アトムは双子の兄弟のようなもの
──そのアトムと、監督との出会いを教えてください。
監督:僕が生まれ育ったイギリスでは、残念ながら『アトム』のテレビシリーズは放映されていませんでした。でも、アトムのことは10代の頃から知っていました。というのも、輸入品のステッカーなどが結構まわりにあったからです。ただ、ヴィジュアルでは知っていましたが、どんな物語かを知るのはもう少し後のことになります。だから、出会いは遅いかも知れませんが、イギリス人としては、決して遅い方ではないんです。
──手塚さんにとってアトムはどんな存在なのでしょう?
手塚:僕の場合、生まれたときから『鉄腕アトム』はとても人気がありましたから、家の中はアトムだらけだったんです。しかも、手塚治虫の息子ですから、まわりの人も僕のことを「アトム」って言うんですね。だから、アトムには飽きてしまっていました。
そのアトムですが、僕が生まれた翌年から虫プロでアニメが作られはじめ、2歳のときに放送がはじまるんです。だから、僕にはアトムのアニメと一緒に生まれ育ったという感覚があって、双子の兄弟のように思っています。向こうの方が先に生まれているので、お兄さんというか。兄は人気者でスーパーヒーロー、弟の僕は何もできないひ弱な人間なので、アトムに対し気恥ずかしい思いもずっとしてきましたが。でも、やはり、兄弟としての思いはずっと持ち続けています。だから今も、こうやって、お兄さんのために一生懸命宣伝をしているわけです。
──日本のアトムファンに、映画の見どころを教えてください。
監督:すごくエモーショナルな作品に仕上がったと自負しております。特に後半からラストにかけて。メトロシティという空中に浮かんでいた都市は落ちてくるわ、巨大ロボットとアトムがバトルするわで、編集を始めたときに、自分でできるかなって思うくらいのスケール感がありました。だからこそ、エモーショナルで誇りに思えるエンディングになったと思いますので、そこを見てください。
手塚:完成した作品を見て、良かったなと思ったのは、手塚治虫の原点に戻ったような気がしたところなんです。もちろん、現代的にアレンジされていますが、やろうとしていること、語ろうとしているストーリーやキャラクターは、最初に手塚治虫が連載を始めた頃に戻ったんじゃないかと思うくらいシンプルで、ストレート。どうしても日本人は、長い間アトムを見てきて、外見的な特徴から捉えようとしますが、本当に大事なのはテーマやストーリーなんです。今回の映画は、そうしたアトムにとって一番大切なのが何かを、見直せるいい機会になったと思います。
それと、僕らはアトムが日本のキャラクターで、日本人のものだと思いがちですが、本当はとっくの昔に、世界のキャラクターになっているんです。今回の映画では、世界中のアトムファンが望んでいる1つの形を作れたと思っています。なので、これからは日本だけのものではなく、世界のアトムなんだという気持ちで、アトムがもっと世界に広がるように願っています。そのためにも、ぜひ、この映画を何回も見てもらい、「続編が見たい」「もっとすごいものを作ってほしい」と言っていただきたいですね。
(C) 2009 Imagi Crystal Limited Original Manga (C) Tezuka Productions Co., Ltd. |
『ATOM』
●2009年10月10日より新宿ピカデリーほかにて全国公開
[原作]手塚治虫
[監督]デヴィッド・バワーズ
[脚本]ティモシー・ハリス
[声の出演]フレディ・ハイモア、クリステン・ベル、ネイサン・レイン、ユージン・レヴィ、ビル・ナイ、ドナルド・サザーランド、ニコラス・ケイジ
[声の出演/日本語版]上戸彩、役所広司
[原題]ASTRO BOY
[DATA]2009年/アメリカ/角川映画、角川エンタテインメント
[見どころ]
手塚治虫の代表作をフルCGアニメとして映画化。少年トビーがアトムとして生まれ変わって経験する冒険、人々との交流を描く。アトムの声を務めるのは、『チャーリーとチョコレート工場』『奇跡のシンフォニー』などの天才子役からティーンエイジャーの少年に成長したフレディ・ハイモア。お茶の水博士を『ラブ・アクチュアリー』のビル・ナイ、アトムの生みの親であるテンマ博士を、「鉄腕アトム」大ファンを公言するニコラス・ケイジが担当。また、日本語吹き替え版ではそれぞれ上戸彩、役所広司が声を担当。オリジナルに敬意を払いながらも、フルCGアニメで新たな命を吹き込まれたアトムの活躍は見逃せない。