「俺達ゃ歩兵の本領は!!朝から晩まで走ること!!」
「「「「「「俺達ゃ歩兵の本領は!!!あっさからばんまではっしるっこと~!!!」」」」」」
クソ暑い中、俺含む迷彩服の集団は隊伍を組んだままグラウンドをひたすら走る。
「雨も泥も潜り抜け!!敵を見つけて連発だ!!!!」
「「「「「「雨も泥もくっぐりぬけぇ!!敵をみっつけて連発だぁ~!!!!」」」」」」
ダルイ、足が痛い、胸も痛い、ああ早く終わらねーかな。
「よし、小休止!!!!5分後に整列。」
教官の一声に俺達は地面に倒れ伏した。
状況開始!!予科練青春記
西暦2010年、日本は近隣諸国と領土問題でトラブルになっている以外はおおむね平和だった。
「オイオイ、MAMORI売り切れかよ。しゃあねえな月間PAK買って帰るか。」
いつもの様に書店で雑誌を購入し、俺は家に帰った。母さんがパソコンの前で合格者発表を見ながら嬉しそうに言った。
「浩一!防大の一次試験通ったって!!あした学校で調査書請求しなさい。」
俺は先日、防衛大学校人文・社会学を受験したのだ。なんとか一次試験を合格し、二次試験に備えている。
俺は石破浩一。何処にでも居る、軍事オタの高校三年生だ。成績はというと英語以外は極めて優秀で皆勤。
二次試験までに小論文と面接の練習しておかないとなあ。自衛隊とはこういう組織だ。
日本の国防組織「自衛隊」憲法では戦力とされず警察力とされている。最高指揮官は内閣総理大臣。
防衛省の管轄で、陸上・海上・航空の三種があり、08年3.31時点でのデータで自衛官は23万291人でさらに
即応予備・予備・予備自衛官補などの定員外人員(データなし)を含めると推定24万人前後である。
陸上自衛隊は5つの方面隊、海上自衛隊は5つの地方隊、航空自衛隊は3つの方面隊と1つの混成団で日本を守っている。
そして出動実績は、領空侵犯と領海侵入、災害派遣・PKOや人道復興支援である。
ここ数年でようやく認知され始め、アニメ・ゲーム・映画などの各種メディアに登場するようになった。
しかし、なぜか一部の国民に忌み嫌われ、内閣や政治家ですらよく知ろうとしない組織である。
大東亜戦争がトラウマになっており、日本語の言い換えが好きな(必要だった)組織でもある。
兵士は隊員と、歩兵科は普通科と、憲兵は警務隊と、脱走は脱柵と、どんな戦闘艦でも護衛艦である。
昔はもっと極端で戦車を特車、戦闘攻撃機を支援戦闘機と呼んでいた。(つい最近“戦闘機”に統一された)
とにかくこんな感じの組織だ。さあ明日は学校だ。寝よう。
翌朝、俺はいつものように朝メシ喰って、ニュースを見た。
内容は芸能で誰それが結婚したとか尖閣諸島沖事案の映像流出についての二つだった。
コメンテーターも政治家も論点がずれてると思う。ダレが漏らしたかより、フルバージョン公開とかそっちのほうが
重要じゃねえか?真実を明らかにしたんだからどっかの国みたいに愛国無罪論でうやむやにしてもいいんじゃねえの?
とか思いつつ自転車を漕ぐ。そして丘の上の学校目指して一気に加速!!自転車や歩行者が流れるように後ろに消えていく。
「ワ・レ・ニ・オ・イ・ツ・ク・ジ・テ・ン・シ・ャ・ナ・シ」とどっかにメールしたい衝動に駆られるくらいの快速っぷり。
そして近道を発見した俺は“存在しない”はずの道路に突っ込んでしまった。眩い光が俺を包み込んだ。
俺は目を覚ました。いつものように朝飯を・・・・・・緑の異様に短い制服だったか?ウチの学校。そしてこんな制服いつ買った?
確かに陸上自衛隊の新迷彩服はサバイバルゲーム用に買った。だが制服は購入した覚えないぞ。というか短っ!!!!
みぞおち位までしかねーぞ。肩章の位置も左側になってるし・・・・・・名札が医者の先生みたいに顔写真入りになってるぞ!!!!
そこに母さんが現れた。
「浩一、早く着替えて電車乗らんと入寮に遅れるよ。初っ端から遅刻するな。急げ。」
何を言ってるのか分からなかったが、とにかくこの制服もどきに着替えて地図どおりに電車に乗った。見たことも無い町並みだ。
駅や新聞での情報収集の結果、少しだけ現状を把握した。
・意識のみ異世界に飛ばされていること。そしてこれから皇立国防陸軍士官学校鎚浦高等部という学校に入学すること。
・国名は眞州(しんしゅう)、暦は世暦2055年、眞暦2715年、元号は平世16年、今日は4月5日。公用語は日本語(眞州語?)、通貨は円(¥)。
・議会制民制なのに国皇(こくおう)が居るが、政治はせず軍事のみに専念していること。
・民生主義国家の連合と共和主義の連邦という二大勢力が居て冷戦状態であること。眞州は連合側に属していること。
地形は地球に酷似しているなあ。日本の位置に眞州、アメリカの位置に合州国があるのか。
俺の居た世界のNATO側国家で連合、WTO側国家群が連邦か。
民生主義≠資本主義、共和主義≠社会主義として判断しておこう。知識も無いのに先入観で断定するのは危険すぎる。
世暦は西暦、眞暦は皇紀みたいなもんで、議会制民制は議会制民主主義みたいなもんだな。
眞州憲法でどんな位置づけなんだろうな、国皇。天皇と違って国事行為を行うだけのタダの象徴ではないことは確かだ。
最高指揮官が国皇というのが気になる。内閣と軍部は分離しているのか?文民統制に似て非なる政治体制であることは確かだ。
国防陸軍ということは日本国憲法の戦力の不保持のような規定はなさそうだ。どこかで法律書読まないと不味いな。
治安維持法・不敬罪の様なものがある可能性も考慮してハッキリするまで滅多なことは言わんほうがよさそうだな。
「次は~鎚浦~鎚浦~、皇立国防陸軍士官学校予科鎚浦高等部にお越しの際はバスにお乗換えください。」
いろいろ考えているうちにどうやら着いたようだ。改札を出ると緑と黄色の路線バスが居る乗り場と灰色のバスが4台止まっているところがあった。
「新入科生の皆さん!こっちに集合してください!!!!」迷う暇も無く声がかかる。まるで駐屯地祭のときの駐車場から駐屯地までの送迎バスのような状態だ。
「え~揃いましたね。皆さん今日は人員輸送車ですが、帰省や休暇の際は路線バス使ってください。部屋割りは棟前広場にて発表します。」
輸送車は俺達を乗せ、玄関前に降ろすと、また駅のほうに走っていった。
それから俺達は団地の様な所に案内され、煙突がそびえ立ってる昔ながらの銭湯の前の広場に集まった。
「志願番号、7050~7056、一番棟101、7057~7062、一番棟102・・・・・・」6人1部屋らしいがどんな部屋なんだろう。やっぱり病院のような感じなんだろうか。
志願番号読み上げが始まった、決まった奴から案内されている。女子は、頭にWが付いてW8760といった感じだ。
俺の部屋は二番棟の304号となった。北側から2番目で3階の4番目の部屋だ。
ドアを開けるとそこはフローリングで、パイプで出来た3段ベッドが二つ。細長い金属ロッカーが6つ。
大型の木製学習机(スタンドライト付き)が一つとイスはキャスター付きが4つ。部屋は裸電球。窓を開けるとシャープペンのような電柱がよく見える部屋だ。
軍事施設の寮っぽくない・・・・・・テレビの特集で新隊員教育があったが、全然別物だ・・・・・・しかも朝の点呼、教室でやるんだぜ?
私物をロッカーに入れ、廊下に出る。そしてぞろぞろと多目的会議室に向かう。
そこで、作業服、半長靴(はんちょうか)を受領し、諸注意を聞く。
・亡失及び破損した際はPXにて購入すること。
・検査直前には員数合わせが横行するのでしっかり掌握するように。
・採寸品は時間がかかるので早めに購入申請すること。
・あす一〇〇〇(ヒトマル マルマル)より新入科生入科式典・・・・・・入学式のようなモノだ。0840に一年次、普通科教室に集合点呼。0935より移動。
部屋に帰った俺達は自己紹介もせず、2200時に初めての就寝ラッパを聞くことも無く深い眠りに落ちていた。