2010年11月12日7時15分
ドイツの徴兵制は長い歴史と伝統を持つ。しかし、制度は事実上、空洞化していた。
ナポレオンの支配に対抗するために始まったドイツの徴兵制は、第1次世界大戦の敗戦によってベルサイユ条約で禁止された。だが、ナチス政権下で復活。第2次大戦でドイツ国防軍が壊滅した後は、東西対立を背景に再軍備を認められた西独が1957年、また徴兵制を敷いた。
旧軍の経験から徴兵制がタブーとなった日本に対し、ドイツでは、軍が市民社会から隔絶して「国家内の国家」のように振る舞うより、「制服を着た市民が兵役を務める徴兵制」こそが、軍と民主社会を緊密につなげる、という考え方をとった。
ドイツ連邦軍は、人間の尊厳を冒す命令や違法な命令への不服従の権利を認める「民主的な軍隊」を目指した。兵士の権利を保障するオンブズマンが議会に置かれ、兵士の組合も存在する。
しかし、良心的兵役拒否が認められる中、安全保障情勢の変化も受け、現実に兵役に就く人数は対象者の一部にとどまり、公平性が問題になってきた。国防省によると、09年の兵役対象者約45万人のうち、実際に兵役に就いたのは約7万6千人で、2割を切っていた。以前は、徴兵検査による5段階の適格等級が「3」でも招集されたが、現在は最適の「1」でも招集されない場合があるという。
かつて18カ月だった兵役期間も段階的に短縮され、今年7月の対象者からは6カ月となっていた。海外派遣が軍の主任務になったのに、十分な訓練期間をとれずにいた。
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スウェーデンは今年7月、1901年から続いてきた徴兵制を廃止、志願兵制に移行した。