原作では、カムイも彼に関わる人も、みんな飛び跳ねたり、忍の世界で生きたり死んだりしている。恋や愛があれば、憎悪や裏切りもあって、小動物が自由闊達に動き回る一方で、立ち尽くすしかない人間たちが描かれていた。そういう画(え)を映像化することは、頭の中ではイメージできても、実際にワンカットずつ撮影し、1本の映画につないでいこうと考えると、問題も山積みになる。読者としては、これほど奇想天外で面白いものはないけど、作る側に回ってみると、困難なことだらけといった感じなんです。
だから、よく「この映画を見た何百万人ものファンが、こっちに向かって一斉に弓を引いてくるかも」と冗談めかして言ってます。そうなったら、「撃つなら撃ってみろ」と言うしかない(笑)。
──小栗旬さん、玉木宏さん、市原隼人さんをはじめ、ここ数年、若手男優の活躍が目立っています。そうした中で、監督から見た松山ケンイチさんの魅力は何でしょう?
崔監督:気骨があり、それでいて繊細な神経を持ち合わせていて、正直であることですね。彼のいろいろな面がミックスして、僕の中で松山ケンイチ像が立体的になってくる。そうした多面性があるところは彼の良いところだけど、かといって彼が、どんな人物にも変幻自在になれるわけではない。そこが好きなんですよ。演技の技術があって、うまくて、何でもできるってタイプじゃないところが。
──その松山さんに、カムイをどう演じてくれとリクエストしたのでしょう。
崔監督:「カムイになってくれ」と。
──松山さんの返事は?
崔監督:「う、う、うん」みたいな感じでしたね(笑)。
これ以上やると、現行犯逮捕します
──今回の撮影は、真夏の沖縄で過酷だったと聞きました。そもそも崔監督の現場自体、過酷だという噂をよく耳に挟みますが。
崔監督:そんなことないんですよ(笑)。僕自身、60歳近い大人として、それなりの常識は身につけているので。
ただ、常識があれば非常識だってあるわけで、いろいろなことが行ったり来たりするんだと思うんですよ。それこそ、うまくいく日もあれば、いかない日もあるし、僕の中にも、楽天的な部分と神経過敏な部分とがある。それが、撮影現場の雰囲気を醸し出していると言われれば、事実だと思います。うまくいっているときは機嫌が良いし、いっていないときはものすごく機嫌が悪いので。非常にわかりやすいんです。