ドリーム小説






Day.3----招待状






ハリーがキッチンに下りてきた時には、もうダーズリー一家はテーブルに着いていた。
ハリーが入って来ても、座っても、誰も見向きもしない。
バーノンおじさんのでっかい赤ら顔は「デイリー・メール」新聞の陰に隠れたままだったし、
ペチュニアおばさんは馬のような歯の上で唇をキッチリ結び、グレープフルーツを4つに切り分けているところだった。

ダドリーは怒って機嫌が悪く、何だかいつもより余計に空間を占領しているようだった。
これはただ事ではない、何しろいつもだって四角いテーブルの一辺をダドリー一人で丸まる占領しているのだから。
ペチュニアおばさんがオロオロ声で「さあ、可愛いダドちゃん」と言いながら、
グレープフルーツの四半分を砂糖もかけずにダドリーの皿に取り分けると、ダドリーはおばさんを怖い顔で睨み付けた。
夏休みで、学校から通信簿を持って家に帰って来た時以来、ダドリーの生活は一変して最悪の状態になっていた。
おじさんもおばさんも、ダドリーの成績が悪い事に関しては、いつものように都合の良い良いわけで納得していた。
ペチュニアおばさんは、ダドリーの才能の豊かさを先生が理解していないと言い張ったし、
バーノンおじさんは、ガリ勉の女々しい男の子なんか息子に持ちたくないと主張した。
虐めをしているという叱責も、2人は難なくやり過ごした。




「ダドちゃんは元気が良いだけよ ハエ一匹殺せやしないわ!」


とおばさんは涙ぐんだ。
ところが、通信簿の最後に、短く、しかも適切な言葉で書かれていた養護の先生の報告だけには
流石のおじさんおばさんもグウの音も出なかった。
ペチュニアおばさんは、ダドリーが骨太なだけで、体重だって子犬がコロコロ太っているのと同じだし、
育ち盛りの男の子はたっぷり食べ物が必要だと泣き叫んだ。
しかし、どう喚いてみても、やはり学校にはダドリーに合うようなサイズのニッカーボッカーの制服が無いのは確かだった。
養護の先生には、おばさんの目には見えないものが見えていたのだ。
ピカピカの壁に指紋を見つけるとか、お隣さんの動きに関しては、おばさんの目は鋭い事といったら─────
そのおばさんの目は見ようとしなかっただけなのだが、養護の先生は、
ダドリーがこれ以上栄養を取る必要が無いどころか、体重も大きさも小鯨並に育っている事を見抜いていた。
そこで─────散々癇癪を起こし、ハリーの部屋の床がグラグラ揺れるほどの言い争いをし、
ペチュニアおばさんがたっぷり涙を流した後、食事制限が始まった。
そして程なくしてスメルティングズ校の養護の先生から送られてきたダイエット表が、冷蔵庫に貼り付けられた。
ダドリーの好物─────ソフト・ドリンク、ケーキ、チョコレート、バーガー類─────
は、全部冷蔵庫から消え、代わりに果物、野菜、その他バーノンおじさんが「ウサギの餌」と呼ぶ物が詰め込まれた。
ダドリーの気分が良くなるように、ペチュニアおばさんは家族全員がダイエットするよう主張した。

今度はグレープフルーツの四半分がハリーに配られた。

ダドリーのよりずっと小さい事にハリーは気付いた。
ペチュニアおばさんは、ダドリーのやる気を保つ一番良い方法は、
少なくとも、ハリーよりダドリーの方が、沢山食べられるようにする事だと思っているらしい。
ただし、ペチュニアおばさんは、2階の床板の緩くなったところに何が隠されているのかを知らない。
ハリーが全然ダイエットしていない事を、おばさんは全く知らないのだ。
この夏をニンジンの切れっぱしだけで生き延びる羽目になりそうだとの気配を察したハリーは、
すぐにヘドウィグを飛ばして友人の助けを求めた。

友達はこの一大事に敢然と立ち上がった。

ハーマイオニーの家から戻ったヘドウィグは、「砂糖なし」スナックのいっぱい詰った大きな箱を持って来た。
ホグワーツの森番、ハグリッドからは、わざわざお手製のロック・ケーキを一袋一杯送って寄越した。
しかし、ハグリッドのお手製は嫌というほど経験済みだったので、ハリーはこれには手を付けなかった。
一方、ウィーズリーおばさんは、家族のペットのふくろう、エロールに大きなフルーツケーキと色々なミートパイを持たせてくれた。
年老いてヨボヨボのエロールは、哀れにもこの大旅行から回復するのに丸々5日も掛かった。
そしてからはお手製のドイツ料理がバスケット一杯に詰め込まれ、
ワタリガラスのムニンが夜の闇に溶け込むように颯爽と運んできた。
ドイツ風ミートローフのレバーケーゼ、子牛のカツレツのようなシュニッツェル、
豚肉をタマネギ、セロリなどの香味野菜やクローブなどの香辛料と一緒にに数時間煮込んで作ったアイスバイン、
デザートにはタマネギのケーキのツヴィーヴェル・クーヘンにベイクド・チーズケーキのアイアシェッケ。
ちょっと小腹が空いた時にはベルリーナー・プファンクーヘンを食べた。
これはクラップフェンの一種で、バニラの衣が乗ったジャム入り揚げパンで小さくて食べ易い。
どれも美味しいばかりか、魔法でいつまでも腐らず新鮮に保てるようにしてあるため、いつ食べても、ハリーは出来たてを味わえた。

ハリーの誕生日には(ダーズリー一家は完全に無視していたが)最高のバースデー・ケーキが5つも届いた。
ロン、、ハーマイオニー、ハグリッド、そしてシリウスからだった─────それにまだ3つ残っている。
そんなわけで、ハリーは早く2階に戻ってちゃんとした朝食を取りたいと思いながら、
愚痴も零さずにグレープフルーツを食べ始めた。
まずはが作ったアイスバインを食べる、そしてちょっと残しておいたシュニッツェル(これが一番のお気に入りだった)
を食べて、それからハーマイオニーの「砂糖なし」スナックを食べるのだ。
の作ってくれたドイツ料理はどれもハリーが今まで見た事もないようなものばかりで、とても素晴らしく美味しかった。

バーノンおじさんは、気に入らんとばかり大きくフンと鼻を鳴らし、新聞を脇に置くと、四半分のグレープフルーツを見下ろした。




「これっぽっちか?」


おじさんはおばさんに向って不服そうに言った。
ペチュニアおばさんはおじさんをキッと睨み、ダドリーの方を顎で指して頷いて見せた。
ダドリーはもう自分の四半分を平らげ、豚のような目でハリーの分を賎しげに眺めていた。
バーノンおじさんは巨大なモジャモジャの口髭がざわつくほど、深い溜息をついて、スプーンを手にした。

玄関のベルが鳴った。

バーノンおじさんが重たげに腰を上げ、廊下に出て行った。
電光石火、母親がヤカンに気を取られている隙に、ダドリーはおじさんのグレープフルーツの残りかすを掠め取った。
玄関先で誰かが話をし、笑い、バーノンおじさんが短く答えているのがハリーの耳に入って来た。
それから玄関の戸が閉まり、廊下から紙を破る音が聞こえて来た。
ペチュニアおばさんはテーブルにティーポットを置き、おじさんはどこに行ったのかと、キョロキョロとキッチンを眺め回した。
待つほどのこともなく、約1分後におじさんが戻って来た。
カンカンになっている様子だ。




「来い」


ハリーに向っておじさんが吼えた。




「居間に すぐにだ」


わけがわからず、いったい今度は自分が何をやったのだろうと考えながら、
ハリーは立ち上がり、おじさんについてキッチンの隣の部屋に入った。
入るなり、バーノンおじさんはドアをピシャリと閉めた。




「それで」


暖炉の方に突進し、クルリとハリーに向き直ると、いまにもハリーを逮捕しそうな剣幕でおじさんが言った。




それで
「それで何だって言うんだ?」


と言えたらどんなにいいだろう。
しかし、こんな朝早くから、バーノンおじさんの虫の居所を試すのはよくない、と思った。
それでなくとも欠食状態でかなりイライラしているのだから。
そこでハリーは、大人しく驚いたふうをして見せるだけで我慢する事にした。




「こいつがいま届いた」


おじさんはハリーの鼻先で紫色の紙切れをヒラヒラ振った。




「お前関する手紙だ」


ハリーはますますこんがらがった。
一体誰が、僕についての手紙をおじさん宛てに書いたのだろう?
郵便配達を使って手紙を寄越すような知り合いがいたかな?
おじさんはハリーをギロリと睨むと、手紙を見下ろし、読み上げた。





親愛なるダーズリー様、御奥様。

私どもはまだ面識がございませんが、ハリーから息子のロンの事は色々お聞き及びでございましょう。
ハリーがお話したかと思いますが、クィディッチ・ワールドカップの決勝戦が、次の月曜の夜行われます。
夫のアーサーが、魔法省のゲーム・スポーツ部に伝がございまして、とてもよい席を手に入れる事が出来ました。
つきましては、ハリーを試合に連れて行く事をお許しいただけませんでしょうか。
これは一生に一度のチャンスでございます。
イギリスが開催地になるのは30年ぶりの事で、切符はとても入りにくいのです。
もちろん、それ以後夏休みの間ずっと、喜んでハリーを家にお預かりいたしますし、
学校に戻る汽車に無事乗せるようにいたします。

お返事は、なるべく早く、ハリーから普通の方法で私どもにお送りいただくのがよろしいかと存じます。
何しろマグルの郵便配達は、私どもの家に配達に来た事がございませんし、
家が何処にあるかを知っているかどうかも確かじゃございませんので。
ハリーに間もなく会える事を楽しみにしております。

敬具

モリー・ウィーズリー

追伸.切手は不足していないでしょうね





読み終えると、おじさんは胸ポケットに手を突っ込んで何か別の物を引っ張り出した。




「これを見ろ」


おじさんが唸った。
おじさんは、ウィーズリー夫人の手紙が入っていた封筒を掲げていた。
ハリーは吹き出したいのをやっと堪えた。
封筒いっぱいに一部の隙も無く切手が貼り込んであり、真ん中に小さく残った空間に詰め込むように、
ダーズリー家の住所が細々した字で書き込まれていた。




「切手は不足していなかったね」


ハリーは、ウィーズリー夫人がごく当たり前の間違いを犯しただけというような調子を取り繕った。
おじさんの目が一瞬光った。




「郵便配達は感づいたぞ」


おじさんが歯噛みをした。




「手紙がどこから来たのか、やけに知りたがっていたぞ やつは だから玄関のベルを鳴らしたのだ 『奇妙だ』と思ったらしい」


ハリーは何も言わなかった。
他の人には、切手を貼りすぎたくらいでバーノンおじさんが何故目くじら立てるのかが分からなかったろう。
しかしずっと一緒に暮らして来たハリーには、嫌と言うほど分かっていた。
ほんのちょっとでもまともな範囲から外れると、この一家はピリピリするのだ。
ウィーズリー夫人のような連中と関係があると誰かに気づかれる事を(どんなに遠い関係でも)ダーズリー一家は一番恐れていた。

バーノンおじさんはまだハリーを睨めつけていた。

ハリーはなるべく感情を面に出さないように努力した。
何もバカな事を言わなければ、人生最高の楽しみが手に入るかもしれないのだ。
バーノンおじさんが何か言うまで、ハリーは黙っていた。
しかし、バーノンおじさんは睨みつけるだけだった。
ハリーの方から沈黙を破る事にした。




「それじゃ─────僕、行っても良いですか?」


バーノンおじさんのでっかい赤ら顔が、微かにビリリと震え、口髭が逆立った。
口髭の陰で何が起こっているか、ハリーには分かる気がした。
おじさんの最も根深い二種類の感情が対立して、激しく闘っている。
ハリーを行かせることは、ハリーを幸福にする事だ。
そしてこの13年間、おじさんはそれを躍起になって阻止してきた。
しかし、夏休みの残りを、ハリーがウィーズリー家で過ごす事を許せば、期待したより二週間も早く厄介払いが出来る。
ハリーがこの家にいるのは、バーノンおじさんにとっておぞましい事だった。
考える時間を稼ぐために、という感じで、おじさんはウィーズリー夫人の手紙にもう一度視線を落とした。




「この女は誰だ?」


名前のところを汚らわしそうに眺めながら、おじさんが聞いた。




「おじさんはこの人たちに会った事があるよ 僕の友達のロンのお母さんで、
 ホグ─────学校から学期末に汽車で帰って来た時、迎えに出てた人」


うっかり「ホグワーツ特急」と言いそうになったが、そんなことをすれば確実におじさんを怒らせてしまう。
ダーズリー家では、ハリーの学校の名前は、誰も、ただの一度も口に出した事はなかった。
バーノンおじさんは酷く不愉快なものを思い出そうとしているかのように、巨大な顔を歪めた。




「ずんぐりした女か?」


しばらくしておじさんが唸った。




「赤毛の子供がウジャウジャの?」


ハリーは眉をひそめた。
自分の息子を棚に上げて、バーノンおじさんが誰かを「ずんぐり」と呼ぶのはあんまりだと思った。
ダドリーは、3歳の時からいまかいまかと怖れられていたことをついに実現し、今では縦より横幅の方が大きくなっていた。
おじさんはもう一度手紙を眺め回していた。




クィディッチ


おじさんが声をひそめて吐き出すように言った。




「クィディッチ─────このくだらんものは何だ?」


ハリーはまたムカムカした。




「スポーツです」


手短に答えた。




「競技は、箒に─────」
「もういい、もういい!」


おじさんが声を張り上げた。
微かにうろたえたのを見て取って、ハリーは少し満足した。
自分の家の居間で、「箒」などという言葉が聞こえるなんて、おじさんには我慢できないらしい。
逃げるように、おじさんはまた手紙を眺め回した。
おじさんの唇の動きを、「普通の方法で私どもにお送りいただくのがよろしいかと」と読み取った。
するとおじさんがしかめっ面をした。




「どういう意味だ、この『普通の方法』っていうのは?」


吐き棄てるようにおじさんが言った。




「僕たちにとって普通の方法」


おじさんが止める間も与えず、ハリーは言葉を続けた。




「つまり、ふくろう便のこと それが魔法使いの普通の方法だよ」


バーノンおじさんは、まるでハリーが汚らしい罵りの言葉でも吐いたように、カンカンになった。
怒りで震えながら、おじさんは神経を尖らせて窓の外を見た。
まるで隣近所が窓ガラスに耳を押し付けて聞いていると思っているかのようだった。




「何度言ったら分かるんだ? この屋根の下で『不思議なこと』を口にするな」


赤ら顔を紫にして、おじさんが凄んだ。




「恩知らずめが わしとペチュニアのお陰で、そんな風に服を着ていられるものを─────」
「ダドリーが着古した後にだけどね」


ハリーは冷たく言った。
まさに、お下がりのコットンシャツは大きすぎて、袖を五つ折りにしてたくし上げないと手が使えなかったし、
シャツの丈はブカブカなジーンズの膝下まであった。




「わしに向ってその口のききようはなんだ!」


おじさんは怒り狂って震えていた。
しかしハリーは引っ込まなかった。
ダーズリー家のバカバカしい規則を、一つ残らず守らなければならなかったのはもう昔の事だ。
ハリーはダーズリー一家のダイエットに従っていなかったし、
バーノンおじさんがクィディッチ・ワールドカップに行かせまいとしても、そうはさせないつもりだった。
上手く抵抗できればの話だが。
ハリーは深く息を吸って気持ちを落ち着けた。




「じゃ、僕、ワールドカップを見に行けないんだ もう行っても良いですか?
 シリウスに書いてる手紙を書き終えなきゃ ほら─────僕の名付親」


やったぞ! 殺し文句を言ってやった。
バーノンおじさんの顔から紫色がブチになって消えていくのが見えた。
まるで混ぜ損なったクロスグリ・アイスクリーム状態だ。




「おまえ─────おまえはヤツに手紙を書いているのか?」


おじさんの声は平静を装っていた。
しかしハリーは、もともと小さいおじさんの瞳が、恐怖でもっと縮んだのを見た。




「ウン─────まあね」


ハリーはさり気なく言った。




「もう随分長いこと手紙を出してなかったから それに、僕からの便りがないと、
 ほら、何か悪い事が起こったんじゃないかって心配するかもしれないし」


ハリーはここで言葉を切り、言葉の効果を楽しんだ。
キッチリ分け目をつけたバーノンおじさんのたっぷりした黒髪の下で、歯車がどう回っているかが見えるようだった。
シリウスに手紙を書くのを止めさせれば、シリウスはハリーが虐待されていると思うだろう。
クィディッチ・ワールドカップに行ってはならんとハリーに言えば、
ハリーは手紙にそれを書き、ハリーが虐待されている事をシリウスが知ってしまう。

バーノンおじさんの採るべき道はただ一つだ。

巨大な口髭のついた頭の中が透けて見えるかのように、
ハリーはおじさんの頭の中でその結論が出来上がっていくのが見えるようだった。
ハリーはニンマリしないよう、なるべく無表情でいるように努力した。
すると・・・・。




「まあ、よかろう その忌々しい・・・・そのバカバカしい・・・・そのワールドカップとやらに行ってよい
 手紙を書いてこの連中─────このウィーズリーとかに、迎えに来るように言え いいか
 わしはお前を何処へやらわからんところへ連れて行く暇は無い それから、夏休みは後ずっとそこで過ごしてよろしい
 それから、お前の─────お前の名付親に・・・・そやつに言うんだな・・・・お前が行く事になったと、言え!」
「オッケーだよ」



ハリーは朗らかに言った。
飛び上がって「ヤッタ!」と叫びたいのを堪えながら歩き出した。
行けるんだ・・・・ウィーズリー家に行けるんだ。
クィディッチ・ワールドカップに行けるんだ!

廊下に出ると、ダドリーにぶつかりそうになった。
ドアの陰にひそんで、ハリーが叱られるのを盗み聞きいようとしていたに違いない。
ハリーがニッコリ笑っているのを見て、ダドリーはショックを受けたようだった。




素晴らしい朝食だったね? 僕、満腹さ 君は?」


ハリーが言った。
ダドリーが驚いた顔をするのを見て笑いながら、ハリーは階段を一度に三段ずつ駆け上がり、飛ぶように自分の部屋に戻った。
最初に目に入ったのは帰宅していたヘドウィグだった。
籠の中から、大きな琥珀色の目でハリーを見つめ、何か気に入らないことがあるような調子で嘴をカチカチ鳴らした。
いったい何が気に入らないのかはすぐにわかった。




アイタッ!


小さな灰色のフカフカしたテニスボールのようなものが、ハリーの頭の横にぶつかった。
ハリーは頭をギュウギュウ揉みながら、何がぶつかったのかを探した。
豆フクロウだ─────片方の手の平に収まるくらい小さいフクロウが、
迷子の花火のように、興奮して部屋中をヒュンヒュン飛び回っている。
気がつくと、豆フクロウはハリーの足元に手紙を落としていた。
屈んで見ると、ロンの字だ。
封筒を破ると、走り書きの手紙が入っていた。





ハリー─────パパが切符を手に入れたぞ!─────アイルランド対ブルガリア。
月曜の夜だ! ママがマグルに手紙を書いて、君が家に泊まれるよう頼んだよ。
もう手紙が届いているかもしれない、マグルの郵便ってどのぐらい速いか知らないけど。
どっちにしろピッグにこの手紙を持たせるよ。





ハリーは「ピッグ」という文字を眺めた。
それから豆フクロウを眺めた。
今度は天井の傘の周りをぶんぶん飛び回っている。
こんなに「ピッグ(豚)」らしくないふくろうは見た事がない。
ロンの文字を読み違えたのかもしれない。
ハリーはもう一度手紙を読んだ。





マグルが何と言おうと、僕達君を迎えに行くよ。
ワールドカップを見逃す手はないからな。
ただ、パパとママは一応マグルの許可をお願いするふりをした方がいいと思ったんだ。
連中がイエスと言ったら、そう書いてピッグをすぐ送り返してくれ。
日曜の午後5時に迎えに行くよ。
連中がノーと言っても、ピッグをすぐ送り返してくれ。
やっぱり日曜の午後5時に迎えに行くよ。
ハーマイオニーは今日の午後に来るはずだ。
は君の家に迎えに行く前の日に来るって。
あと、パーシーは就職した─────魔法省の国際魔法協力部だ。
家にいる間、外国の事は一切口にするなよ。
さもないと、ウンザリするほど聞かされるからな。

じゃあな

ロン





「落ち着けよ!」


豆フクロウに向ってハリーが言った。
今度はハリーの頭のところまで低空飛行して、ピーピー狂ったように鳴いている。
受取人にちゃんと手紙を届けた事が誇らしくて仕方がないらしい。




「ここへおいで 返事を出すのに君が必要なんだから!」


豆フクロウはヘドウィグの籠の上にパタパタ舞い降りた。
ヘドウィグは、それ以上近づけるものなら近付いてごらん、と言うかのように冷たい目で見上げた。
ハリーはもう一度鷲羽根ペンを取り、新しい羊皮紙を一枚掴み、こう書いた。





ロン、すべてオッケーだ。
マグルは僕が行ってもいいって言った。
明日の午後5時に会おう。
待ち遠しいよ。

ハリー





ハリーはメモ書きを小さく畳み、豆フクロウの脚に括りつけたが、
興奮してピョンピョン飛び上がるものだから、結ぶのが一苦労だった。
メモがキッチリ括りつけられると、豆フクロウは出発した。
そして窓からブーンと飛び出し、豆フクロウの姿が見えなくなった。




「長旅できるかい?」


ヘドウィグは威厳たっぷりにホーと鳴いた。




「これをシリウスに届けられるかい?」


ハリーは手紙を取り上げた。




「ちょっと待って・・・・一言書き加えるから」


羊皮紙をもう一度広げ、ハリーは急いで追伸を書いた。





僕に連絡したい時は、これから夏休み中ずっと、友達のロン・ウィーズリーのところにいます。
ロンのパパがクィディッチ・ワールドカップの切符を手に入れてくれたんだ!





書き終えた手紙を、ハリーはヘドウィグの脚に括りつけた。
ヘドウィグはいつにも増してじっとしていた。
本物の「伝書ふくろう」がどう振舞うべきかを、ハリーにしっかり見せようとしているようだった。




「君が戻るころ、僕、ロンのところにいるから わかったね?」


ヘドウィグは愛情を込めてハリーの指を噛み、
柔らかいシュッという羽音をさせて大きな翼を広げ、開け放った窓から高々と飛び立って行った。
ハリーはヘドウィグの姿が見えなくなるまで見送り、ベッド下に這い込んで、
緩んだ床板をこじ開け、バースデー・ケーキの大きな塊を引っ張り出した。
そして床に座ってそれを食べながら、ハリーは幸福感がひたひたと溢れてくるのを味わった。

明日にはプリペット通りを離れる。
傷痕はもうなんともない。
それに、クィディッチ・ワールドカップを見に行くのだ。
今は、何かを心配しろと言う方が無理だ─────たとえ、ヴォルデモート卿の事だって。
























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