2010年9月15日 21時38分 更新:9月16日 1時8分
政府・日銀は15日、東京外国為替市場で円売り・ドル買いの単独介入に踏み切り、ロンドンやニューヨーク市場でも断続的に介入を続けた。介入額は2兆円と過去最大規模に上ったとみられる。16日も必要に応じて介入を継続する方針だ。14日の民主党代表選に勝利した菅直人首相が介入に消極的とみて、円買いを進めていた投機筋は「電撃介入」に衝撃を受け、円相場は1ドル=82円台後半から2円以上も急反落した。だが、米国経済の先行き懸念を背景とするドル売り・円買い圧力は根強く、政府・日銀と市場との神経戦が続きそうだ。
「予想外のタイミングで、市場にショックが広がった」(みずほコーポレート銀行の唐鎌大輔氏)。午前10時35分。円相場の急変で東京外国為替市場の関係者はパニックに陥った。関係者によると、政府・日銀が介入のサプライズ効果を出すために、東京外為市場で仲介業者を通さず電子取引で直接、巨額のドル買いを実施した。
「このまま放置できない段階に来た」。菅首相は15日夜、官邸で記者団に介入に踏み切った理由を語った。だが、欧米が自国の通貨安を容認し、協調介入に理解を得るのが難しい情勢の中、単独介入に踏み切るにはギリギリの決断が必要だった。
財務省幹部は、「やるからには『スカッとした』では意味がない。勝たなければならない」と、6年半ぶりの介入に興奮を隠さない。8月中旬からの急激な円高に対する政府への「無策批判」が高まる中、財務省は水面下で介入の準備を着々と進めてきた。
現職の玉木林太郎財務官をはじめ、過去2代の財務官は介入経験を持たない。このため8月中旬、財務官として03年から04年にかけて、過去最大の33兆円規模の円売り介入を主導した溝口善兵衛氏(現島根県知事)をひそかに東京に招き、国際局の担当者が当時の経験談を詳細に聞き取った。当時も介入は日本単独で行っており、財務省が溝口氏から得たかったのは、単独介入に対し欧米当局からの支持を取り付けるための交渉術だ。
8月27日、菅首相は「必要な時には断固たる措置を取る」と、強い口調で介入を示唆した。だが、実際は各国への根回しはまだ終わっていなかった。財務省国際局の幹部は各国当局者と連絡を取り、「協調してほしいとは言わないが、批判はしないでほしい」と繰り返し要請した。
政府が今月10日に策定した経済対策には、「介入を含む断固たる措置を取る」と異例の一文が加えられた。「介入の準備が完了したということ」。財務省幹部はその意味を明かす。1日に告示された民主党代表選のさなかも、財務省は政務三役の携帯電話に、市場の状況をメールで伝え続けた。ただ、代表選に影響を与えかねなかったため、「14日までは事実上、封印し、15日に介入に踏み切ったのではないか」との見方も出ている。
15年前に付けた円の最高値は1ドル=79円75銭。このため、多くの市場関係者は「政府の防衛ラインは1ドル=80円。政府は党人事や組閣、国会対応で時間を取られ、当面は介入できない」(大手証券ストラテジスト)と、なお円買いを進める余地があると見ていた。14日の代表選の首相再選後に、菅首相の介入への消極姿勢も見越して急速に円買いが進んだ。
野田佳彦財務相は一夜明けた15日朝、介入を決断。「このままやらなければ口先だけだと思われる。市場が介入が無いと思っている今なら、サプライズを与えられる」(財務省幹部)。市場に宣戦布告を仕掛けた瞬間だった。
同省事務方トップの勝栄二郎次官は、15年前に担当課長として米国と協調し、当時の超円高を1ドル=100円台まで押し戻した経験がある。ただ、今回は国際社会に味方がおらず、勝算は不透明だ。【坂井隆之、久田宏】