──12年ぶりの監督復帰。昨年10月に東映撮影所で行われた記者会見では「警察モノとなると、私以外には撮れない。逮捕された経験があって……」と話していましたが、監督復帰した本当の理由は?
『笑う警官』記者会見 第22回東京国際映画祭特別招待作品『笑う警官』の記者会見。写真左から、角川春樹(製作・監督・脚本)、宮迫博之、大森南朋、松雪泰子、佐々木譲(原作) |
角川:実は、監督をすると決めたのは、クランクインの3週間前で。その時点で別の監督はいたものの、血しぶきが飛んだり、銃撃戦があったりで、製作現場からは「このまま進むと、(暴力的で)R指定になってしまう」という話が上がってきたんです。R指定になると、どうしても公開規模が小さくなり、製作費の回収が見込めなくなる。それに、自分としては最初から、この映画を『L.A.コンフィデンシャル』のようなスタイリッシュな映画にしたいと思っていたので、何とかしなければという思いもありました。
残された選択肢は、止めるか、続行するかの2つに1つ。止めた場合も、スタッフの解散や、キャストに払う違約金などでお金がかかる。一旦、止めて、再度、仕切り直す手もあるものの、1度流れた企画を、もう1度仕切り直すのは難しい。かといって、クランクインまで3週間しかない中で、シナリオを書き直し、ロケハンをし、降りてしまった役者の補充をし、衣装合わせもやるとなると、そう簡単ではない。ただ、そういう逆境にメチャクチャ強いのが自分なんですね。それで、任せなさいと。
──そこから3週間で仕切り直した?
『笑う警官』撮影現場会見 2008年10月8日に東映撮影所で行われた撮影現場会見。写真前列左より、忍成修吾、松雪泰子、大森南朋、宮迫博之。後列左より、角川春樹、伊藤明賢、蛍雪次朗、野村祐人、大友康平 |
角川:ロケハンをし、シナリオを書きながら、キャストに稽古に来てもらって。こちらは、一人ひとりがどこまでできるかを測り、向こうは向こうで演出家の力量を測るわけですよね。ただ、クランクイン後も毎日、セリフが変わっていきました。明日撮るシーンを、前日の晩に書き直し、本番当日に「おい、セリフが変わったからな」と言って渡す(笑)。そんな毎日でした。
──それでは、役者が音を上げたのでは?
角川:こういう演出だと思ったでしょうね。初日なんか、マイクが仕込んであるのを役者が気づかずに「変わった演出だよな」と言っているのが聞こえてきて(笑)。だからこっちも、「変わってねえぞ」って言ったら、「えっ、聞こえてたんですか」って。そりゃ、マイクがあるんだから聞こえるよ(笑)。
──12年ぶりの監督復帰は、どんな感じでしたか?
角川:撮っている時は、まるで昨日まで別の現場にいたんじゃないかって思えるくらい自然でしたね。何にも悩まないし。プロデューサーとして、一番困るのは演出家が現場で悩むことなんですが、自分にはそれがまったくないので。