指定暴力団山口組組長らが損害賠償を求められている民事訴訟で、公設法律事務所「ひょうごパブリック法律事務所」(神戸市中央区)の所長と副所長を務める弁護士2人が傘下組員の代理人を受任していたことが分かった。公設法律事務所は刑事裁判の被告弁護の拠点。日本弁護士連合会などが財政支援をして運営し、刑事弁護を中心とした「一定の公益的な活動」が求められている。暴力団排除を掲げる関係者らから批判の声が上がっている。【鳴海崇】
問題の訴訟は、山口組系暴力団組長らの営業妨害行為を巡り、山口組組長の篠田建市=通称・司忍=受刑者(68)ら6人が損害賠償を請求され、現在、神戸地裁で係争中。営業妨害を受けた会社側は改正暴力団対策法に基づいて上部組織トップの使用者責任を問い、被告には営業妨害を実行した4人だけでなく篠田組長らを加えた。
関係者によると、実行役の4人は代理人の弁護士を探したものの断られ続けたとみられ、今年に入り、暴力団関連の裁判を担当した経験があるパブリックの高木甫(はじめ)所長に依頼。戸谷嘉秀副所長とともに受任された。着手金は300万円。訴訟は和解の方向で進んでおり、パブリックの事務所には、休日に暴力団関係者が打ち合わせで訪れることもあるという。
パブリックは兵庫県弁護士会が年2000万円の融資枠を用意し、08年10月に設置された。高木所長らもこの時に着任。報酬の低い刑事裁判の国選弁護が主な業務のため赤字経営が続いており、既に県弁護士会から計1300万円を借り、日弁連も設立時に1500万円を支給している。
戸谷副所長は毎日新聞の取材に「暴力団員も法の保護を受ける権利はある」としながらも、「暴力団から受任したのはこの1件だけ。今後は引き受けない」と話した。ただ公設法律事務所に明確な暴力団排除規定はなく、県弁護士会の公設事務所運営委員会は事務所側から事情を聴いたものの、今のところ静観している。
一方、日弁連民事介入暴力対策委員長の疋田淳弁護士(大阪弁護士会)は「弁護士会費に支えられながら暴力団側につくのは問題。安価で効果的な弁護をすれば、暴力団に囲い込まれる可能性もある。運営規則で受任範囲を定め、暴力団を排除する項目を盛り込むべきだ」と批判している。
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■ことば
裁判員制度の導入や、逮捕後の容疑者段階から国費で弁護人がつく国選弁護の対象拡大に応じるため、日弁連や全国各地の弁護士会が主導して設立、運営する。地域で刑事弁護の拠点となる「都市型」と、弁護士不足を解消するための「過疎地型」がある。弁護士法では弁護士会が法律事務所を直接経営することは認められておらず、形式的に法律事務所を設立、費用を援助することで運営に関与する。ひょうごパブリックは全国で15カ所ある「都市型」の一つ。「都市型」の目的について、日弁連はホームページで「一定の公益的な活動をすること」と規定している。
毎日新聞 2010年10月17日 大阪朝刊