2010年9月15日 21時59分 更新:9月15日 23時30分
尖閣諸島(中国名・釣魚島)付近での日本の海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件を受け、中国国内では反日的な動きが日本人社会に影を落とし始めている。満州事変(1931年)の発端となった柳条湖事件から79年に当たる18日に合わせ、新たな抗議行動の呼びかけがネット上に流れており、当局は警戒を強めている。一方、衝突した漁船の母港である福建省の漁村は15日、異様な緊張感に包まれていた。
「日程の再検討を強く要請する」。北京市公安局の強い要請を受け、北京日本人学校は18日に予定していた運動会を来月に延期した。偶発的な事件が運動会にまで影響することが「両国関係のもろさ」(日中外交筋)を象徴している。
北京の日本大使館によると、中国国内で発生した主な抗議行動は(1)大使館前で約40人がデモ(2)広州総領事館の外壁にビール瓶投げつけ(3)天津日本人学校への金属球投げつけ--が確認されている。だが、18日に抗議活動を呼びかける具体的な情報はないという。
日本人社会に不安が広がっているのは、中国側が日本側へ圧力を加えるために反日抗議活動を一部容認する「禁じ手」を使ってくるのではとの観測があるからだ。
中国外務省の姜瑜副報道局長は14日の会見で「過激な行為には賛成しない」としつつも「中国各地の大衆は極めて大きな憤りを表している。主権と領土を守る彼らの決意を示すものだ」と評価した。
事件発生後、中国政府は丹羽宇一郎駐中国大使を未明に呼び出すなどして6回会談。強い抗議を含めた厳正な申し入れを繰り返した。首脳合意に基づく東シナ海ガス田開発の条約交渉延期や全国人民代表大会副委員長(国会副議長)の訪日延期など対抗措置も打ち出している。
これは尖閣諸島に中国人活動家7人が不法入国し、日本側に逮捕された04年3月の際の中国側対応と大きく異なっている。当時、中国側が代理大使を呼んで抗議したのは1度だけ。活動家が起訴されず、退去処分になったことなどから対抗措置も実施しなかった。
今回、中国側は公務執行妨害容疑で逮捕された中国人船長が有罪判決を受ける可能性が高いとみて、尖閣諸島で日本国内法が適用される前例になることを恐れている模様だ。
丹羽大使は14日に「関係しない複数の案件をあえて関連づけて一方的な行動をとっている」と中国側に抗議。日中の文化・青年交流など事件と無関係の行事に影響を及ぼさないよう関係者に要請している。
一方、中国側は漁船船長に対する司法手続きの即時停止を要求しており、日本側が船長に対する次の手続きに入る19日に向けて緊張を高めてきそうだ。【北京・浦松丈二】
海上保安庁巡視船と衝突した中国漁船の船長、※其雄容疑者(41)の自宅は、漁船の母港である福建省晋江深滬港の近くにあった。
数十隻の漁船が停泊する漁港には、何人もの武装警官が張り付く物々しさ。ピリピリした雰囲気の中で15日、事件翌日の8日に死去した船長の祖母の葬儀が行われた。船長をよく知る地元の男性(62)は「20年以上漁に出ているベテランで漁の腕が良い。人望もあるので、あの船に乗りたがる船員は多かった」と話した。船長のおばは「日本の船に衝突するとは信じられない。一日も早く返してほしい」と訴えていた。
地元の漁師たちによると、主な漁場は南方の近海と、北方の尖閣諸島や台湾周辺で、尖閣周辺での操業シーズンは2月から10月。多いときは100隻の船が出漁する。尖閣付近での漁は往復10~20日間で、ヒラメやカワハギ、イカなどが取れるという。漁師たちは「以前から釣魚島付近で漁をしていた。(船長が)つかまるなんて聞いたこともない」と不安を募らせる。
地元の人々は「日本のイメージはいま極端に悪くなっている」と口をそろえる。反日感情の高まりを受けて、日本メディアへの警戒も強化されているようだ。船長の自宅付近や漁港では警察関係者が記者(鈴木)の身分証を何度もチェックし、車での移動中は警察車両が前後に張り付き、取材中も、私服警官がビデオカメラを回していた。【晋江(中国福建省)鈴木玲子】
※=簷の竹カンムリを取る