昨年12月、JR新宿駅で痴漢の容疑をかけられ、警察からの取り調べ後に自殺した私立大職員がいる。名前は原田信助さん=当時(25)。えん罪の指摘があるなか、事件当時、被害を受けたとされる女性の男性仲間から、原田さんが激しい暴力を受けた可能性があることも判明している。原田さんの母親は今年4月、被疑者不詳のまま原田さんが受けた暴行の被害届を東京地検に提出。最近になって目撃者が現れ、事態は新たな展開を見せ始めた。
原田さんは昨年12月10日深夜、宇宙開発研究機構(JAXA)から転職した私大の歓迎会の帰り、JR新宿駅の階段で、すれ違った女性から「腹を触られた」と訴えられた。その直後、階段下で女性の男性仲間から暴行を受けたとされる。
駅員の連絡で駆けつけた駅西口交番の新宿署員に原田さんは任意同行を求められ、同署へ向かった。そこで、身の潔白と暴行の被害を主張したが、受け入れてもらえなかったという。
翌11日未明、いったん釈放された原田さんは、その足で大学時代に使い慣れた地下鉄早稲田駅まで赴き、線路に飛び込んで自殺した。警視庁はその後、“被害女性”の証言、駅員の証言、防犯カメラの映像をもとに、原田さんを東京都迷惑防止条例違反容疑で書類送検。東京地検は被疑者死亡で不起訴処分とした。
えん罪を信じる原田さんの母親、尚美さん(54)は当時、原田さんが受けた暴行について、被疑者不詳のまま新宿署に告発。だが、2度にわたって受理されなかったため、今年4月、改めて東京地検に告発し受理された。
地検の捜査過程でこの9月、新たな動きが出た。事件に遭遇し、駅員に通報した会社員の女性(40)が名乗り出て、目撃した詳細な内容を「陳述書」にまとめて地検に提出したのだ。
夕刊フジの取材に対し、この女性がこう証言する。
「事件後、現場を通りかかった際、お母さんがポスターを持って立たれていたのですぐに声をかけました。原田さんとみられる男性は、工事中の駅階段の壁を背にしてうずくまり、私服で少し脱色した今どきの感じの髪形の学生らしき2−3人が取り囲んでいました」
「そのうち1人が、うずくまった男性の胴体付近を足で何度もけりました。思いきりけっている様子で、仲間の3−4人が、2−3人に『もうやめとけよ』と止めていましたが、けりやむ様子がなかったために、駅員を呼ぶことにしたのです」
実は事件以降、尚美さんが開設したブログにも《男性A(茶髪)が1人の男性Bを羽交い締め》など、同様の意見が実名で複数寄せられている。
尚美さんは、「(原田さんに暴力をふるったとされる)加害者に対し、あまりにも多すぎる(一連の)事件の疑問点を問いただし、息子の名誉を回復したい」と訴える。
陳述書を提出した先の女性は「こんなことになるなら、通報後に現場に戻れば良かった。警察に対し、現場に向かった駅員が、原田さんを暴行の被害者と証言しないのは納得いかない」と話す。
捜査関係者によると、原田さんに暴行を加えたとされる男性の1人は、東京地検の事情聴取に「暴行はしていない。痴漢をつかまえただけ」などと話しているという。