じた、という印象だが、今回の合意内容は先日のブリュッセルでの菅首相と温家宝首相との会談の域を出ていない。

 会談冒頭の握手の場面でさえ、胡主席は硬い表情を崩さなかった。国内の反日世論を意識し、まだ日本に笑顔を見せるシーンが流れてはまずい、という判断が働いたのであろう。

 メドベージェフ大統領との日ロ首脳会談も、ほぼ同じ展開となった。菅首相が大統領の国後島訪問について「わが国の立場や国民感情からして受け入れられない」と抗議したのに対し、大統領は「国後島はロシアの領土だ」と突っぱねつつ、「経済分野で協力を発展させることで、両国の雰囲気を改善していこう」との認識を示したという。

 一方、オバマ大統領との会談で、菅首相は「このたび日本と中国、ロシアとの間で起こった問題で、日本を支持してくれたことをうれしく思う」と謝意を示した。大統領も「中国は国際社会の一員として、国際的なルールの中で適切な役割と言動が必要だ」と応じ、対中国の認識を日本と共有する姿勢を示した。

 菅首相は一連の会談で、緊密な日米関係をテコに、中国、ロシアとの関係を動かそうという戦略を見せた。その基本姿勢に間違いはない。だが、いつも米国頼りでは主体的な外交は展開できない。

 中国、ロシアとも、APECを逃せばしばらく関係修復の機会がないだけに、日本政府は「会談という形になっただけでも大きな前進」(政府高官)としている。その気持ちも分からないではない。しかし、やはり、会談「実現」がニュースの焦点となるようでは困る。


=2010/11/14付 西日本新聞朝刊=

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