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痴漢“無実”証明できぬまま自殺 息子信じる母、目撃者捜し続く (2/2ページ)
実は、新宿署は事件後、尚美さんに「容疑は晴れた」と説明していた。しかし、今年1月29日に一転、原田さんを痴漢(東京都迷惑防止条例違反)の容疑で書類送検。被疑者死亡で不起訴となった。
同署によると、女性は触ったという人物の顔を見ていない。唯一の物証は防犯カメラの映像だという。「女性の『(誰かに)触られた』という証言は信用できる。すれ違った瞬間はカメラの死角だが、証言と同じタイミングで触れる人は原田さんしか写っていない。証言と映像で複合的に判断した」と説明する。
一方、尚美さんは「暴行事件が一方的な言い分で痴漢事件にされてしまった。カメラの映像を開示してほしい」と反論する。
なぜ「容疑は晴れた」との説明を覆したのか。同署は「当時はカメラを確認する前だった」と釈明し、こう話す。「本来は立件するような事案ではなかった。母親の『暴行』との訴えや、相手の女性の気持ちも考慮した結果、白黒つけるべき話になった」
尚美さんは、大学生側を被疑者とする暴行容疑での被害届と告訴状を同署に出したが、「(大学生の行動は)痴漢の行為を引き留める行為の一環」(同署)として、不受理となった。
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「目撃者を探しています」。5月中旬、午後10時過ぎの新宿駅。現場近くの通路にビラを掲げる尚美さんの姿があった。3月初めから毎夜のように続けている。目撃証言を寄せてくれる人も現れ出した。
「真実を明らかにして、息子の無念を晴らしたい」
原田さんは平成20年に早稲田大を卒業。JAXA(宇宙航空研究開発機構)を経て昨年10月、私大職員に転じた。事件当日は新しい職場の歓迎会帰りだった。
「明るくまじめな勉強家」と友人は口をそろえる。大学サークルの同級生の男性(25)は「親思いで、就職が決まって『これで母を安心させてあげられる』と話していた」。先輩の女性(28)は「誠実な人。あらぬ疑いをかけられ、本当に悔しかったんだと思う」と話す。
「真実」はどこにあるのか。原田さんはもう弁明できない。「事件のために仕事をなくしても何でもよかった。せめて生きていてくれたら…」。尚美さんは言葉を絞り出すと、涙を落とした。