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【塩爺のもう一度よく聞いてください】元財務相・塩川正十郎
■ASEAN含め対中戦略を
アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が13、14両日、横浜市で開かれる。アジアや太平洋を取り巻く21カ国・地域の首脳が一堂に会して話し合うことは良い機会になるだろうと思うが、気になるのは最近の日中関係だ。これからの中国との付き合い方を考えるため、しばし私の思い出話にお付き合いいただきたい。
平成8年4月、私は自民党訪中団10人の団長として北京におもむき、江沢民国家主席(当時)と1時間20分にわたって会談した。当時の最大の問題は中国の軍事力であった。結局、その年の6、7月に2度の核実験を行ったのだが、国際社会は中国の核開発に対する懸念を強めていた。
だから、会談の冒頭で私は「最近、日本の世論の中国に対する見方が変わってきているが、背景には中国が行う核実験がある。中国は経済大国になりつつあると同時に、軍事大国になりつつある」と、ぴしゃりと指摘した。
当然、中国側はこれに反発する。江氏は途端に強い口調になって「われわれが核兵器を保有するのは平和を守るためであり、米国の核実験は軍事力と威力を維持することが目的である」と言った。一方的な偏向としか思えなかったので私は核実験の停止を求め、いつの間にか双方が激しい言い合いのような形になった。
周囲は会談の険悪な雰囲気にハラハラしたようだが、江氏は会談が終わった後には私の両手を強く握って「近いうちにまた中国に来てください」と言った。国と国が付き合うときには、まずきちんと自分の主張をしなければならないということだ。
そういう意味で、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺での中国漁船衝突事件を受けた日本政府の対応、具体的には中国人船長を逮捕しながら釈放したことは悪い例だと思う。民主党政権の皆さんは、主張しなければ相手はいいように理解するという基本の基本を分かっていないようだ。
私が政府の立場にあれば、日本が実効支配をしている尖閣諸島について「おれたちの島だ」と主張しつつも、無人島の状態のまま使わないでおくだろう。その上で、周辺海域の漁業資源の活用に関しては台湾を交えてお互いによく話し合うこととし、日本が尖閣諸島を利用する場合には中国側に事前に通報するようにする。日本が権利を主張するのはもちろん重要なことだが、日中双方がお互いに言い争いをしているだけではなく、将来のために知恵を出すことも必要になるだろう。
最近の日本人、特に経済界の駄目なところなのだが、中国での自分たちの商売、金もうけばかりを考えて、アジアにおける「公人」としての意識を持っていない。中国が経済力、軍事力で勃興(ぼっこう)してきている今こそ、日本には、同盟国である米国、それから韓国、東南アジアといった周辺国に対する責任があるということをわきまえなければならない。
歴史的に見て、日本と中国が直接交渉してうまくいくことは少ない。一部の共産党幹部が13億人を超える人口を統治する中国だけに、国内向けに日本に強硬路線を唱える必要があるからだ。APECを機に、多くの華僑を抱える東南アジア諸国連合(ASEAN)や台湾を巻き込む形で今後の対中戦略を考える必要がある。(しおかわ まさじゅうろう)