尖閣
尖閣諸島沖の中国漁船衝突を巡る映像流出事件で、神戸海上保安部所属の巡視艇「うらなみ」主任航海士の海上保安官(43)に対する警視庁と東京地検の取り調べは、11日で2日間に及んだ。 映像を流出させた行為について、捜査当局内では処罰の必要性があるかどうか、慎重に議論されているという。第5管区海上保安本部(神戸市)の庁舎では、主任航海士を“缶詰状態”にしての取り調べが続くが、捜査当局では「逮捕に踏み切るか避けるのか、見極めを付けなければ」という声が出始めた。
◆起訴は公平か
今回の事件では、主任航海士の処罰の必要性について議論があり、捜査手法にも影響している。多く聞かれるのは、海保の巡視船に体当たりした中国漁船の船長が、処分保留で釈放され、処罰の機会は失われているのに、映像を公開した人が起訴されるのは、不公平ではないかという意見だ。
近年、問題となった国家公務員法違反事件でも、受刑者の経歴を漏らした刑務所の看守など、不起訴となっているケースが目立つ。今回も、同法違反が成り立つとしても、罰金刑や起訴猶予も考えられるケースだ。
元検事の高井康行弁護士は「今回の事件は、世論がどう反応するかという要素も勘案しなければならない。検察が事件の着地点を決められないので、逮捕するかどうかも判断できないでいるのでは」と推測する。
◆入手元の解明続く
主任航海士は神戸市の漫画喫茶に映像を持ち込み、動画投稿サイトに送信したことを認めたが、警視庁などは映像の入手ルートの解明を続けている。国家公務員法が定める守秘義務の対象が「職務上知り得た秘密」に限られるからだ。
映像はもともと石垣海上保安部で編集された。主任航海士が同海保職員から個人のツテで映像を入手していた場合には「職務上知り得た秘密」とは言えなくなる可能性もあるが、映像が登録された海保のパソコンから映像を引き出していた場合は、守秘義務違反に問われる。ただ、映像がどの程度の秘密だったかは問題になる。管理の状況が甘いと、守秘義務の対象とは言えなくなる場合がある。
◆日中関係
横浜市で開かれているアジア太平洋経済協力会議(APEC)も影を落とす。政府は、13日からの首脳会議に出席する予定の中国の胡錦濤・国家主席との首脳会談を打診しており、漁船衝突事件以来、緊張関係が続く中国との関係修復に結びつけたい意向だ。
中国外務省の副報道局長は11日、「ビデオの問題が中日関係を妨げ続けることを望まない」と発言し、日本側に配慮を求めた。
捜査当局の幹部は「逮捕を選択すると、漁船衝突問題が改めてクローズアップされる。APECへの影響を考えれば、期間中の逮捕には慎重にならざるを得ない」と話している。
◆捜査手法
10日午後に5管本部で始まった主任航海士の取り調べは、11日も行われた。海保側は本人の了承を得て、主任航海士を同施設内に宿泊させた。
元裁判官の川上拓一・早稲田大教授(刑事訴訟法)は「家族との連絡が制限されたり、常に行動を監視する人がいたりして、私的な空間が確保されないのであれば、違法な身柄の拘束にもなりかねない」と話す。
警察幹部の1人は「あまり長引くと捜査の任意性が問われかねない。逮捕するのか、近く結論を出さなければ」と語った。(2010年11月12日09時02分  読売新聞)
*読売新聞 社会