ドリーム小説






Day.4----漏れ鍋






初めて自由を手にしたものの、ハリーは奇妙な感覚に慣れるまで数日掛かった。
好きな時に起きて、食べたいものを食べるなんて、こんなことは今までに無かった。
しかも、ダイアゴン横丁から出なければ、何処へでも好きな所へ行ける。
長い石畳の横丁は世界一魅力的な魔法グッズの店がギッシリ並んでいるし、
ファッジとの約束を破ってマグルの世界へ彷徨い出るなど、ハリーは露ほども願いはしなかった。

毎朝「漏れ鍋」でと朝食を食べながら、他の泊り客を眺めるのがハリーは好きだった。

一日がかりの買い物をするのに田舎から出てきた、小柄でどこか滑稽な魔女とか、
「変身現代」の最近の記事について議論を戦わせている、いかにも威厳のある魔法使いとか、
猛々しい魔法戦士、やかましい小人、それに、ある時は、どうやら鬼婆だと思われる人が、
分厚いウールのバラクラバ頭巾にスッポリ隠れて、生の肝臓を注文していた。




「そろそろ町へ出かけましょうか?」


朝食が終ると、二人は裏庭に出て、杖を取り出し、ゴミ箱の上の、左から3番目のレンガを軽く叩いた。
すると、壁にダイアゴン横丁へのアーチ型の入り口が広がった。

長い夏の一日を、ハリーとはぶらぶら店を覗いて回ったり、
二人でカフェ・テラスに並んだ鮮やかなパラソルの下で食事をしたりした。
カフェで食事をしている客たちは、互いに買い物を見せ合ったり、シリウス・ブラック事件を議論したりしていた。
もうハリーは、毛布に潜って、懐中電灯で宿題をする必要は無かった。
フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーのテラスに座り、
明るい陽の光を浴び、にときどき手伝ってもらいながら、宿題を仕上げていた。

ハリーは羊皮紙から顔を上げ、真正面に座るをチラッと見た。

はテーブルの脇にクリームソーダを置いたまま、羽根ペンを羊皮紙に走らせていた。
参考書や教科書も無いのに、の羊皮紙は綺麗な文字であっという間に埋まった。
ハリーは、何かに取り組んでいる時の、の真剣な顔を見るのが好きだった。
もちろん花のような笑顔も好きだったが、でも、瞼を半分降ろして、どこか遠くを見ている顔も好きだった。
は同年代の女の子たちとは比べ物にならないくらい落ち着いていて、大人びていて、
立ち振る舞いや言葉遣いも気品が漂っていた。
たまにドキッとするような大人の仕草にドギマギするが、ハリーはと一緒にいるこの時間がとても好きだった。




「分からないところでもありましたか?」


ハリーの視線に気付いたのか、が羊皮紙から顔を上げた。




「あ、えと・・・・あ、こ、ここ─────この部分なんだけど」


見ていたことに気付かれないよう、ハリーは慌てて適当な部分を指差した。




「あぁ、これは─────」


は身を乗り出して、ハリーの読んでいた参考書を覗き込んだ。
急に縮まった距離に、ハリーの心臓は大きく跳びはねた。
サラリと流れるように滑り落ちてくるブロンドの髪から、良い匂いがした。




















グリンゴッツの金庫からガリオン金貨、シックル銀貨、クヌート銅貨を引き出し、巾着をいっぱいにしたあとは、
一度に全部使ってしまわないようにするのに相当の自制心が必要だった。
あと5年間ホグワーツに通うのだ、呪文の教科書を買うお金をダーズリーにせがむのがどんなに辛い事か考えろと、
しょっちゅう自分に言い聞かせ、やっとの事で、純金の見事なゴブストーン・セットの誘惑を振り切った。
(ゴブストーンはビー玉に似た魔法のゲームで、失点する度に、石がいっせいに、
負けた方のプレイヤーの顔めがけて嫌な匂いのする液体を吹きかける)
それに、大きなガラス球に入った完璧な銀河系の動く模型も、堪らない魅力だった。
これがあれば、もう天文学の授業を取る必要が無くなるかもしれない。
しかし、「漏れ鍋」に来てから一週間後の事、ハリーの決意をもっとも厳しい試練にかけるものが、
お気に入りの「高級クィディッチ用具店」に現れた。




「覗いてみますか?」


何気なく言ったの言葉に、ハリーは店の前を見つめた。
店の中で、何やら覗き込んでいる人だかりが気になって、思わずハリーもその中に割り込んで行った。
興奮した魔法使いや魔女の中でギュウギュウ揉まれながら、チラッと見えたのは新しく作られた陳列台で、
そこにはハリーが今まで見たどの箒よりも素晴らしい箒が飾られていた。




「まだ出たばかり・・・・試作品だ・・・・」


四角い顎の魔法使いが仲間に説明していた。




「世界一速い箒なんだよね、父さん?」


ハリーより年下の男の子が、父親の腕にぶら下がりながら可愛い声で言った。




「アイルランド・インターナショナル・サイドから、先日、この美人箒を7本もご注文いただきました!」


店のオーナーが見物客に向って言った。




「このチームは、ワールド・カップの本命ですぞ!」


ハリーの前にいた大柄な魔女が退いたので、箒の脇にある説明書きを読むことができた。





お値段はお問い合わせ下さい・・・・金貨何枚になるのか、ハリーは考えたくなかった。
こんなに欲しいと思いつめた事は、一度も無い─────しかし、ニンバス2000で今まで試合に負けたことは無かった。
十分に良い箒を既に持っているのに、ファイヤボルトのためにグリンゴッツの金庫を空っぽにして何の意味がある?
結局、ハリーは値段を聞かないまま、路上で待つの元に戻った。




「よろしいのですか?」
「うん」


しかし、それからというもの、ファイアボルトが一目見たくて、ほとんど毎日通いづめだった。

買わなければならないものもあった。
薬問屋に行って「魔法薬学」の材料を補充したし、制服のローブの袖丈や裾が10センチほど短くなってしまったので、
「マダム・マルキンの洋装店─────普段着から私服まで」に行って新しいのを買った。
一番大切なのは新しい教科書を買う事だった。
新しく加わった二科目の教科書も必要だった。
「魔法生物飼育学」と「占い学」だ。

しかし、本屋のショーウィンドーを覗いて驚いた。

いつもなら飾ってあるはずの、歩道用のコンクリートほど大きい金箔押しの呪文集が消え、
ショーウィンドーには、大きな鉄の檻があった。
その中に、数百冊ほどの本が入っている。
「怪物的な怪物の本」だった。
凄まじいレスリングの試合のように本同士が取っ組み合い、ロックを掛け合い、
戦闘的にかぶりつくという有様で、本のページが千切れ、そこいら中に飛び交っていた。




「この本何に使うんだろう?」


ハリーが聞いた。




「新しい教科の、『魔法生物飼育学』で使用するようですよ」


は教科書のリストをポケットから取り出して、中身を確認した。
「怪物的な怪物の本」は「魔法生物飼育学」の必須本として載っていた。
ハリーは、ハグリッドが役に立つだろうと言った意味が初めて分かった。
もしかしたら、ハグリッドがまた何か恐ろしいペットを新しく飼って、手伝って欲しいのかもと心配していたからだ。
フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店に入って行くと、店長が急いで寄って来た。




「ホグワーツかね?」


店長が出し抜けに言った。




「新しい教科書を?」
「ええ 欲しいのは─────」
「どいて」


性急にそう言うと、店長はハリーとを押しのけた。
それから分厚い手袋をはめ、太いゴツゴツした杖を取り上げ、店長は怪物本の檻の入り口へと進み出た。




「待ってください!」


ハリーが慌てて言った。




「僕、それはもう持ってます」
「持ってる?」


店長の顔にたちまちホーッと安堵の色が広がった。




「やれ、助かった 今朝はもう5回も噛み付かれてしまって─────」


ビリビリという、辺りをつんざく音がした。
二冊の怪物本が、他の一冊を捕まえてバラバラにしていた。




「やめろ! やめてくれ!」


店長は叫びながら杖を鉄格子の間から差し込み、絡んだ本を叩いて引き離した。




「もう二度と仕入れるものか! 二度と! お手上げだ! 『透明術の透明本』を200冊仕入れた時が最悪だと思ったのに
 ─────あんなに高い金を出して、結局何処にあるのか見つからずじまいだった・・・・えーと、何か他にご用は?」
「カッサンドラ・パブラッキーの『未来の霧を晴らす』を2冊下さい」


は本のリストを見ながら答えた。




「あぁ、『占い学』を始めるんだね?」


店長は手袋を外しながらそう言うと、ハリーとを店の奥へと案内した。
そこには、占いに関する本だけを集めたコーナーがあった。
小さな机にうず高く本が積み上げられている。
「予知不能を予知する─────ショックから身を護る」
「球が割れる─────ツキが落ちはじめたとき」などがある。




「これですね」


店長が梯子を上り、黒い背表紙の厚い本を二冊取り出した。




「『未来の霧を晴らす』これは基礎的な占い術のガイドブックとしていい本です─────手相術、水晶玉、鳥の腸・・・・」


ハリーは聞いていなかった。
別の本に目が吸い寄せられたのだ。
小さな机に陳列されているものの中に、その本があった。
「死の前兆─────未来のあなたを見せる本・最悪の事態」




「あぁ、それは読まない方がいいですよ」


ハリーが何を見つめているのかに目を留めた店員がこともなげに言った。




「死の前兆があらゆるところに見えはじめて、それだけで死ぬほど怖いですよ」


それでもハリーはその本の背表紙から目が離せなかった。
目をギラつかせた、熊ほどもある大きな犬の絵だ。
気味が悪いほど見覚えがある・・・・。
店員は「未来の霧を晴らす」をの手に押し付けた。




「他には何か?」
「えーと・・・・『中級変身術』と『三年生用の基本呪文集』を2冊ずつお願いします」


10分後、新しい教科書を小脇に抱え、ハリーとはフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店を出た。
自分が何処に向っているのかの意識もなく、「漏れ鍋」へ戻る道すがら、ハリーは何度か人にぶつかった。
重い足取りで部屋へ階段を上り、中に入ってベッドに教科書をバサバサと落とした。
誰かが部屋の掃除を済ませたらしい・・・・・窓が開けられ、陽光が部屋に注ぎ込んでいた。
ハリーの背後で、部屋からは見えないマグルの通りをバスが走る音が聞こえ、
階下からはダイアゴン横丁の、これもまた姿の見えない雑踏のざわめきが聞こえた。

洗面台の上の鏡に自分の姿が映っていた。




「あれが、死の前兆のはずがない」


鏡の自分に向って、ハリーが挑むように語りかけた。




「マグノリア・クレセント通りであれを見た時は気が動転してたんだ たぶん、あれは野良犬だったんだ・・・・」


ハリーはいつもの癖で、何とか髪を撫で付けようとした。




「勝ち目はないよ、坊や」


鏡がしわがれた声で言った。




















矢のように日が経った。
ハリーとは、ロンやハーマイオニーの姿はないかと、行く先々で探すようになった。
新学期が近づいたので、ホグワーツの生徒たちが大勢、ダイアゴン横丁にやって来るようになった。
ハリーは高級クィディッチ用具店で、シェーマス・フィネガンやディーン・トーマスなど、同じグリフィンドール生に出会った。
二人とも、やはり、ファイアボルトを穴の空くほど見つめていた。
本物のネビル・ロングボトムにもフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店の前で出くわしたが、特に話はしなかった。
丸顔の忘れん坊のネビルは教科書のリストを仕舞い忘れたらしく、
いかにも厳しそうなネビルの「ばあちゃん」に叱られているところだった。
魔法省から逃げる途中、ネビルの名を語った事が、このおばあさんにバレませんように、とハリーは願った。




















夏休み最後の日、まず初めに2人はどこで昼食を取ろうかと考えながら、道をブラブラ歩いた。
すると誰かが大声でハリーとの名前を呼んだ。




ハリー! 


振り返るとそこに、二人がいた。
フローリアン・フォンテスキュー・アイスクリーム・パーラーのテラスに、二人とも座っていた。
ロンはとてつもなくそばかすだらけに見えたし、ハーマイオニーはこんがり日焼けしていた。
二人ともハリーとに向って千切れんばかりに手を振っている。




「やっと会えた!」


ハリーとが座ると、ロンがニコニコしながら言った。




「僕たち『漏れ鍋』に行ったんだけど、もう出ちゃったって言われたんだ
 フローリッシュ・アンド・ブロッツにも行ってみたし、マダム・マルキンのとこにも、それで─────」
「僕たち、学校に必要な物は先週買ってしまったんだ」


ハリーが説明した。




「『漏れ鍋』に泊まってるって、どうして知ってたの?」
「パパさ」


ロンは屈託がない。
ウィーズリー氏は魔法省に勤めているし、当然マージおばさんの身に起こった事は全部聞いたはずだ。




「ハリー、ほんとにおばさんを膨らましちゃったの?」


ハーマイオニーが大真面目で聞いた。
ロンが爆笑した。




「そんなつもりはなかったんだ ただ、僕、ちょっと─────キレちゃって」
「ロン、笑うことじゃないわ ほんとよ、むしろハリーが退学にならなかったのが驚きだわ」
「僕もそう思ってる 退学処分どころじゃない 僕、逮捕されるかと思った」


ハリーはロンの方を見た。




「ファッジがどうして僕の事を見逃したのか、君のパパ、ご存じないかな?」
「多分、君が君だからだ 違う?」


まだ笑いが止まらないロンが、たいていそんなもんだとばかりに肩を窄めた。




「有名なハリー・ポッター いつものことさ おばさんを膨らませたのが僕だったら、
 魔法省が僕に何をするか、見たくないなぁ もっとも、まず僕を土の下から掘り起こさないといけないだろうな 
 だって、きっと僕、ママに殺されちゃってるよ でも、今晩パパに聞いてみろよ 僕たちも『漏れ鍋』に泊まるんだ!
 だから、明日は僕たちと一緒にキングズ・クロス駅に行ける! ハーマイオニーも一緒だ!」


ハーマイオニーもニッコリと頷いた。




「パパとママが、今朝ここまで送ってくれたの ホグワーツ校用のいろんな物も全部一緒にね」
「最高!」


ハリーが嬉しそうに言った。




「それじゃ、新しい教科書とか、もう全部買ったの?」
「これ見てくれよ」


ロンが袋から細長い箱を引っ張り出し、開けて見せた。




「ピカピカの新品の杖 33センチ、柳の木、ユニコーンの尻尾の毛が一本入ってる それに、僕たち二人供教科書は全部そろえた」


ロンは椅子の下の大きな袋を指した。




「怪物本、ありゃ、なんだい、エ? 僕たち、二冊欲しいって言ったら、店員が半べそだったぜ」
「ハーマイオニー、その荷物は?」


はハーマイオニーの隣の椅子を見た。
はちきれそうな袋が、一つどころか二つも三つもある。




「ほら、私、あなたたちより沢山新しい科目を取るでしょ? これ、その教科書よ
 数占い、魔法生物飼育学、占い学、古代ルーン文字学、マグル学─────」
「マグル学を受けられるのですか? あなたはマグル出身なのに?」


が聞いた。
ロンもハリーにキョロッと目配せしていた。




「だって、マグルの事を魔法的視点から勉強するのってとっても面白いと思うわ」
「ハーマイオニー、これから一年、食べたり眠ったりする予定はあるの?」


ハリーが尋ねた。
ロンはからかうようにクスクス笑った。
しかし、ハーマイオニーは両方とも無視した。




「私、まだ10ガリオン持ってるわ」


ハーマイオニーが財布を覗きながら言った。




「私のお誕生日、9月なんだけど、自分で一足早くプレゼントを買いなさいって、パパとママがお小遣いを下さったの」
「素敵なご本はいかが?」


ロンが無邪気に言った。




「お気の毒様 私、とってもふくろうが欲しいの だって、ハリーにはヘドウィグがいるし、ロンにはエロールが─────」
「僕のじゃない エロールは家族全員のふくろうなんだ 僕にはスキャバーズきりいない」


ロンはポケットからペットのネズミを引っ張り出した。




「こいつを良く診てもらわなきゃ どうも、エジプトの水が合わなかったらしくて」


ロンがスキャバーズをテーブルに置いた。
スキャバーズはいつもより痩せて見えたし、髭は見るからにダラリとしていた。




「でしたら、すぐそこに、『魔法動物ペットショップ』がありますよ」


が言った。




「ロンはスキャバーズを診てもらって、その間に、ハーマイオニーはふくろうを選んでは如何ですか?」


そこで4人はアイスクリームの代金を払い、はバッグにゲリとフレキを押し込むと、
道路を渡って「魔法動物ペットショップ」に向った。

店内は狭苦しかった。

壁は一部の隙も無くビッシリとケージで覆われていた。
臭いがプンプンする上に、ケージの中でガーガー、キャッキャッ、シューシュー騒ぐので喧しかった。
カウンターの向こうの魔女が、二叉のイモリの世話を
先客の魔法使いに教えているところだったので、4人はケージを眺めながら待った。

巨大な紫のヒキガエルが一つがい、ペロリペロリと死んだクロバエのご馳走を飲み込んでいた。
大亀が一頭、窓際で宝石をちりばめた甲羅を輝かせている。
オレンジ色の毒カタツムリは、ガラス・タンクの壁面をヌルヌルとゆっくり這って登っていたし、
太った白兎はポンッと大きな音をたてながら、シルクハットに変身したり、元の兎に戻ったりを繰り返していた。
ありとあらゆる色の猫、ワタリガラスを集めたけたたましいケージ、大声でハミングしているプリン色の変な毛玉のバスケット。
カウンターには大きなケージが置かれ、毛並みも艶やかなクロネズミが、
つるつるした尻尾を使って縄跳びのようなものに興じていた。

二叉イモリの先客がいなくなり、ロンがカウンターに行った。




「僕のネズミの事なんですが、エジプトから帰って来てから、ちょっと元気が無いんです」


ロンが魔女に説明した。




「カウンターにバンと出してごらん」


魔女はポケットからガッシリした黒縁メガネを取り出した。
ロンは内ポケットからスキャバーズを取り出し、同類のネズミのケージの隣に置いた。
すると飛び跳ねていたネズミたちは遊びを止め、良く見えるように押し合いへし合いして金網の前に集まった。
ロンの持ち物は大抵そうだったが、スキャバーズもやはりお下がりで、ちょっとヨレヨレだった。
ケージ内の毛艶のよいネズミと並べると一層しょぼくれて見えた。




「フム」


スキャバーズを摘み上げ、魔女が言った。




「このネズミは何歳なの?」
「知らない かなりの歳 前は兄のものだったんです」
「どんな力を持ってるの?」


スキャバーズを念入りに調べながら、魔女が聞いた。




「エー─────」


ロンがつっかえた。
実はスキャバーズはこれはと思う魔力の欠片さえ示した事が無い。
すると魔女の目がスキャバーズのボロボロの左耳から、指が一本欠けた前足へと移った。
それからチッチッチと大きく舌打ちした。




「酷い目に遭ってきたようだね このネズミは」
「パーシーから貰った時からこんなふうだったよ」


ロンは弁解するように言った。




「こういう普通の家ネズミは、せいぜい3年の寿命なんですよ
 お客さん、もしもっと長持ちするのがよければ、たとえばこんなのが・・・・」


魔女はクロネズミを指し示した。
途端にクロネズミはまた縄跳びを始めた。




「目立ちたがり屋」


ロンが呟いた。




「別なのをお望みじゃないなら、この『ネズミ栄養ドリンク』を使ってみてください」


魔女はカウンターの下から小さな赤い瓶を取り出した。




「オーケーいくらですか?─────あいたっ!


ロンは身を屈めた。
何やらでかいオレンジ色のものが一番上にあったケージの上から飛び降り、ロンの頭に着地したのだ。
シャーッシャーッと狂ったように喚きながら、それはスキャバーズ目掛けて突進した。




コラッ! クルックシャンクス、ダメッ!


魔女が叫んだが、スキャバーズは石鹸のようにツルリと魔女の手を擦り抜け、無様にベタッと床に落ち、出口目掛けて遁走した。




「スキャバーズ!」


ロンが叫びながら後を追って脱兎の如く店を飛び出し、ハリーとも後に続いた。
10分近く探して、やっとスキャバーズが見つかった。
「高級箒用具店」の外にあるゴミ箱の下に隠れていた。
震えているスキャバーズをポケットに戻し、ロンは自分の頭を擦りながら体をシャンとさせた。




「あれは一体なんだったんだ?」
「巨大な猫か、小さな虎か、どっちかだ」


ハリーが答えた。




「ハーマイオニーは何処?」
「多分、ふくろうを買ってるんだろ?」


雑踏の中を引き返し、3人は「魔法動物ペットショップ」に戻った。
丁度着いた時に、中からハーマイオニーが出てきた。
しかし、ふくろうを持ってはいなかった。
両腕にしっかり抱き締めていたのは巨大な赤猫だった。




「君、あの怪物を買ったのか?


ロンは口をあんぐり開けていた。




「この子、素敵でしょう、ね?」


ハーマイオニーは得意満面だった。
見解の相違だな、とハリーは思った。
赤みがかったオレンジ色の毛がたっぷりとしてフワフワだったが、
どう見てもちょっとガニマタだったし、気難しそうな顔が可笑しな具合につぶれていた。
まるで、レンガの壁に正面衝突したみたいだった。
スキャバーズが隠れて見えないので、猫はハーマイオニーの腕の中で、満足げにゴロゴロ甘い声を出していた。




「ハーマイオニー、そいつ、危うく僕の頭の皮を剥ぐところだったんだぞ!」
「そんなつもりはなかったのよ、ねえ、クルックシャンクス?」
「それにスキャバーズのことはどうしてくれるんだい?」


ロンは胸ポケットの出っ張りを指差した。



 
「こいつは安静にしてなきゃいけないんだ そんなのに周りをウロウロされたら安心できないだろ?」
「それで思い出したわ ロン、あなた『ネズミ栄養ドリンク』を忘れてたわよ」


ハーマイオニーは小さな赤い瓶をロンの手にピシャリと渡した。




「それに、取り越し苦労はおやめなさい クルックシャンクスは私の女子寮で寝るんだし、
 スキャバーズはあなたの男子寮でしょ 何が問題なの? 可哀想なクルックシャンクス
 あの魔女が言ってたわ この子、もう随分長ーい事あの店にいたって 誰も欲しがる人がいなかったんだって」
「そりゃ不思議だね」


ロンが皮肉っぽく言った。




「まあまあ、二人とも もう『漏れ鍋』に戻りましょう?」


が二人を宥めるように言った。
4人は「漏れ鍋」に向って歩き始めた。
ウィーズリー氏が「日刊予言者新聞」を読みながら、バーに座っていた。




「ハリー!」


ウィーズリー氏が目を上げてハリーに笑いかけた。




「元気かね?」
「はい 元気です」
も元気かね?」
「はい」


4人は買い物をどっさり抱えてウィーズリー氏の傍に座った。
ウィーズリー氏が下に置いた新聞から、もうおなじみになったシリウス・ブラックの顔がハリーを見上げていた。




「まだ、捕まっておられないのですね?」


が聞いた。




「ウム」


ウィーズリー氏は極めて深刻な表情を見せた。




「魔法省全員が、通常の任務を返上して、ブラック捜しに努力してきたんだが、まだ吉報が無い」
「僕たちが捕まえたら賞金が貰えるのかな?」


ロンが言った。




「また少しお金が貰えたらいいだろうなあ─────」
「ロン、バカな事を言うんじゃない」


よく見るとウィーズリー氏は相当緊張していた。




「13歳の魔法使いにブラックが捕まえられるわけがない 
 ヤツを連れ戻るのは、アズカバンの看守なんだよ 肝に銘じておきなさい」


その時、ウィーズリー夫人がバーに入って来た。
山のように買い物を抱えている。
後ろに引き連れているのは、ホグワーツの5年生に進級する双子のフレッドとジョージ、
全校首席に選ばれたパーシー、ウィーズリー家の末っ子で一人娘のジニーだった。
ジニーは前からずっとハリーに夢中だったが、ハリーを見た途端、いつもよりなお一層ドギマギしたようだった。
去年ホグワーツで、ハリーに命を助けられたせいかもしれない。
真っ赤になって、ハリーの顔を見ることも出来ずに「こんにちは」と消え入るように言った。
一方パーシーは、まるでハリーとは初対面でもあるかのように真面目腐って挨拶した。




「ハリー、、お目にかかれてまことにまことに嬉しい」
「やあ、パーシー」


ハリーは必死で笑いを堪えた。




「お変わりないでしょうね?」


握手しながらパーシーがもったいぶって聞いた。
何だか市長にでも紹介されるような感じだった。




「おかげさまで、元気です─────」
「ハリー! !」


フレッドがパーシーを肘で押し退け、前に出て深々とお辞儀をした。




「お懐かしきご尊顔を拝し、何たる光栄─────
「ご機嫌麗しく」


フレッドを押し退けて、今度はジョージがの手を取った。




「恭悦至極に存じたてまつり」


パーシーが顔を顰めた。




「いい加減にお止めなさい」


ウィーズリー夫人が言った。




「お母上!」


フレッドがたった今母親に気付いたかのようにその手を取った。




「お目もじ叶い、なんたる幸せ─────」
「おやめって、言ってるでしょう」


ウィーズリー夫人は空いている椅子に買い物の荷物を置いた。




「こんにちは、、ハリー 我が家の素晴らしいニュースを聞いたでしょう?」


パーシーの胸に光る真新しい銀バッジを指差し、ウィーズリー夫人が晴れがましさに胸を張って言った。




「我が家の二人目の首席なのよ!」
「そして最後のね」


フレッドが声を潜めて言った。




「その通りでしょうよ」


ウィーズリー夫人が急にキッとなった。




「二人とも、監督生になれなかったようですものね」
「なんで僕たちが監督生にならなきゃいけないんだい?」


ジョージが考えるだけで反吐が出るという顔をした。




「人生真っ暗じゃござんせんか」
「妹のもっといいお手本になりなさい!」
「お母さん ジニーのお手本なら、ほかの兄たちがいますよ」


パーシーが鼻高々で言った。




「僕は夕食のために着替えてきます」


パーシーがいなくなると、ジョージが溜息をついてに話しかけた。




「僕たち、あいつをピラミッドに閉じ込めてやろうとしたんだけど、ママに見つかっちゃってさ」


その夜の夕食は楽しかった。
宿の亭主のトムが食堂のテーブルを3つ繋げてくれて、ウィーズリー家の7人、
ハリー、、ハーマイオニーの全員がフルコースの美味しい食事を次々と平らげた。




「パパ、明日どうやってキングズ・クロス駅に行くの?」


豪華なチョコレート・ケーキのデザートにかぶりつきながら、フレッドが聞いた。




「魔法省が車を2台用意してくれる」


ウィーズリー氏が答えた。
するとみんないっせいにウィーズリー氏の顔を見た。




「魔法省が、ですか?」


がフォークを止めて尋ねた。




「パース、そりゃ、君のためだ」


ジョージが真面目腐って言った。




「それに、小さな旗が車の前につくぜ HBって書いてな─────」
「─────HBって『首席』─────じゃなかった、『石頭』の頭文字さ」


フレッドが後を受けて言った。
パーシーとウィーズリー夫人と以外は、思わずデザートの上にブーッと吹き出した。




「お父さん、どうしてお役所から車が来るんですか?」


パーシーが全く気にしていない風を装いながら聞いた。




「そりゃ、わたしたちにはもう車がなくなってしまったし、それに、わたしが勤めているので、ご好意で・・・・」


何気ない言い方だったが、ウィーズリー氏の耳が真っ赤になったのをは見逃さなかった。
何かプレッシャーが掛かった時のロンと同じだ。




「大助かりだわ」


ウィーズリー夫人がキビキビと言った。




「みんな、どんなに大荷物なのか分かってるの? マグルの地下鉄なんかに乗ったら、
 さぞかし見ものでしょうよ・・・・みんな、荷造りはすんだでしょうね?」
「ロンは新しく買ったものをまだトランクに入れていないんです」


パーシーがいかにも苦難に耐えているような声を出した。




「僕のベッドの上に置きっぱなしなんです」
「ロン、早く行ってちゃんとしまいなさい 明日の朝はあんまり時間がないのよ」


ウィーズリー夫人がテーブルの向こう端から呼びかけた。
するとロンはしかめっ面でパーシーを見た。

夕食も終わり、みんな満腹で眠くなった。
そして明日持って行く物を確かめるため、一人、また一人と階段を上ってそれぞれの部屋に戻った。
ロンとパーシーはハリーの隣部屋だった。
自分のトランクを閉め、鍵を掛けたその時、誰かの怒鳴り声が壁越しに聞こえてきたので、ハリーは何事かと部屋を出た。
12号室のドアが半開きになって、パーシーが怒鳴っていた。




「ここに、ベッドわきの机にあったんだぞ 磨くのに外しておいたんだから─────」
「いいか、僕は触ってないぞ」


ロンも怒鳴り返した。




「どうしたんだい?」


ハリーが聞いた。




「僕の首席バッジがなくなった」


ハリーの方を振り向きざま、パーシーが言った。




「スキャバーズのネズミ栄養ドリンクも無いんだ」


ロンはトランクの中身をポイポイ放り出して探していた。




「もしかしたらバーに忘れたかな─────」
「僕のバッジを見つけるまでは、何処にも行かせないぞ!」


パーシーが叫んだ。




「僕、スキャバーズの方、探してくる 僕は荷造りが終わったから」


ロンにそう言って、ハリーは階段を下りた。

もうすっかり明かりの消えたバーに行く途中、廊下の中ほどまで来た時、
またしても別の二人が食堂の奥の方で言い争っている声が聞こえて来た。
それがウィーズリー夫妻の声だとすぐにわかった。
口喧嘩をハリーが聞いてしまったと、二人には知られたくない。
どうしようと躊躇っていると、突然背後から口を塞がれた。




「!?」
「静かに」


が耳元で囁いた。
そしては忍び足で食堂のドアに近寄った。




「・・・・ハリーに教えないなんてバカな話があるか」


ウィーズリー氏が熱くなっている。




「ハリーには知る権利がある ファッジに何度もそう言ったんだが、ファッジは譲らないんだ
 ハリーを子ども扱いしている ハリーはもう13歳なんだ それに─────」
「アーサー、本当の事を言ったら、あの子は怖がるだけです!」


ウィーズリー夫人が激しく言い返した。




「ハリーがあんなことを引きずったまま学校に戻る方が良いって、あなた、本気でそう仰るの?
 とんでもないわ! 知らない方がハリーは幸せなのよ」
「あの子に惨めな思いをさせたいわけじゃない わたしはあの子に自分自身で警戒させたいだけなんだ」


ウィーズリー氏がやり返した。




「ハリーやロンやがどんな子か、母さんも知ってるだろう? 三人でフラフラ出歩いて─────
 もう『禁じられた森』に二回も入り込んでいるんだよ! 今学期はハリーはそんな事をしちゃいかんのだ!
 ハリーが家から逃げ出したあの夜、あの子の身に何か起こっていたかも分からんと思うと!
『夜の騎士バス』があの子を拾っていなかったら、賭けても良い、魔法省に発見される前にあの子は死んでいたよ」
「でも、あの子は死んでいませんわ、無事なのよ だからわざわざ何も─────」
「モリー母さん シリウス・ブラックは狂人だとみんなが言う 多分そうだろう しかし、アズカバンから脱獄する才覚があった 
 しかも不可能と言われていた脱獄だ もう3週も経つのに、誰一人、ブラックの足跡さえ見ていない ファッジが
『日刊予言者新聞』になんと言おうと、事実、我々がブラックを捕まえる見込み薄いのだよ まるで勝手に魔法をかける杖を
 発明すると同じぐらい難しい事だ 一つだけはっきり我々が掴んでいるのは、ヤツの狙いが─────」
「でも、ハリーはホグワーツにいれば絶対安全ですわ」
「我々はアズカバンも絶対間違いないと思っていたんだよ 
 ブラックがアズカバンを破って出られるなら、ホグワーツだって破って入れる」
「でも、誰もはっきりと分からないじゃありませんか ブラックがハリーを狙ってるなんて─────」


ドスンと木を叩く音が聞こえた。
ウィーズリー氏が拳でテーブルを叩いた音に違いない。




「モリー、何度言えば分かるんだね? 新聞に載っていないのは、ファッジがそれを秘密にしておきたいからなんだ
 しかし、ブラックが脱走したあの夜、ファッジはアズカバンに視察に行ってたんだ 看守たちがファッジに報告したそうだ
 ブラックがこのところ寝言を言うって いつも同じ寝言だ『あいつはホグワーツにいる・・・・あいつはホグワーツにいる』
 ブラックはね、モリー、狂っている ハリーの死を望んでいるんだ─────私の考えでは、ヤツは、ハリーを殺せば
『例のあの人』の権力が戻ると思っているんだ ハリーが『例のあの人』に引導を渡したあの夜、ブラックは全てを失った
 そして12年間、ヤツはアズカバンの独房でその事だけを思いつめていた・・・・」


沈黙が流れた。
ハリーは続きを聞き漏らすまいと必死で、ドアにいっそうピッタリと張り付いた。




「そうね、アーサー、あなたが正しいと思うことをなさらなければ 
 でも、アルバス・ダンブルドアの事をお忘れよ ダンブルドアが校長をなさっている限り、
 ホグワーツでは決してハリーを傷つける事はできないと思います ダンブルドアはこの事を全てご存知なんでしょう?」
「もちろん知っていらっしゃる アズカバンの看守たちを学校の入り口付近に配備しても良いかどうか、
 我々役所としても、校長にお伺いを立てなければならなかった ダンブルドアはご不満ではあったが、同意した」
「ご不満? ブラックを捕まえるために配備されるのに、どこがご不満なんですか?」
「ダンブルドアはアズカバンの看守たちがお嫌いなんだ」


ウィーズリー氏の口調は重苦しかった。




「それを言うなら、わたしも嫌いだ・・・・しかしブラックのような魔法使いが相手では、
 嫌な連中とも手を組まなければならんこともある」
「看守たちがハリーを救ってくれたなら─────」
「そうしたら、わたしはもう一言もあの連中の悪口は言わんよ」


ウィーズリー氏が疲れた口調で言った。




「母さん、もう遅い そろそろ休もうか・・・・」


は椅子の動く音を聞いた。
食堂のドアが開き、数秒後に足音がして、ウィーズリー夫妻が階段を上って行った。
ネズミ栄養ドリンクの瓶は、午後にみんなが座ったテーブルの下に落ちていた。
はウィーズリー夫妻の部屋のドアが閉まる音が聞こえるまで待ち、それから瓶を拾い上げた。




「シリウス・ブラックは、僕を狙っていたのか・・・・」


小さく呟いたハリーの言葉に、は振り返った。




「ファッジは僕が無事だったのを見てホッとしたから甘かったんだ 僕がダイアゴン横丁に留まるように約束させたのは、
 ここなら僕を見守る魔法使いが沢山いるからなんだ それに、明日車二台で全員を駅まで運ぶのは、
 汽車に乗るまでウィーズリー一家が僕の面倒を見る事が出来るようにするためだったんだ・・・・」
「ハリー、もう休みましょう 明日は早いですから」


はハリーの手にネズミ栄養ドリンクを押し付け、背中を押して、階段を静かに上った。
フレッドとジョージが踊り場の暗がりに蹲り、声を殺して、息が苦しくなるほど笑っていた。
パーシーがバッジを探して、ロンとの二人部屋をひっくり返す大騒ぎを聞いているようだ。




「僕たちが持ってるのさ」


フレッドがハリーに囁いた。




「バッジを改善してやったよ」


バッジには「首席」ではなく「石頭」と書いてあった。
ハリーは無理に笑ってみせ、ロンにネズミ栄養ドリンクを渡すと自分の部屋に戻って鍵を掛け、ベッドに横たわった。

隣の部屋から壁越しに怒鳴り声が低く聞こえて来た。

何故か、ハリーはそれほど恐ろしいと感じていなかった。
シリウス・ブラックはたった一つの呪いで13人を殺したという。
ウィーズリー氏も夫人も、本当の事を知ったらハリーが恐怖でうろたえるだろうと思ったに違いない。
でも、ウィーズリー夫人の言うことにハリーも同感だった。
この地上で一番安全な場所は、ダンブルドアのいるところだ。
ダンブルドアはヴォルデモート卿が恐れた唯一の人物だと、みんないつもそう言っていたではないか?
シリウス・ブラックがヴォルデモートの下僕なら、当然同じようにダンブルドアを恐れているのではないか?

それに、みんなが取り沙汰しているアズカバンの看守がいる。
みんなその看守を死ぬほど怖がっている。
学校の周りにぐるりとこの看守たちが配備されるなら、ブラックが学校内に入り込む可能性はほとんどないだろう。
いや、ハリーを一番悩ませたのは、そんなことではない。
ホグズミードに行ける見込みが今やゼロになってしまったことだ。
ブラックが捕まるまでは、ハリーが城という安全地帯から出ないで欲しいと、みんながそう思っている。
それだけじゃない、危険が去るまで、みんながハリーの事を監視するだろう。

ハリーは真っ暗な天井に向かって顔を顰めた。

僕が自分で自分の面倒を見れないとでも思っているの?
ヴォルデモート卿の手を三度も逃れた僕だ。
そんなにヤワじゃないよ・・・・。
マグノリア・クレセント通りのあの獣の影が、何故か、ふっとハリーの心を過ぎった。





最悪の事態が来ると知った時、あなたはどうするか」・・・・。





「僕は殺されたりしないぞ」


ハリーは声に出して言った。




「その意気だよ、坊や」


部屋の鏡が眠そうな声を出した。
























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