──機嫌が良いときと悪いとき、どっちが多いのでしょう?
崔監督:それは、特に数えているわけじゃないので(笑)。
そう言えば昔、Vシネマが流行っている頃に、今回と同じ沖縄でロケをしたことがあって、ある日、スタッフルームに行くと、地図上のロケ地でもないところに赤いマークがいっぱい貼ってあり、みんなクスクスと笑ってる。俺は地図を見ながら、「何だよ、このマークは。ロケ地と近いじゃないか」と問い詰めるんだけど、それでも笑っていて。で、さらに問い詰めながら気づいたんだけど、マークが貼られている場所は、俺が怒って、誰かを殴った場所だったんですね(笑)。
──殴られた本人も、その場にいたんですか?
崔監督:一緒に笑っていました。あと、忘れもしないんだけど、イラン・イラク戦争の終わり頃に、米軍基地の前でトラックが走るシーンの撮影をしていたんです。道路使用許可証は取ってはいたんだけど、ちょうど、担当が近くにいないときがあった。
9月13日に新宿で行われた『カムイ外伝』のレッドカーペット・セレモニーにて。カムイ役の松山ケンイチと肩を組む崔監督。 |
そんなことも知らずに、堂々と機動隊の一個中隊の前で撮影していると、中隊長がやってきて、「念のため道路使用許可証を見せてくれ」と。それで俺が、「おい、道路使用許可証だって、早く持ってこい!」と製作部に言ったら、慌てて担当者がやって来たものの、「あのー、あのー」と口ごもってる。業を煮やして「いいから早く出せよ」と言ったら、「担当が持ったまんま、次の現場に行ってまして」と。それを聞いてカーッとなっちゃって、「てめえ、この野郎、出せって言ったら出せ!」と。
直接、撮影の邪魔になっていたわけじゃないけど、そのときの俺にとっては機動隊の一個中隊が目障りだったのでしょう。向こうにとっちゃ、逆に「何だ、こいつら」って感じでしょうが。それで職務質問代わりに軽く聞いたつもりが、いつの間にか、俺に製作部の若いスタッフが殴られている状態になっていて。さすがに中隊長も慌てたみたいで、「監督さん、それ以上やると現行犯逮捕します」って(笑)。
──今回はワイヤーアクションに初挑戦しています。そのことに関して記者会見で「気分はジョン・ウー」と仰った後に、「やっぱり崔洋一は、どこまでも崔洋一」と続けたのが印象的でした。ご自身が思う崔洋一像とはどんなものでしょう?
崔監督:それを振り返られないところが崔洋一なんだと。振り返って、反省なんかしたら、すごくつまんないと思いますよ。もちろん、死ぬまでに1回や2回は反省すると思うんですよ。すべての人の意見を聞く瞬間もあるとは思うけど、そういうときはきっと俺がやばいとき。肉体か精神のどちらかが病んでいるんだと思いますね。
──骨太な作品を得意とする印象が崔監督にはあります。先ほどの機動隊との武勇伝(!?)を聞くと、ますますその印象が強まるのですが、監督自身、骨太な作品に対するこだわりはあるのでしょうか?
崔監督:そこは自分でも解明しづらいところですね。自分とは何かがわかっていたら、たぶん、映画監督になっていなかったと思う。ちょっと青臭いですけど、自分とは何か、そこに触れることが、映画を作ろうとする重要な要因になっているんだと思います。
でも、本音で言えば、まさか自分が映画監督になるなんて思ってもいなかった。たまたまアルバイトに行った先が、映画の撮影現場だった。はじまりは、ただそれだけだったのですから。
(C) 2009 「カムイ外伝」製作委員会 |
『カムイ外伝』
●2009年9月19日より丸の内ピカデリーほかにて全国公開
[原作]白土三平
[監督]崔洋一
[出演]松山ケンイチ、小雪、伊藤英明、大後寿々花、イーキン・チェン、金井勇太、芦名星、土屋アンナ、佐藤浩市、小林薫
[DATA]2009年/日本/松竹/120分
[見どころ]
「週刊少年サンデー」(1965~67年)、「ビッグコミック」(1982~87年)に連載された白土三平の同名傑作コミックを、『血と骨』の崔洋一監督が映画化。地面から突如、忍者が飛び出してくるなど、忍者対忍者の戦闘シーンは迫力満点。主人公のカムイ役に松山ケンイチ、ヒロインのスガル役に小雪。ほかに、伊藤英明、佐藤浩市、小林薫ら、演技派スターたちが顔を揃えた大型アクション映画。