『アメリカ帝国はイランで墓穴を掘る』 桜井春彦 (洋泉社)
テロ支援国家というよりテロ国家・アメリカの活動履歴が中東を中心に記述されている。
中東諸国は、石油を産出するが故に、油田を開発した欧米企業と産油国の間で、やがてその巨額の利権をめぐって争いが生ずるようになる。その過程で武器の売買が行われ紛争が起き、インフラを破壊し再建する。この様な事が数年間隔で何度でも繰り返されるのである。 つまり、そもそもからして宗教問題を内包しつつ石油を産出する中東は、石油産業、軍需産業、建設産業にとって、格好の草刈り場としてこの上なく有用な地域なのである。だからこそ、定期的な紛争勃発指定地域として長年機能しているのである。
【イランと英米の関わり】
1904年から油田開発を行っていたイギリスの「コンセッションズ・シンジケート」 は
石油の利権は、英・単独 → イラン → 英米・分有 と変化している。1909年に名称を 「APOC(アングロ・ペルシャ石油)」 へ変更、さらに 1935年には 「AIOC(アングロ・イラニアン石油)」 へ名称を変えている。 この間、石油の利権はイギリスの巨大資本とイランの王族が独占し、イラン国民はその恩恵に浴することができなかった。こうした国民の不満を背景にして、 1951年3月にイラン議会はAIOCの国有化を決める。その翌月、首相に選ばれたのがモハメド・モザテクだ。(p.68) 1953年8月、アメリカのCIAが仕組んだ作戦によってモザテク政権が倒された。 1954年、AIOCは 「BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)」 へ社命が変更された。(p.69) 1957年、イランでは反対派を抹殺するため、秘密警察のSAVAK(情報安全保障国家機構)が創設されている。(p.160) 1979年1月16日、親米西洋化路線を推し進めてきたイランのムハマド・レサ・パーレビ国王が王妃とともに国外へ脱出した。2月1日には反体制派の象徴でフランスに亡命していたシーア派の指導者アヤトラ・ホメイニが帰国し、「イラン・イスラム革命」 は成功した。 こうした事態にチェース・マンハッタン銀行のデイビッド・ロックフェラーは激怒すると同時に、狼狽する。なにしろパーレビ国王はこの銀行の 「超大口預金者」 だからだ。(p.170) 英米は、互いに競って単独利権を争うこともあれば、 《参照》 『歴史に学ぶ智恵 時代を見通す力』 副島隆彦 (PHP研究所) 【アメリカの触手】 共同でテロを画策することもある。 9・11の自作自演テロ など、まだ崩壊していないビルが背景に写っているのに、そのビルも崩壊したと、BBCのメディアは報じていたのだから、完全に英米はタッグである。
【テロ国家・アメリカを告発したイタリア、匿(かくま)う日本】
過去を振り返ると、敵になりすまして破壊工作を実行するという手法は、アメリカの得意技だということがわかる。
イタリアのアンドレオッティ首相は勇気があった。それに対して日本はどうか・・・その典型例がNATO(北大西洋条約機構)の秘密部隊が展開した 「緊張戦略」 だろう。 こうした秘密部隊の存在が表面化するのは1972年のことだが、1990年8月にはジュリオ・アンドレオッティ内閣が 「グラディオ」 という秘密部隊の存在を公的に確認し、10月には報告書を出している。イラクのクウェート侵攻から湾岸戦争という展開があった時期と重なるので注目度は低かったようだが、その重要度は湾岸戦争を上回る。何しろアメリカが 「テロ国家」 だということをイタリア政府が公的に認めたのである。(p.152)
グラディオが関係したと信じられている事件で終身刑の判決を受けた人物が現在、日本で暮らしている。
《参照》 『自然に生きて』 小倉寛太郎 (新日本出版社)イタリアで武器の不法所持で有罪判決を受けた前歴があるのにもかかわらず、日本の法務省は日本国籍を与えて、事実上の 「亡命」 を認めたのである。「テロ事件」 で有罪判決を受けた人物を日本政府は匿っている形だ。(p.152-153) 【大都市爆撃を指示した人物に勲一等瑞宝章!!!】 日本の政治って、最高にサイテーである。これでは、アメリカを 「テロ国家」 と言うならば、日本は 「テロ支援国家」 と言われても仕方がない。まあしかし、そんなことを言いだせば、世界中の先進国で 「テロ支援国家」 でない国など無くなってしまうだろう。戦後60数年間、直接武器を売るような事をしてこなかったのは、日本だけである。
【イスラエルとイラク】
CIAと協力関係にあったフセインだが、イスラエルやネオコンからは敵視され、彼らは1990年代にはフセインの排除を主張していた。(p.16)
イスラエルやネオコンの主張は、すでに実現している。イスラエルはヨルダンとトルコを仲間と認識し、両国の間に位置しているイラクのサダム・フセイン政権を倒して 「親イスラエル国家」 の帯を築けば、シリアを湾岸諸国と分断できると考えていた。(p.161)
【スンニ派・イラク vs シーア派・イラン】
マホメットの死後、後継者(カリフ)は全員で選んでいたのだが、第4代正当カリフのアリーが661年に暗殺され、彼と対立していたシリア総督のムアーウィアは自らがカリフと名乗り、ウマイヤ朝を開いている。このウマイヤ朝の正当性を否定する形で登場したのがシーア派である。現在イランで主流になっている宗派だ。
逆にウマイヤ朝を擁護する立場からイスラム法を体系化していった人々がスンニ派で、サウジアラビアなど多くの地域で信じられている。サダム・フセイン時代のイラクを支配していたグループがスンニ派で、シーア派を弾圧していた。 その対立関係がサダム後のイラクを不安定にしている一因だが、この対立を煽ることでイスラム内部の団結を防いでいる勢力も存在すようだ。(p.132)
【イスラエルとイラン】
モサドとSAVAKとの関係が続く一方、イランはイスラエルにとって重要な武器輸出先になる。(p.161)
イランのアフマディネジャド大統領の軍拡路線が、最近頻繁に日本のテレビに流れているけれど、イスラエルサイド欧米パワーエリートの使いっぱしりとなっている日本のメディアが忠実に従っているのである。イスラエルがイランと最初の大きな武器取引を成立させたのは1966年のことである。その後、イランはイスラエルから年間5億ドルの武器を購入する 「上得意」 になり、1977年には10億ドル規模の武器と石油の取引を行っている。しかも、これには核弾頭を搭載できる地対地ミサイルの建設プロジェクトが含まれていた。 隣国のイラクがソ連からスカッド・ミサイルを購入したことに対抗して、イランはアメリカからランス・ミサイルを入手しようとしたのだが拒否され、イスラエルにミサイル開発の話を持ちかけたのだという。(p.170-171) イランはイスラエルに武器の代金を支払い、イスラエルはアメリカ側がヨーロッパに持つ複数の口座へ分散して振り込むことになる。(p.203) イラン軍拡の先にあるのが、シリアやイラクを包囲しての “大いなる祝祭” である。
【キリスト教原理主義者とネオコン】
パット・ロバートソンやジェリー・ファウウェルなどのキリスト教原理主義の 「テレビ宣教師」 も興奮状態になり、イラク、シリア、イランに続いてトルコ、サウジアラビア、エジプト、スーダン、レバノン、ヨルダン、そしてクウェートをイスラエル領にすべきだとアメリカ政府を焚き付けた。中東全域をアメリカやイスラム諸国から奪おうというわけだ。(p.40)
キリスト教原理主義者とネオコンが親和性を有する理由がこれである。
キリスト教原理主義者は世界の破壊自体を目的にしているようだが、ネオコンは世界の経済活動を麻痺させて相対的優位を保とうとしているのかもしれない。
<了>ネオコンはアメリカ以外の国に忠誠を誓っている。そのとき 「アメリカ帝国」 は終焉に向かうしかないだろう。(p.50) |
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