「ノーベル平和賞受賞者世界サミット」は13日も「核兵器なき世界」への道筋を巡り、受賞者らによる活発な討議が続いた。会場の南区のホテルに置かれた折り鶴のモニュメントには、受賞者や傍聴者らが平和へのメッセージを思い思いに書き込んでいた。【加藤小夜、寺岡俊、岡奈津希】
2日目は「核兵器のない世界に向けての進展」「核兵器使用が与える影響」「核兵器が持つ法的、倫理的、経済的意味合い」の三つの会議があった。夕方には非公開の討議で、14日に平和記念公園で発表される最終宣言について話し合われた。夜にはクルーズ船で広島湾を巡り、世界遺産・厳島神社の大鳥居などを見学した。
モニュメントの鶴は一抱えもあり、広島市内の大学生約20人が制作した。木枠に白い合成紙を張り、メッセージを書き込めるようにした。チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世は「世界平和は一人一人の心が生むもの」とチベット語でつづった。北アイルランドの平和活動家、マグワイア氏は「Peace」、天安門事件の元学生指導者、ウアルカイシ氏は「世界共同的理想」と記した。
制作にかかわった広島女学院大1年の有松千裕さん(19)は「いろいろな国の平和を思う人が、たくさん書き込んでくれた」と喜んだ。折り鶴をつくるコーナーで、参加者に折り方を教えていた広島経済大3年、河本航さん(20)は「一緒に折ることで、平和を願う気持ちを共有したい」と話していた。
サミット会場の傍聴席には、広島の被爆者や平和団体のメンバーらが訪れ、平和な世界を築くリーダーたちの発言に勇気づけられている。昨年の受賞者で、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で来日したオバマ米大統領はサミットを欠席したが、「原爆投下国の責任として被爆地訪問を」と求める声が聞かれる。
「生きている間に核兵器のない世界を見たい」。26歳の時に被爆し、原爆犠牲者の慰霊碑に献水を続けている宇根利枝さん(92)=南区=は、手押し車で初日の会議を傍聴した。オバマ大統領の欠席を残念に思う。「米国には原爆を落とした責任があり、オバマ大統領には出席してほしかった。当時の写真や被爆者の証言を通し、何もかもを壊した原爆の現実を知ってほしかった」と語った。
「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」共同代表の森滝春子さん(71)は、核抑止論に頼ること自体が犯罪と指摘したり、市民が力を合わせて国家を動かすよう呼び掛けた平和運動家らの発言に「感動した」と言う。「行動を伴う闘いをしてきた人たちの言葉は力強く感動した。オバマ大統領は広島に来るべきだ」と求めた。
サミット最終日には「平和サミット特別賞」が、日本被団協に贈られる。代表委員を務める坪井直さん(85)=県被団協理事長=は「核兵器廃絶への流れがメーンストリームになりつつある。この流れを止めてはいけない」と力を込めた。
毎日新聞 2010年11月14日 地方版