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社説:論調観測 尖閣ビデオ流出 海保職員が投げた波紋

 沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突を巡るビデオ映像の流出問題が世上をにぎわせている。

 捜査当局が捜査に乗り出した直後、神戸海上保安部の海上保安官が流出させたことを告白した。「国民の知る権利に応えた」と拍手喝采(かっさい)する声から、「外交にもかかわるビデオを1人の公務員の判断で流出させたのは問題で処罰すべきだ」まで世間の受け止め方はさまざまだ。

 国が秘密にすべき情報とは何か。その管理はどうあるべきで、国民の知る権利との折り合いをどうつけるのか。流出問題が投じた一石は、重い課題として今後も論議を呼びそうだ。

 告白を受けて11日の各紙が取り上げた。

 保安官の行動だとすれば、どのように評価するのかが、まず論点になった。毎日は「政府の一員である海保職員が政府の意思に抗する形でユーチューブに投稿したとすれば、妥当性を欠き許されるものではない」と論じ、捜査当局による流出の背景解明の必要性を説いた。

 朝日は「政府の高度な判断を、一職員が独自の考えで無意味なものにしてしまっては、行政は立ちゆかない」、東京も「一公務員の職務と裁量を大きく逸脱した行為で、許されるものではない」と批判した。

 一方、産経は「国民の『知る権利』に応えたという重要な側面も見落とせない」と一定の評価をした。読売は「法に触れる行為があれば、捜査当局は厳正に捜査すべきである」と主張しながらも「映像が見られてよかった」などの声が海保に寄せられていることにも触れた。

 日経は「ビデオ映像が刑事罰をもって守るのに値する秘密なのか大いに疑問だ」と踏み込んだ。産経、読売、日経3紙は、ビデオ非公開の政府判断を改めて強く批判し、国民へのビデオ公開を求めた論調は共通する。

 そのビデオの公開だが、ネット流出を受け、毎日は「時期を見て公開すべきだ」(9日)と主張した。東京も「ビデオを秘密とする根拠は、著しく低下している」(10日)とした。一方、朝日は「外交上の得失を冷徹に吟味し、慎重に判断すべきだ」(6日)との主張以後、新たな言及はない。

 ちなみに、ビデオ流出を受け、仙谷由人官房長官は、秘密保全のための法制検討の必要性を打ち出した。毎日は「罰則強化だけに傾斜するのは問題がある」と指摘した。この点は各紙が「筋違い」「お門違い」「短絡的」などと、批判のトーンで足並みをそろえたことを強調したい。   【論説委員・伊藤正志】

毎日新聞 2010年11月14日 2時30分

 

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