ドリーム小説
Day.4----グリーモールド・プレイス12番地
「何ですか? この騎士団って─────?」
ハリーが言った。
「ここでは駄目だ!」
ムーディが唸った。
「中に入るまで待て!」
ムーディは羊皮紙をハリーの手から引ったくり、杖先でそれに火を点けた。
メモが炎に包まれ、丸まって地面に落ちた。
ハリーはもう一度周りの家々を見回した。
今立っているのは11番地。
左を見ると10番地と書いてある。
右は、なんと13番地だ。
「でも、どこが─────?」
「いま覚えたばかりのものを考えるんだ」
リーマスが静かに言った。
ハリーは考えた。
そして、グリモールド・プレイス12番地というところまで考えが来た途端、
11番地と13番地の間に何処からともなく古びて痛んだ扉が現れ、たちまち、薄汚れた壁と煤けた窓も現れた。
まるで、両側の家を押し退けて、もう一つの家が膨れ上がってきたようだった。
ハリーはポカンと口を開けて見ていた。
11番地のステレオはまだ鈍い音を響かせていた。
どうやら中にいるマグルは何も感じていないようだ。
「さあ、急ぐんだ」
ムーディがハリーの背中を押しながら、低い声で促した。
ハリーは、突如出現した扉を見つめながら、擦り減った石段を上がった。
扉の黒いペンキがみすぼらしく剥がれている。
訪問客用の銀のドア・ノッカーは、一匹の蛇がとぐろを巻いた形だ。
鍵穴も、郵便受けもない。
リーマスは杖を取り出し、ドアを一回叩いた。
カチッカチッと大きな金属音が何度か続き、鎖がガチャガチャいうような音が聞こえて扉がギーッと開いた。
「早く入るんだ、ハリー」
リーマスが囁いた。
「ただし、あまり奥には入らないよう 何にも触らないよう」
ハリーは敷居を跨ぎ、ほとんど真っ暗闇の玄関ホールに立った。
湿った埃っぽい臭いと、饐えた臭いがした。
ここには打ち捨てられた廃屋の気配が漂っている。
振り返ると、一行が並んで入ってくるところだった。
リーマスとトンクスはハリーのトランクとヘドウィグの籠を運んでいる。
は階段の一番上に立ち、「灯消しライター」で盗み取った街灯の明かりの玉を返していた。
明かりが街灯の電球に飛び込むと、広場は一瞬オレンジ色に輝いた。
はまた「火消しライター」をポケットにしまい玄関に入った。
玄関の扉を閉めるとホールはまた完璧な暗闇になった。
「さあ─────」
ムーディがハリーの頭を杖でコツンと叩いた。
今度は何か熱いものが背中を流れ落ちるような感じがして、ハリーは「目くらまし術」が解けたに違いないと思った。
「みんな、ジッとしていろ わしがここに少し明かりをつけるまでな」
ムーディが囁いた。
みんながヒソヒソ声で話すので、ハリーは何か不吉な事が起こりそうな、奇妙な予感がした。
まるで、この家の誰かが臨終の時に入ってきたようだった。
柔らかいジュッという音が聞こえ、旧式のガラスランプが壁に沿ってポッと灯った。
長い陰気なホールの剥がれ掛けた壁紙と擦り切れたカーペットに、ガラスランプがボンヤリと明かりを投げかけ、
天井には、蜘蛛の巣だらけのシャンデリアが一つ輝き、年代を経て黒ずんだ肖像画が、壁全体に斜めに傾いで掛かっている。
壁の腰板の裏側を、何かがゴソゴソ走っている音が聞こえた。
シャンデリアも、すぐ傍の華奢なテーブルに置かれた燭台も、蛇の形をしていた。
急ぎ足にやって来る足音がして、ホールの一番奥の扉からロンの母親のウィーズリーおばさんが現れた。
急いで近づきながら、おばさんは笑顔で歓迎していた。
しかしハリーは、おばさんが前に会った時より痩せて青白い顔をしているのに気付いた。
「まあ、ハリー、また会えて嬉しいわ!」
囁くようにそう言うと、おばさんは肋骨が軋むほど強くハリーを抱き締め、
それから両腕を伸ばして、ハリーを調べるかのようにまじまじと眺めた。
「痩せたわね ちゃんと食べさせなくちゃ でも残念ながら、夕食までもちょっと待たないといけないわね」
おばさんはハリーの後ろの魔法使いの一団に向って、急かすように囁いた。
「あの方がいましがたお着きになって、会議が始まっていますよ」
ハリーの背後で魔法使いたちが興奮と関心でざわめき、
次々とハリーの脇を通り過ぎて、ウィーズリーおばさんがさっき出てきた扉へと入って行った。
ハリーはリーマスに従いて行こうとしたが、おばさんが引き止めた。
「駄目よ、ハリー 騎士団のメンバーだけの会議ですからね ロンもハーマイオニーも上の階にいるわ
会議が終わるまで一緒にお待ちなさいな それからお夕食よ それと、ホールでは声を低くしてね」
おばさんは最後に急いで囁いた。
「どうして?」
「何にも起こしたくないからですよ」
「どういう意味─────?」
「説明は後でね 今は急いでるの 私も会議に参加する事になっているから─────あなたの寝る所だけを教えておきましょう」
唇にシーッと指を当て、おばさんは先に立って、虫食いだらけの長い両開きビロードのカーテンの前を、抜き足差し足で通った。
その裏にはまた別の扉があるのだろうとハリーは思った。
トロールの足を切って作ったのではないかと思われる巨大な傘立ての脇を擦り抜け、
暗い階段を上り、萎びた首が掛かった飾り板がズラリと並ぶ壁の前を通り過ぎた。
よく見ると、屋敷しもべ妖精のものだった。
全員、なんだか豚のような鼻をしていた。
一歩進むごとに、ハリーはますます訳が分からなくなっていた。
闇も闇、大闇の魔法使いの家のようなところで、一体みんな何をしているのだろう。
「ウィーズリーおばさん、どうして─────?」
「ロンとハーマイオニーが全部説明してくれますよ 私はほんとに急がないと」
おばさんは上の空で囁いた。
「ここよ─────」
3人は2つ目の踊り場に来ていた。
「─────あなたのは右側 会議が終わったら呼びますからね」
そしておばさんは、また急いで階段を下りて行った。
は薄汚れた踊り場を歩いて、寝室のドアの取っ手を回した。
ハリーが見ると、取っ手は蛇の頭の形をしていた。
ドアが開いた。
ほんの一瞬、ベッドが2つ置かれ、天井の高い陰気な部屋が見えた。
次の瞬間、ホッホッという大きな囀りと、それより大きな叫び声が聞こえ、
ふさふさした髪の毛でハリーは完全に視界を覆われてしまった。
ハーマイオニーがハリーに飛びついて、ほとんど押し倒しそうになるほど抱き締めたのだ。
一方、ロンのチビふくろうのピッグウィジョンは、興奮して、2人の頭上をブンブン飛び回っていた。
「ハリー! ロン、ハリーが来たわ ハリーが来たのよ! 到着した音が聞こえなかったわ! ああ、元気なの?
大丈夫なの? 私たちの事、怒ってた? 怒ってたわよね 私たちの手紙が役に立たない事は知ってたわ─────
だけど、あなたに何にも教えてあげられなかったの ダンブルドアに、教えないって誓わせられて ああ、話したい事が
いっぱいあるわ あなたもそうでしょうね─────吸魂鬼ですって! それを聞いた時─────それに魔法省の尋問のこと
─────とにかく酷いわ 私、すっかり調べたのよ 魔法省はあなたを退学に出来ないわ できないのよ
『未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令』で、生命を脅かされる状況においては魔法の使用が許される事になってるの」
「ハーマイオニー、息ぐらいつかせてやれ」
ハリーの背後で、がドアを閉めながら言った。
ハリーはロンを見た。
一ヶ月見ないうちに、ロンはまた10センチも背が伸びたかのようで、これまでよりずっとヒョロヒョロのっぽに見えた。
しかし、高い鼻、真っ赤な髪の毛とソバカスは変わっていない。
ハーマイオニーは、ニコニコしながらハリーを放した。
ハーマイオニーが言葉を続けるより早く、柔らかいシューッという音と共に、
何か白いものが黒っぽい洋箪笥の上から舞い降りて、そっとハリーの肩に止まった。
「ヘドウィグ!」
白ふくろうは嘴をカチカチ鳴らし、ハリーの耳を優しく噛んだ。
ハリーはヘドウィグの羽を撫でた。
「このふくろう、ずっとイライラしてるんだ」
ロンが言った。
「この前手紙を運んで来た時、僕たちのこと突っついて半殺しの目に遭わせたぜ これ見ろよ─────」
ロンは右手の人差し指をハリーに見せた。
もう治りかかってはいたが、確かに深い切り傷だ。
「へえ、そう」
ハリーが言った。
「悪かったね だけど、僕、答えが欲しかったんだ わかるだろ─────」
「そりゃ、僕等だってそうしたかったさ ハーマイオニーなんか、心配で気が狂いそうだった 君が、何のニュースもないままで、
たった一人でいたら、何かバカな事をするかもしれないって、そう言い続けてたよ だけどダンブルドアが僕たちに─────」
「─────僕に何も言わないって誓わせた」
ハリーが言った。
「ああ、ハーマイオニーがさっきそう言った」
氷のように冷たいものがハリーの胃の腑に溢れ、2人の親友に会って胸の中に燃え上がっていた暖かな光を消した。
突然─────1ヶ月もの間あんなに2人に会いたかったのに─────
ハリーは、ロンもハーマイオニーも自分を独りにしてくれればいいのにと思った。
張り詰めた沈黙が流れた。
ハリーは2人の顔を見ずに、機械的にヘドウィグを撫でていた。
「それが最善だとお考えになったのよ」
ハーマイオニーが息を殺して言った。
「ダンブルドアが、ってことよ」
「ああ」
ハリーはハーマイオニーの両手にもヘドウィグの嘴の印があるのを見つけたが、それをちっとも気の毒に思わない自分に気付いた。
「僕の考えじゃ、ダンブルドアは、君がマグルと一緒の方が安全だと考えて─────」
ロンが話し始めた。
「へー?」
ハリーは眉を吊り上げた。
「君たちのどっちかが、夏休みに吸魂鬼に襲われたかい?」
「そりゃ、ノーさ─────だけど、だからこそ不死鳥の騎士団の誰かが、夏休み中君の跡を追けてたんだ─────」
ハリーは、階段を一団踏み外したようなガクンという衝撃を内臓に感じた。
それじゃ、僕が追けられてるって、僕以外のみんな知ってたんだ。
「でも、うまくいかなかったようじゃないか?」
ハリーは声の調子を変えないよう最大限の努力をした。
「結局、自分で自分の面倒を見なくちゃならなかった そうだろ?」
「先生がお怒りだったわ」
ハーマイオニーは恐れと尊敬の入り混じった声で言った。
「ダンブルドアが 私たち、先生を見たわ マンダンガスが自分の担当の時間にいなくなったと知った時、怖かったわよ」
「いなくなってくれてよかったよ」
ハリーは冷たく言った。
「そうじゃなきゃ、僕は魔法も使わなかったろうし、
ダンブルドアは夏休み中、僕をプリペット通りに放ったらかしにしただろうからね」
「あなた・・・・あなた心配じゃないの? 魔法省の尋問の事?」
ハーマイオニーが小さな声で聞いた。
「ああ」
ハリーは意地になって嘘をついた。
ハリーは2人の傍を離れ、満足そうなヘドウィグを肩に載せたまま部屋を見回した。
この部屋はハリーの気持ちを引き立ててくれそうになかった。
ジメジメと暗い部屋だった。
壁は剥がれかけ、無味乾燥で、せめてもの救いは、装飾的な額縁に入った絵のないカンパス一枚だった。
カンパスの前を通った時、ハリーは、誰かが隠れて忍び笑いする声を聞いたような気がした。
「それじゃ、ダンブルドアは、どうしてそんなに必死で僕に何にも知らせないようにしたんだい?」
ハリーは普通の気軽な声を保つのに苦労しながら聞いた。
「君たち─────えーと─────理由を聞いてみたのかなぁ?」
ハリーがチラッと目を上げた時、丁度2人が顔を見合わせているのを見てしまった。
ハリーの態度が、まさに2人が心配していた通りだったという顔をしていた。
ハリーはますます不機嫌になった。
「何が起こっているかを君に話したいって、ダンブルドアにそう言ったよ」
ロンが答えた。
「ほんとだぜ、おい だけど、ダンブルドアは今、メチャクチャ忙しいんだ 僕たち、ここに来てから
2回しか会ってないし、あの人はあんまり時間が取れなかったし ただ、僕たちが手紙を書く時、
重要なことは何にも書かないって誓わせられて あの人は、ふくろうが途中で傍受されるかもしれないって言った」
「それでも僕に知らせることはできたはずだ ダンブルドアがそうしようと思えば」
ハリーはズバリと言った。
「ふくろうなしで伝言を送る方法を、ダンブルドアが知らないなんて言うつもりじゃないだろうな」
ハーマイオニーがロンをチラッと見て答えた。
「私もそう思ったの でも、ダンブルドアはあなたに何にも知って欲しくなかったみたい」
「僕が信用できないと思ったんだろうな」
2人の表情を見ながらハリーが言った。
「バカ言うな」
ロンがとんでもないと言う顔をした。
「じゃなきゃ、僕が自分で自分の面倒を見られないと思った」
「もちろん、ダンブルドアがそんな事思うわけないわ!」
ハーマイオニーが気遣わしげに言った。
「それじゃ、君たち2人はここで起こっている事に加わっているのに、
どうして僕だけがダーズリーのところにいなくちゃいけなかったんだ?」
言葉が次々と口を突いて転がり出た。
一言喋る度に声がだんだん大きくなった。
「どうして君たち2人だけが、何もかも知っててもいいんだ?」
「何もかもじゃない!」
ロンが遮った。
「ママが僕達を会議から遠ざけてる 若すぎるからって言って─────」
ハリーは思わず叫んでいた。
「それじゃ、君たちは会議には参加してなかった だからどうだって言うんだ!
君たちはここにいたんだ そうだろう? 君たちは一緒にいたんだ! 僕は、一ヶ月もダーズリーのところに釘付けだ!
だけど、僕は、君たち2人の手に負えないような事でも色々やり遂げてきた ダンブルドアはそれを知ってるはずだ
賢者の石を守ったのは誰だ? リドルをやっつけたのは誰だ? 君たちの命を吸魂鬼から救ったのは誰だって言うんだ?」
この一ヶ月間積もりに積もった恨みつらみが溢れ出した。
何もニュースがなかったことの焦り、みんなが一緒にいたのに、ハリーだけが退け者だった事の痛み、
監視されていたのにそれを教えてもらえなかった怒り─────
自分でも半ば恥じていた全ての感情が、一気に堰を切って溢れ出した。
ヘドウィグは大声に驚いて飛び上がり、また洋箪笥の上に舞い戻った。
ピッグウィジョンは吃驚してピーピー鳴きながら、頭上をますます急旋回した。
「4年生の時、いったい誰が、ドラゴンやスフィンクスや、他の汚い奴等を出し抜いた?
誰があいつの復活を目撃した? 誰があいつから逃げ遂せた? 僕だ!」
ロンは、度肝を抜かれて言葉も出ず、口を半分開けてその場に突っ立っていた。
ハーマイオニーは泣き出しそうな顔をしていた。
「だけど、何が起こってるかなんて、どうせ僕に知らせる必要ないよな? 誰もわざわざ僕に教える必要なんてないものな?」
「ハリー、私たち、教えたかったのよ 本当よ─────」
ハーマイオニーが口を開いた。
「それほど教えたいとは思わなかったんだよ そうだろう? そうじゃなきゃ、
僕にふくろうを送ったはずだ だけど、『ダンブルドアが君たちに誓わせたから』─────」
「だって、そうなんですもの─────」
「4週間もだぞ 僕はプリペット通りに缶詰で、何がどうなってるのか知りたくて、ゴミ箱から新聞を漁ってた─────」
「私たち、教えてあげたかった─────」
「君たち、さんざん僕を笑い者にしてたんだ そうだろう? みんな一緒に、ここに隠れて─────」
「違うよ まさか─────」
「ハリー、ほんとにごめんなさい!」
ハーマイオニーは必死だった。
目には涙が光っていた。
「あなたの言うとおりよ、ハリー─────私だったら、きっとカンカンだわ!」
ハリーは息を荒げたまま、ハーマイオニーを睨み付けた。
それから2人から離れ、部屋を往ったり来たりした。
ヘドウィグは洋箪笥の上で、不機嫌にホーと鳴いた。
しばらくみんな黙りこくった。
ハリーの足下で、床が呻くように軋む音だけが時々沈黙を破った。
「ここはいったい何処なんだ?」
ハリーが突然ロンとハーマイオニーに聞いた。
「不死鳥の騎士団の本部」
ロンがすぐさま答えた。
「どなたか、不死鳥の騎士団が何か、教えてくださいますかね─────?」
「秘密同盟」
扉の横に立っていたが、静かに言った。
「ダンブルドアが率いている設立者だ ヴォルデモートの全盛期時代、先陣を切って戦った」
「誰が入ってるんだい?」
ハリーはポケットに手を突っ込んで立ち止まった。
「大勢」
が答えた。
「僕たちは20人くらいに会った」
ロンが言った。
「だけど、もっといると思う」
ハリーは3人をジロッと見た。
「それで?」
ロン、ハーマイオニー、を交互に見ながら、ハリーが先を促した。
「え?」
ロンが言った。
「それでって?」
「ヴォルデモート!」
ハリーが怒り狂った。
ロンもハーマイオニーも身をすくめた。
「どうなってるんだ? やつは何を企んでる? 何処にいる? やつを阻止するのに何をしてるんだ?」
「言ったでしょう? 騎士団は、私たちを会議に入れてくれないって」
ハーマイオニーが気を使いながら言った。
「だから、詳しくは知らないの─────だけど大まかな事はわかるわ」
ハリーの表情を見て、ハーマイオニーは急いで付け加えた。
「フレッドとジョージが『伸び耳』を発明したんだ うん」
ロンが言った。
「なかなか役に立つぜ」
「伸び─────?」
「耳 そうさ ただ、最近は使うのを止めざるをえなくなった ママが見つけてカンカンになってね
ママが耳をゴミ箱に捨てちゃうもんだから、フレッドとジョージは耳を全部隠さなくちゃならなくなった
だけど、ママにバレるまでは、かなり利用したんだぜ 騎士団が、面の割れてる『死喰い人』を
追けてることだけはわかってる つまり、様子を探ってるって事さ うん─────」
「騎士団に入るように勧誘しているメンバーも何人かいるわ─────」
ハーマイオニーが言った。
「それに、何かの護衛に立ってるのも何人かいるな しょっちゅう護衛勤務の話をしてる」
「もしかしたら僕の護衛の事じゃないのかな?」
ハリーが皮肉った。
「ああ、そうか」
ロンが急に謎が解けたような顔をした。
ハリーはフンと鼻を鳴らした。
そしてロンとハーマイオニーとの方を絶対見ないようにしながら、また部屋を往ったり来たりし始めた。
「それじゃ、君たちはここで何してたんだい? 会議に入れないなら」
ハリーが問い詰めた。
「2人とも忙しいって言ってたろう」
「そうよ」
ハーマイオニーがすぐ答えた。
「この家を除染していたの 何年も空き家だったから、いろんなものが巣食っているのよ
厨房はなんとか奇麗にしたし、寝室も大体済んだわ それから、客間に取り掛かるのが明日─────ああーっ!」
バシッバシッと大きな音がして、ロンの双子の兄、フレッドとジョージが、どこからとなく部屋の真ん中に現れた。
ピッグウィジョンはますます激しく囀り、洋箪笥の上のヘドウィグの傍にブーンと飛んでいった。
「いいかげんにそれやめて!」
ハーマイオニーが諦め声で言った。
双子はロンと同じ鮮やかな赤毛だが、もっとガッチリして背は少し低い。
「やあ、ハリー」
ジョージがハリーにニッコリした。
「君の甘ーい声が聞こえたように思ったんでね」
「怒りたい時はそんな風に抑えちゃ駄目だよ、ハリー 全部吐いっちまえ」
フレッドもニッコリしながら言った。
「100キロぐらい離れたとこに、君の声が聞こえなかった人が一人ぐらいいたかもしれないじゃないか」
「君たち2人とも、それじゃ、『姿現わし』テストに受かったんだね」
ハリーは不機嫌なまま言った。
「優等でさ」
フレッドが言った。
手には何やら長い薄橙色の紐を持っている。
「階段を下りたって、30秒も余計にかかりゃしないのに」
ロンが言った。
「弟よ、『時はガリオンなり』さ」
フレッドが言った。
「とにかく、ハリー、君の声が受信を妨げているんだ 『伸び耳』のね」
ハリーがちょっと眉を吊り上げたので、フレッドが説明を付け加え、紐を掲げて見せた。
ハリーは、その紐の先が躍り場に伸びているのを見た。
「下で何してるのか、聞こうとしてたんだ」
「気をつけた方がいいぜ」
ロンが「耳」を見つめながら言った。
「ママがまたこれを見つけたら・・・・」
「その危険を冒す価値ありだ 今重要会議してる」
フレッドが言った。
ドアが開いて、長いフサフサした赤毛が現れた。
「ああ、ハリー、いらっしゃい」
ロンの妹、ジニーが明るい声で挨拶した。
「あなたの声が聞こえたように思ったの 『伸び耳』は効果なしよ ママがわざわざ厨房の扉に『邪魔避け呪文』をかけたもの」
フレッドとジョージに向ってジニーが言った。
「どうしてわかるんだ?」
ジョージがガックリしたように聞いた。
「トンクスがどうやって試すかを教えてくれたわ」
ジニーが答えた。
「扉に何か投げつけて、それが扉に接触できなかったら、扉は『邪魔避け』されているの
私、階段の上から糞爆弾をポンポン投げてみたけど、みんな撥ね返されちゃった
だから、『伸び耳』が扉の隙間から忍び込むことは絶対できないわ」
フレッドが深い溜息をついた。
「残念だ あのスネイプのやつが何をするつもりだったのか、是非とも知りたかったのになあ」
「スネイプ!」
ハリーはすぐに反応した。
「ここにいるの?」
「ああ」
ジョージは慎重にドアを閉め、ベッドに腰を下ろしながら言った。
ジニーとフレッドも座った。
「マル秘の報告をしてるんだ」
「嫌な野郎」
フレッドがのんびりと言った。
「スネイプは私たちの味方よ」
ハーマイオニーが咎めるように言った。
ロンがフンと鼻を鳴らした。
「それでも、嫌な野郎は嫌な野郎 あいつが僕たちのことを見る目付きときたら」
「ビルもあの人が嫌いだわ」
ジニーが、まるでこれで決まりという言い方をした。
ハリーは怒りが収まったのかどうかわからなかったが、
情報を聞き出したい思いの方が、怒鳴り続けたい気持ちより強くなっていた。
ハリーはみんなと反対側のベッドに腰掛けた。
「ビルもここにいるのかい?」
ハリーが聞いた。
「エジプトで仕事をしてると思ってたけど?」
「事務職を希望したんだ 家に帰って、騎士団の仕事が出来るようにって」
フレッドが答えた。
「エジプトの墓場が恋しいって言ってる だけど」
フレッドがニヤッとした。
「その埋め合わせがあるのさ」
「どういう意味?」
「あのフラー・デラクールって子、覚えてるか?」
ジョージが言った。
「グリンゴッツに勤めたんだ えいごーがうまーくなるよーに─────」
「それで、ビルがせっせと個人授業してるのさ」
フレッドがクスクス笑った。
「チャーリーも騎士団だ」
ジョージが言った。
「だけど、まだルーマニアにいる ダンブルドアは、なるべく沢山の外国の魔法使いを
仲間にしたいんだ それでチャーリーが、勤務が休みの日に色々と接触してる」
「それは、パーシーが出来るんじゃないの?」
ハリーが聞いた。
ウィーズリー家の三男が魔法省の国際魔法協力部に勤めているというのが、ハリーの聞いた一番新しい情報だった。
途端に、ウィーズリー兄弟妹とハーマイオニーが暗い顔で訳ありげに目を見交わした。
「どんなことがあっても、パパやママの前でパーシーの事を持ち出さないで」
ロンが、緊張した声でハリーに言った。
「どうして?」
「何故って、パーシーの名前が出るたびに、親父は手に持っているものを壊しちゃうし、お袋は泣き出すんだ」
フレッドが言った。
「大変だったのよ」
ジニーが悲しそうに言った。
「あいつなんかいない方が清々する」
ジョージが、柄にもなく顔を顰めて言った。
「何があったんだい?」
ハリーが聞いた。
「パーシーが親父と言い争いをしたんだ」
フレッドが言った。
「親父が誰かとあんな風に言い争うのを初めて見た 普通はお袋が叫ぶもんだ」
「学校が休みに入ってから一週間目だった」
ロンが言った。
「僕たち、騎士団に加わる準備をしてたんだ パーシーが家に帰って来て、昇進したって言った」
「冗談だろ?」
ハリーが言った。
パーシーが野心家だということは良く知っていたが、ハリーの印象では、
パーシーの魔法省での最初の任務は、大成功だとは言えない。
上司がヴォルデモート卿に操作されていて(魔法省がそれを信じたわけではない
─────みんな、クラウチ氏は気が触れたと思い込んでいた)
それに気付かなかったのは、パーシーが相当大きなポカをやったという事になる。
「ああ、俺たち全員が驚いたさ」
ジョージが言った。
「だって、パーシーはクラウチの件で随分面倒な事になったからな 尋問だとかなんだとか パーシーはクラウチが
正気を失っていることに気付いて、それを上司に知らせるべきだったって、みんながそう言ってたんだぜ
だけど、パーシーのことだから、クラウチに代理を任せられて、そのことで文句を言うはずがない」
「じゃ、なんで魔法省はパーシーを昇進させたの?」
「それこそ、僕らも変だと思ったところさ」
ロンが言った。
ハリーが喚くのを止めたので、ロンは普通の会話を続けようと熱心になっているようだった。
「パーシーは大得意で家に帰ってきた─────いつもよりずっと大得意さ そんなことがありうるならね
─────そして、親父に言った ファッジの大臣執務勤務を命じられたって ホグワーツを卒業して一年目にしちゃ、
凄くいい役職さ 大臣付下級補佐官 パーシーは親父が感心すると期待してたんだろうな」
「ところが親父はそうじゃなかった」
フレッドが暗い声を出した。
「どうして?」
ハリーが聞いた。
「うん ファッジはどうやら、魔法省を引っ掻き回して、誰かダンブルドアと接触している者がいないかって調べてたらしい」
ジョージが言った。
「ダンブルドアの名前は、近頃じゃ魔法省の鼻摘みなんだ」
フレッドが言った。
「ダンブルドアが『例のあの人』が戻ったと言いふらして問題を起こしてるだけだって、魔法省じゃそう思ってる」
「親父は、ファッジが、ダンブルドアと繋がっている者は机を片付けて出て行けって、ハッキリ宣言したって言うんだ」
ジョージが言った。
「問題は、ファッジが親父を疑ってるって事 親父がダンブルドアと親しいって、ファッジは知ってる
それに、親父はマグル好きだから少し変人だって、ファッジはずっとそう思ってた」
「だけど、それがパーシーとどういう関係?」
ハリーは混乱した。
「そのことさ ファッジがパーシーを大臣室に置きたいのは、家族を─────
それとダンブルドアを─────スパイするためでしかないって、親父はそう考えてる」
ハリーは低く口笛を吹いた。
「そりゃ、パーシーがさぞかし喜んだろうな」
ロンが虚ろな笑い方をした。
「パーシーは完全に頭に来たよ それでこう言ったんだ─────うーん、随分酷い事を色々言ったな
魔法省に入って以来、父さんの評判がパッとしないから、それと戦うのに苦労したとか、父さんは何にも野心がないとか、
それだからいつも─────ほら─────僕たちにはあんまりお金がないとか、つまり─────」
「何だって?」
ハリーは信じられないという声を出し、ジニーは怒った猫のような声を出した。
「そうなんだ」
ロンが声を落とした。
「そして、ますます酷い事になってさ パーシーが言うんだ 父さんがダンブルドアと連んでいるのは愚かだとか、
ダンブルドアは大きな問題を引き起こそうとしているとか、父さんはダンブルドアと落ちるところまで落ちるんだとか
そして、自分は─────パーシーのことだけど─────どこに忠誠を誓うか分かっている、魔法省だ
もし父さんと母さんが魔法省を裏切るなら、もう自分はこの家の者じゃないってことを、みんなにハッキリわからせてやるって
そしてパーシーはその晩、荷物をまとめて出て行ったんだ 今、ここ、ロンドンに住んでるよ」
ハリーは声を潜めて毒づいた。
ロンの兄弟の中では、ハリーは昔からパーシーが一番気にらなかった。
しかし、パーシーが、ウィーズリーおじさんにそんな事を言うとは、考えもしなかった。
「ママは気が動転してさ」
ロンが言った。
「わかるだろ─────泣いたりとか ママはロンドンに出てきて、パーシーと話そうとしたんだ
ところがパーシーはママの鼻先でドアをピシャリさ 職場でパパに出会ったら、
パーシーがどうするかは知らない─────無視するんだろうな、きっと」
「だけど、パーシーは、ヴォルデモートが戻って来たこと知ってるはずだ」
ハリーが考え考え言った。
「バカじゃないもの 君のパパやママが、何の証拠もないのに全てを懸けたりしないとわかるはずだ」
「ああ、うーん、君の名前も争いの引き合いに出された」
ロンがハリーを盗み見た。
「パーシーが言うには、証拠は君の言葉だけだ・・・・何て言うのかな・・・・パーシーはそれじゃ不十分だって」
「パーシーは『日刊予言者新聞』を真に受けてるのよ」
ハーマイオニーが辛辣な口調で言った。
すると、全員が首をコックリした。
「一体何の事?」
ハリーがみんなを見回しながら聞いた。
どの顔もはらはらしてハリーを見ていた。
「おまえ、『日刊予言者新聞』を読んでいたんだろう?」
が言った。
「読んでたさ!」
ハリーが言った。
「全てか?」
「隅から隅までじゃない」
ハリーは言い訳がましく言った。
「ヴォルデモートの記事が載るなら、一面大見出しだろう? 違う?」
以外が、その名を聞いてギクリとした。
ハーマイオニーが急いで言葉を続けた。
「そうね、隅から隅まで読まないと気がつかないけど、でも、新聞に
─────うーん─────1週間に数回はあなたの事が載ってるわ」
「でも、僕、見なかったけど─────」
「一面だけ読んでたらそうね 見ないでしょう」
ハーマイオニーが首を振りながら言った。
「大きな記事の事じゃないの 決まり文句のジョークみたいに、あちこちに潜り込んでるのよ」
「どういう─────?」
「かなり悪質ね、ハッキリ言って」
ハーマイオニーは無理に平静を装った声で言った。
「リータの記事を利用してるの」
「だけど、リータはもうあの新聞に書いてないんだろ?」
「ええ、書いてないわ 約束を守ってる─────選択の余地はないけどね」
ハーマイオニーは満足そうに付け加えた。
「でも、リータが書いた事が、新聞に今やろうとしていることの足掛かりになっているの」
「やるって、何を?」
ハリーは焦った。
「あのね、リータは、あなたがあちこちで失神するとか、傷が痛むと言ったとか書いたわよね?」
「ああ」
リータ・スキーターが自分について書いた記事を、ハリーがそんなにすぐに忘れられるわけがない。
「新聞は、そうね、あなたが思い込みの激しい目立ちたがり屋で、
自分を悲劇のヒーローだと思っている、みたいな書き方をしているの」
ハーマイオニーは一気に言い切った。
こういう事実は大急ぎで聞く方が、ハリーにとって不快感が少ないとでも言うかのようだった。
「新聞はあなたを嘲る言葉を、しょっちゅう潜り込ませるの 信じられないような突飛な記事の場合だと、
『ハリー・ポッターにふさわしい話』だとか、誰かがおかしな事故に遭うと、
『この人の額に傷が残らないように願いたいものだ そうしないと、次に我々はこの人を拝めと言われかねない』─────」
「僕は誰にも拝んで欲しくない─────」
ハリーが熱くなって喋り始めた。
「わかってるわよ」
ハーマイオニーは、ビクッとした顔で慌てて言った。
「私にはわかってるのよ、ハリー だけど新聞が何をやってるか、わかるでしょう? あなたのことを、
全く信用できない人間に仕立て上げようとしてる ファッジが糸を引いているわ そうに決まってる
一般の魔法使いに、あなたのことをこんな風に思い込ませようとしてるのよ─────愚かな少年で、
お笑い種 ありえないバカげた話をする 何故なら、有名なのが得意で、ずっと有名でいたいから」
「僕が頼んだわけじゃない─────望んだわけじゃない─────ヴォルデモートは僕の両親を殺したんだ!」
ハリーは急き込んだ。
「僕が有名になったのは、あいつが僕の家族を殺して、僕を殺せなかったからだ! 誰がそんな事で有名になりたい?
みんなにはわからないのか? 僕は、あんな事が起こらなかったらって─────」
「わかってるわ、ハリー」
ジニーが心から言った。
「それにもちろん、吸魂鬼があなたを襲った事は一言も書いてない」
ハーマイオニーが言った。
「誰かが口止めしたのよ 物凄く大きな記事になるはずだもの 制御できない吸魂鬼なんて
あなたが『国際機密保持法』を 破った事さえ書いてないわ 書くと思ったんだけど あなたが愚かな
目立ちたがり屋だっていう イメージにピッタリ合うもの あなたが退学処分になるまで我慢して待っているんだと思うわ
その時に大々的に騒ぎ立てるつもりなのよ─────もしも退学になったらっていう意味よ 当然だけど」
ハーマイオニーが急いで言葉を付け加えた。
「退学にはならない」
が言った。
「魔法省が自らの法律を守るつもりならば、ポッターには何の罪もない」
話が尋問に戻って来た。
ハリーはその事を考えたくなかった。
他の話題はないかと探しているうちに、階段を上がってくる足音で救われた。
「う、ワ」
フレッドが「伸び耳」をグッと引っ張った。
また大きなバシッという音がして、フレッドとジョージは消えた。
次の瞬間、ウィーズリーおばさんが部屋の戸口に現れた。
「会議は終わりましたよ 降りて来ていいわ 夕食にしましょう ハリー、みんながあなたにとっても会いたがってるわ
とはもうお友達になれた? ところで、厨房の扉の外にある糞爆弾をゴッソリ置いたのは誰なの?」
「クルックシャンクスよ」
ジニーがケロリとして言った。
「あれで遊ぶのが大好きなの」
「そう」
ウィーズリーおばさんが言った。
「私はまた、クリーチャーかと思ったわ あんな変なことばかりするし さあ、ホールでは
声を低くするのを忘れないでね ジニー、手が汚れてるわよ 何してたの? お夕食の前に手を洗ってきなさい」
ジニーはみんなにしかめっ面をして見せ、母親に従いて部屋を出た。
部屋にはハリーとロン、ハーマイオニー、だけが残った。
他のみんながいなくなったので、ハリーがまた叫び出すかもしれないと恐れているかのように、
ロンとハーマイオニーは心配そうにハリーを見つめていた。
2人があまりにも神経を尖らせているのを見て、ハリーは少し恥ずかしくなった。
「あのさ・・・・」
ハリーがボソリと言った。
しかし、ロンは首を振り、ハーマイオニーは静かに言った。
「ハリー、あなたが怒る事はわかっていた 無理もないわ
でも、分かって欲しい 私たち、ほんとに努力したのよ ダンブルドアを説得するのに─────」
「うん、わかってる」
ハリーは言葉少なげに答えた。
ハリーは、校長が関わらない話題はないかと探した。
ダンブルドアの事を考えるだけで、またもや怒りで腸が煮えくり返る思いがするからだ。
しかし、を見る限り、それは適いそうもなかった。
「クリーチャーって誰?」
ハリーが聞いた。
「ここに棲んでいる屋敷しもべだ」
が答えた。
「いかれぽんちさ あんなの見たことない」
ロンが言った。
ハーマイオニーがロンを睨んだ。
「いかれぽんちなんかじゃないわ、ロン」
「あいつの最大の野望は、首を切られて、母親と同じように楯に飾られる事なんだぜ」
ロンが焦れったそうに言った。
「ハーマイオニー、それでもまともかい?」
「それは─────それは、ちょっと変だからって、クリーチャーのせいじゃないわ」
ロンはやれやれという目でハリーを見た。
「ハーマイオニーはまだ反吐を諦めてないんだ」
「反吐じゃないってば!」
ハーマイオニーが熱くなった。
「S.P.E.W、しもべ妖精福祉振興協会です それに、私だけじゃないのよ
ダンブルドアもクリーチャーに優しくしなさいって仰ってるわ それに、それに、もS.P.E.W会員です!」
ハーマイオニーが頑として言った。
ハリーがギョッとした顔でを見た。
「は何にも理解しちゃいないんだ」
ロンが言った。
「ハーマイオニーが無理やり勧誘したから、は金貨を出したんだ」
「違うわ! 私はちゃんと説明して─────」
「はい、はい」
ロンが言った。
「行こう 腹ペコだ」
ロンは先頭に立ってドアから踊り場に出た。
しかし、4人が階段を下りる前に─────
「ストップ!」
ロンが声を潜め、片腕を伸ばして、ハリーとハーマイオニーとを押し止めた。
「みんな、まだホールにいるよ 何か聞けるかもしれない」
2人は慎重に階段の手すりから覗き込んだ。
階下の薄暗いホールは、魔法使いと魔女たちで一杯だった。
ハリーの護衛隊もいた。
興奮して囁き合っている。
グループの真ん中に、脂っこい黒髪で鼻の目立つ魔法使いが見えた。
ホグワーツでハリーが一番嫌いな、スネイプ先生だ。
ハリーは階段の手すりから身を乗り出した。
スネイプが不死鳥の騎士団で何をしているのかがとても気になった・・・・。
細い薄橙色の紐が、ハリーの目の前を下りていった。
見上げると、フレッドとジョージが上の踊り場にいて、下の真っ暗な集団に向ってそろりそろりと「伸び耳」を下ろしていた。
しかし次の瞬間、集団は全員、玄関の扉に向かい、姿が見えなくなった。
「チッキショ」
ハリーは、「伸び耳」を引き上げながらフレッドが小声でそう言うのを聞いた。
玄関の扉が開き、また閉まる音が聞こえた。
「スネイプは絶対ここで食事しないんだ」
ロンが小声でハリーに言った。
「ありがたいことにね さあ」
「それと、ホールでは声を低くするのを忘れないでね、ハリー」
ハーマイオニーが囁いた。
しもべ妖精の首がズラリと並ぶ壁の前を通り過ぎる時、
リーマス、ウィーズリーおばさん、トンクスが玄関の戸口にいるのが見えた。
みんなが出て行った後で、魔法の錠前や閂をいくつも掛けているところだった。
「厨房で食べますよ」
階段下で4人を迎え、ウィーズリーおばさんが小声で言った。
「さあ、ハリー、忍び足でホールを横切って、ここの扉から─────」
バタッ。
「トンクス!」
おばさんがトンクスを振り返り、呆れたように叫んだ。
「ゴメン!」
トンクスは情けない声を出した。
床に這い蹲っている。
「このバカバカしい傘立てのせいよ 躓いたのはこれで二度目─────」
後の言葉は、耳を劈き血も凍る、恐ろしい叫びに呑み込まれてしまった。
さっきハリーがその前を通った、虫食いだらけのビロードのカーテンが、左右に開かれていた。
その裏にあったのは扉ではなかった。
一瞬、ハリーは窓の向こう側が見えるのかと思った。
窓の向こうに黒い帽子を被った老女がいて、叫んでいる。
まるで拷問を受けているかのような叫びだ─────
次の瞬間、ハリーはそれが等身大の肖像画だと気付いた。
ただし、ハリーが今まで見た中で一番生々しく、一番不快な肖像画だった。
老女は涎を垂らし、白目を剥き、叫んでいるせいで、黄ばんだ顔の皮膚が引き攣っている。
ホール全体に掛かっている他の肖像画も目を覚まして叫び出した。
あまりの騒音に、ハリーは目をギュッとつぶり両手で耳を塞いだ。
リーマスとウィーズリーおばさんが飛び出して、カーテンを引き老女を閉め込もうとした。
しかしカーテンは閉まらず、老女はますます鋭い叫びを上げて、
2人の顔を引き裂こうとするかのように、両手の長い爪を振り回した。
「穢らわしい! クズども! 塵芥の輩! 雑種、異形、でき損ないども、
ここから立ち去れ! わが祖先の館を、よくも汚してくれたな─────」
トンクスは何度も何度も謝りながら、巨大などっしりとしたトロールの足を引きずって立て直していた。
ウィーズリーおばさんはカーテンを閉めるのを諦め、ホールを駆けずり回って、他の肖像画に杖で「失神術」をかけていた。
すると、ハリーの行く手の扉から、黒い長い髪の男が飛び出して来た。
「黙れ この鬼婆 黙るんだ!」
男は、ウィーズリーおばさんが諦めたカーテンを掴んで吼えた。
老女の顔が血の気を失った。
「こいつぅぅぅぅぅ!」
老女が喚いた。
男の姿を見て、両眼が飛び出していた。
「血を裏切る者よ 忌まわしや わが骨肉の恥!」
「聞こえないのか─────だ─────ま─────れ!」
男が吼えた。
そして、リーマスと2人がかりの金剛力で、やっとカーテンを元のように閉じた。
老女の叫びが消え、シーンと沈黙が広がった。
少し息を弾ませ、長い黒髪を目の上から掻き上げ、男がハリーを見た。
ハリーの名付け親、シリウスだ。
「やあ、ハリー」
シリウスが暗い顔で言った。
「どうやら俺の母親に会ったようだな」