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[23706] 操演のレギオス -リリス洗礼- (鋼殻のレギオス オリ主最強) 第1話 願望
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/06 09:44
初めまして「アーセ」です。

ここの掲示板のSSを良く読んでいるのですが、自分でも作ってみたいと思い筆を手に取った次第です。
初投稿の為、誤字だの脱字だのが目立ってしまうかもしれませんが、
最後まで書けるように頑張ります。

【本作品の注意点】

1.本作品は、鋼殻のレギオスの世界をオリ主中心に進んでいきます。
最初は「レジェンド・オブ・レギオス」の世界も絡まってきます。

2.説明文などがやたらと長くなり、話のテンポが遅い事があります。

3.主人公はどんどん強くなっていきます。かなり自重しない強さになる予定です。

4.更新は不定期です。
(イメージしている流れを形にするのに時間がかかる為。)

5.文法の間違い等ありましたら、指摘して頂けると助かります。

6.私は一応「鋼殻のレギオス」と「レジェンド・オブ・レギオス」を読んではいますが、
「聖戦のレギオス」はまだ読んでいない為、解釈の間違いやご都合主義のような進み方に
なる場合がございます。

7.リリスの性格が原作と違います。(似ているところもあるとは思いますが。)


では『操演のレギオス -リリス洗礼-』を宜しくお願い致します。




第1話 願望


どうしてこうなったのだろう。

いつものように過ごすはずだった。学校へ行き、放課後には部活に精を出し、帰りに友人と寄り道をしてから家に帰る。

どうしてこうなったのだろう。

今、起こっている事に思考が付いていかない。気付いた時には、もう自分が自分であるという認識も薄れてきている。

どうしてこうなったのだろう。

どこが上でどこが下かわからない。もう手足の感覚がないというのでなく、体そのものが消失してしまっている。そして残っているのは、消えかけの意識だけ。
薄れていく意識の中で、今いるこの場所は『ゼロ領域』であることが何となくわかった。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


『ゼロ領域』に来る少し前、都市は異形の怪物に襲われた。地を這うもの、空を飛ぶもの様々だったが、共通点が1つだけあった。それは、どの怪物も形が一定ではないこと。
怪物は人間であろうと動物であろうと動いている生物を貪り続けた。喰らった物の特徴を取り込み、さらに変異する。そしてまた喰らう。この繰り返しだ。

俺は、俺たちは、怪物から逃げていた。部活帰りに何の前触れもなく襲われた。友人と離れないように手を握って逃げ続けていた。

ふと友人の手の力が引いたのを感じて、振り向いて手の先を見た。手は肘の辺りまでしか無く、その先にあるはずの体が無い。代わりにいるのは空より降り立った怪物。
その怪物が口を開け、喰われると思った瞬間、地面が爆ぜた。いや、地面だけではない。空間そのものが爆ぜた。

この瞬間、都市にいた人間は全て、ゼロ領域に叩き込まれた。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


ゼロ領域とは何か。それには『オーロラ粒子』が深く関わってくる。

オーロラ粒子とは『アルケミスト』と呼ばれる科学者チームが『永久に動くものを作りたい』と言って開発した機械から発生している粒子のことである。しかし、当初この機械は永久的に
オーロラ粒子を発生させるだけで、応用する方法など全くの皆無だった。未知の粒子であるが為に、車の動力や、電気等のエネルギーといった人の生活に欠かす事の出来ないものに
転用する事が出来なかったのである。

だが、ある一人の願望から全ては一変する。

アルケミストの一人であった彼は、永久機関の完成を祝い「ワインが飲みたい」と言った。当時、飢餓や貧困で配給される物資が限られている為、嗜好品の類は、
一部の特権階級にしか回らない。だから、一介の研究者でしかない彼には飲むことなど出来ない。彼はただのコップ1杯の「水」でその時の欲求を紛らわせるつもりだった。
だが、予想外のことが起こった。欲求が強すぎたのか脳に刺激を与え、ただの「水」を飲んでいるはずなのに、味や芳醇な香りはワインそのものであったのだ。

この日より、アルケミストは原因の究明を開始する。

調査の結果、開発した機械から発生しているオーロラ粒子が『人の思念に反応して世界を形成する』という特質を持っている事が判明した。この特質を利用し、
飢餓や貧困の原因である資源の枯渇の解決策を模索することとなる。

そして、人類の希望とも言える永久機関『亜空間増設機』が完成する。使用方法は、亜空間増設機に対して、人の思念波によってデータの入出力を行うことでオーロラ粒子が反応し、
新たな亜空間を形作る。この亜空間を『オーロラ・フィールド』と名付けた。たちまち亜空間増設機は量産され、物理的には何もない場所にオーロラ・フィールドを生成し、
人が望む大地を増やしていった。既にその規模は地球の表面積を大きく上回るくらいである。本来の地球の大地として残っているのは、中央政府が都市のみとなっている。
何にせよオーロラ・フィールドの空間内では物資も自由自在に作り出すことが出来たことにより、資源の奪い合いである『資源戦争』を終結させることとなった。

というのを最近やっていたドキュメンタリー番組で見た。本当に正しいのかは数百年前の出来事の為、確認する術は無いが。

冒頭に戻るが「ゼロ領域」とは、人の思念に反応して亜空間を形成する前のオーロラ粒子のみが充満している空間のことだ。

近年、亜空間増設機の故障によりオーロラ・フィールドが崩壊し、そのフィールドの空間内に住んでいる人間がすべてゼロ領域に取り込まれるという大事故が数件発生している。
普通の機械なら故障個所を修繕することで直すことが出来る。しかし、亜空間増設機を発明した初代アルケミストは既にいない。代替わりした今のアルケミストに出来るのは
新たに亜空間増設機を作成することだけ。部品の差し替えに、プログラムの書き換え等は全くできないのである。他にも問題があり、オーロラ・フィールドの崩壊までとは行かなくとも
オーロラ・フィールド内にオーロラ粒子が噴出するという現象が発生している。通常、人間はオーロラ・フィールドが形成される前のオーロラ粒子の影響を受けると、
オーロラ粒子がその人間の願望に反応し、その人間を願望に基づく『異世界法則』を宿した人間『異民』へと変貌させる。

そう、変貌させるのだ。

元の世界の法則ではありえない特殊能力を得るのと引き換えに『人間』としての形を留められない。これは『異民化問題』として、どの都市でも問題となっている。
オーロラ粒子を調査していた初代アルケミストは、調査の過程で多量のオーロラ粒子の影響を受け、世代交代する前に存命する者は誰もいなくなってしまった。
稀に特殊能力を得た上で人間としての形を保っている異民が存在するらしいが、とりあえず俺はそうではなかったようだ。

全く、本当にどうしてこうなったのだろう。

ゼロ領域を漂う中、ふと周りを見てみる。一緒にゼロ領域に叩き込まれた名前も知らない都市民は、黒い塊となって何かに集まっていくのが微かに見える。

あれは……集まる先にいるのは何だ?人か?

いや、もういいか。意識を繋ぎ止めておく事など出来そうにない。

ふと思う。

ここがゼロ領域なら俺の願いの一つでも聞いてくれてもいいじゃないだろうか。そうだな、一人っ子だったから兄弟が欲しいな。姉でも妹でもいい。
「もし叶えてくれるなら、俺は兄弟の為に生きよう。」
体の無い状態で呟けたのか判らないが、意識はここで途切れた。



2010/11/6
少しだけ改編しました。



[23706] 第2話 姉弟
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/06 09:45
第2話 姉弟


リリスは考えていた。ニリスの事、アイレインの事、ナノセルロイドの事、イグナシスの事。そして、怨敵であるニルフィリアの事だ。

自分の分身であったニリスが、敵であるアイレインに心を開いた。その事が無性に許せず、自らニリスを砕いた。
ニリスは私以外を見ていた。アイレインはニリスの心を奪った。どちらも許せない行為だ。

ナノセルロイドのレヴァンティン、カルバーン、ドゥリンダナは、私が築き上げてきた場所を一片の慈悲も無く破壊し尽くした。
ハルペーは、何がそうさせたのかは判らないが、他のナノセルロイドと敵対する道を選んだ。袂を分かつ前に、ハルペーも一緒に破壊したが、利用出来るなら利用するとしよう。

アルケミストを名乗るイグナシスは、利用しようとした癖に、ニルフィリアの方が優秀だから私を捨てた。捨てた事は別に良い。元々、利用し利用される関係だったからだ。
だが、私と比べてニルフィリアを選んだ事が許せない。私のプライドを酷く傷つけた。

そして、ニルフィリアは存在そのものが許せない。こちらを歯牙にも掛けないあの態度が私を苛つかせる。

しかし、これらに勝つ為には、生半可な力では到底太刀打ち出来ない。私は異民であるが自身の強さは、一般人と比して何ら変わりはない。
人外の力を持つ異民とは戦うことなど出来はしない。ならば、ゼロ領域を使い私の望む力を持つ人間を作り出す。ゼロ領域内での自分の保ち方は心得ている。何の問題はない。
私は異民化しているが、見た目は変わらず美しさを保っている。いや、歳を重ねることが無くなった分、前より良くなったと言っていい。
異民化したならば、目も当てられない姿になるのが常だが、そうはならなかった。そんな自分を見続ける為に、自分と瓜二つのニリスを作ったが、あまりに許せない結果で終わった。

「ふぅ、少し考えが逸れたな。」
そう漏らすと、また考え込む。

今までに挙げた敵を倒すには、私の誰にも負けないという強い『願望』を持たせた者を作り上げるしかない。
それでいて自分に従順で無ければ、またニリスのように私から離れてしまうかもしれない。

そして、イメージする。私を想い慕い、そして暴力的なまでの強さを持つ者を。だが、私に似た容姿は最優先で反映させる。

結果として出来たのは5歳ぐらいの男の子。自分の子供の頃に似ている気がする。今は気持ち良さそうにベッドの上で寝ている。
しかし、自分で作っておいて何だがこの子は私の求める強さを持っているのであろうか。見た目からでは想像が付かない。

「ん、目が覚めるかな?」

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「ん………。」
眩しい。ここはどこだろうか?というより生きているのか?頭がぼーっとするが、状況を確認しないとならない。

なんだ?近くに誰かいるのか?
「あなたは誰?」
声を出してみて驚いた。自分の声が若い。いや、幼い。

「私はリリス。あなたの姉にして、作った人よ。」

最後の「作った人」というのが一番理解出来ない。とりあえずは、
「お母さん?」

ビシッ!

にっこりと微笑まれ、デコピンされた。結構痛い。
「お姉さん?」

「そうよ。」

「俺に姉はいなかったはずだけど?」

「だから言ったでしょ?私があなたを作ったのだと。それとその容姿で『俺』は似合わないわよ?」

「………ん?」

「はい、鏡。」

鏡に映るのは、自称姉さんを幼くした感じの顔立ちだ。男の子だろうか?疑問形になってしまうのは、中性的な顔であるからだ。かなり整っている。
「誰だ?」

「あなたよ。」

「………。」
落ち着こう。とりあえず生きてはいるようだ。ゼロ領域で意識を失い、気が付いたら姉が出来た。許容の範囲内………な訳がない。反論する為に口を開こうとすると、

「先に言っておくけど、あなたは一度消えているわ。ゼロの領域に完全に飲み込まれた。そして、私の願望を具現化する時にたまたまあなたの残留思念が呼応した。ってところね。」

「………。」

「あなたは最期に何かを願ったはずよ。それは覚えている?残留思念は感じ取れたけど、それが何の願いなのかは、私には解からない。
でも、悪い感じはしなかったからそのままにしておいただけ。」

「………、兄弟が欲しいと願った。」

「そう、ならおめでとう。願いが叶ったわね。」

そう言うと、にっこりと微笑まれた。あまりに綺麗だったから思わず見惚れてしまった。助けってもらったのだから、もう一つ思い出した事を言っておこう。
「あと、願いが叶うならその人の為に生きると誓った。」
そう言うと、リリスが目を丸くした。かなり驚いたようだ。

「あなたは、今でもそう言える?」

「言える。」
ここは即答させてもらう。ゼロ領域で消える寸前に、兄弟が欲しいと願いそれが叶った。ならあとは実行するだけだ。

「そう、ありがとね。」
頬に朱色がさす。素っ気ない態度だがお礼を言うのに慣れてないのか、ちょっと照れている。

「こちらこそ願いを叶えてくれてありがとう。」

こうして二人の姉弟の生活が始まった。弟は胸に希望を宿し、姉は黒い欲望を胸に秘めながら。



[23706] 第3話 名付
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/06 09:45
第3話 名付


「って名前を決めて無かったわね。」

「名前なら………あれ?」
名前が出てこない。

「どうやらゼロ領域に溶け込んだ時に、記憶の一部を持って行かれたわね。どの道、生まれ変わったようなものなのだから、新しい名前にしなさいよ。私が付けてあげるわ。」

「はーい。」
ちょっと可愛く言い過ぎた気がする。精神年齢が実年齢に引っ張られているのか?でも、緊張してきたな。変な名前付けられたらどうしよう…。

「あなたは今から、グラム・ダインスレイフ。どう?格好いいでしょ?」

「グラム・ダインスレイフ…。うん、変な名前付けられなくて安心したよ。」

「一体、私を何だと思っているのかしら?」
姉さんがジト目で睨んでくる。

「美人ナ姉サン。」

「嬉しい事言ってくれるけど、それは当然の事。あと、棒読みになっているわよ。」
ムスッとしているが、そんな事より聞きたい事があった。

「そういえば、ここってどこなの?さすがにゼロ領域では無いでしょ?」
この家は、いや屋敷かな。この屋敷は、一体どこにあるのか検討もつかない。ゼロ領域ではないとは思うのだが。

「ここは、私がゼロ領域から生み出した仮設のオーロラ・フィールドの中よ。大きさは、この家と小さな庭が入るぐらいの大きさ。あと、住んでいるのは私たち二人だけだから。」

「ってことは、少し外に出ても大丈夫なのかな。それにしても使用人はいるかと思ったよ。」

「前はいたけど、ゼロ領域に全員飲み込まれたわ。」

「ゼロ領域に?」

「そう、グラムがゼロ領域に飲み込まれた時より、もう少し前に私のいた都市も飲み込まれた。その時に都市民含めて、私以外全員飲み込まれたわ。」
姉さんの顔が険しくなってくる。あまり踏み込まない方が良いかと考えたが、姉さんの言葉は続く。

「私がいた都市も、グラムがいた都市も事故で無くなったのではないのよ。」

「え?」
事故ではない?亜空間増設機の故障によりゼロ領域に飲み込まれたのではないのか?

「人為的に亜空間増設機を壊した奴がいる。そいつの名前はイグナシス。イグナシスは現存する亜空間増設機を全て破壊し、全人類をゼロ領域に叩き込んだ。」

「そんなことが…。」

「事実よ。生き残った人間は皆無。生き残れるのは私達のように異民になった者だけ。だから、私は必ずイグナシスを殺すわ。もちろんグラムも手伝うのよ。」

「手伝うのは構わないよ。それが事実なら俺も許せない。それに姉さんを手伝うのは当然だよ。そう誓ったのだから。」

「ありがとう。頼りにするからね。」
姉さんが笑ってくれる。俺が戦うには十分な理由だ。だが、
「でも、気になる単語が一つあったよ。」

「気になる単語なんてあった?」

「さらっと言ったけど、俺も姉さんも異民なの?見た目が普通の人間と大差ない気がするけど。」
自分の手を見て、握って開いてを繰り返してみる。別段、変な感じはしないのだが。

「異民よ。人間から化け物にならない方法は二つ。心に蓋をして、自分の願望を表に出さないこと。そうすることでオーロラ粒子が反応しないから化け物にもならない。
これは相当な訓練が必要だし、人間のままでいる為の方法。もう一つは、自分を自覚すること。頭の髪の毛一本一本から、足の爪の先まで自分を完全にイメージが出来ること。
異民化しても自分をはっきりとイメージ出来ていれば化け物のようにはならない。私はもちろん後者。」

「俺はどうなの?」

「グラムはゼロ領域でオーロラ粒子を基に私が作ったから異民よ。体の作りは人間そのものだと思うけど、体を構成しているのはオーロラ粒子。
あと、私がグラムを完全にイメージしている限りゼロ領域内でも何の問題はない。」

「そうなのか。なら今のところ心配する必要はない訳だ。あと、異民化すると特殊能力が付与されるらしいけど、俺にもあるの?」

「結論から言えば、まだ判らない。有るかもしれないし無いかもしれない。私がグラムを作ったのは、イグナシスを倒す力が欲しかったから。
でも、グラム自身の願いは兄弟が欲しかった事。これは戦う為の願いではない。だからまだ判らない。有るならば何をきっかけに発動するかも判らないのよ。」
そう姉さんは言うと肩を竦めた。

「そうなのか。楽しみではあるし、不安でもあるな。」

「私の能力は、どんなに離れていても会話が出来る能力。判り易く言えば『テレパシー』ね。」
そう言うと、
『どう?聞こえるでしょ?』

驚いて耳を押さえてしまう。いや、聞こえるのは頭の中なのか。

「このテレパシーは私とグラムの間でしか繋げる事はできないけどね。」

「それでも凄いよ。あぁ、俺はどんな力なのかなぁ。」

出来ることなら、姉さんを守れる力が欲しい。イグナシスという強大な敵を倒す為には、生半可な力では足りない。俺にもきっと強大な力が眠っていると、そう願わずにはいられなかった。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

あとがき

名前に関してちょっと補足です。
グラムもダインスレフも魔剣の名前ですね。
ナノセルロイドが聖剣の名前を使っているので、
その対抗心からリリスは、魔剣の名前を与えることにしました。

いつ頃、鋼殻のレギオスの世界に行けるかはまだ未定ですが、
頑張って執筆していきます。

それにしても書くのってホント大変なんですね。
キャラの口調が中々安定してない気がするなぁorz



[23706] 第4話 離別
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/07 22:01
第4話 離別


このオーロラ・フィールド内に来て、90回目の朝が来た。90日とか約3ヵ月とは言えない。ここはゼロ領域に近い性質を持っているらしく、時間の概念が無い。
でも、概念が無いというのは、止まっているというのとは違うようだ。だから、太陽はちゃんと昇るし、沈みもする。

そして今回もまた姉さんを起こしに行く。姉さんは自分じゃ起きないから俺が起こしに行かないといつまでも寝ている。あと家事が全く出来ない。
俺が来るまでどうしていたのか聞いたら、好きな時に寝て、好きな時に食べていたらしい。ゼロ領域で、一瞬クッキングなのだそうだ。幾らなんでも反則過ぎるだろう。
異民だから食べなくても死なないし、プロポーションはイメージだけで維持できる。なんて贅沢なお方だ。せっかく立派なキッチンがあるのに使わないのも勿体無いので、
俺が使う事にしている。5歳児の体だと何かと不便ではあるが。食材は使っても次に使う時は、元に戻っている。もう難しく考えるのは止めた。

「姉さん?起きて?」

「ん~?」

まだ寝惚けているらしい。

「また朝が来ましたよ。朝食はここに置いておきますから、着替えたら食べておいてくださいね。」

まぁ、姉さんが起きるのはもうちょい先だろう。掃除と洗濯が終わった頃かな。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


リリスは、ベッドに転がりながら、グラムを作ってからの事を考えていた。

グラムは良く尽くしてくれている。利用する為に作ったのを忘れてしまっている事があるくらいだ。こんな風に時間に囚われず、二人で過ごすというのも良いかもしれない。
どんな能力かも判らないままだし、本当に何も持っていない可能性もある。

だが、心の中で黒く燻り続けているものがある。これこそがグラムの存在意義だ。私がグラムと二人で過ごす事選んだら、グラムは消えてしまうのではないか。そんな考えが頭をよぎる。

「今はまだ早計かもしれない。」

時間はあるのだから、ゆっくり考えるとしよう。

リリスはそう決めて、ベッドから出る事にした。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


グラムは昼食の用意をしている。

「さて、今回はナポリタンでも作ってみようかな。」

食べなくても死にはしないと言っても、出来る限りは人間らしい生活を送ってはいたい。そういえば、父と母は仕事人間で家にいる事は少なかった。いる時は一緒に食事をし、
出掛ける事もあったから、嫌われていた訳では無かったと思う。結果として、家事全般は一通りこなす事が出来るようになった。生まれ変わっても続ける事になるとは
思ってもみなかったが。でも、姉さんには感謝している。一緒に居てくれるし、何より食事が一人じゃないのが良い。

突然、足元を大きな揺れが襲った。

「なんだ!?」

足元が揺れ、壁が軋めていている。ここに来てから地震は初めてのことだった。

上階から姉さんが駆け下りてくる。

「姉さん、この地震は!?」

揺れはまだ収まる気配が無い。それどころかどんどん大きくなっている。

「まさか…、見つかった!?」

何に?と聞き返す前に、

「逃げるわよ!」

手を引っ張られて、屋敷から離れる。走りながら空を見ると、所々にオーロラが出来ている。という事は、オーロラ粒子がオーロラ・フィールド内に漏れているということだ。
良く見ると漏れている箇所が、どんどん広がっていくのが分かる。

オーロラから一筋の光が走り、俺と姉さんの前に落ち、大きな衝撃音と共に土埃が舞う。ゆっくりと土埃から出てきたのは、若い女性のようだ。表情からは何も読み取れない。

「お前は……。」
姉さんが驚きの為か、声が上ずっている。

「ナノセルロイド・分離マザーⅢ・ドゥリンダナ。主の命により、このオーロラ・フィールドの破壊及び、異民である貴女方を排除します。」


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


あまりに急過ぎる展開に、リリスは動揺していた。ここが見つかる事は無いはずだったし、予定としては、仕掛けるのはこちらからのはずだった。だが、後悔しても仕方が無く、
先手を取られてしまった。

どうする…。

頭の中で考えても、この状況を打破出来る考えが思いつかない。せめてグラムを逃がす為の方法を考えなければ…。

今、私は何を考えた…?グラムを逃がす?戦わせる為に作ったのに?

「ククッ」

思わず苦笑してしまった。自分の事よりグラムを優先的に考えているとは思ってもみなかった。どこかでちゃんと割り切っているつもりだったが、いざという状況になると本音は
隠せないようだ。だが、悪くない。一緒にいた時間は長くはなかったが、充実した『人間』としての暮らしが出来たと思う。グラムがこの先どうなるかは分からない。それでも、
未来を生きて欲しいと願う。出来たら強くて優しい『人間』になって欲しい。

覚悟は決まった。あとは、ゼロ領域に出てスキを突いて逃がすだけ。

「グラム、あなたは逃げなさい。」

「何言ってんだよ?一緒に逃げるんだろ?まさか、死ぬつもりじゃないだろうな!?」

グラムは声を荒げているが、顔は今にも泣き出しそうだ。

「大丈夫、姉さんに任せない。私は死ぬつもりなんか全く無いわよ。ちょっと離れ離れになるけど、あとで必ず会えるからね。」

「あぁ、その目は言った事必ず曲げない時のだ…。」

「さすがグラム、分かってるわね。そんなグラムが大好きよ。」

頭を撫でながらそう言うと、

「はいはい、それ以上は変なフラグが立ってしまうから自重してね。」

そっぽを向いて顔を見せてくれないが、どんな顔をしているのか分かる。

リリスはしゃがみ、グラムと同じ目線にして、顔を近づけ額に軽くキスをする。

「おまじない。」

グラムは額を押さえて呆けているが、もう時間は無い。

「ドゥリンダナ、別れを待ってくれた事には感謝するけど、余裕を見せすぎよ。」

ドゥリンダナが口を開こうとした時、空間が爆ぜ、オーロラ・フィールドが崩壊する。リリスは自分を含め全員をゼロ領域に叩き込む。突然の事に、
状況把握が追い付いていないドゥリンダナを尻目に、グラムの腕を掴み、力の限り、思いの限りを尽くし、遠くへ投げる。

ドゥリンダナに向き直り、手をかざす。
「あんたはここに閉じ込める!!」
オーロラ・フィールドを再形成し始める。ドゥリンダナを閉じ込める為だけのオーロラ・フィールドだ。ドゥリンダナは電撃を放ってくるが、気合いでどうにかする。ゼロ領域では、
思いの強さがものを言う。ここからは、我慢比べだ。グラムがナノセルロイドを倒せる力を得て、戻ってきたら私の勝ち。それ以外は負けだ。分が悪い賭けのような感じもするが、
グラムは必ず戻ると信じている。戻ってくるようには言ってないけど、どんな事があっても辿り着く。そんな確信がある。

「それにしても私が人の為に動くとはね。元気でやるのよ、グラム。」

オーロラ・フィールドの再形成が完了し、リリスは全身全霊を賭してドゥリンダナを封じ込めることに専念し始めた。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


グラムは慣性を無視してゼロ領域で突き進んでいた。自分の力の無さに怒りが込み上げてくる。唇を噛み過ぎて切れてしまっているが、そんな事にかまっている余裕はない。
突然、姉さんと別れることになるとは思ってなかった。今日も何時もの様に過ごすはずだった。力なんて無くても幸せだった。だがそれをナノセルロイドに壊された。

ナノセルロイドが憎い。

自分の考えや認識が甘くて、何も出来なかった。壁や床が近くにあれば、頭を叩き付けているところだ。姉さんを守る為に、作られたのに姉さんに守られてしまった。

「力が欲しい。」

そう呟かずにはいられない。そして、涙が溢れ出す。

「もう何もいらない…。欲しいのは絶対的な力だ!姉さんを守れる力が欲しい!!」

ゼロ領域のオーロラ粒子が反応し、グラムの体が光り、再構成を行っている。

「がああああああああああああああ!!」

急激な変化の為に、体に激痛が襲う。

「ぐぅぅ…。」

頭にも激痛が駆け抜ける。

「姉さんは、俺が…。」

必ず助ける。そう言う前に、グラムは光に包まれた。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


グラムを包んだ光は、ゼロ領域を抜け、荒れ地の広がる大地へと飛び出る。そして光は、別の光点へと向かって飛んでいく。

こんな荒れた土地の中に都市が一つある。今、光が向かっているのはその都市だ。だが普通の都市ではない。足を生やし、荒野を移動している。この世界の都市とは、足を使って移動し、
空から降り注ぐ汚染物質を防ぐ為に、エアフィルターで覆われている都市を言う。都市に住んでいる人間は、自給自足を行い、ほとんどの人間は生まれた都市で生涯を過ごす。
文献には残っていないものの、初代アルケミストの一人であったエルミ・リグザリオにより作られ都市。それが『自律型移動都市レギオス』である。

そして光は、とある都市の外縁部に降り、光を解いていく。だが、中から現れたグラムはその場に横たわり、今はまだ動く気配を見せなかった。






あとがき

とりあえず「ゼロ領域編」はこれにて終了です。次回は「レジェンドオブレギオス」の世界から「鋼殻のレギオス」の世界に変わります。

終わりは考えてないですが、目標は考えてあります。先は長いですが途中で投げないように頑張ります。


そういえば、今回ドゥリンダナを出したのですが、一言しかしゃべってませんね。。。


それではまた次回、宜しくお願いします。



[23706] 第5話 喪失
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/13 01:54
第5話 喪失

【槍殻都市グレンダン とある屋敷の一室】

デルボネは目を覚ました。
普段は汚染獣が来た時に反応して起きるぐらいで、大抵の時間は寝て過ごしている。
しかし、今回は、汚染獣の反応は無い。
念の為、グレンダンの周りに常に待機させてある念威端子を操作するが、それでも汚染獣の反応は無かった。

「あら?」

外縁部に人が倒れている。
5歳ぐらいの男の子のようだ。
外傷は無いが、起きる気配が無い。
念威端子を近づけ、生存の確認を行う。
息はしているから、問題は無さそうだ。
だが、ここでこのまま放って置く訳にはもちろんいかない。

「近くに誰かいないかしら…。」

念威端子を動かし、近くに人がいないか探し始める。
偶然近くを歩いていた子供たちがいた為、念威端子越しに話しかける。

『こんにちは。リーリン、レイフォン。』

「あ、デルボネ様。こんにちは!」

元気良く返事をするリーリンと、

「こ、こんにちは。」

少しおどおどしているレイフォンだ。

『二人に頼みたい事があるのだけれど、頼まれてくれるかしら?』




【外縁部 エアフィルター付近】

私は外縁部に移動し、デルボネ様の指定した場所に来ていた。
レイフォンは、孤児院にいるお義父さんを呼びに行っている。

「あそこだ。」

人が倒れている所に駆け寄り、体温や呼吸をしている事から無事だと確かめる。

「それにしても、綺麗な顔をしているな~。」

と、ぼ~っと見てしまっていたが、

「見惚れていてどうする、私!」

気を入れ直して、目の前の子に向き直る。

「大丈夫ですか?」

「ん、……。」

目が少し開いたが、意識がはっきりとはしていないようだ。
でも、口を動かし何かを喋っている。
耳を口元に近付けると、

「ね、姉……さ…ん…。」

「他にも人がいるの?」

「……。」

完全に意識を失ってしまったようだ。
すると、

「リーリン!」

「お義父さん!こっちだよ!」

お義父さんとレイフォンが来てくれた。
これで病院に運んでもらう事が出来る。

「まずは病院に連れて行かねばならんな。」

お義父さんは、この子をゆっくりと抱き上げ、病院へと連れて行った。




【孤児院付近の病院】

デルクは保護した子の事を考えていた。
意識はまだ戻っていない。
体に目立った外傷は無いが、念の為、検査を受けさせている。

どうやら終わったようだ。

「どこか問題は?先生。」

「デルクさん、子供に異常は見つかりませんでした。」

「そうですか。」

ほっと胸を撫で下ろす。
だが、次に続く言葉に驚きを禁じ得なかった。

「ですが、剄脈が異常です。」

「剄脈が異常?それでは、先程言った異常が見つからなかったという事とは矛盾しておるが?」

「申し訳ない、言葉足らずでしたね。あの子の剄脈は、通常の武芸者では考えられないくらい発達しています。剄脈の太さも常軌を逸しています。」

あまりの事にデルクは目を見開き唸った。
だが、剄脈が発達しているという事を除けば、今は良いだろう。
それより他にも聞きたい事があった。

「所持品や服装から、どの家の子か分からぬか?」

「現在、都市警にも依頼していますが、所持品から個人を特定する物は無く、服装などからも判断出来ませんでした。」

「そうか……。」

今後どうするか悩んでいる所に、念威端子が飛んでくる。

『その子は、グレンダン以外の所から来たようですよ。』

「「デルボネ様!?」」

『デルク、あなたの孤児院で引き取って貰えないかしら?』

「それは、私も考えていた事ではありますから良いのですが、この子がグレンダン以外から来たというのは?」

『この子がグレンダンに来たのはついさっきですね。』

「そんな!?放浪バスが来たのは1ヶ月も前ですよ!?」

先生が、驚きのあまり大声を出してしまう。

グレンダンは汚染獣との戦闘が頻繁に起こる為、放浪バスが来る事は他の都市と比べてかなり低い。
この子が仮に放浪バスに乗って来ていたとしたら、検問を必ず通っているから、都市警ならすぐに身元が分かるはず。
逆に分からないという事は、正規の手段でグレンダンに辿り着いた訳ではないと、デルボネ様の話が真実味を帯びてくる。
しかし、

「一体、どうやって…。」

『それは私にも分かりません。ですが、こんなに寝顔が可愛い子が、悪意を持って現れたとは考え難いと思いませんか?』

私は、少し考え答えを出す。

「分かりました。私の孤児院で、この子を育てます。」

だが、この時は誰も気付けてはいなかった。
異常に発達した剄脈や突然現れた事に説明が付かない状況によって、本来あるはずのないものを宿している事に。




【デルクの孤児院】

病院に運び込まれて、3日が経った頃、助けた子が目を覚ましたと、先生から連絡を受けた。

「それでは、私は病院に行って来る。」

「行ってらっしゃい。お義父さん。」

「準備は任せたよ。」

孤児院に住んでいる皆には、病院から帰った日に引き取る事を伝えてある。
今は、皆で受け入れる為の準備をしている所だ。




【孤児院付近の病院】

「先生、お待たせしました。」

「彼は病室で待っていますよ。」

先生の後を付いて行き、病室に入る。
彼はベッドから体を起こし、窓の外を眺めていた。

「やぁ、元気にしているかな?」

声を掛けると彼はこちらを向き、

「はい、体は良くなっていると思います。あなたが僕を助けてくれたのですか?」

「病院へ運んだのは私だが、君を見つけて介抱していたのは、リーリンという君と同じくらいの歳の女の子だ。」

「そうなのですか、退院したらお礼を言いにいかないとな。」

会話を始めたばかりだが、何か違和感がある。
歳相応の感じがしない。

「そういえば、まだ名前を聞いていなかったね。私はデルクだ。デルク・サイハーデン。」

「僕は、グラム・ダインスレフです。グラムと呼んでください。」

「では、さっそく幾つか質問をさせて欲しい。」

グラムが頷くのを確認し、デルクは質問を始める。

「グラムは何故あそこで倒れていたのだ?」

「分かりません。ここに来る前の事が思い出せないのです。」

「記憶が無いのかね?」

「みたいですね……。」

グラムは苦々しい笑みを浮かべている。
デルクは先生の方に顔を向け、説明を促した。

「外傷が見当たらない事から、私は心的要因により記憶を自ら封じていると考えている。よほど酷い事が起こり、脳が自己防衛の為に行ったのかもしれない。」

「記憶が戻る可能性は?」

「何とも言えないが、大抵は時間が解決するか、記憶を封じるのに切っ掛けとなった人、もしくは物に触れたりする事が切っ掛けとなり戻る。」

「ふむ。グラムはこれからどうするか考えてはあるのかい?」

「いえ、自分の事が分からないので、何をどうしたら良いのかも…。」

そう言うと、グラムは俯いてしまった。

「グラムさえ良ければ、私の所に来ないかね?孤児院なので、個室を貸したりは出来ないが、今後の身の振り方を考える場所ぐらいにはなるだろう。」

「……。」

グラムは悩んでいるようだ。

「実はもう皆で、歓迎会の準備をしているところなのだよ。」

「これでは断るのは失礼ですよね。よろしくお願いします。」




【孤児院の門前】

「ただいま。」

「おかえりなさい。お義父さん。」

「リーリンか。彼がこれから一緒に暮らす事になる、」

「グラムです。よろしくお願いします。」

ペコリと頭を下げてから、リーリンと呟くと、

「倒れている所を助けてくれて、ありがとう。」

「そ、そんな助けたとかは出来てないよ!?ただ、傍にいるぐらいしかしてないし…。」

「それでも、一番初めに来てくれた事が嬉しかった。」

グラムは、満面の笑みを返していた。

「さぁ、皆が待っているから入りなさい。」

やさしく背中を押し、門をくぐると、

「「「「ようこそ!デルクの孤児院へ!」」」」

リーリンに引っ張られて、皆の輪の中に入っていくグラムを見ている。
彼の未来に加護があらんことを。
デルクは、そう願わずにはいられなかった。




【孤児院 寝室】

歓迎会も滞りなく終わり、夜になったので、みんなで寝ている。
寝る場所は、いつもみんな一緒のようだ。
恥ずかしいけど暖かい感じがする。
グラムは歓迎会を思い返していた。
こんなに良くしてくれるとは思ってもみなかった。

その中でも気になったのは、助けてくれたリーリンとリーリンにくっついているレイフォンだった。
リーリンは、しっかりしていて自分より下の子の面倒を見ていた。
レイフォンはそんなリーリンの手伝いをしていたが、リーリンの色々な指示にあたふたしていたのが、面白かった。
振り回されていたと言ってもいいと思う。

二人のやり取りを思い出すだけでついつい顔がにやけてしまう。
だから、明日からはみんなと一緒に暮らせると思うとワクワクする。
まずは、自分に出来る事からやっていこう。

そう思い目を閉じて眠ろうとすると、窓から見える月が目に入った。
月を見ていると、頭の中がざわざわしてくる。
暖かい感じがするが、怖い気もする。
相反する気持ちが気になるが、嫌な感じが増してきたので、布団を頭に被って眠る事にした。




【孤児院内の道場】

孤児院に住み始めて1ヶ月が経った。
グラムはここの生活にも少しずつだが慣れてきていた。
リーリンとレイフォンの歳と同じぐらいだろうという事で、5歳として登録してある。
歳が近いということで、基本的に行動する時は3人一緒だ。
リーリンが中心となってレイフォンと僕が忙しなく動く。
任されている事といえば、弟妹達の面倒を見る事や掃除・片づけの手伝い。
最近は、料理の手伝いを少しずつ始めている。
自然と手が動くのを見て、姉達に料理をしていた事があるのかもねと言われた。

記憶が無い事を知っているのは、お義父さん以外には、年長組の兄姉にリーリンとレイフォンだ。
知らないのは弟妹達ぐらいだろうか。
最初話した時は、ビックリしていたけど、「そのうち思い出すさ。」と、兄さんに頭を撫でられた時は、嬉しかった。

ここにいても良いのだと、この時初めて思ったのかもしれない。

お義父さんと言えば、やっと自然に「お義父さん」と呼べるようになった気がする。
僕が孤児院に来る少し前からレイフォンに稽古を付けている。
武術の名は『サイハーデン刀争術』と言って、刀を主体とする戦闘術らしい。
必須のお手伝い以外、レイフォンはずっと稽古だ。
今は、僕とリーリンも休憩中だから、ついでに稽古を見学している所だ。

人の中には、剄脈というものを生まれた時から宿している人がいるらしい。
それは『武芸者』と呼ばれ、汚染獣から都市を守る為に存在しているのだそうだ。
記憶が無い僕は、『武芸者』が何なのか解からなかったので、お義父さんが丁寧に説明してくれた。

それにしても、お義父さんとレイフォンはすごい速さで動いている。
思わず目を丸くして驚いていた。




デルクはレイフォンの稽古を付けつつ、リーリンとグラムを見ていた。
リーリンはもちろん目の前で起こる速さに付いていけていない。
だが、グラムは目で追えているようだ。
驚いて目が丸くなっているのが分かるが、それでも追い付いている。
内力系活剄【旋剄】を使っているのにだ。
旋剄とは、脚力を剄で大幅に強化し、高速移動を行う剄技である。
その速度に追いついている。
素質だけを考えれば、天賦の才を持つレイフォンと比べても劣らないかもしれない。
それに、常人離れした剄脈を持っている。
この事はまだグラム本人には伝えていない。
今はまだゆっくりと過ごして貰いたいと思うのは私の我が儘だろうか。
リーリンや弟妹達に引っ張り回され続けているので、ゆっくり出来ているのか心配ではあるが、グラムは楽しんでいる様だからもう少しこのままで良いと思う。

「おっと。」

レイフォンの袈裟斬りを紙一重で避ける。
グラムを気にし過ぎて集中力が落ちている。
集中せねばならんな。




「ねぇ、グラム?」

リーリンがちょっと困った様な顔で話し掛けてきた。

「どうしたの?」

「あなたが倒れていた時に「姉さん」って呟いていたけど、誰の事なの?」

「姉さん?僕がそんな事を言っていたの?」

「うん…、苦しそうに呟いていたから、ずっと気になっていたの。」

そんな事を言っていたのか。
記憶に繋がる事なのだ…ろう……か…?

「うっ!」

突然、頭に突き刺さるような頭痛が襲ってきた。

「どうしたの?」

「頭が…痛い…!」

「グラム!?」

頭を押さえたまま、その場に倒れ込んでしまい、僕は意識を手放した。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

あとがき1
>Fさん
リリスが取り込まれていないと、念威操者が誕生しないのでは?

ということで、時間軸等の説明を少しさせて頂きます。

1.物語の冒頭
主人公がゼロ領域に取り込まれたタイミングですが、あれはイグナシスが全てのオーロラ・フィールドをゼロ領域に還す際に巻き込まれてしまい、
ニルフィリアの纏う黒い塊の一部と化します。

2.リリス登場~最後まで
アイレインがサヤの障害となるものを右目に取り込み、月となってからの話です。
月の中はゼロ領域となっており、イグナシスとナノセルロイドと黒い塊の一部、それにリリスも混在しているという設定です。
この辺がオリジナル設定と独自解釈で、やりたい放題になってしまっていますね。

時間軸を少しは考えているもののゼロ領域は時間の概念が無い為、過去も未来も交錯出来るのでは?
というのが私の考えですので、多少時間軸がズレても大丈夫かなと思って作ってます。



あとがき2

更新遅くて申し訳ないですm(_ _)m
もう3話分ほど書き貯めてあったのですが、色々見直したり、ふと思い付いたものを書いてしまったりと。。。
言い訳ですね、反省してます。

さて、本話からは「グレンダン 幼年編」として書いてみようと思っています。
レイフォンが武芸を始めたのを5歳として、天剣授受者となる10歳までの話です。
オリジナル設定が多くて、読む人を選んでしまうかと思いますが、よろしくお願いします。


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