沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐる映像流出事件で、神戸海上保安部(神戸市)に勤務する海上保安官(43)の事実上の軟禁状態は4日目に入った。捜査当局は週明け15日以降に逮捕の可否について最終判断する。すでに当局は国家公務員法(守秘義務)違反での立件は可能とみているが、義憤をもって迫力ある映像を国民に公開した保安官の行動は世論の支持を集め、政治的思惑が交錯。任意の事情聴取が長期化する異例の事態となっている。
警視庁捜査1課はパソコンの解析や供述から、保安官が巡視艇の共有パソコンを使って海上保安大学校(広島県呉市)の保存先にアクセスし、取り込んだ可能性が高いとみている。結果、第三者の介在はなく、単独で行ったとの判断を固めた。
法務省の西川克行刑事局長は11日の参院法務委員会で流出映像を「訴訟に関する書類に該当してくる」と答弁し、国家公務員法違反の要件を満たす見方を示した。
一方で、任意の聴取が延々と続く動きに、政界では「菅内閣の支持率下落、いや消失を恐れているのでないか」(民主党中堅)との声が出始めた。首相官邸関係者は「公務執行妨害容疑が明らかな中国人船長を釈放しておいて、政府が隠し続けたビデオを公開した保安官を逮捕すれば、国民感情が許さず、菅内閣の支持率はさらに10ポイント近く下がる可能性がある」と指摘。
自民党には「アジア太平洋経済協力会議(APEC)の最中でもあり、菅内閣が過度な混乱を嫌い逮捕を慎重に判断するよう圧力をかけているのでは」(閣僚経験者)という見方も出ている。捜査当局が勝手に菅内閣に配慮しているのか、政権への打撃を恐れた政治が司法介入しているのか。落ち目の菅内閣だけに、憶測が乱れ飛んでいる。 とばっちりを受けた保安官は13日未明、海保職員を通じて手書きのコメントを張り出した。内容は「多くの人々に多大なる迷惑をかけたことを心からおわび申し上げます」と謝罪しつつも、「本日私がここに宿泊致しますのは、貴方たちマスコミのおかげです。私がこの建物を出たならばさらに多大なる迷惑を多くの人々にかけてしまうからです」と、家に帰れない恨み節を、24時間態勢で張り込みを続ける報道陣にブチまけるような内容だった。
それもそのはず、関係者によると保安官は庁舎内の宿直室で泊まり、シャワーはあるものの、食事は弁当ばかりと不自由な生活が続く。刑法が専門の板倉宏・日本大学名誉教授は「任意の聴取をここまで長く行うのは異例。逮捕状は裁判所から出る状態にあるので、逮捕するならば早急に判断すべきだった。しないのならば、囲い込むような行動はすぐにやめるべきだ」と話している。