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2010年11月13日(土)付

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ソウルG20―協調を将来につなげ

破滅的な通貨安競争への突入は、ひとまず回避できたようである。ソウルの20カ国・地域(G20)サミットは、世界経済の危機を克服していくための協調を確認し合った。首脳宣言は[記事全文]

政策コンテスト―「見える予算編成」の意義

従来は密室で決まった予算編成の過程を、国民に見やすくするための新たな試みが始まった。「政策コンテスト」という制度である。菅政権は来年度予算の目玉として「元気な日本復活特[記事全文]

ソウルG20―協調を将来につなげ

 破滅的な通貨安競争への突入は、ひとまず回避できたようである。ソウルの20カ国・地域(G20)サミットは、世界経済の危機を克服していくための協調を確認し合った。

 首脳宣言は、「為替レートの柔軟性を向上させるとともに、通貨の競争的な切り下げを回避する」とうたった。世界的な経済の不均衡を是正するための具体的な指針を来年中に定めて評価を始めることを盛り込み、先進国の超金融緩和に伴う新興国などへの野放図な資金流入の抑制にも目配りした。

 中国による人民元相場の管理をもっと緩めるよう注文をつけ、米国の金融緩和の副作用にも言及することで、先進国と新興国の対立を和らげたといえよう。為替相場の柔軟化と構造改革の相乗効果を共通の課題として打ち出した点も意義深い。

 不均衡是正の指針づくりは中身まで決められなかったが、当然である。経済の構造や条件は国ごとに異なる。指針にはそれを丁寧にすくい取る配慮が必要で、何より各国の構造改革を促すよう工夫されねばならない。

 米国が提案した「経常収支不均衡を国内総生産(GDP)比率で4%以内」といった数値目標は明快だが、問題の解決を為替相場の調整に頼りすぎることになり、各国の対立を深め、成長を阻害する危険すらある。

 日米貿易摩擦やプラザ合意後の日本の経験を踏まえれば、各国の構造改革を伴わない不均衡是正の論議は不毛だ。各国の努力がG20全体の求心力を高めるような新しいメカニズム作りを目指すべきだろう。

 2年前にワシントンで始まったG20サミットも5回目。大恐慌以来といわれる危機を乗り切る上で協調の力を発揮した後は、日米欧の景気回復には長い時間と曲折が避けられないことがはっきりしたが、曲がりなりにも貴重な役割を果たしてきた。

 これまで常識とされた財政政策、金融政策の限界があらわになり、前回トロントでは財政再建に目配りした。内需不足を輸出で補いたい各国の思惑が競合。人民元安による輸出依存を改めない中国に対し欧米の風当たりが強まった。一方、米国などが超金融緩和政策に傾斜するとドル安の影響が世界に広がり、通貨安競争の渦は猛烈な遠心力をG20にもたらした。

 そうした試練にさらされても、ソウルで首脳たちが結束を示したことは注目に値する。とはいえ、解決への処方箋(せん)作りは今後に託された。未体験ゾーンに突入した世界経済に効く良薬探しに世界の英知が問われる。

 先進国と途上国、黒字国と赤字国。落差が大きいG20だが、G7やG8にはなかった発展のエネルギーを秘めている。グローバル化時代の協調の主要舞台として機能させたい。

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政策コンテスト―「見える予算編成」の意義

 従来は密室で決まった予算編成の過程を、国民に見やすくするための新たな試みが始まった。「政策コンテスト」という制度である。

 菅政権は来年度予算の目玉として「元気な日本復活特別枠」を設け、経済成長や雇用増につながる事業に総額1兆円超を重点配分する。政策コンテストは、特別枠に要望があった189事業(約3兆円)に優先順位をつけるためのものだ。

 判定役は、玄葉光一郎国家戦略相や野田佳彦財務相、仙谷由人官房長官らがつくる評価会議。判定されるのは、同じ与党政治家である各省の大臣や副大臣たちだ。

 各省に対する意見聴取の模様がインターネット中継で国民に公開されている。「パフォーマンスにすぎない」といった批判も野党から出ているが、予算の中枢部についての議論が公開される意義は小さくない。

 公開聴取では、判定作業の真剣さがうかがえる。要望の中には、既存施策の看板の掛け替えや、事業仕分けで廃止を言い渡されたものを特別枠で出し直した例もあった。評価会議側はそこに厳しく切り込んでいる。

 自民党政権下の予算編成は、財務省が各省や族議員と調整し、互いの顔を立てつつ密室で決めた。要望を削ったり、はねつけたりする「嫌われ役」は財務官僚が演じた。その構図を望んだのは政治家たちだった。

 民主党はこれを変え、「政治主導」で予算を作ると公約した。調整も嫌われ役も、政治家たちが引き受けるということにほかならない。

 政権交代直後の昨年末の予算編成では、財務省抜きで最終調整が行き詰まったとき、その役割を担ったのは当時の民主党幹事長・小沢一郎氏だった。今回は財務官僚にも特定の大物にも頼らずに予算をまとめ上げられるかどうか、が問われている。

 この意味で、政策コンテストは「予算編成の見える化」(玄葉氏)を進めることで国民に情報を開示しつつ、政権が予算編成の責任を全うするための仕掛けであると言える。

 折衝の模様が国民の目にさらされれば、政治家と官僚のお手盛り査定はもはや出来ない。結果への評価や批判から政治家は逃れられない。

 公開の利点は、政治家も享受できる。削減や廃止という厳しい判断も、道理さえあれば国民の支持を集めやすくなるということだ。

 菅政権が来年度予算で取り組む「各省予算の1割組み替え」は、1割とはいえ自民党政権では実現できなかったものだ。国民注視の下で大胆な組み替えができれば、大きな成果となる。

 首相が唱える「雇用、雇用、雇用」の理念を貫き、メリハリのついた予算をつくるための試金石といえよう。

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