中国メディア人の間で、話題になる朝日新聞の船橋洋一さんのコラム
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知り合いの中国メディアの東京特派員が、朝日新聞主筆の船橋洋一さんのコラムにたいそう興味を抱いていた。彼らの間で、英語版の翻訳が出回っているよう。良い意味で、彼らにショックを与えているようだ。ということは、中国の知識人や政府関係者の中でも、大いに話題になっているだろう。
僕は学生時代から船橋さんのファンだった。朝日新聞勤務時代、船橋さんは雲の上の人で、面識はなかったが、朝日新聞退社後の2002年夏、朝日新聞本社内にあるニューヨークタイムズ東京支局でインターンをした際、船橋さんのオフィスがすぐ隣りだったことから、すぐさま、ご挨拶にうかがった。その後、僕が留学していたコロンビア大に、船橋さんが客員フェローとして来られたことから、懇意にさせていただいた。政府文書の上手な入手の仕方やワシントン取材のだいご味など、いろいろと教えていただきました。(ちなみに、ちょうど、その頃、日銀の雨宮正佳・現理事もコロンビア大に来られ、FRBのバーナンキ議長がプリンストン大学教授時代に書いたマクロ経済の教科書を手に取り、机を並べて一緒に勉強しました。)
さて、その船橋さんのコラム。読んでいない方には、ぜひお薦めしたい。
(日本@世界)中国の友へ…一筆啓上 船橋洋一
2010/10/06, 朝日新聞 朝刊, 1ページ, 無, 2908文字 今年の国慶節は、いかがお過ごしでしたか。 私は、東京で開かれた中国大使主催の国慶節祝賀パーティーにうかがいましたが、日本の国会議員の出席者は去年に比べると半分ほどで、さびしい状態でした。これもまた、尖閣ショックの余波なのでしょう。 今日、お便りを差し上げるのはほかでもありません、尖閣諸島をめぐる領海侵犯事件、とりわけ船長逮捕後の中国政府の対日行動について深刻な疑問を感じるからにほかなりません。 日本では、今回の事件は「国辱的な外交敗北」であるとして、民主党政権をたたく論調が盛んです。たしかに、船長の処分保留にしてもビデオの扱いにしても何もかも中途半端で、つくづく日本は外交下手というかけんか下手な国だなあ、と思わずにはおれません。それに比べて、中国政府の対日圧力のきりもみ方と言ったら、これはもう外交的な「衝撃と畏怖(いふ)」作戦そのものです。 しかし、私は次のように考えています。日本政府は、船長を公務執行妨害で逮捕した。日本が実効支配していることを法手続きの執行により示したことになる。加えて、クリントン米国務長官が、日本の施政権の下にあるところは、安保条約第5条(米国の日本防衛義務)の適用範囲と明確に述べた。尖閣諸島は日本施政下、つまり日本の実効支配を天下に公言したわけです。一方、中国は、「領土問題は存在しない」との立場を取る日本に対して、これを機に「領土問題が存在する」と世界に宣伝することができた。 こう見てくると、この勝負はほぼ互角かなとも思います。 もっとも、それは日中双方とも外交的に未熟であることをはからずも露(あら)わにしたという意味で互角ということでもあります。 (16面に続く) (日本@世界)未熟な外交さらした日中 「長い闘争」の覚悟が必要 船橋洋一 (1面から続く) 今年の夏、上海万博を訪れ、中国館を見学した際、深い感慨にとらわれました。パネルは、中国の現代史が1979年の改革・開放から始まったとの歴史観を映し出していました。この30年間の経済発展と経済大国への道こそが現代中国の「創世記」なのです。 ただ、中国を取り巻く国際環境が平和で安定していたことが、この「中国の奇跡」を可能にしたのです。その点への言及はほとんどありませんでした。トウ小平の「韜光養晦(とうこうようかい)(低姿勢)」路線(とその延長上の「平和台頭論」)と日米安保の安定力が、その国際環境を醸成してきました。 * 今回の尖閣諸島をめぐる事件をはじめ中国が最近、近隣海洋国との間に緊張を生み出している海洋問題は、「平和台頭論」を根底から試しているといえます。知人の中国の起業家は「平和台頭論は中国が弱い立場にあったときの理論」と言って笑っていましたが、そうだとすれば強い立場に立った時の中国の理論は何なのか。昨年冬の中央経済工作会議で議論された「責任を押しつけられない大国」路線なのか。先に中国に対する深刻な疑問と申し上げましたが、最初の疑問は、まさにこの点にあります。 次の疑問は、中国の海洋観です。東アジアの海洋を内海にし、周辺海域扱いにし、「核心的国益」で絡め取る――そのような海洋のマジノライン化は、海洋文明であるアジア太平洋をひび割れさせることになりかねません。7月のハノイのASEAN地域フォーラム(ARF)会議では12カ国の外相が次々と中国の南シナ海での行動に懸念を表明し、中国は孤立しました。これは、海洋アジア諸国による中国の海洋観に対する疑念の表出でもあったと思われます。 最後の疑問は、対日報復外交に経済をからめたことです。たとえば、レアアース(希土類)の事実上の対日禁輸措置です。中国政府は禁輸の事実を否定していますが、東シナ海のガス田権益や日本企業社員の身の安全など、経済を外交の武器にしたことは間違いありません。中国が日本を抜いて世界第2の経済大国になろうとする秋(とき)の祝砲が、対日禁輸だったとは……。アジアに限らず欧米も含め、今回の経済無差別報復がどれほどの対中不信感を引き起こしたことか、中国の人々は気づいているでしょうか。不思議なのは、通貨、貿易、海洋のいずれも、中国にこれほど恩恵をもたらした「開かれた国際協調主義体制」を、なぜ中国は一緒に守り、育てようと、もっと汗をかかないのか、ということです。 * 日本の対中観は今後、どう変わるだろうか、と貴兄は先のメールで尋ねてこられました。まだ国民の感情が煮立っているので、見えにくいところもありますが、もし、中国がこのような振る舞いを続けるのであれば、中国とは長い、長い闘争を続ける以外ない、という覚悟を私たちは持つことになるでしょう。次のようなことです。 中国とのつきあいは、実利を旨とする。それは今後とも、追求していく。しかし、戦後、中でも国交正常化後、日本が中国に対して抱いてきた夢や理想やフロンティアの追求は、ひとまず棚卸しする。甘さを捨て、期待値を下げ、保険をかけ、場合によっては損切りをする。中国とは礼を尽くし、節度をもって接する。水のごとき交わりをもってよしとする。しかし、戦略的互恵関係といった幻想は持たない。そうしたある種のあきらめを伴った覚悟です。 それは、台湾とのつきあいについても当てはまるでしょう。 船長逮捕に抗議して、台湾の活動家を乗せた漁船が尖閣諸島周辺に入り、台湾当局は12隻の艦船を同行させた。海保の船艇に阻まれ、引き返したが、台湾外交部は「日本の船が漁船を妨害し、海岸巡防署の船と相対した」との談話を発表、日本に対する抗議声明を表明した――これは政治的な火遊び以外何ものでもありません。台湾は日中関係の新たなリスク要因となりつつあります。 先週、米国の公共ラジオ放送の日本特派員から取材を受けました。 彼女の最初の質問は「日本にとって、尖閣ショックはニクソン・ショック以上ですか」というものでした。71年夏、米国のニクソン政権に対中正常化声明(日本頭越し)とドルと金の交換停止(円切り上げの道)を一方的に告げられたあのショックのことです。私は答えました。「それよりはるかに大きいでしょう」 日米間のもめ事は、最後は同盟の枠内で解決できる事柄です。しかし、日中関係はそうはいかない。一つ、手元が狂えば転がり落ちる恐ろしさを秘めています。今回、「戦略的互恵関係」はまったく機能しませんでした。それは、ひとひらの修辞に過ぎませんでした。首脳間のホットラインも肝心な時には動きません。 5年前の反日デモの際、日中関係の将来に悲観的な見解を述べたところ、ジャーナリストは職業的悲観論者ですからね、と貴兄にからかわれたことを思い出します。ただ、あのときに比べ今回は、中国のむき出しの大国意識を感じます。 ブリュッセルで菅首相と温家宝(ウェンチアパオ)首相が25分とはいえ会談したことは「不正常」から抜け出す第一歩ではあります。しかし、日中は今、グラウンド・ゼロにいる。渺々(びょうびょう)たる光景です。 文中、ご不快に感じられたところがあったとすれば、お許しいただきたいと存じます。 |
「知人の中国の起業家は「平和台頭論は中国が弱い立場にあったときの理論」と言って笑っていました」
この船橋さんの言葉には驚きます。
こんなことは中国人にとって目新しいことでも何でもなく、
もともと常識です。なぜ船橋さんが知人の言葉として言及するのか
全く不可解です。ひょっとして外交専門家にふさわしくない幻想を
彼の国に対していだいていたのでしょうか。
2010/11/12(金) 午前 5:04 [ u7i6btv54321 ]
コメントありがとう。僕の中国の友人は、今の中国を表す言葉として「有钱腰板直」を教えてくれました。「お金(銭)を持ち、豊かになってきて、腰を真っ直ぐに伸ばすほど、自信を持ってきている」との意。11日付のブログでも書きました。
http://blogs.yahoo.co.jp/kosuke_everonward/51062871.html
ご参考まで。
2010/11/12(金) 午前 5:17
ご存じのように、「平和台頭論」は中国政府がずっと強調してきました。逆に僕がアジアタイムズに「中国脅威論」を書くと、東京の中国大使館の一等書記官が慌てて僕にアプローチしてきました。
その時の記事は China 'threat' strengthens US-Japan military ties
By Kosuke Takahashi
http://www.atimes.com/atimes/Japan/GA13Dh01.html
しかし、例えば、軍部のより若い世代は、アメリカにさえも、強硬姿勢をとるようになってきています。
http://blogs.yahoo.co.jp/kosuke_everonward/50920192.html
2010/11/12(金) 午前 5:24
それもこれも「有钱腰板直」のせい。
2010/11/12(金) 午前 5:26