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[24272] 【一発】H.O.T.D×A.G.C【ネタ】
Name: 黒条非日◆42027da6 ID:0d323c6d
Date: 2010/11/13 01:42
溢れる涙と一万発の銃弾をこめて

――全てが終わってしまった日の前夜。彼は一人涙を流した。

時刻は草木も眠る丑三つ時。そんな時間帯に一軒の邸宅の部屋の一つには未だに明かりが点いていた。

「……ふぅ」

その部屋の主である少年、平野コータはパソコンの画面から目を離し一つ溜息を吐いた。何時も通りにネットの海に潜り込み、多種多様な情報を覗き込む。そんな中気付けば、目の前に開くウィンドウは以前アメリカに行った時から自然と開いてしまうお決まりのページへと変わっていた。

それは有り触れた都市伝説のページ。

口裂け女から人面犬。果ては伝説の白いジャムまで。そんな信憑性の限りなく薄い記事の中に一つだけ。以前の彼の目に止まるページがあったのだ。

『銃使い』

それはそんな名前の都市伝説だった。
曰く、彼らは魔法のように手から銃を生み出す。イメージして掌を広げればそれで終わり。三分クッキングなんて目じゃない速さで彼らは銃を作り上げる。

そして、その銃使いになるのには三つの要素が必要らしい。
曰く、銃を愛するものは銃使いになれるかも知れない。
曰く、銃に詳しいものは銃使いになれるかも知れない。
そして、最後に――。

そこまで目を通してコータは再度画面から視線を外し、その瞳を静かに閉じた。
マウスを握っていた手を離し、中空で掌を広げる。
そう、大切なのはイメージだ。
今まで何度とも無く思い浮かべた銃の形状を思い浮かべる。
直後、手にずっしりとした鉄の感触をコータは感じた。そしてゆっくりと目を開く。

握られているのは『FNモデルFNP9Mピストル』。
全長は180mm。重量は709g。装弾数は15発+1。口径は9mm×19。ベルギーFNハースタル社が開発した大型ピストルだった。FNモデルFNP9Mピストルはモデル・フォーティー・ナイン・ピストルの発展型バリエーションで、特殊部隊向けに即応性と初段の命中精度の向上を為したピストルだ。

コータは確かめるようにその銃を眺め、構える。彼が持つのは人一人など簡単に殺せる武器だ。それこそ虫けらのように簡単に、人間の命を奪える兵器だ。
しかし、その銃を見つめるコータの瞳はまるで氷のように冷めきっていた。
この力に目覚めたのは何時だっただろうか、とコータは考える。

それは、そう。アメリカの民間軍事会社、ブラックウォーターに銃を教わった帰りのことだった、とコータはその運命の日を回想する。
自分の大好きな銃に触れたまでは良かった。自分の愛する銃を思う存分撃てたところまでは良かった。自分が恋した銃を解体して隅々まで眺めたところまでは最高の一日だと信じて疑わなかった。

要は僕は浮かれていたんだろう、とコータは思い返す。本物の銃という兵器を初めて撃ってみて、その凄さを自分の力だと過信してしまったんだ、とコータは以前の自分を俯瞰するようにそう評した。
だからこそ、彼は愚かしくもお世辞にも治安の良いとは言えない夜の街にフラフラと彷徨い歩き、その果てで銃を持ったチンピラのような強盗に襲われてしまったのだ。

脳天気な顔で歩いている平和ボケした日本人旅行者など良いカモだった。
いきなり凄い力で引っ張られて、連れ込まれたのは夜よりも暗い路地の裏。響き渡る怒声。いまいち馴れていなかった英語での罵声はコータを尚のこと怯えさせた。
目的だけは何となく伝わってきていたから、コータは恐ろしさのあまりべそをかきながら、その時持っていた全ての現金を財布ごと強盗に渡した。

それを見て満足げにニンマリと笑った強盗は、おもむろに懐に手を入れる。
取り出したのは『S&W M29』。
口径は誰もが知ってる44口径。全長は306mm。重量は1396g。アメリカのスミス&ウェッソン社が開発した元・最強の拳銃。最近は他の強力な拳銃が出現して最強という名前こそ取り上げられたが、それでも44マグナム弾は拳銃としては有り得ないほどの威力を誇っている。

まぁ、残念ながら自動車のエンジンを打ち抜くなんて芸当は出来ない。アレはちょっとした誇張表現だったとコータは記憶していた。
それをニヤニヤと笑いながらコータに構える強盗。片手で、だ。

一瞬、恐怖よりも何よりも滑稽さをコータはその強盗に感じた。ハリー・キャラハンもしっかりと両手で構え、踏ん張って撃ったと言うのにこの強盗は片手で撃とうというのだ。ともすれば笑い出しそうな程の滑稽さ。強盗の自信たっぷりな表情が更にそれを加速させる。
逆に冷静になってしまったコータは、しかしだからこその諦観を抱いていた。

この間抜けが本当に試射をしたこともなく、コータの頭に向けた銃口から無駄弾を撃とうというのなら一発目は外れるだろう。だが、その後はどうしようもない。
逃げたところで自分の足の速さくらいは知っている。力の差は歴然。捕まったら終わりで、逃げられる可能性なんて限りなく薄い。待ってるのは変わらない結末だ。

――死。

その現実を突きつけられて尚、コータの思考は風のない水面のように静かだった。
思えば、つまらない人生だった。
バカにされ続ける日々。波風が立たないように自分を演じる日常。優秀な家族に感じる鬱々とした劣等感。燻り続けた感情は何時かそのまま火種になることもなく消えていくことは目に見えていた。

しかし、どうだ今この状況は。

大好きな銃を撃てたその日に、コータは今銃に命を奪われようとしている。
上出来だ、上出来じゃないか。とそう思う。
死んだように生き続けると思っていた人生は、こんなところで閉じようとしている。劇的に。

撃つのが三下以下の下らないチンピラだというのには些か不満を覚えたが、それでも銃は一流だ。悪くない、全く持って悪くはない。
44マグナム弾は間違いなく自分の頭を西瓜のように粉砕して、痛みなど感じる暇さえ与えることなく自分を天国まで送り届けてくれることだろう。撃つのがこの間抜けだと思うとコータも少しばかり不安ではあったが。

自分なら間違いなく一発で当てる自信があるのに、とコータは密かに舌打ちをした。

M29のクロムモリブデン鋼の銃身が月明かりに鈍く光る。死を前にしてその光はどんな宝石よりも美しい物にコータの目には映った。
その顔に微笑みさえ浮かべて、コータは撃鉄を起こす音を聞いた。
この人生が銃で終わるのならそれは本望だ。

ふと、コータの脳裏に昔見た都市伝説の一節が浮かぶ。
曰く、銃を愛するものは銃使いになれるかも知れない。
曰く、銃に詳しいものは銃使いになれるかも知れない。
そして、最後に――。

瞬間、路地に光が灯る。発生源はコータが地面に力なく垂らした掌からだった。
浮かび上がる奇妙な紋様。光の粒子が螺旋を描き、虚空に微かな電気を走らせながら掌に集約していく。粒子はやがて銃の形状を形取る。
直後、コータの手には一丁の拳銃が握られていた。

銃種はFNモデルFNP9Mピストル。コータの割と好きな銃の一つだった。
強盗もコータも思わず呆ける。それほどまでにどちらにとっても予想外の出来事だった。先に動いたのはコータだった。
FNP9Mのスライドを引いて、初弾を薬室に装填する。訓練の成果か自然と両手で銃を構え、引金を引く。
セーフティを兼用しているトリガーは少し重かったが、途中で軽くなり「ドンッ」と銃声が路地裏に轟いた。

何故か昼に撃った銃よりも大分、反動は軽かった。両手で構える必要がなかったかも知れない程の軽さ。もしやコレも銃使いの特徴なのか、とコータは頭の片隅でそう考えた。
吐き出された9mmパラベラム弾は、狙いを違わず強盗のM29をその指ごと食い千切る。
響く絶叫。当たり前だ、痛くない訳がない。強盗は血を流す手を押さえ、蹲っている。

「HEY!」

それを見ながらコータは声を掛ける。此方を向いた強盗に銃を突きつけながら、路地の出口へと顎をしゃくる。意図は伝わったようで、強盗は向けられた銃に短く悲鳴を上げながら千切れた指を急いで拾ってコータの前から逃げ出した。
それを見送って、コータはやっと息を吐いた。
殺す気など最初から微塵も存在してはいなかった。指を吹き飛ばしたのでさえ、正当防衛ではあるが悪いと思っているくらいだ。

銃は好きだが、それで人を殺したい訳ではない。
コータはその手に握られたFNP9Mを見ながら、また一つ溜息を吐いた。思い返すのは都市伝説の一ページ。

曰く、銃を愛するものは銃使いになれるかも知れない。
曰く、銃に詳しいものは銃使いになれるかも知れない。
そして、最後に――。
――銃に撃たれる覚悟を持つものは銃使いになれるかも知れない。

どうやら僕は都市伝説になってしまったらしい、とコータは疲れたように空に光る月を見上げたのだった。

――と、ここまでが彼が銃使いになった経緯だった。

そのあと一ヶ月近くインストラクターに銃の扱いを教わって、日本にコータは帰ってきた。銃使いになった昂揚感と共に。
しかし、現実は変わらなかった。

法治国家である日本では銃を撃ったら捕まってしまうし、そこら辺を歩いている人間に銃弾を叩き込みたいと思う程、コータの精神は腐ってはいなかった。
結局、何時もと変わらない日々。いくら銃を生み出せると言っても一人で軍隊の相手が出来る訳でもないし、戦車でも出てきたらそれで終わりだ。試してみたがロケットランチャーの類は召喚出来なかった。

銃使いになるまでのコータは路傍の石だった。とるにも足らない大多数。そんな存在だったことを彼はハッキリと自覚していた。
では、銃使いになってからの彼は?
そう問われれば、コータは己のことを一発の銃弾だと評するだろう。
銃の中、燻るだけの一発の弾丸。火がつくことはきっと一生無いのではないだろうか、とコータは鬱々とそんな事を考える。
世界を打ち抜くのには一発の弾丸じゃ到底足りない。だから変われない。変わらない。

あのとき、M29で打ち抜かれた方がマシだったんではないのかと今になってそう思う。
こんな力があったところで到底、こんな平和な世界じゃ何の役にも立つことはないのに、と。

コータは自分の頭にFNモデルFNP9Mピストルを突きつけた。
引き金を引けば全てが終わる。9mmパラベラム弾は頭を貫通して、彼を死に至らしめるだろう。
しかし、引き金は引けなかった。異様な程にその引き金は重かった。それが命の重さだと錯覚するくらいには。

「……うぅ、っう……うぅっ…………」

夜のしじまにコータの嗚咽が微かに響く。
もうウンザリだった。
変わらない日常にも、変えられない自分にも。そして引き金を引く事が出来ない自分にも。
死ぬのが恐い訳じゃない。だけど何も為さずに死ぬのは嫌だった。泣きたくなる程嫌だった。
――その内、泣き疲れたようにコータは座ったまま眠りについたのだった。

――全てが終わってしまった日の前夜。彼は一人涙を流した。










ということでプロローグでした。アフリカン・ゲーム・カートリッジズを設定のみクロスしてみた作品。
知ってる人はどれぐらい居るんだろうか、アフリカン・ゲーム・カートリッジズ
深見真ファンなら押さえていると信じているが。
コータ君魔改造もの。まぁまぁ強い。小室よりもコータなのは世の理だ。リア充爆発しろ。
あんまりコータ君っぽくないと言えばないし、ついでに言えば作者の拙い銃知識では割と無理があったか。指摘点があれば上げて頂ければ感謝。
続き見たいという奇特な方がいれば、感想に「コータさん、マジパネェッス!」とでも書き込んでください。人数如何によればやるかも。
それでは ノシ


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