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お茶でも飲みながら会計入門

第41回 アプリ開発ビジネスで独立するなら、知っておきたい「所得税計算」

文:吉田延史(日本公認会計士協会準会員)
イラスト:Ayumi
2010/11/11

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。

今回のテーマ:1人でビジネスを始める

 Kim氏は、これまでにも定期的に売り上げを報告していて、そのたびにAndroidマーケットからの収入に満足していると書いている。Kim氏は自分がラッキーだったとも書く一方で、「もし今までにもAndroid開発を検討していたのなら、思い切って始めてみることをおすすめする。個人開発者には理想的なプラットフォームだと確信している」と書いている(@IT「個人開発のAndroidアプリで月収116万円に」

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 iPhoneアプリやAndroidアプリ、Webサービスなどを開発して、独立してビジネスを始めるエンジニアが増えているようです。1人でビジネスを始める際には、プログラミングスキルはもちろんのこと、業務で必要とされるものとは異なる種類の会計知識が必要です。

 そこで、今回から2回にわたって、「1人ビジネス」における税務について気を付けるべき点を解説します。今回は「所得税」編です。

nobu 【1】 誰でも分かる所得税の計算! 4STEP

 納税は、国民の三大義務のうちの1つです。皆さんの多くは、エンジニアとして働いて納税していることと思います。しかし、自分自身で納税している人は、わりと少ないのではないでしょうか。「自分がどれだけもうかったかなんて、きちんとした数字は知る必要がない」と思っていたとしても、1人ビジネスを営む場合は、納税の義務に応えなければなりません。

 納税のうち、個人でも関係してくるものは2つあります。「所得税」と「消費税」です(消費税については、次回説明します)。

 所得税とは、大まかにいうと「1年間の個人のもうけ」に対して課される税金です。1人ビジネスに関係のある項目に絞って、計算体系を以下に書き出します。

STEP1:各所得を計算する

  • 事業所得=事業収入−経費(個人が計算)−青色申告特別控除

  • 給与所得=給与収入−給与所得控除(給与を支払う会社が計算)

 「給与所得」は、会社に勤務してお給料としてもらう所得です。「事業所得」は、1人ビジネスなど、自らが事業を営んで得る所得です。両方ある場合は合算して、自分の全所得を計算します。

STEP2:所得控除

 医療費控除や基礎控除など各種所得控除項目を「STEP1:所得」から差し引きます。

STEP3:税額計算

 STEP2で算出した控除後の金額から、決められた算式によって税額を計算します。「所得−所得控除」の金額が低いほど低い税率が適用され、高いほど高い税率が適用されます。

 所得税の税率は6段階に区分されており、以下のような税率となっています。

  • 0〜195万円以下:5%

  • 195万超〜330万円以下:10%

  • 330万超〜695万円以下:20%

  • 695万超〜900万円以下 :23%

  • 900万超〜1800万円以下:33%

  • 1800万円超:40%

STEP4:税額控除

 「STEP3:税額計算」で算出した金額から、住宅借入金等特別控除などを差し引きます。これで、納税額が確定します。

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nobu 【2】 所得税計算のやり方

 (1)「各所得の計算」から、順番に見ていきましょう。サラリーマンの給与は会社側が計算するため、個人が計算する部分はありません。しかし、1人ビジネスの場合は、当然すべて自分で計算します。

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 収入は、漏らさず集計しましょう。収入のための支出は「経費」として集計します。例えば、プログラミング技能取得のための書籍代や、先方との打ち合わせの際の食事代などは、経費です。経費の範囲については難しいですが、「事業をしていなければ発生しなかった支出である」とはっきりいえるものである必要があります。

 次に、「青色申告」について説明します。青色申告とは、収入や経費などについて一定水準の記帳をし、その記帳に基づいて正しく申告する人を優遇する制度です。

 きちんと帳簿記入を行い、それに基づいて申告を行い、証拠となる書類を保管しておくことにより、以下のようなメリットが得られます。

青色申告特別控除

 記帳のレベルによって、10万円または65万円を所得から控除できる制度です。

青色事業専従者給与

 所得税は、所得が低いほど税率が低いと説明しました。とすると、1人で1000万円稼ぐよりも、2人で500万円ずつ稼いだ方が、納める税額は低くなります。例えば、事業主と配偶者が同じ財布で生活している場合、「事業主が配偶者に経理を手伝ってもらい、毎月8万円の給与という形で支給する」という形式を整えれば、納税額を安くすることができそうです。ですが、これらは「裏技」です。通常は認められていません。

 青色事業専従者給与制度は、青色申告をすることによって、上記の裏技を使うことができるという制度です。とはいえ、小学生の子どもに対して給与を払ったり、毎日1時間の作業で月100万円の給与を支給したりするなど、現実とかけ離れた行為は認められません。「赤の他人に対しても給与として支給するであろう金額」が目安となります。

 これ以外にも青色申告にはさまざまなメリットがありますが、上記の2つは誰にでも使いやすいメリットであるといえるでしょう。

 青色申告の帳簿記入については、書き出すときりがないので割愛します。青色申告を行うためには、事前に税務署に申請をしておく必要があります。

【キーワード】青色申告制度
事業による収入・経費を記入した帳簿を記入し、帳簿に基づいた正確な申告を行うことによって特典が受けられる税務上の制度のこと。大きなメリットとして、青色申告特別控除と青色事業専従者給与がある。

 次に、(2)所得控除についてです。サラリーマンの場合は、会社が必要な情報を収集して計算してくれます。しかし、1人ビジネスの場合はこれもすべて自分で集計する必要があります。控除漏れがあると納税額が増えますので、取れる控除はすべて取っておきましょう。以下に、簡単な控除の発生の可能性の一覧表を掲載します(可能性についてはあくまでも目安であり、状況によって控除対象となるものなのでご注意ください)。

※可能性:◎大半の人に関係あり/○多くの人に関係あり/△関係する人は比較的少ない

 
可能性
概要
雑損控除
災害や盗難に遭った場合に発生します
医療費控除
10万円以上の医療費を支払っている場合に発生します
社会保険料控除
健康保険や年金保険の支払額を控除できます。すべての人に発生するといえるでしょう
小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済で退職金などを積み立てている場合に発生します
生命保険料控除
支払った生命保険料のうち、金額に応じて最大5万円までを控除できます
地震保険料控除
生命保険料と同様に、最大5万円まで控除できます。しかし、発生する人は生命保険料より少ないかもしれません
寄付金控除
国や地方公共団体などに寄付した場合に発生します
障害者控除
本人または、配偶者扶養親族が何らかの障害を負っている場合に発生します
寡婦(寡夫)控除
配偶者に先立たれた場合に発生します
勤労学生控除
本人が勤労学生である場合に発生します
配偶者控除
配偶者特別控除
配偶者がいる場合に発生します。ただし、共働きで配偶者に一定以上の収入がある場合には、控除できません
扶養控除
子どもや祖父母など、扶養している家族がいる場合に発生します
基礎控除
すべての人に発生します

 (4)税額控除については、住宅借入金等特別控除が代表的です。住宅ローンの融資先のパンフレットを参考にして、控除額を算定しましょう。

 以上のステップを踏むことにより、所得税の申告を行うことができます。

nobu 【3】 所得税のスケジュール

 最後に、所得税に関する簡単なスケジュールを載せておきます。なお、所得税の確定申告を行うと、住民税と事業税の納付書が送られてきます。これらも忘れずに納付しましょう。

  • 事業開始から1カ月以内……事業開始届の提出(所轄税務署と地方公共団体に提出)、事業開始から青色申告を行う場合は青色申告承認申請書を併せて提出する

  • 3月15日……所得税の確定申告期限

  • 6〜8月……住民税・事業税の納付通知書が送られてくる。スケジュールに従って納付する

 ここまで、所得税について見てきました。なお、いわゆる講演や執筆などのサイドビジネスによる収入は雑所得となり、事業所得とは異なる取り扱いになるので注意してください。また、税制は毎年改正されるため、今回は平成22年分の申告を前提として解説しています。

 エンジニアにとって、税務は面倒な作業に感じられるかもしれません。ですが、納税額が1万円減ることは、収入が1万増えるのと同じことなのです。自分に関係する税務知識は持っておいて損はないでしょう。それではまた。

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筆者プロフィール
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

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