何も知らない市民をあざ笑うかのように
恐るべき野心が、静かに街を蝕み始めていた。
2002年に小泉政権が発表した「全国都市再生のための緊急措置」
全国から選ばれたいくつかのモデル都市に対して、
国庫からの手厚い支援が得られることとなった。
死長の私設秘書の名刺を持つタナカ。
その中年の男が重い足取りで向かったのは永田町の一角にある相互永田町ビル。
古びた狭いエレベーターの扉が開くと、
趣味の悪い真っ赤なじゅうたんの廊下。
そしてガラス戸越しに目に飛び込むのは屈強な体型をしたSPの姿。
ここは「洗濯屋」こと、蜃気楼元首相の個人事務所。
全国のあらゆる公共事業に関わる闇の金が、
ここで洗浄され、全国に再び還流していく。
時は清和会全盛時代。
非願の国政復帰に向けて、政界のドンにはずいぶんこれまでも尽くしてきた。
そこにうまい具合に転がり込んできたこのモデル都市の企画。
関連する公共事業には街づくり交付金として国庫から40%もの補助がでるという。
これはカネになる。
蜃気楼の覚えもめでたくなる。
一石二鳥のこの機を逃してなるものか。
俺は総理になる器の人間だ。
いつまでも松山市長などでくすぶっているわけにはいかないのだから。
永田町のビルの一室で繰り拡げられた密談と謀議。
巨体のキングメーカーは動いた。
かけられた一本の電話。
そして、松山はモデル都市に選定された。
総額70億のフィールドミュージアム構想。
国庫から支出された30億。
市民の血税40億円。
架空発注と談合。
ドンへの上納金と死長へのキックバック。
さあ、祭りの始まりだ。
醜い欲望をむき出しに、みなこの闇夜に踊り狂うがいい。
こうして空前の巨大利権プロジェクトは誕生した。