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第2回:迷信だらけのデジタルオーディオ

〜 音楽CDリッピングが100%正確でない理由 〜


■オーディオCDのデータをPCで吸い上げる

 前回に引き続き、オーディオCDをCD-Rにコピーするというテーマでお話していく。前回は総論的な話になったが、今回はより具体的な流れとそこでの生じる問題、そしてその原因について追求していきたいと思う。

 オーディオCDをCD-Rにコピーする方法は何通りかある。最近普及してきた音楽専用のCD-Rレコーダーを用いて行なうこともあれば、専用のシステムを使って行うこともあるだろう。しかし、実際のところ一番普及しているのがPCを介して、CD-Rドライブでコピーする方法ではないだろうか。そこで、ここではPCを利用してのコピーということに絞って考えていく。

 オーディオCDをCD-Rにコピーする機能は、ほぼすべてのCD-Rライティングソフトに備わっている。B's Recoder GOLD、WinCDR/MacCDR、Easy CD Creator、Toast……とどれでもできる。操作方法などはソフトによって異なるが、実際の流れはどのソフトも基本的には同じだ。つまり、まずオーディオCD上のデータを吸い上げて一旦PCにコピーし、それをCD-Rへ焼き付けるという流れだ。ソフトによっては、直接オーディオCDからCD-Rへデータコピーしているように見えるものもあるが、内部的には一旦PCでデータを扱うことになる。

 その際、通常Windowsの場合wavファイルとして、Macintoshの場合aiffファイルとして保存され、それを改めてCD-Rへ転送する。この前半の流れ、つまりオーディオCDからデータを吸い上げる部分をリッピングと呼んでいる。このリッピング機能を持ったソフトは何もCD-Rライティングソフトばかりではない。たとえばMP3の各種ユーティリティにも含まれているし、専用のオンラインソフトとしてCD2WAV32やAudio Grabber、CDex……といろいろ存在する。またユニークなものとしては、Plextorのドライブに添付されているPlextorManager2000というユーティリティ。これはCD-ROMドライブにオーディオCDを入れた状態でドライブを見に行くと、各トラックがwavファイルとして見え、実際wavファイルとして各アプリケーションで読み込むことができるのだ。


■同じはずのデータがファイルコンペアで一致しない!?

 こうしたリッピング機能をリッパーと呼ぶこともある。このリッパーを使ってwavファイルやaiffファイルを作った場合、アナログ経由でレコーディングするのと異なり、デジタル情報のままで吸い上げることができる。したがって、理論的には音質の劣化がまったくなく、完全な状態でリッピングできるはずだが、実際のところはどうなのだろうか?

 実際に試した方であれば、ご存知だと思うが、これが必ずしも完璧なコピーができないことがある。できあがったwavファイルやaiffファイルをそのまま再生しても、PCに繋がっているオーディオ機器は、音楽鑑賞用とはいえない場合が多いので、音質の劣化具合いなどはわかりにくい。しかし、完璧にコピーできているかどうかを手っ取り早く調べる方法がある。

 それは、同じデータを複数回リッピングし、その結果が同じであるかどうか比較すればいいのだ。たとえばdata1.wavとdata2.wavというファイル名だったとしたら、MS-DOSプロンプトを開きファイルコンペア・コマンドを使って

fc /b data1.wav data2.wav
と入力してみればいい。もし、完全に一致していれば「違いは見つかりませんでした.」というメッセージが出てくるし、違いがあると、その箇所がずらずらと表示されていく。また前出のリッパーAudio Grabberなどはファイルコンペア機能も搭載している。

 最近のPC+CD-ROMドライブの環境でリッピングをした場合、完璧な結果が得られることも多くなっているが、そううまくいかないケースも結構まだある。また、比較の結果、延々と違いが表示されるような場合、ファイルサイズすら違っているというケースもあるのだ。

 もし、ここで正確なリッピングができていないとすれば、この時点でノイズが入ったり、音質劣化が起きている可能性が出てくる。それにしても、本来完全なコピーができていそうなデジタルデータの吸い上げで、なぜこのような現象が出てしまうのだろうか?


■オーディオCDとCD-ROMのフォーマット上の違い

 その原因を考えるためには、オーディオCDとCD-ROMのフォーマットの違いを考えるとよさそうだ。

 CDメディアの歴史上、まず最初にオーディオCDが登場し、その後CD-ROMが規格化されている。そして、CD-ROMはオーディオCDのフォーマットを拡張し、データを扱えるようにしたものになっている。そこで、まずはオーディオCDのフォーマットを細かく見てみることにしよう。オーディオCDで扱うデータの固まりとしての最小単位がフレームというものだ。このフレームは図1のようになっており、全部で588ビットある。

【図1】
【図2】
 ただし、このすべてがデータ用というわけではなく、前回書いたように14ビットで8ビット(1バイト)を表していたり、CIRCという誤り訂正用にパリティが用意されていたり、さらには先頭に同期パターンというフレームの先頭であることを示すビット、サブコーディングという音データ以外のデータ(トラック番号や演奏中の経過時間、CD-TEXTで用いる曲名や歌詞情報など)を扱う部分がある。

 さらにこのフレームを98個集めたのがセクターという単位だ。ちなみに、サブコーディングはセクター単位で1つの意味あるデータとなるようにできている。

 この2つの図からも分かるように、1フレームで扱えるデータは588ビット中の24バイト(192ビット)のみ。1セクタはこれが98個集まるのだから、ここで扱えるデータは24×98=2,352バイトということになる。
 それに対し、CD-ROMでは1セクタで扱えるデータ量はもっと減る。オーディオCDとCD-ROMで標準のMODE1の違いを示したものが図3だ。これを見るとわかるようにCD-ROMではオーディオCDの誤り訂正機能をさらに強化し、ほぼデータエラーが起こらないようにするとともに、同期用に12バイト、ブロックアドレスなどを表すヘッダ用に4バイトをとっている。そのため、残りのデータ用は2048バイト。

 このように、CD-ROMはオーディオCDをベースに、さらにさまざまな情報を追加することでコンピュータ用のファイルなどを扱えるようにしたメディアである。

【図3】


■同期がとれないオーディオCDのリッピング

 さて、ここでリッピングに話を戻そう。リッピングにおいてはCD-ROMドライブを用いてオーディオCDを読み込む。CD-ROMドライブはオーディオCDプレイヤーとして利用することも可能だ。しかし、直接データを吸い上げるリッピングの際には、メディアをCD-ROMと同じように扱ってプログラムするのが通常のようだ。ある意味、CD-ROMドライブを騙して(?)、オーディオCDからデータを吸い上げるわけだ。

 しかし、ここで問題になってくるのが2つある。1つは誤り訂正の部分、もう1つが同期の問題だ。まず誤り訂正について。これはCIRCでかなり解決するが、それでも100%とはいえない。どのくらいの確率でエラーが発生するかはメディアの状態とドライブの性能次第。ひどい場合だとかなりの数のエラーが発生する可能性がある。メディアにホコリがついている場合は、これをきれいにふき取ることで、エラー率は改善するようだが、やはりCD-ROMとは状況が違うようだ。

 もう1つの問題が、その同期だ。図3にもあったようにCD-ROMには各セクタごとに同期用のデータがあり、また位置を示すアドレスの情報も刻まれているのに対し、オーディオCDにはこれがまったく存在しない。そのため、ひどい言い方をすれば、ある程度「当てずっぽ」にデータを引っ張ってくることになる。この際に、フレームがずれて読みこんでしまうということが起こりうるのだ。ここにも、正確にデータを吸い上げられないという原因があるわけだ。

 とはいえ、どんなCDをつかっても、ファイルコンペアをかけてほぼ100%一致してくれるという精度の高いCD-ROMドライブもあることは確かだ。とくに最近のドライブはそうしたものが増えている。もし、自分のドライブでリッピングをして、エラーが多くて気になるという場合は、ドライブを交換することで、問題が解決することもあるので、試してみる価値はあるだろう。

 以上、今回はデジタルでリッピングする際に、100%完璧なコピーができない可能性がある理由について探ってみた。次回はCD-Rに書き込む部分での問題について検証してみたいと思う。


□鈴木直美のキーワード (PC Watch)
・CIRC
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000713/key127.htm#CIRC
・EFM
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000713/key127.htm#EFM

(2001年3月19日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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