おくすり千一夜 第百三十一話

 JTは喫煙の結果に責任を負え
 
 2001年6月上旬の新聞に以下のような記事が掲載されておりました。内容を再現した上で論評したいと思います。

自治体の喫煙規制、ファシズムだ JTが批判 世界禁煙フォーラム
厚生労働省などが12日に滋賀県で開いた「世界禁煙デーフォーラム」に、JTを代表して出席した本島進・京都支店長は「公権力が(たばこという)大人の趣味・嗜好に立ち入るのは基本的人権の侵害で、ファシズムへ通じる危険性がある」と述べ、地方自治体などの間で禁煙率の数値目標を定めて規制する動きが広がっていることを批判した。JTが、国や自治体の喫煙規制の動きを明確に批判したのは今回が初めてだ。本島支店長はフォーラムでの講演で、JTが72年から喫煙マナー向上運動を展開し、未成年者の喫煙防止のために、たばこ自販機の深夜稼働の停止や製品広告の自粛などに取り組んでいることを説明した。そのうえで「たばこの悪い面だけを取り出してすべて悪いと断罪すべきではない」と主張、「(たばこ規制の)公権力の行使には、明確な根拠が必要とされる」と訴えた

 この内容はテレビでも報道されました。こんな事が公然と言えるほど我が国は言論の自由な国ですが、かかる言語道断な発言こそ、ファシズムへ通じる危険性を感じます。
 筆者はこれまで四十四話で煙の薬理学を、八十七話と百四話で喫煙率半減のスローガンを撤回した厚生労働省を批判してきました。上の発言は厚生労働省の後ろ向きの姿勢に、わが意を得たりとばかり、追い打ちをかける発言です。フォーラムに出席された外国の識者に、この発言はどのように映ったことでしょう?
 この支店長、とんと外国の事情をご理解ないような素振りです。知っていてこのような発言を堂々としているなら、まさに企業悪の代弁者として、歴史に名が残ること必定でしょう。  
 ここ1年の間に新聞報道された喫煙被害の実態と、これに反発する市民の動きを纏めて見ましたので紹介しましょう。
 5月31日は「世界禁煙デー」でした。厚生労働省が15年振りにまとめた「悪性新生物死亡統計」によりますと1999年のガン死亡者数は肺や気管支のガンが52,200人で、胃ガンを抜いてトップになりました。40年前と比較しますと、胃ガンが大幅に減っているのに対して、肺や気管支のガンは男性で3.5倍、女性で2.6倍と急増しています。
 喫煙率を国際的に比較してみますと、我が国は男性が50.4%、女性が14.5%。アメリカでは男性が28%と我が国の半分、女性は23%。それでもフランス、カナダ、イギリスより低い値です。我が国では女性の喫煙率は低いとはいえ、若者の喫煙の急速な増加傾向が目立ちます。喫煙者は非喫煙者に比べて4倍から20倍肺がんに罹りやすく、喫煙が低年齢になるほど、肺以外のガン発症率が高くなることが分かっています。
 現在世界には、11億人の喫煙者がおり、年間に5兆3000億本のたばこが消費され、2025年には喫煙者が16億人に達するそうです。
 最新の疫学データによりますと、我が国のたばこによる超過死亡数は95,000人で、1993年には国民医療費の 5%にあたる1兆2000億円が超過医療費として支出され、社会全体では少なくとも4兆円以上の損失があったといわれております。
 アメリカでは、昨年フロリダ州の喫煙者三人がメーカー五社と業界二団体を相手取り,州内の全喫煙者(推定30〜70万人)の健康被害に対する損害賠償支払いを求めた代表訴訟で、メーカー側に計約4450億ドル(約15兆円)という懲罰的損害賠償金の支払いを命じる評決が言い渡されました
 アメリカ裁判史上最高と言われる懲罰的賠償金は、「たばこ五社をそれぞれ十回倒産させるだけの規模」とされ、判決で支払いが確定すれば、メーカー側に壊滅的打撃を与えること必定と考えられました。
 最大手のフィリップ・モリス社の幹部は、「懲罰的損害賠償金は、会社を倒産させるような規模であってはならないはずだ」と評決の不当を訴えています。同社はこの他にも、喫煙被害に絡む千件以上の訴訟を抱えているそうです。
 アメリカでの、たばこの消費量は1963年をピークに、40年間で半減しました。
 これで、たばこ産業は壊滅しそうですが、そうでもないのです。1998年、喫煙被害のために支出した医療費の保障を、全米五十州に求められ、和解によりメーカーは各州に対し、25年間で2460億ドルの支払いを約束しました。メーカー側は、たばこを37%値上げすることで、これを補うことができたそうです。値上げ総額は400億ドルに達したので、さらに値上げをすれば、フロリダ訴訟の賠償金も支払い可能と新聞は予測しております。
 我が国では最近までたばこは専売公社という半国営企業であったため、上記のような暴言が出てきたものと思われます。喫煙で呼吸器のガンに冒された患者さんは、保険組合と協力して、数兆円の懲罰的損害賠償支払い訴訟を、我が国でも速やかに起こすべきです。

追補: EUたばこ規制法  
 たばこによる健康被害を防ぐため,欧州連合(EU)の議会である欧州会議が五月十五日に可決、成立した。たばこ会社に包装箱の表側30%以上、裏側 40%以上を割いて「たばこは死を招く」などの警告文の印刷を義務付けたほか、たばこ一本当たりのニコチン、タールなどなど含有量の許容値を定めた。タールの含有量は2004年以降、現行の12mgから10mgに減らすよう求めている。さらに、小箱に「マイルド」「ライト」「低タール」などの表示は、健康への被害が少ないなどの誤解を与えるとして、2003年9月から禁止される。欧州でも「マイルドセブン・ライト」などを販売する日本たばこ産業(JT)は、同法を「商標権侵害」と抗議している。・・・・読売ミニ時典より
     「たばこアトラス」
 世界保健機構(WHO)は2002年10月15日、たばこに関する地域・国別状況を発表しました。その中で2000年では490万人だった喫煙による死者が2020年では840万人に達すると予測しています。我が国のたばこ消費量は中国、米国に次いで第三位、3,280億本です。日本人の誰もが年間約300箱を吸っていることに成り、この煙害による健康被害は相当な額になるはずです。
 
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