維新の会を率いる井毛元は独り唇を噛んだ。
今年の春、突然死長から呼び出された。
「私の任期ももうすぐ終わる。だが、奇口さんだけには任せたくない。」
何かいい知恵はないかと尋ねる死長に引き込まれるように膝を詰めた。
「井毛元さん、松山市の今後を託せるのはあなたしかいません。」
自分の市長への野心を見透かすようなセリフ。
不安と期待が高鳴る。
気づけば気味悪いほどの段取りで維新の会を立ち上げていた。
奇口派の自民党市議がじたんだを踏んで悔しがっている様が小気味よかった。
しかし、その後いつまで待っても死長から後継の話はこない。
死長が後継探しに苦労しているという内情も伝わってきた。
それとなく直接感触をぶつけてみたが、そっけない。
あの話はなんだったのか。
奇口つぶしのために利用されただけだったのではないか。。
疑心暗鬼と怒りに眠れぬ夜が続いた。
熨斗を担げと言われたときの屈辱は忘れられない。
素人に市政が担えるはずがないことは、さすがに市議をやっていればわかる。
ならば、と恥を忍んで汐崎をバックに立候補を試みたがすげなく却下された。
早まったか。。
自民党に残っていれば、もしや今頃は。
自らが半生をかけて夢見てきた市長への道が目の前で閉ざされた瞬間だった。
ならばとことん利用してやれ。
何もわからない熨斗から、公共事業を一手に任せるという確約をとりつければいい。
西条分水の数百億の利権分配についてはすでに死長と話はつけた。
政治は現実だ。
悔しいが感傷にはとらわれない。
自分は実をとる。
何もわかっていない維新の会のメンバーにも少しおこぼれをわけてやろう。
屈辱と嫉妬とコンプレックス。
暗い欲望の炎に照らされ、井毛元は今日も戦場へ駆けだしていく。